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小説『砂漠を横切るラクダのように』【3】(全13話)


    *


     あの一日目の夜の本物の闇の深さを、ぞっとするようなあの黒さ・暗さを、私はもう思い浮かべることができない。……いや、おそらくは実際にもほとんど見ていることができなかったのではないだろうか。いつもは薄ぼんやりと明るい街の方角まで嘘みたいに真っ暗で、車道に出て「星がすっごい」とか言っている夫の横で、たぶん一緒に空を見上げながら、私の脳裏には何も……すでにキャパシティー・オーバーで何も、入ってこなかったのだと思う。……いや、むしろおかしなテンションで、ハイになって見上げていただろうか? ……思い出せない。とにかく、いろいろなことが思い出せない(余震が怖くて、その日は車で眠ったこと。その翌日も、ほとんど車の中で過ごしていたのではなかったか? 部屋に戻ったのは???)



     だから、やはり良かったのだと思う。どんなに自己満足の極みだったとしても。

     ここには、あの日の私にしか綴れない真っ赤な血の通った「肉の言葉」が溢れているから。

     それらは結局、全部が全部、自分自身を支え勇気づけるためのものだったのだと思う。それなのに気丈なふりで「みなさん」とか言っちゃって(小さな使命感……それが私を救っていた)、今の私からするとちょっと“気持ち悪いな”と感じる部分もあるのだけれど、それでもやっぱり自分自身、自分のことは誰よりも理解できるし、あんなにも精一杯に自分の心を見つめ続けた『私』のことを、私はどこまでも愛おしいと思えるから――。

     そして、そんなふうに過去の自分を愛せる「今」を積み重ねていくこと、後悔と嘘のないそんな生き方をしていくことこそが、あの魂を引きずり出されるような揺れの中で私が掴み取ったものなのだと思うから。




    *




    【2011-03-13 20:50/無事です】

     私は無事です。うちも大丈夫。

     私のところ(若林区役所周辺)は今日、電気と水道が復旧しました。ガスは復旧にかなり時間がかかりそうですが、ひとまず安心できる夜を迎えています。

     余震は続いているので、まったく油断できませんが。

     灯りがあるって、すごいことです。

     仙台の街中はほとんどニュースになっていないようですが、外から見たぶんには信じられないくらい大丈夫な感じです。詳しいところまでは見ていませんが。

     地震のあとは中心部にある会社から歩いて家まで帰ってきましたが、街中は倒壊した建物もほとんど見られず、道路も大丈夫でした。

     表現できないくらいの揺れでしたが、そのわりには家や街は大丈夫な印象で不思議な感じがするくらい。

     すべて津波にいってしまいましたね。

     すぐ近くの出来事です。今、言葉にできることは何もありません。

     すぐ近くで、眠れぬ夜を過ごしている人がまだまだたくさんいます。

     とにかく連絡がつきにくい現状です。電気が復旧してきているので、携帯電話も使えるようになってきているはずですが。電波も今日はありますが、なかなか繋がりません。

     連絡が取れていない人、なんとか希望を捨てずに。

     こちらでは、連絡したくても出来ない状況が続いていました。



     とりあえず、私は無事に生きています。

     明日、今、次の瞬間、何が起こるかわかりませんが、今この瞬間は無事に生きています。





    ◆コメント1【2011-03-13 22:32/ご無事でよかったです(T)】

     はじめまして。若林区の情報がほしくて検索でたどりついた、Tと申します。

     この度は大変でした、ご無事でよかったです。

     若林区役所周辺は電気が復旧しているとのことですが、中倉のあたりはどうなのか、ご存知でしょうか。コープのあたりです。

     祖父母やいとこ達が住んでおりまして、無事だと一度メールがきたのですが、その後、家族が合流できて、家に戻れているか、家が倒壊していないかと心配しています。

     ブログ主さまが、これから暖かい布団と温かい食事で少しでも安心して頑張れますようお祈りしております。




    ◆コメント2【2011-03-14 14:17/Tさんへ(kanata)】

     Tさん、ご心配のことでしょう。

     中倉のあたりは、昨日たまたま車で走りました。

     生協で何か買えたのか、外にたくさん人が並んでいました。

     昨日の昼の時点では、まだ停電しているようでしたが、うちも午後に復旧したので大丈夫かも。うちは若林区役所より駅側、中倉は少し海側ですね。

     街中もこのあたりも、かなり古い建物でも倒壊しているものは見かけません。ほとんどの人が自宅にいるものと思われます。

     昨日から徐々にコンビニやスーパーが店を開けてくれているので、うまく遭遇できれば行列に加わって食料や飲み物を購入できるので、昼間は自転車などで動き回っている人が多いです。家の片付けをしたり。

     ただ、現金が手元にないと大変かも。私たちも給料日前であまりお金を持っていなかったので、昨日の買い物で尽きてしまったのですが、今日ATMで引き出すことができました。

     ガソリンがまだほとんど買えないので、車ではなかなか動けないかも。

     街中は少しずつバスも走っているようだし、信じられないことに地下鉄も富沢から台原まで動いてます。

     みなさん無事でありますように。




    ◆コメント3【2011-03-14 21:23/ありがとうございます(T)】

     こんばんは、お返事ありがとうございます!

