
金龍の神託~自分を捨てるな、自分を生きろ~【最終話】「願えば、カナウヨ」
大学生の男は震える手で龍の前に座った。
「好きな人がいます。でも言えません」
龍は静かに命式を視た。
「なぜ言えない?」
「……彼女には僕のことが見えていないから」
「それで?」
「毎日同じ講義を受けています。隣に座ることもある。でも彼女は僕を、空気のように見ています」
龍は何も言わなかった。
男は続けた。
「だから龍に願いたいんです。彼女に、僕の気持ちが届いてほしい」
龍は長い沈黙の後、告げた。
「ひとつ聞く。お前は彼女のために、何かしたことがあるか?」
男は考えた。
「……雨の日に傘を貸しました。でも彼女は忘れていると思います」
「他には?」
「落としたノートを拾いました。でも彼女はお礼も言わずに行きました」
「他には?」
「……友達が彼女の悪口を言った時、僕だけ笑いませんでした。でも彼女は気づいていないと思います」
龍の目が静かに光った。
「気づいていないと思うか?」
「……はい」
「違う!」
翌日、男は彼女に声をかけた。
「あの、雨の日の傘……覚えてる?」
彼女は少し笑った。
「覚えてるよ。ずっとお礼言えなくてごめんね。
なんか最近、不思議なことが続いてて。お父さんが手術で助かって、無理めな会社に就職も決まって、
暴漢に襲われた時も知らない人が守ってくれて、病院の廊下の絵に励まされて、金メダリストに背中押してもらって……」
彼女は首を傾げた。
「全然関係ない人たちなのに、なんか繋がってる気がするんだよね」
しばらく間があった。
「あ、あとね、お母さんがなんか最近穏やかで。ずっと険しい顔してたのに。なんか全部、うまくいき始めた気がして・・・」
彼女は男を見た。
「あなたといると、なんかいいことが続く気がする」
男は何も言えなかった。
ただ笑った。
龍は遠くでそれを視ていた。
ずっと人間に告げ続けてきた。
余命の医師に。空虚な老人に。便を変えた男に。裏切られた男に。メダリストに。母を赦した男に。
毎回違う言葉で告げた。
でも、ずっと同じことを言っていた。
龍は初めて、誰にも聞こえない声で呟いた。
「願えば、カナウヨ」
了
金龍の神託 〜自分を捨てるな、自分を生きろ〜
金雨輝龍