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小説『みちかける』

短線 玄8000字

 姉のすがたをした別人の幜霊ず暮らしお䞃幎になる。それはミチの姉、カケルが死んでから䞃幎が経ったずいうこずだ。芋た目だけは圓時高校二幎生だった姉そのたたであるブレザヌ姿の幜霊は、䞭身が別人であるこずを隠しおいる぀もりのようだった。ミチは止たっおしたった姉の幎霢をずっくに越え、倧孊䞉幎生の冬䌑みを迎えた。

「いいかげんどこか遊びにいけばいいじゃない。冬䌑みでしょ」

 ベッドで寝ころびながらスマヌトフォンをいじるミチに、カケルは姉っぜく蚀う。

「䌑みだから、どこにも行かないの」

 もう、ずカケルが现い腕を組む。ミチは玠知らぬ顔でベッドの䞊であおむけからう぀ぶせに䜓制を倉えた。その半袖半ズボンのペラペラな郚屋着から䌞びる手足は骚ばっおいる。空調の効いた郚屋でもじんわりずした汗の気配が䜓をたずっおいた。

「せっかくのキャンパスラむフだよ。プヌルにでも行っおおいでよ」

「死んでる人が蚀うず、重みが違うね」

「プヌルが嫌ならクリスマス䌚でもしたらどう」

「子䟛じゃないんだから。暑いし郚屋から出るのは党郚いや。ここから動くのも無理。お姉ちゃんがアむス買っおきおよ」

「ミチのなたけもの。意地悪」

 ミチの郚屋から出るこずができないカケルは拗ねる。胞たであるたっすぐな黒髪を揺らしながらベッドの端に座っお、唇をずがらせおいた。姉はミチずちがっお色癜で、穏やかでたじめそうだが華のある、みんなの副生埒䌚長のような人だった。姉のすがたをした姉を名乗る別人も同じようにふるたっおいるが、今ずなっおはどちらが元の姉だったのか定かではない。察しおミチは肌の黄みが匷めで、姉にはないそばかすがある。くせの匷い茶色い髪は肩に圓たらないくらいの長さであちこちに跳ねおいた。ぱっず芋の印象はほずんど正反察な姉効だったが、顔のパヌツ䞀぀䞀぀を芋おいくずよく䌌おいた。特にやや倪めの䞋がった眉毛は二぀ずも党く同じ圢をしおいる。

「あ぀いな」

 ミチぱアコンの枩床を䞋げる。幜霊がいるのだから郚屋の枩床も䞋がればよかったが、カケルはそういう圹には䞀切立たなかった。南向きの郚屋にはレヌスカヌテン越しにも匷い日が差し蟌んでくる。窓を閉めおいおも幎䞭セミの鳎き声がするのには盞倉わらずむラむラした。

「冬が恋しいよね。冬なのにね」

 カケルが蚀う。

「十二月なのにね」

 ミチが無芖するので、カケルはさらに続けた。穏やかな衚情で、含みがこもっおいた。蚭定枩床の䞋げられた゚アコンが、ごおおず音を立おながら冷颚を吐き出し始める。あの冬がその冬でなくなったのは十䞀幎前だ。季節の呌び名こそ昔のたただが、十䞀幎前の倏が始たり、それから秋を迎えるこずはなかった。終わらない倏は今日も続く。

「スマホばっかり芋お。そうやっお䞀人でいるからり゚チくんが心配するんだよ。あの子たた来るよ、すぐに」

 アプリゲヌムを延々やるミチに、カケルは話しかけ続けた。今やっおいるのは、なぜかい぀も死にそうな堎所にいる王様を、パズルを消しおなぜか助けるこずができるゲヌムだ。䞀昚日始めおステヌゞたで来た。

「ミチが友達぀くったらり゚チくんも安心しお来なくなるず思うけどなあ。それずも䌚いたくおそうしおるの」

「そんなわけない。かなり来ないでほしい。お姉ちゃんからも蚀っおよ。圌氏でしょ」

「元だし」

 恋人の片割れが『元』を匷く䞻匵した。り゚チは生前に姉ず付き合っおいた同玚生で、珟圚二十四歳の男だが、䞃幎経った今でも元恋人の効であるミチの心配をしおくるのだった。ここにいるカケルにずっおは赀の他人なので、圓然思い入れはない。

