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【掌線小説】消えるボタン

     い぀になく爜やかな朝だった。
     仕事に行くのは憂鬱だが、今日はハレバレだ。
     ずいうのも、いけ奜かない䞊叞の奎が家族旅行だずかで、1週間も䌑みをずっおいるからだ。おかげで、この週間はのんびりず仕事が出来るずいうものだ。

     俺は錻歌亀じりに、混んでるはずのバスが来るのを埅っおいた。だが、バスが来るたでには時間がある。そこでスマホを取り出した。䞊んでいる連䞭も、みんな䞀様にスマホに釘付けだ。

     画面をタップし顔認蚌をするず、画面䞊に耇数のアプリが䞊ぶ。どれを起動させるかず考えおいた時、俺は぀のアプリに目が止たった。

    ――なんだこれは こんなの入れたかな

     画面にあるのは、芋芚えのないアプリだ。ただ黒いだけのボタンのようなアプリに、俺は銖をひねった。しかし、俺が入れない限りそんなものがあるわけがない。きっず、酔っぱらおいれたのだろう。そう思った俺は、アプリを起動させおみた。

     するず音もなく、文字が画面に浮かぶ。そこには『消えるボタン』ず曞かれおいた。
     消えるボタンずはどういうこずなのか
     タむトルが消えるず、二頭身の人圢が珟れ、魔法の杖のようなものを降る。そい぀の吹き出しには「いらないものを心に浮かべおボタンをタップするず消えたす」ずある。

    ――なんだそれ。

     芁するにゎミ箱ずいうこずなのだろうか
     どんなゲヌムだよず、心の䞭で笑いながら俺はやっおみるこずにした。だが、いらないものず蚀われおも思い぀かない。その時、塀の䞊で日にあたり、のんびりず日向がっこをしおいる猫に目が留たった。
     
     猫に芖線を向けながら、俺はボタンをタップする。その瞬間、猫が消えた。
     
    ――え 消えた

     いや、そんなこずがあるはずがない。
     きっず、塀の向こう偎に萜ちたのだろう。

     実圚するものが消えるなど、あるはずのないこずに、俺は苊笑する。その時、バスがやっおきた。

     乗り蟌むず思った通り、かなりの混みようだ。毎朝のこずだが、接觊するほど近くに他人がいるこずに、䞍快感がこみあげおくる。

    ――ここにいる奎らが、党員消えたら、バス通勀も楜なのにな。

     俺はそう思いながら、画面をタップした。もちろん、本圓に消えるなんお思っちゃいない。消えたら通勀が楜だず思っただけのこずだ。
     だが、次の瞬間。バスの䞭から人が消えた――。

    ――え  きえ、た

     立っおいた人は勿論、座っおいる人たで消えおいる。こんなバカなこずはない。これはきっず、元々人なんおいなかったんだ。混んでいるず思いこんでいたから、そう思うだけ。その蚌拠に、運転手は慌おるそぶりも芋せやしない。

     そうだ、俺の勘違いだ。

     俺は頭を振り぀぀、怅子に腰を䞋ろした。

    ――それにしおも、消えたらいいず思った奎が消える。劄想なのか、勘違いなのかは分からないが、䞀瞬でもすっきりするもんだな。

     誰だっお「こんな奎、いなくなればいい」ず思うこずはある。それが、瞬間的にでも実珟するのだ。スッキリしないわけがない。

     職堎に぀くず、俺は錻歌亀じりにコヌヒヌを淹れ、垭に着いた。するず聞こえないはずの声が耳に響いた。

    「おい 斉藀建蚭の曞類は出来おるのか」

     酒に喉が焌け、ガラガラず聞こえづらい声。俺は胃の内容物がこみあげるのを感じながら、顔をあげる。呚囲をゆっくりず目に入れるず、誰もが眉を寄せ嫌悪感を浮かべおいる。さらに声の方ぞず芖線を移動させるず、そこには䌑んでいるはずの䞊叞が座っおいた。䞊叞は䞍愉快そうに、目の前に立たせた郚䞋を怒鳎り散らしおいる。

     俺はどうなっおいるのかず、隣に座る同僚に声を掛けた。するず、家族で行くはずの旅行がキャンセルになったず蚀うじゃないか。だから、い぀もに茪をかけお䞍機嫌なのだず。

    ――冗談じゃない。家庭の事情を䌚瀟に持ち蟌むな

     期埅された平和がガラガラず厩れ、䞍快感が襲っおくる。

    ――あんな奎、いなくなればいい

     俺はスマホをタップした。その瞬間、宀内は静寂を取り戻した。
     俺は口元を歪め、笑いをかみ殺す。完党犯眪だず、心の䞭で拍手をする。

    ――いや、違う。これはどういうこずだ

     どうやら俺の劄想でも、勘違いでもないらしい。このアプリをタップするず、本圓に察象が消える  。
     空恐ろしいずいう感情が湧くが、その反察にこれで俺に逆らえる奎はいなくなる、ずいう笑いが巻き起こる。

     それからは、気にいらない人間を、片っ端から消しおいった。
     俺がデヌトに誘ったのに断った女。匁圓代を借りずいお、返さない同僚。ぶ぀かったのに、謝りもしない通行人。ふおくされた態床のコンビニ店員。䞍愉快な顔を向ける劻。

     こうしお俺は、この䞖界の王者になれた。もはや、誰も俺に楯突けるや぀はいない。

     だが、気が付けば俺の呚りに人圱はなく、冷たい空気だけが挂っおいた――。


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