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Photo bytomekantyou1

【短篇小説】真倜䞭の郵䟿配達

    高校生の頃、友達に蚀われた。

    「倜䞭の時に䞁目のむチョりの朚の䞋にあるポストに手玙を投凜するず、願いが叶うんだっおよ」

    「䞁目のむチョりの朚
    あの蟺にむチョりの朚なんおねヌし
    ポストなんおみたこずねヌや。
    どうせ郜垂䌝説だろう」

    「それが実際に手玙を出した奎がいるんだっおよ」

    ありもしないポストに手玙を出す。
    そんなこずができるはずがない。
    俺は笑いながら、友達の話を聞いおいた。

    あれから20幎。
    結婚しお子䟛も生たれ、平和に暮らしおいる。
    劻は優しく、子䟛は愛らしい。
    俺はすっかりそんな郜垂䌝説を忘れおいた。

    だが、その郜垂䌝説にすがる日がやっおくるずは思っおもいなかった。

    「あなた ナミちゃんが ナミちゃんが」

    仕事䞭にかかっおきた劻からの電話は、慌おふためき、悲鳎のように嚘の名を繰り返しおいた。

    「どうしたんだよ、仕事䞭に」

    「ナミちゃんが事故に遭っお」

    涙ながらに聞こえおくる声は、嚘の事故。
    病院に担ぎ蟌たれたが、手術もできない状況。
    このたたなら、呜が尜きるのは目の前だずいう。

    俺はゞャケットを掎むず事務所から飛び出しおいた。

    病院に぀くず、劻が真っ青な顔で、あふれる涙をぬぐうこずもできずに、俺にしがみ぀いおきた。

    「信号は青だったっお  ナミはちゃんず信号を守っおたの。
    でも、車が突っ蟌んできお」

    「なんで  」

    なんで俺の嚘がそんな目にあわないずならないのか
    俺は倚数の管に繋がれた嚘を、ガラス越しに芋るこずしかできなかった。

    その日から劻は病院に泊たり蟌んだ。
    俺は家に垰ったものの、䜕も手に぀かない。
    宀内に明かりはあるものの、暗く沈んでしたったようだ。

    壁に貌られた絵は、ナミが曞いたもので、俺ず劻、ナミが笑顔で䞊んでいる。
    歳ずいう小さな嚘は、い぀呜が尜きるかもわからない状況だ。
    俺はどうしたらいいのかず、ベッドに暪になるこずもできず、暗いテレビ画面を芋぀めおいた。

    その時脳裏に浮かんできたのが、あの郜垂䌝説だった。

    深倜時、䞁目のむチョりの朚の䞋にある郵䟿ポスト。
    未だか぀お芋たこずがないそれに、手玙を投凜すれば願いが叶う。
    あるはずない。
    芋たこずもないのだから、あるはずがない。
    分かっおはいるが、かすかな望みを抱いた。

    もしかしたら、時に行けばあるのかもしれない――。

    俺は走り曞くように手玙をしたためた。

    『どうか、嚘の呜を守っおください』

    真っ癜な封筒に入れるず封をし、䞁目ぞず車を走らせた。
    時蚈は時分。
    䞊手くすれば時にたどり着けるかもしれない。
    そしお、むチョりの朚が  。

    䞁目にたどり着き、目を芋開く。
    むチョりの朚は暗闇の䞭に金色に光っおいた。
    車を止め飛び出すず、そこに今たで芋たこずもないポストが䜇んでいた。

    「これだ  」

    俺はすぐさたポストに手玙を萜ずした。
    トンずいう也いた音が聞こえた。
    その時、道路を走っおくる赀いバむクが芖界に入った。
    バむクに乗っおいるのは確かに郵䟿局員だ。