「そうだ。お姉ちゃんのこずは気にしないでり゚チくんず付き合えばいいんじゃない こんなに来るんだからきっず奜きなのよ」

 カケルの䞀人称は぀ねに『お姉ちゃん』だ。生きおいたずきの姉も偶然か、同じだった。

「嫌だし、奜きになるこずはないし、あの人も私のこず奜きじゃないの芋おたらわかるでしょ。り゚チさんは倉なんだっお。深く考えおそうで䜕も考えおないタむプだよ。そういう人っお䞀番迷惑。お姉ちゃんはどこがよかったの、あのような人の」

「あのような人は、圓時は色々いいず思っおたけどね。今はもう、私も党然よ」

 今はもう、ず蚀うもののカケルは䞃幎間からずっず同じ制服姿だ。薄氎色のワむシャツに深緑のリボン、ほが黒に芋える玺のスカヌトはひざ䞋䞈で、ブレザヌのボタンは党郚閉たっおいる。汚れ䞀぀ないたっ癜な゜ックスだけがたぶしい。

「ふヌん」

 ある皋床分かりきった返答に、ミチは適圓に返事をした。ステヌゞの、同じような仕組みで範囲が広くなっおいくだけのパズルの色をそろえお消しおいるず、スマヌトフォンの画面が突劂ずしお暗くなり震えだす。䟋のり゚チからの着信だ。

「うわ」

「きた、きた」

 ベッドから起き䞊がり嫌そうに口を開けたたたにするミチず、にやりずするカケル。その間も着信は止たらない。

「嫌なら祈ればいいのに。神様お願い、二床ず来ないでヌっお」

 カケルが副生埒䌚長的な笑顔で蚀った。ミチはそれには返事せず、しぶしぶ電話に出る。

『あ、もしもし。忙しかった 今倧䞈倫』

 聞き慣れた、萜ち着いたトヌンの声がスマヌトフォンから聞こえる。り゚チの声は分類するず「いい声」の䞭に入るのがミチにずっおは癪だった。

「ああヌ。忙しいですけど」

『忙しい 今ミチちゃんの家向かっおたずころなんだけど、今日なんか予定あった』

「ないですけど   来るずき先に連絡くださいっお前も蚀いたしたよね」

『ごめんごめん。たた忘れちゃっお。今しおるずころ』

 声だけは少し䜎めの心地いい爜やかさで、ずげずげしい気持ちをそのたたぶ぀けるこずができない。ほがミチの家たで着いおから連絡をしおくるのが最近のり゚チの垞套手段だ。前たでは突然むンタヌホンを鳎らしに来おいたので、ただたしになったほうではあった。垞套手段ずいっおも確信犯ではなく、本圓に盎前たで忘れおいるほうだずミチは思っおいる。あぐらをかいお背䞭を䞞めながら電話察応しおいるミチのこずを、カケルが楜しそうに眺めおいた。

『前に蚀っおた叀墳芋に行こうよ』

「蚀っおた」のはり゚チだけで、ミチはそれを聞いおいただけだ。枋っおも意味がないのはずっくに孊習しおいたが、それでもやんわりず抵抗する。

「暑いから、あっちたで行くの぀らいです」

『暑くない日なんおもう来ないんだから。―――あ、぀いちゃった』

 玄関の扉の倖に人の気配を感じる。り゚チが到着しおしたった。ミチがうわあ、ず思った瞬間にむンタヌホンが鳎らされた。電話越しに同じ音が聞こえおから、り゚チによっお手元の通話は終了された。

「り゚チキタヌ」「静かに」

 カケルがふざけおむンタヌネットスラングを発する。ミチが音を立おないように寞分動かず止たっおいるず、ピン・ポヌン、ピン・ポヌンず連続しおむンタヌホンが鳎りだす。䞉回目でいったん止たる。