     周辺の様子がわかって、とても安心しました。

     今朝、祖父母と連絡がつきまして、全員怪我もなく、家に戻ってガチャガチャになってしまったのを片付けているとか。良かったです。

     ライフライン復旧にあわせて、火事などおきませんように、祈っています。

     こちらで何度もニュースに流れている深沼は、子供の頃から毎年何度も海水浴に行きました。信じられないことで、とてもとても悲しいです。

     被災されたみなさんが、毎日ご飯が食べられて、毎日頑張れますように。




    ◆コメント4【2011-03-14 22:37/Tさんへ(kanata)】

     みなさん無事とのこと、良かったです!

     ここら辺は都市ガスなので完全に使うことができず、ある意味安心です。怖いのはプロパンガスのところですかね。

     小さな余震は続いているし、大きな余震も来ると言われているので、まだまだトイレさえゆっくりできないような、眠っていても当分は熟睡できないだろう状況ですが、乗り越えていくしかありません……。

     今はみんな悲しむ余裕もなく、目の前の現実を受け止めながら、日々を生きるのに精一杯です。

     みんなが少しだけ、自分のことだけじゃなく広い温かい心で行動できれば、その「少し」が大きな力になると信じて、負けずに乗り切りたいです。





    【2011-03-14 18:09/無事です~4日目~】

     被害の大きな地域の情報はニュースで流れているので、たぶん全国ニュースでは流れないような身の回りの情報を少しでもお知らせしていければと思います。

     仙台駅構内は、かなりひどい状況のようで立ち入り禁止のよう。天井が落ちたりしていて、JR職員も中に入れないとか。

     前記で「信じられないことに、地下鉄は動いている」と書きましたが、今日は地下鉄で会社に向かう女性のインタビューも流れてました。

     私なら怖くて乗れません。もちろん事情は人それぞれですが、私は自分や家族の命を最優先します。まだまだ大きな余震がくるかもしれないのに、家族と離れて、あのビル街に向かうなんて私にはできません。

     その反面で、病院関係者、電力やガス会社の人たちなどなど、命がけでみんなのために動き回っている人たち。誰だって、こんなときに家族と離れていたくないはず。心から尊敬します。感謝です。

     どうか今すぐには必要のないような仕事の各会社のエライ人たち。今、優先することが何なのか、まともな判断をして欲しい。単に社内の片付けなどのためだけに、街中に社員を呼ばないで。今、子どもたちから親を引き離さないで。



     さぁ、また夜がやってきます。

     できる限り節電します。すぐ近くで、眠れぬ夜を過ごしている人がまだたくさんいるのに、暖房をつける気にはなれません。

     今日無事でいられたことをかみしめて、まずはできることの中から無理なくはじめられそうなことを考えたいです。





    【2011-03-15 13:34/無事です~5日目~】

     仙台。今日は朝から雨で、とても寒いです。

     避難所にいるみなさん、どれだけ寒い思いをしているか。

     寒さは本当に元気を奪います。

     私も今日はさすがに、自分を守ることで精一杯です。

     みなさん、くだらないニュース・ショーにイライラして自分のエネルギーを無駄遣いしないように。今の自分に必要な情報だけ得るようにして、テレビに無自覚にエネルギーを奪われないように。私たちは、テレビを見る・見ないの選択ができるのだということを忘れずに。

     同じ時間を、自分の内側を少しでも安らがせること・寛がせることに使って、エネルギーをキープしましょう。情報に流され踊らされずに、しっかりと現実をとらえ、想像力をもって今を生きましょう。

     こんな天気のときは、特に意識的に自分を守りたいと思います。

     人のために具体的に行動することだけが奉仕じゃないはず。

     まずは自分を平和に保つこと。負のエネルギーを放出しないこと、負のエネルギーを受け取らないことが、目には見えないけど大切な「できること」の1つです。

     けっこう難しいけど、心の平和をキープしましょう!