    そい぀はバむクから䞋りるず、俺には目もくれずポストから手玙を取り出した。

    「あの、その手玙」

    郵䟿局員は俺に目を向けた。

    「お願いしたす、どうか嚘を助けおください」

    そい぀は俺をじっず芋お、口角を巊右に倧きく䞊げた。

    「嚘を助ける
    アンタの嚘は、事故に遭っおもうすぐ呜が消えるんだよ」

    「分かっおたす。それでもお願いしたす。
    あの子は私の呜そのものなんだ
    宝なんだ
    金ならいくらでも出すから」

    「金 なるほどね」

    郵䟿局員が笑ったように芋えた。

    「5000䞇だな」

    「  千」

    「ああ、そのくらいは芚悟しおもらわないずな。
    消える呜を助けるんだから」

    「分かった。払う 払うから」

    郵䟿局員は、倧きく息を吐いた。

    「どうやっお払うんだ
    アンタは小さな䌚瀟の係長だろう
    家だっお買ったばかりで、そんな金はないはずだ」

    どうしお知っおいるのか
    確かに俺に金はない。

    「だ、倧䞈倫だ。
    保険には入っおいるし、加害者に請求もする」

    「加害者
    その加害者は、倧した金はないぜ。
    そい぀も、仕事を掛け持ちしおやっず生掻しおるんだ」

    「そんなもの知るか
    俺の嚘をあんな状態にしたのはそい぀なんだ
    払えないなら、借りおでも払わせる」

    「倧きく出たもんだ。
    ずいう事は、アンタは自分の嚘が助かれば、埌はどうなろうずどうでもいいっおこずか」

    「圓然だ
    他人がどうなろうず、そんなものはどうでも構うもんか」

    沈黙が流れた。
    静寂が俺の耳に針を刺すように突き刺さる。

    「そうか、そういうこずなら、この手玙はちゃんず届けるよ。
    ただし、子䟛が治っおも金が払われなかったら、どうなるか。
    䞀週間埌、たたここで䌚おう」

    郵䟿局員はそう蚀うず、バむクに乗り走り去っおいった。

    俺は気が付くず家の゜ファヌにいた。
    あれは倢だったのか
    金を払っお嚘が助かるなんお、そんなこずがあるのものか。
    それができるなら、医者たちが嚘を助けおるはずだ。

    俺は䞡手を顔に圓おるず、ずんだ倢を芋たものだず肩を萜ずした。
    だがその時、俺のスマホが鳎った。
    画面を芋るず、劻からだった。

    「あなた ナミが」

    「ナミ  ナミがどうしたんだ」

    「息を吹き返したのよ
    ちゃんず生きおるのよ
    もう倧䞈倫だっお、先生もおっしゃっおるわ」

    その蚀葉を聞いた俺は、安堵の息を挏らした。
    だが、5000䞇が重くのしかかっおきた。
    俺は日が昇るず早速加害者に電話を掛けた。
    保険䌚瀟から出る金などたかが知れおいる。

    䜕ずかしお加害者に払わせなければならない。
    しかし、盞手も貧しいらしく、そんな金はないずいう。
    俺は借りおでも払えず怒鳎った。
    払わなければ刑務所に入るこずになる。家族が蟛い思いをするこずになるず脅した。

    それを聞いた男は、萜ち蟌んだ声を出しながら、日埅っおくれず電話を切った。
    その蚀葉通り、日埌に男は5000䞇をバッグにいれおやっおきた。
    真っ青な顔、ガリガリの身䜓。

    俺はそんな男に目を向けるこずもなく、金を貰うず譊察には被害届を出さないこずを玄束した。
    だが、本圓にあの郵䟿局員が治したのか
    そんなこずがあるずは思えない。

    俺は5000䞇の札束を握りしめ、唟を飲み蟌んだ。

    その埌、嚘は元気に退院し、俺は幞せな日々を取り戻せた。
    そう思った数日埌、新聞の片隅に、アパヌトの䞀宀で銖を吊った遺䜓が発芋されたずあった。
    テヌブルの䞊には、事故を起こしたこず。
    その償いに5000䞇を請求されたこずが曞かれた遺曞があったずいう。

    もちろん、そんな遺曞があったからず蚀っお、俺が悪いわけじゃない。
    名乗り出る必芁もなければ、埌悔するこずもない。
    俺は嚘を助けるために、できるだけのこずをしただけだ。

    バカな男だ。

    俺は党おを忘れようず、頭から男のこずも郵䟿局員のこずも消すこずにした。

    あれから10幎、嚘は元気に育っおくれた。
    明るく可愛い嚘。
    目に入れおも痛くないほどの愛情。
    この先もきっず俺は幞せでいられる。

    そう思っおいた。

    だが、高校生になった嚘は倉わっおいった。
    孊校には行かず、遊んでばかり。
    日も日も垰っおこないのは圓たり前で、垰っおきたず思えば着替えをずりに来るだけ。

    あたりの行動ず蚀動に、俺は劻に蚀った。

    「䜕ずかしろ 䞖間䜓が悪い」

    劻が俯きながら俺に小さな声を向けた。

    「そんなこずを蚀われおも。
    あの幎頃なんだもの、私の蚀うこずなんお聞きたせんよ」

    「母芪だろうが」

    劻はため息を吐くず、小さく頷いた。

    それから数日埌、俺が家に垰るず、家の䞭から食噚が割れる音が響いた。

    「うるせヌんだよ
    テメ゚はあたしの蚀うこずを聞いおりゃいいんだ」

    「でもね、お父さんが」

    「あんなの父芪でもなんでもねヌんだよ
    䞖間䜓しか考えおねヌ、ろくでなしだろうが」

    「でも、䞖間の目は確かにあるから」

    「うるせぇっお蚀っおんだろうが
    おめぇなんか、いなくなればいいんだよ
    圹立たずのババアが」

    悲鳎が聞こえた。
    劻が殎られたのだろう。
    隣の家の窓が開き、芗いおいるのが分かった。
    このたた家に入れば、どんな芖線を济びるか分かったものではない。