「仕方ない」

 ミチはベッドの沈みでいきおいを぀け、そこから飛び跳ねおフロヌリングに立ち䞊がった。「野生児ミチ」カケルがミチの小パフォヌマンスに拍手を莈る。玄関の扉を開けるず、

「無駄な居留守やめおよ」

 ずり゚チが笑った。䞀重の元から眠そうな目がさらにぎゅっず现くなる。黙っおいるず犯眪者顔に芋える男なので、衚情があるず安心感が生たれる。り゚チの埌ろに雲䞀぀ない青空が芋えおいた。同時に倖の気枩が郚屋に䟵入しおきお、むわっずした空気砲のようだ。

 ミチはなんずなく、り゚チを癜身魚のような男だず思っおいる。前にカケルに話した時には「なんずなくわかる」ずいう返事をもらった。叀着系の灰色のTシャツずリュックが倧孊生っぜさを醞し出しおいるが、圌は高校を卒業しおから劇団に所属しおいるので倧孊生だったこずはない。䞃䞉の割合に分けられた前髪はミチから芋お右偎が䞃だ。すみたせヌんず適圓に謝っお、芖線はり゚チの持぀ビニヌル袋に向けられる。

「あ、これ、サツマむモ。奜きだったよね」

 ミチの䞡目ず口が匱く開かれた。普段露出しない郚分の癜目に空気が圓たっおしみた。旬を倱ったサツマむモは䟡栌高隰しおいお、今ではスヌパヌでも気軜に買える倀段ではなくなっおいた。寒いくらいに涌しくした郚屋で焌き芋を食べるのがミチのごくたれにできる莅沢だ。り゚チが䞭身を芋せるようにビニヌル袋を開いおみせる。愛しい四぀の玫色がそこに居た。

「ありがずうございたす」

 ミチは嬉々ずしお受け取り、猫背になっお手元のサツマむモたちを芋぀めた。

「毎床単玔ねヌ。前はメロンパンだったっけ」

 埌ろから芗きこみながらカケルが蚀った。食には興味をも぀ミチぞ毎回手土産を持っおくる。これこそがり゚チの真の垞套手段だった。

「でも、それずこれずは別ですが」

「じゃあいらない」

「ですよね。そうなりたすよね」

 い぀ものくだりをミチは背䞭をさらに䞞くしながら答えた。錻から现く深く息を吐いおから、芚悟を吞い蟌んだ。

「準備できるたで埅っおおください  」

 オッケむ、ず「む」たではっきり発音しおり゚チは苊笑に芋える埮笑みをし、出っ歯ぎみの前歯をのぞかせた。扉を閉めお、再び郚屋にはミチずカケルだけになった。薄くなりすぎお垃寄りの郚屋着を脱ぎ捚お、倖甚のTシャツに袖を通しゞヌパンに足を通す。掗面台の前に仁王立ち、鏡を芋ながらSPFの日焌け止めを顔、銖、腕、手の順に塗った。半透明でゞェル状の日焌け止めはわずかにそばかすを薄くするくらいの肌補正力がある。最埌に靎䞋をはいお、玄関にお緑色のニュヌバランスに足をねじ蟌んでいるずカケルが「いっおらっしゃい」ず声をかける。「いっおきたす」ずミチは答えた。扉の倖にはり゚チが埅っおいる。


「高䞀の倏ごろだったかな。カケルちゃんず行ったのは」

 そこたで涌しくもない歩道の朚陰を歩いおいるず、り゚チが蚀った。い぀も、姉ず行ったこずのある堎所にミチを連れおいく。

「ぞえ」

 ミチは興味がないのを隠すこずもしない。叀墳たでは家から二十分皋床の道のりだ。時々自転車がやっおきお、道幅をゆずるために二人は䞀列になったり二列になったりした。䌚話もその郜床䞀時停止しお、暪に䞊びなおしおから続きをする。ミチは盞槌をしたり返せそうなずきは倚少話を広げたりするが、ほずんどがタヌンくらいで終わっおしたうのだった。い぀もミチを連れ出すくせにり゚チは話䞋手で、䞀分くらい黙っおから唐突に話し始めたりする。䞀列になった時にり゚チのうなじが湿っおいるのが芋えた。ミチも背䞭に汗じみができおいる感芚があった。

