新人の電話デビューの日。― その場にあった、やわらかい空気 ―
電話デビューの日
1月から中途採用の新人Kさんが入社した。
しばらくは研修が続き、3週目にいよいよ電話デビューを迎えた。
実務については、Kさんのチームの先輩MさんがOJTを担当しているが、電話の基本操作については、派遣社員の電話をフォローしている私に任されることになった。
その朝、私は少しだけ緊張していました。
たぶん、本人よりも。
午後からの電話デビューに向けて、簡単なマニュアルを作成した。
まずは、私の電話応対を見てもらいながら、
画面操作を教えていく。
ひとつ、ひとつ確実に。
わからないところがないように、聞きながら。
派遣社員を教えるときも、
常に気をつけていることがある。
きちんと理解してから、次のステップに進むこと。
業務の適性には個人差があるから、その人に合うスピードで進める必要がある。
Kさんに、
「では電話に出てみましょう」と声をかけた。
最初の一本
いよいよ最初の一本。
損害保険の現場での電話応対は、
決して軽いものではありません。
被害にあわれた方、契約者、代理店、修理工場や病院など。さまざまな立場の方からの受電は、9年目の私でもいまだに少し緊張します。
ときには、いきなり強い言葉を受けることもある。
不安な気持ちに寄り添いながら、少しずつ落ち着いていただけるように話していく。
最後に、穏やかな声に戻ったとき、
私はいつも、ほっとしています。
そんな仕事だからこそ、
最初の一本には特別な緊張がありました。
受話器を持つ手元を見ながら、
少し、手が震えていました。
大丈夫かな、ちゃんと話せるかな、と
横でそっと見守っていました。
私は何をしていたかというと、隣で
「大丈夫だよ」
「ゆっくりでいいよ」
と、すぐに言葉を送れるように。
直接口を出すわけじゃない。
でも、ひとりじゃないと思えるように、
空気だけは整えておきたかった。
思っていたよりも落ち着いていて、
きちんと取り次ぐことができていました。
「すごく落ち着いていて、よかったですよ」
そう声をかけた。
その場にあった空気
隣で聞いていた先輩Mさんも、そっと微笑んでいた。
取り次がれた先輩Tさんからは、
「内線でつながったときに、自分の名前を名乗るといいですよ」と優しくアドバイスがあった。
そこには、チーム全体でKさんの成長を見守る、
やわらかい空気が流れていた。
任せてもらえた理由
そしてもうひとつ、あとで気づいたことがあった。
今回、新人教育の一端を任せてもらえたこと。
きっと管理者は、
これまでの私の電話応対や、
派遣社員への関わり方を見て、
任せても大丈夫だと判断してくれたのだと思います。
評価されるのは、やっぱり素直にうれしい。
でも同時に、
その分だけ、ちゃんとしなきゃ、とも思った。
少しだけ背筋が伸びた気がしました。
電話が無事に終わったあと、
ほっとしたのは、きっと私の方です。
大丈夫だよ、と言いながら、
いちばん落ち着いていなかったのは、
私だったのかもしれません。
50代の仕事とは
50代の仕事って、
前に出ることじゃないのかもしれない。
安心して失敗できる場を、
先に用意すること。
それだけで、誰かの一歩は軽くなる。
あの日の電話の向こう側には、
新人の声と、
ほんの少しの安心があった気がします。
※このnoteは、50代の働き方を考える「お仕事シリーズ」の一つです。
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