    俺は螵を返すず、歩き出した。

    行き先は、䞁目。
    もう䞀床、もう䞀床だけ願いを叶えお欲しかった。
    嚘が改心し、可愛い俺の嚘に戻るように。

    だが、䜕時たで埅っおもポストは珟れず、郵䟿局員もやっおこなかった。
    あったはずのむチョりの朚すら芋圓たらない。

    日が昇り、俺は駅ぞず向かった。
    家に戻り着替えたかったが、劻の青あざだらけの顔は芋たくなかった。
    泣きはらしながら、割れた食噚を片付けるさたなど、目にしたくなかったのだ。

    仕事に無心になり、苛立ちも䞍安も、䜕もかもを自分の䞭から远い出せたのは、それから日ほどしおからだった。
    これだけの時間が経おば、家の䞭もキレむに片付いおいるだろう。
    そう思った俺は、家に戻るこずにした。

    玄関を開け、靎を脱ぐ。
    䞀歩を螏み出せばギシッずなる床を螏みしめ、リビングぞず入っおいく。

    俺は持っおいたバッグを萜ずした。

    だらりず垂らした舌が、劻の口から垂れおいる。
    その目は、䜕を芋るこずもなく、ただただ俺ぞの恚みで沈んでいるように芋えた。
    颚もないのに、劻の身䜓がゆっくりず小さく揺れおいた。

    俺は座り蟌み、あの日玄関を開けなかったこずを埌悔した。

    数日埌、葬儀を終えた俺は劻の䜍牌の前で頭こうべを垂れおいた。
    母芪の死を知らせようず、嚘に電話をしたが連絡が぀かず、結局寂しい葬儀ずなっおしたった。

    これで嚘が垰宅したら、母の死をどう受け止めるのか
    自分が母芪を远い詰めたず埌悔し、改心しおくれるのか

    ならば劻も浮かぶ瀬もあるずいうものだ。

    そんなこずを考えおいた時、玄関が開いた。
    どかどかを足を螏み鳎らし、鍵をじゃら぀かせる音が聞こえた。
    キツむ銙氎の匂いが錻孔を぀いたずき、髪を赀く染め、真っ赀な唇をした嚘が入っおきた。

    「ナミ  」

    「なんだよ、オッサンいたのかよ。
    ババアは」

    俺は䜍牌を顎で瀺した。

    するず嚘の口角が䞊がった。

    「なんだよ、死んだのかよ。
    マゞ、ダッセヌ」

    ゲラゲラず笑う声がこだたする。

    「なぁ、オッサン。金くれよ」

    「なんだず」

    「なんだよ、聞こえなかったのかよ。
    金くれっお蚀っおんだよ。
    ババアが死んだんだからさ、今床はアンタがあたしの財垃になっおくれないずね」

    「お前は母芪が死んだっおいうのに、悲しいずは思わないのか」

    「自分以倖がどうなろうず、そんなの知ったこっちゃないね。
    アンタだっおそうだったんだろう
    あたしが助かるなら、他人がどうなろうず関係ない。
    それもこれも、自分が幞せになりたいからだったんだろう」

    「な  」

    あの日のこずが蘇る。
    金がないず蚀い、真っ青な顔をした男。
    借りおでも払えず蚀われお、涙亀じりに俺を芋た目。
    銖を吊ったその堎に残された恚みの入り混じった遺曞。

    「アンタず同じこずしおるだけ。
    文句ねぇだろうがよ」

    「お、俺は、おたえの為に
    俺ずお前ずは違う」

    「䜕が違うっおいうのさ。
    䜕も違わないだろうが
    あヌ、めんど。そんなこずどうでもいいんだよ。
    ずにかく金を出せよ」

    「お前にやる金なんかあるか」

    「なんだよ、ババアが死んで、これで奜き攟題金が䜿えるず思ったのに。
    そういうこず蚀うんだ」

    ナミは「ぞぇぇ」ず蚀いながら、台所に行くず包䞁を手にした。

    「な、なにを  」

    「ババアが殎られようずどうしようず、芋お芋ぬふりしおおきながらさ。
    今頃になっお、父芪面ずか、笑わせんじゃねヌぞ」

    ナミの持った包䞁が俺の腹に突き刺さった。
    匕き抜かれたそこから、噎き出る血。
    熱く燃えるように、俺の腹が叫ぶ。
    ナミはケタケタず笑いながら、再び俺の腹を刺すず、俺の財垃を手に玄関から出お行った。

    残された俺は、メモ垳を手にするず、震える指で手玙を曞いた。

    『俺を、助けお』

    癜い封筒を握るず、赀く染たっおいった――。



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