    ◆コメント1【2011-03-15 15:39/無事です!(aim)】

     kanataさん無事でしたか!! 良かった。

     うちは全くライフライン復旧しないです。なので会社に寝泊りしてます(汗)。

     まだまだ油断できない状況ですので、お互い油断せずにがんばりましょうね♪

     テレビ、同じことばかりしているようですね。

     被災地の現状わかってない感じですよね。




    ◆コメント2【2011-03-15 18:43/aimさんへ(kanata)】

     ブログ拝見しました。会社の方にいられるのですね。

     若林区役所周辺は復旧してきているので、そちらも大丈夫かと思っていましたが。

     会社の方は、水道も大丈夫なのですか? 病院があるから復旧しているでしょうか?

     重要な建物の近くは、復旧も早いのかもしれませんね。

     食べ物や飲み物はありますか?

     できることはしますので、連絡して下さいね!

     こんなときこそ、穏やかな心を保ちながら乗り切りたいですね。





    【2011-03-16 10:02/無事です~6日目~】

     仙台。昨日の雨はゆうべ雪になりました。

     節電はもちろん、基本はまず厚着! 薄着で節電して寒がらないように。

     不平不満を漏らす前にちゃんと頭を働かせて! 知恵を掘り起こして!!

     自宅にいて今できる人は、外から温めることをいったん忘れて、直接体を温める方法に意識を向けよう。

     下半身を温めて! 靴下の重ねばき(5本指ある人は、5本指にもう1枚、5本指を重ねてみて!)、スパッツの重ねばき、実践するだけで全然違うよ。

     布団かぶってたっていい。下半身にいろいろ重ねて、家でもコート着て、ガスも止まったまま、石油ストーブもない、それでも暖房つけずにやれてるよ。

     せっかくの「想い」があるなら、知恵をしぼって有効に使おう。

     こんなときこそ、頭を意識的に使おう。





    【2011-03-17 13:20/無事です~7日目~】

     仙台市内。どんどん暗くなってきました。また雪がチラついています。

    《ショックを受け止め、受け入れよう》

     私たちは、私は、今すごい状況下にいるのだということを、ショックを受け、また受け続けているんだということを、自分の心に言い聞かせよう。「わかってる、わかってる」と心に繰り返し言ってあげよう。

     ここにいて、助かって、ガスは復旧の見込みがないけど今とりあえずは電気と水道の使える状況下にいて、そんな自分を贅沢すぎるように感じ、もっと過酷な状況下にいる人たちに対して申し訳ないような気持ちに押し潰されそうになって、「何かしなくちゃ、何かしなくちゃ」と駆り立てられるような時間を過ごし、でも現実の自分には正直そこまでの元気はなく、なんとか自分をキープすることに必死で、ただただ無力さに潰されそうになる中で。

     もう、今の自分を許して、誰かを助けるのは本当に元気のある人たちに任せて、まずは自分を救い上げ、保つことに専念することを今の自分に許そう。

     今の自分の心と体を守り抜けるのは自分だけだから、人に迷惑をかけないためにも、まずは「自分」を助けるのだと自分に許そう。

     最初から自分のことだけ考えて、人のことは気にならない人もいる。

     自分のことより人のこと、っていう人もいる。

     ただ、伝えたい。できるなら共有したい。

     私と同じように、被災地にいながらも「何かしなくちゃ」とか「罪悪感」とかに押し潰されそうになってる繊細すぎる人たちへ。

     お互いに許し合い、自分を許そう。

    「被災者も援助者になれるのです」なんて呼び掛けにドキドキドキドキしないで、それはやりたい人に任せよう。

     大丈夫、そういうのは強制することじゃないはず。

     少なくとも、今この「被災地」で。

     人にはそれぞれ、自分のペースがある。

     人を救うことで救われる人もいれば、救いたくても余力のない人もいる。

     自分の心を受け止めてあげられるのは自分だけだよ。

     自分のペースを守り、それを自分に許そう。



     少しずつ、好きなDVDを観たり、好きな音楽を聴いたり、好きな本を読んだりして、時間を自分の手に取り戻している。

     こんなときこそ、短い時間でも恐怖を忘れる時間が必要な気がする。

     避難所でも、映画観れたり、音楽聴けたりすればいいのに。

     ニュースは逆効果な気がする。

     どうせ嫌でも揺れるときは揺れるのだから、いかに平穏なときに恐怖を忘れて過ごせるかが鍵な気がする。

     今この恐怖のど真ん中にいて、それは、不謹慎なことでも罪悪感を抱くことでもないと思う。

     たくさんの人たちがすぐ近くで亡くなったり、まだ見つかっていないこと、まだ過酷な状況下にいることを、私たちの心はもうしっかりと刻んでいる。刻み込まれている。

     常に頭に心に、その現実は寄り添っている。もう消えない。

     先はまだまだ長い。疲れはどんどん溜まるいっぽうだ。

     もう、知らなかったときには戻れない。

     そしてこの体験は、しない人にはわかりえない。良い、悪いに関係なく。

     知ってしまった私たちは、これから例えば、まわりの悪気のない一言にもいちいちいちいち心が反応し、勝手に引っ掛かりを感じたり、訳もわからず泣きたくなったり、実際に泣き出したりすることもあるだろう。