「青くさい」

 遠芋塚叀墳は、バむパス沿いのミスタヌドヌナツを曲がっおたっすぐ進むず突然珟れる芝生の茂った前方埌円墳だ。䞡脇は団地で固められおいお、かたくなな保護の意思を感じる。すごく昔に姉ず段ボヌルをもっお叀墳の段差を滑り降りる遊びをした蚘憶があったが、その時は墓だずは思っおもいなかった。

「草の匂いだね」

「ここに来お䜕するこずがあったんですか」

 瀺し合わせたわけでもなく二人は、䞀番䞊っぜさのある埌円郚たでのがる。前方埌円墳は鍵穎のような圢をしおいるが、䞞の郚分が埌円郚で䞋の郚分が前方郚らしい。テストのずき、ミチは䞞のほうが前方に感じるけど逆、ずいう芚え方をしおいた。

「䜕しおたんだろうね。座っお話したりずか」

 さえぎるものがないので盎射日光をもろに济びる。埌円郚の真ん䞭に到達しおり゚チがしゃがんだので、ミチは䜓育座りをした。

「あ぀いねヌ」

「あ぀いですね」

「結構歩いたね」

「結構歩きたしたね」

 り゚チの蚀葉にオりム返しを続ける。高いずころで蝉が鳎いおいた。

「冬恋しいね」

「冬」

 ず繰り返しかけおミチは蚀葉を止める。膝を抱える圢にしおいた䞡手に力がこもった。

「恋しいですか」

「なくなるずね」

 り゚チはかかずを぀けおしゃがめない。右手のひらを地面に眮いおバランスをずっおいたが、芝生に座りこむ芚悟を決めおあぐらをかいた。長ズボンで隠れおいた癜い靎䞋がたるたる芋えた。

「昔、カケルちゃんが蚀っおたな。小孊生のずきのミチちゃんの話」

「私の」

「うん。カケルちゃんが雪で滑っお捻挫したずきに」

「ああ   今でも忘れられないです。さっきたで笑っおふざけあっおたはずなのに、転んでからは芋たこずもない苊しそうな顔になっお」

 痛すぎお蚀葉も話せなくなり、突然意思疎通のできなくなっおしたった姉にミチは恐ろしくなったのだった。

「さっきたでの姉がもう戻っおこないのかず思っちゃっお」

「かわいいね。そうだったんだ」

「この話じゃないんですか」

「そのあずのこずだね。ミチちゃんが蚀ったっおいう。『冬がなくなったのは自分のせいだ』っお」

 䜓育座りのもも裏ずふくらはぎが汗ではり぀いおいた。日差しで脳倩からじりじり焊げおいくような感芚がする。

「『雪なんか降らなきゃいいのにっお願ったから』」

 ミチが頭の䞭で唱えた台詞ずり゚チの声が同時に重なっお聞こえた。そしたら冬がなくなっちゃった。そう姉に蚀った。

「そんなわけないのにね。かわいいよねっお。カケルちゃん蚀っおた」

 姉効っおなんかいいよね、ずり゚チはにこやかに、姉効のほほえたしい゚ピ゜ヌドずしお語り終える。ミチには笑えなかった。

「ごめん。ただ、぀らいよね。昔の話されるの」

「ううん」

 あたりにもミチが静かにしおいるのでり゚チは薄ら笑顔できき、様子をうかがった。ミチは過去を悲しんでいるわけではなかった。たずえ䞃幎前に父ず母ず姉が死んでいたずしおも。

「そっか」

 り゚チがう぀むく。真顔だず機嫌が悪そうに芋える圌の顔は、口を開けおいるず苊笑いに芋えるので䞍思議だ。生え際ちかくににじむ汗がひず぀の粒になりかけおいる。

「蟛抱匷くならなきゃいけない」

 脈絡のないり゚チの蚀葉にミチが「え」ず小さな声で聞き返しかける。

「はじめは、がくからちょっずだけ離れお、こんなふうに、草のなかにすわるんだ」

 ミチは意味もわからずその暪顔を芋た。り゚チの瞳は遠くを芋おいお、隣にいるのはミチではないように感じられた。䟋のいい声がたっすぐの方向に発せされ、い぀もより柄んできれいに聞こえる。芋た目はり゚チだが、知らない、別人の衚情をしおいた。

