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となりのトップランカー #13 | 出禁寸前の男(後編)~免罪符~

    新店舗への初出勤。

    その日、私に課せられたのは、
    お店を出禁寸前となっているお客様への対応でした。

    既に二人のキャストから
    NGを出されているというその男性。
    もし今回、私が三人目のNGを出せば、
    その方は二度とこの店を利用できなくなります。

    他の女の子全員が拒絶しているわけではないと
    聞かされても、不安に思う気持ちは
    止められません。
    しかし、一度受けると決めた以上、
    もう逃げ道はありませんでした。


    「やるしかない」


    私は覚悟を決め、念入りに支度を整えて
    待機室を後にしました。


    いざ、対面


    今回のコースは、75分。

    そのお客様は、40代ほどの方でした。
    身体が非常に大きく、独特の威圧感があります。

    (この体格で無理強いされたら、抗えないな……)

    直感的にそう感じた私は、「こんにちは」と
    努めて柔らかな笑顔で挨拶をし、
    インコールをしながら頭の中では
    防御策を巡らせていました。

    ホテルの電話の位置を確認。
    スマホの入った鞄を、すぐ手の届く場所に。

    身体こそ大きいものの、話し方は穏やかで、
    懸念していたようなあからさまな雰囲気は
    感じられませんでした。

    ホテルの部屋に入り、シャワーを終えるまでも、
    NGを出されるような理由は見当たりません。
    前洗いを拒んで即座に情事を迫るような方も
    多い中、その方は大人しくマナーを
    受け入れてくれました。


    お客様の身体を洗い終えて先にベッドへ促し、
    私も手早く自分の身体を洗って後を追います。

    シャワーを出ると、お客様はすでに
    裸でベッドに横たわっています。

    明かりを落として私もベッドに入ると、
    お客様の態度が豹変しました。

    私の腕を掴み、ベッドに押し付けて
    上から覆い被さり、言いました。


    「お姉さんは、本番させてくれる人?」


    なるほど、これか。
    と、私は納得しました。

    行為が始まる前からルール外の交渉。
    私を力で抑え込む高圧的な態度。
    これでは、嫌われるのも当然です。

    「そういうことは、お受けしていないんです」


    私は、お客様の機嫌を損ねないよう、
    努めて明るい声で答えました。


    「なんで? 他の子はしてくれたよ?」


    出ました、この世界の常套句。
    ネット上の体験談で見聞きしていたセリフを、
    私は初めて現実の音として聞くことになりました。


    「お店で禁止されていることなので、
    私にはできません」

    私は、はっきりと拒絶しました。

    お店から「断っていい」と
    事前に言われていたことが、
    私の背中を強く支えてくれていました。

    お客様はしばらく不満げに渋っていましたが、
    やがて「じゃあ好きにして」と不貞腐れたように
    吐き捨てて、再びベッドに横たわりました。

    もっと強引に迫ってくるのではと悪い方に
    想像していたので、私は少し安心しました。


    私は広げられたその体躯に、精一杯尽くしました。
    攻めの技術にはまだ自信が持てず
    できることも少ない頃でしたが、
    あの時はとにかく、
    この時間を無事に収めるために必死でした。

    不貞腐れた態度とは裏腹に、お
    客様の身体は正直に反応していました。

    昂まりに呼応するように、
    大きな手が私の身体へと伸びてきます。
    触れられることは仕事の範囲内。
    私は抗うことなく、そのまま奉仕を続けました。


    私の身体に反応が出始めると、

    「濡れてるじゃん。挿れてほしいの?」


    と揺さぶりをかけてきましたが、
    私は、笑って「違います」と即答しました。
    その様子に、
    お客様もようやく諦めがついたのでしょう。
    それ以上の強要はしなくなり、
    与えられる刺激にのみ集中し始めました。
    機嫌を損ねて萎えてしまうかと思われましたが、
    出すべきものはしっかりと出し、
    情事は幕を閉じました。


    規定の時間よりも少し早く部屋を出て、
    別れの際「ありがとうございました」と告げると、
    お客様は軽い会釈だけを返して去っていきました。

    きっともう、私を指名することはないでしょう。


    そして、報告


    お店に戻ると、
    スタッフさんがすぐに駆け寄ってきました。


    「どうだった!?」


    私は、ありのままを報告しました。

    最初から本番の交渉を迫られたこと。
    高圧的な態度で私を抑え込んだこと。
    けれど乱暴されることはなく、
    最終的にはルール内で終えられたこと。


    「私は躱すことができましたが、
    あの体格で覆い被されたら、怖いです。
    怖さに負けて従ってしまう女の子もいるかも。
    私ももう、お会いしたくありません」


    私の言葉を聞き、
    スタッフさんは真っ直ぐに頷きました。


    「そっか、ありがとう。
    じゃあやっぱり、あのお客様は出禁にするよ。
    本当にありがとう!」


    私が三枚目のNGを出したことで、
    その男性はお店を出禁になりました。


    ……正直なところ、事前に交渉をしてきた分だけ、
    その方はまだ「マシ」だったのかもしれません。
    私の初めてのお客様は、
    反応する隙さえ与えず事に及びましたから。
    今振り返れば、あちらの方が
    よっぽど悪意に満ちていたと感じます。

    けれど、相手の人となりや、
    こちらを尊重しない態度。
    そういったもので、私たちキャストが
    お客様を「選ぶ」ことは許されるべきです。

    この後も様々なお客様と出会い、交渉します。

    私は、私なりの基準でお客様を選んでいます。
    私も一人の人間であり、女ですから。
    それくらいの権利は、あってもいいと思うのです。

    2026年4月26日
    KANA



    ▶タナカ様からの意外な提案。次の記事はこちら


    ◁前回の記事#12 『出禁寸前の男① 毒味役』はこちら


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    今回の記事を書き進める中で、
    私はどうしても、あの初めてのお客様のことを
    思い出さずにはいられません。

    今回対峙したお客様は、
    確かに高圧的ではありました。
    でも、少なくとも私に「交渉」を投げかけました。
    それは、曲がりなりにも
    私を意思を持つ人間として認識し、
    合意を得ようとした証でもあります。

    対して、あの初めてのお客様には、
    交渉すらありませんでした。

     
     
     
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