
キラキラ女子と作業服【第2話】残高の恐怖とネットに救いを求めて
通帳の残高は、今の美雨にとって恐怖を煽るものでしかない。
生きてるだけで、お金はかかる。息しているだけで、音を立てるようにお金は減ってゆく。
通帳の残高が減っていくことより、無職の身の上は入金がどこからもない状態のほうが辛い。
単発バイトでもしようかと考えてみるものの、昼夜逆転の生活がすっかり身についてしまったのと、腰の鈍い痛みが気になり外で働きたくても体が言うことをきかないのだった。
世間からは甘えと言われるかもしれないが、仕方ない。
前職の会社員だった頃の少しだけの貯金が命綱になっている。
「いっそのこと貯金が底をついたら人生を終えたい」とまで、真剣に思うようになっていた。
でも、待てよ。
人生を終える前に学歴なし、友達なし、社会的スキルなし。彼氏いない歴は年齢と同じ。
そんな美雨だけど、何か一つくらいは取柄があるのではないか。
そうでなきゃ、あまりにも世の中は不公平じゃないか。
こんな葛藤は、日が暮れ始めるころになると決まって強くなる。
すっかり日が落ちると、小さな豆電球くらいの、以前に雑貨屋で買った間接照明だけで過ごしている。
6畳の部屋の天井の真ん中に蛍光灯があるけれど、無職になってからは、やたらに眩しく感じられるのだ。
太陽の光なんて、もっと眩しい。特に天気のいい日は熱で溶けるのではないかと心配になるくらいだった。
そんなわけで午後から始まる朝昼兼用の日差しもカーテンを閉め切ったまま過ごしている。
けれどもパソコンから発する光だけは、美雨にとっては違って見えた。
それは世間と美雨を繋ぐ架け橋のように思えるのだった。
会社員の頃からネットサーフィンが趣味で、様々な情報やSNSを何気なく徘徊するかのように見ていられる。何時間でも。
さらにキーボードを叩くカタカタする音のリズムは心地よく部屋中に響く。
ずっと座っていると腰が痛くなってくるが、そんな時は立ち上がって腰を左右に5分間くらい動かすと、筋肉がほぐれるのかだいぶ楽になってくる。
間接照明とパソコンから発する光だけの生活は、目に悪いけれど電気代は大幅に節約になった。
時に節約は体を張るもんだな、と発見する。
ネットサーフィン中毒は、今夜も例外なく発動した。
転職に関する情報を片っ端から検索する。
求人はもちろん、おさらいするかのように履歴書や職務経歴書の書き方。40代の女性の仕事の裏事情。さらに退職理由の書き込みサイトまで。
膨大な情報量なので、見ていて飽きない。
そんな中、ふと目に留まったのが某占いサイトだった。
占いの項目は多種多様で、こんなにもたくさんの占術があるとは思いもよらない。
まるで先には何があるか分からない扉を開けてみると、たくさんの道がありどこを選ぶかによって違いはあるが、最後は一つの場所へと繋がっていくような感覚を覚えた。
よく見ると占い以外のカテゴリーがあった。中でもカウンセラーの項目に目がとまる。
開運・風水・運気アップなど。これまでの美雨なら「胡散臭い」と瞬時に画面を閉じていただろう。
けれども今は違った。
特に運気アップカウンセラーという文字が、美雨の顔を直撃するかと思うくらい、やけに大きく且つ力強く飛び込んでくるのだった。
決して嫌な感じではなく、高揚感に包まれる感覚。
もしかして直観というやつかもしれない。
美雨は直観や霊視、霊聴のスピ系はあまり信じるタイプではなかった。
けれども、そうしたブログ記事を読み続けていると、目に見えない世界も本当にあるのかもしれないと思えてくる。
人の生死は、かなり深いテーマなので、美雨の頭の中では理解不能だ。
ただ運気という大雑把に言えば、目に見えない生きていくうえでの起伏があるのは確かだと感じた。
「運気アップカウンセラーか......やってみようかな」と気が付くと声に出して呟いていた。
さらに検索で調べてみると、学歴も年齢もスキルは一切必要なし。
40代の年齢が微妙かな? と思わなくもなかったが、運気という目に見えないものを語るには、ある程度の人生経験があったほうが顧客がつきやすいと推測する。
ま、美雨の人生経験など取るに足らないかもしれないが。
それに......美雨は一つ決心していることがあった。
なかなか決まらない仕事。
「誰も雇ってくれないなら自分で仕事をつくる!」と。
↓ 第3話 「閉め切ったカーテンの向こう側 」↓