「がくは暪目でちらっずきみを芋るだけだし、きみもなにも蚀わない。こずばは誀解のもずだから」

「でも、毎日少しず぀近くに座るようにするんだ」

 り゚チがここではない別の堎所にいるこずがミチには分かった。突然こんなこずをしだす気色の悪さがほんの䞀瞬だけよぎったが、それ以䞊に圌の本来のすがたに圧倒されおいた。たさしく氎を埗た魚だ。

「なんの台詞ですか」

 空気だけでり゚チが終わりを䌝えた。ミチにはそれがはっきり分かったので、話しかけた。

「星の王子さた。のキツネ。王子さたず友達になりたいシヌンの台詞。次にやるや぀だから皜叀し始めおるんだけどさ。なんか䌌おるなず思っお。草のなかずか」

 前歯を芋せながらり゚チが苊笑っぜい埮笑で蚀った。完党にい぀ものり゚チで、玠の話し方のぎこちなさが逆にミチを安心させる。

「じゃあキツネ圹なんですね」

「そう、キツネ圹」

「キツネが友達になりたいのに指瀺しおるんですか こういう颚にしお友達になっおくださいっお」

「そうだね、それは。たあ、前埌もあるから」

「ふヌん」

 ミチは適圓な返事をしながら、党くの無関心でもなかった。察しお気にもせず、別の匷い意志をもったり゚チは蚀う。

「ミスド行かない」

「え、ああ。はい」

「よっしゃ。すぐ行こう。今すぐ。涌みに」

 ミチが同意するず、勢いを぀けおり゚チが立ち䞊がる。なかなか芋ない俊敏な動きだった。蹎り䞊げた地面から草ず土のにおいがする。圌は無類の甘党なのだ。


「今床はさ、ドンキ行こうよ」

 同じ道を同じように歩きはじめお、り゚チは蚀った。

「ドン・キホヌテ」

「そう、六䞁の目の。倧きいドンキ。行ったこずあるでしょ」

「ありたけど。今は荒井駅が最寄りです」

「そっか、東西線ができたのか」

「そんなのもうだいぶ前ですよ」

「そっかそっか」

 ハハ、ず顎をうしろに匕いおり゚チが短く笑う。もずもず衚情豊かではない男だが、感情衚珟もあっさりしおいる。先ほどのミニ劇を芋た埌だず、知っおいるほうのり゚チを芋おも䞍思議な感芚が残った。

「ずいぶんネタ切れですね」

「そんなこずないっお。ただいっぱいあるよ」

 り゚チが連れ出すのはい぀も、ミチが家族で行ったこずがある堎所か、圌がカケルず行ったこずがある堎所のどちらかだ。

「別にいいんですよ、もう」

「俺が行きたいずころに぀いおきおもらっおるだけだよ」

 ミチの本音に、り゚チはうわべのやさしさを返す。


「おかえりなさい」

 䜕も぀いおいないテレビの方を向きロヌテヌブル前に正座しおいたカケルは蚀った。冷房を消しおいったので郚屋の䞭はもうっずした暑さだ。圌女はミチがいない間どうなっおいるのだろうずたたに思う。ミチが家から出た瞬間にカケルの存圚もポンず消えおいるのかもしれないし、がヌっずしおいるのかもしれないし、どこかに出かけおいるのかもしれない。

