
【リラクゼーション】「癒し」どうでしょう?⑦|「お客様は神様」じゃない。──リラクゼーション店で直面した、理不尽な30分間。
近年よく見聞きするカスタマーハラスメント(カスハラ)問題。
個人的には、安易に「〇〇ハラ」で一括りするのは好ましくはないと思いますが、実際に受けた悪質クレーマーの体験をご紹介します。
まだ「カスハラ」という言葉が無かった約10年前のある土曜日の昼過ぎのこと。
ある30代男性が飛び込みでご来店した。
受付に一番近いベッドで施術中だった自分が、一旦手を止めて飛込みの来店客の対応をした。
「ご予約のお客様ですか?」
「予約してないけど、予約必要なの?」
「予約優先でして、現在すぐに対応できるスタッフがおりません」
「どのくらい待つの?」
「この後も予約が埋まってまして、2時間後になります」
通常の飛込み客なら、ここで退店するけど、この男性は違った。
「そんなに待てないよ。
折角来たのになんとかならないの?」
「2時間後のご予約ならお受けできます」
「そんなの話にならないよ!『お客様は神様』だろ?!
ここが無理なら他の店紹介しろよ!」
いきなり近隣の他店を紹介しろと言い始めた。
「他店の連絡先は分かりかねますので、紹介はできかねます」
「チェーン店だろ?だったら近くの店を紹介しろよ!」
店内に響く大声に、施術中のお客様たちの緊張感が伝わってきた。
僕の背中にも冷や汗が一気に噴き出してきた。
お客様自身で電話してほしかったが、これ以上ここで揉めるわけにはいかない。
私は息を吸い込み、
「……分かりました。系列店に確認してみます」
と、渋々市内のもう一店舗に電話を掛けた。
「もしもし、お疲れ様です△△店です。
今、飛び込みのお客様がご来店されたのですが、すぐにご案内が難しく……そちらでご案内は可能でしょうか?」
電話の向こうと調整し、なんとか予約枠を確保した。
「お客様、〇〇店で今から30分後のご予約をお取りできました」
「やればできるじゃん」
ニヤリと笑った男性客を見て、ようやく解放されるとホッとしたのも束の間、次の瞬間、男の顔が引きつった。
「ん? 〇〇店?……そんな遠くまで行けるか!
ふざけるのもいい加減にしろ!」
実際のところ、△△店から〇〇店までは最短11km。車で移動すれば十分に間に合う距離だ。
しかし男はそこから「客を馬鹿にするのか!」などと怒鳴り散らし、結局、さらに30分近くの押し問答を続けた末に、最後は唾を床に吐き捨て退店していった。
その間に施術が終わったお客様や担当者は、威嚇する男性客に委縮して傍らでずっと待っていた。
もちろん僕が担当したお客様はうつ伏せのまま30分も待たせてしまった。
「30分も待たせてしまって申し訳ございませんでした」
と急いでお客様のところに戻り、施術を再開した。
「迷惑な客の対応、大変でしたね。
お疲れ様でした」
「ありがとうございます」
お客様の一言で、この理不尽な仕打ちを受けた精神的なダメージが和らいだ。
「お客様は神様」
昔からよく使われるこの言葉の本質は、「生かすも殺すもお客様次第だから、誠心誠意のサービスを提供しよう」という、あくまで商売人側の心得だったはずだ。
「お客様は神様」じゃない。
決して、買い手が売り手に対して「何をしても許される免罪符」として振りかざすものではない。
近年、リラクゼーション業を始めサービス業の現場では、過度な要求や理不尽な暴言といった「カスハラ」が大きな社会問題になっている。
現場で働くスタッフも、一人の人間だ。 感情をすり減らし、理不尽に耐え続けることが「プロの仕事」だとは、僕は思わない。
今回、僕はあの理不尽な男性客の対応で30分も時間を奪われ、元々ご予約いただいていたお客様に多大なご迷惑をかけてしまった。
もし、あの時、もっと毅然とした態度で断る勇気や、店舗としての明確なマニュアルがあれば、大切な他のお客様の「癒やしの時間」を守れたかもしれない。
悪質なクレーマーから、現場のスタッフを守ること。
それは巡り巡って、お店を愛してくれる「本物の神様(大切なお客様)」を守ることにも繋がる。
「癒やし」を提供する私たちが、まずは自分たちの現場を守るために。 サービス業におけるカスハラ対策や、毅然としたルール作りの重要性を、今一度業界全体、そして社会全体で考えていく必要があるのではないだろうか。