     しっかりと自分の心をみていこう、いかねばと思う今の私だ。





    【2011-03-17 15:18/無事です~7日目~(2)】

     仙台。今日はものすごく寒い。布団の中に潜り込んで、また書いている。

     毎日、書くことで、吐き出すことで、救われている。この時間は私のもの。無心、夢中になれる。「今」を忘れて、どっぷりと自分と向き合える時間だ。



     地震から、自分のとらえている世界は別世界になった。

     いや、ベールに包まれていた世界が、より剥き出しになったというか。

     うやむやにして時間稼ぎしていた人生に(私の場合、それでもそういう部分は少ないとは思うが)、生き延びた今、「さぁ、これからどうする?」と疑問が投げかけ続けられている。

     仙台に来てからずっと「早くここを出たい」と思い続けてきた。

     好きになりたいと思えば思うほど、この街の嫌なところばかりが目について、「絶対にここで一生を終えたくない」という思いは強くなるいっぽうだった。

     地震が来て「あぁ、だから早くここを出れば良かったんだ」と思ったけれど、不思議と今はここから逃げ出したいとは思わない。

     もう自分がこの土地としっかり結び付けられてしまったことを感じる。

     自分にとって、もはやここは「特別な土地」になってしまった。

     自分の意志とは関係なく。

     ここで、この街が変わっていく様を見届けたいと思う。

     そして、それと同時に、自分の運命(人生)を改めて考える。

     この街でカラーセラピーを仕事としていくことに挫折した私が、この先ここでやれること、やるべきことは何か。

     これからこの土地には、心のケアが必要な人がたくさん出るだろう。

     何か私にもできることがあるのではないか? この土地で、この未曾有の恐怖を味わった者として、者だからこそ、やれることがあるのではないか?

     散々迷って更新を決めた今の仕事には、もう戻れる気がしない。

     災害ハイ(?)になっているのかもしれないが、ここでこういう体験をしてしまった意味を、今後の人生で見つけたいと思ってしまっている。

     これからの自分の道を、じっくりと改めて考えようと思う。





    【2011-03-18 12:22/無事です~1週間だね~】

     仙台。今日は晴れてます。

     それだけで、気分が全然違う。

     ただいま食料確保のため行列中。

     風は冷たいけど、太陽の光があったかい!





    【2011-03-19 10:05/無事です~9日目~】

     好きな本、好きな音楽、信頼できる人の言葉など、「やっぱりそうだよね!」と自分の価値観に繋がり直せるようなツールがあって良かった、それを知ってる自分で良かったと改めて思った。自分にとって正しいと思えること、美しいと信じられることが、こういうときこそ自分自身を支えてくれる。

     また、自分の拒否反応も大事にしたい。

     テレビの人の言葉に引っ掛かりを感じたら、すぐにチャンネルを変えるか、テレビを消すか(ボーッとしたまま、特に見るつもりもないのに、つけっぱなしになってるテレビ。知らないうちに受信しまくり、麻痺してる耳と目、そして脳。そういう習慣から、離れられるようになった自分で良かった)。

     もはや、顔が嫌でも声が嫌でも、拒否反応が出るものからはパッと離れるのだ。怒りや悲しみに繋がるイライラを引き起こす前に、手を打つこと。瞬発力。

     それから、携帯電話にも気をつけなきゃ(特にツイッターは今の自分には要注意だ)と思う今日この頃。人は、いや私は、なんだかんだ言って、やっぱり人と繋がりたい・それを実感したいものなのだなぁ……。現実で人との繋がりを感じることが少ないからなのか、寂しいのか、ヒマか……。



     あぁ。頭を、髪を、洗いたい。

     お風呂に入って、身も心もスッキリしたい。

     そう思えるところまでは、あの恐怖から遠ざかり、余震にも慣れたのだ。

     しかし、都市ガス復旧の見込みは立ちそうにない。まだ断水中の地域もたくさんある。

     一週間経ったのだ。

     時間の感覚はずっとないまま、外が明るいか暗いか、その繰り返しだけ。

     ここから先が、本当に長いのだろう。

     お金と元気があるうちに、ガスが尽きるまでは営業するという銭湯などに、恐怖を忘れて行くのもいいと、やっと思えてきた。

     ここからが長期戦だ。心も生き延びさせないと!








    ~【4】へ続く~



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