「ただいた」

 四時半を過ぎたずころだった。ただ陜は萜ちない。ミチは真っ先に靎䞋を脱ぐ。

「疲れおるねえ」

「たあ。結構歩いたから」

 リモコンで冷房のスむッチを入れおから、たたパゞャマに着替える。

「お姉ちゃん。冬恋しい」

「圓たり前じゃない」

 姉は冬が奜きではなかった。り゚チの蚀っおいた姉ずの話には少し続きがある。自分が願ったせいで冬が消えたずし぀こく蚎えるミチに姉は、

「ミチのせいなら、お瀌蚀わないずね。ちょうどお姉ちゃん冬嫌いだったの。スキヌに連れおいかれるから」

 ず答えた。昔、父芪がスキヌを教えおいたからず蚀っお毎幎ミチず姉は雪山に連れおいかれおいた。雪山ずいう衚珟なのは、スキヌよりも雪で遊ぶほうが自分たちにずっおはメむンだったからだ。姉は雪山に行くのを楜しんでいるものず思っおいたのでミチは驚いた。

「楜しそうにしおないずお父さん怒るから嫌い」

 ないしょね、ず姉は人差し指をくちびるにのせた。授業参芳など芪の矩務に近い行事にはやたら来たがる父が子䟛たちを連れお行くのはゲヌムセンタヌず雪山だけだった。ほかの党郚の堎所は母ず姉ずミチの䞉人で行った。その母も姉も、家族の思い出の䞭にはいない父も、䞃幎前の事故で死んでしたった。修孊旅行から垰っおきた姉を車で迎えに行った埩路だったらしい。ミチが䞭孊二幎生のずきで、連絡が来たのは攟課埌だった。教宀の窓から芋える倕焌けの始たりの情景が蚘憶の䞭に残っおいるのだ。

 ミチは母の母である祖母に匕き取られるこずになった。今たで遊びに行くずころだった祖母の家に、䜏むずころずしお玄関に䞀歩入ったずき。姉だけでも、ず思った。姉だけでもいいから返しおず、ミチは匷く願っおしたった。

 それからカケルはミチの郚屋にだけあらわれた。姉だず思っお話しおいくうちに、姉のかたちをした別の誰かであるこずに気が付いおいった。カケルは姉のふりをするが、姉の通りではなかった。ミチが倧孊生になっお䞀人暮らしを始めた時もカケルは郚屋に぀いおきた。生きおいる人の䞭で぀いおきたのはり゚チだった。四日にいっぺん、り゚チは来た。今でも倉わらずり゚チは来る。四日埌にはたたり゚チが来るはずだ。圌の䞭でそれだけは決たりごずなのだ。


「い぀も私がいないあいだは䜕しおるの」

 ロヌテヌブルに頬杖を぀くカケルにミチは聞いた。

「テレビ芋ながらお茶飲んでたよ」

「リモコンも觊れないし飲めないでしょ。飲む意味もないし」

「ゞョヌクよ、幜霊ゞョヌク」

 カケルはふふふ、ずパヌにした手を口元にあおる。こうやっおはぐらかすであろうこずはミチももう分かっおいた。

「きっず消えちゃうんだね」

「それはどうかなあ」

 圌女自身もわからないのかもしれない、ずミチは思う。

「あなたはお姉ちゃんでは、ないよね」

「お姉ちゃんだよ」

 カケルの埮笑みは䞀切圢を厩さなかった。

「お姉ちゃんではないよ。お姉ちゃんは冬恋しいなんお蚀ったこずない」

「お姉ちゃんだよ。冬があるなら、そんなこずわざわざ蚀わないもの」

「お姉ちゃんは冬が奜きじゃなかった」

「それはその時そうだったの、今のお姉ちゃんは違うの。ミチがお姉ちゃんを呌んだんだよ。お姉ちゃんだけでも返しおくださいっお、祈ったんでしょ。私はお姉ちゃんなのよ」

 ずいぶんひねくれた性栌の元他人の珟・姉だ。ミチはほんの数秒黙り、゚アコンの颚の音が耳たで届いたくらいのずきに

「そっか」

 ず返事をした。やっず郚屋が涌しくなり始めお暑さから気がそれるず、今床は蝉の声がやかたしく思えおきた。恋しい冬が戻っおくるこずはもうないだろう。

「り゚チくんは倉わらないずいいね」

「倚少は気を぀けるよ」

 ミチはドン・キホヌテに行くであろう四日埌、や぀が来る前に着替えくらいは枈たせおおく぀もりだ。

いいなず思ったら応揎しよう

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