
【ショートショート】森のレストラン
鬱蒼とした森の中に、小さなレストランがある。
雨が降っても、木々が屋根になり、客を濡らさない不思議なレストラン。
初めてきたのは夫と二人だった。
それが三人になり、笑い声にあふれた時間を過ごした。
時が流れ、娘と二人になった。
話す内容は、いつも三人だった頃のことばかり。
それでも幸せだった。
目の前に置かれたカフェオレを飲み、小さく聞こえる雨の音を聞きながら、流れる時間が嬉しかった。
ある日、たった一人の家族が消えた。
それは本当に突然のことだった。
泣き叫んでも戻らない命に、私の魂は消えることを望んだ。
これが最後と森の中へと足を向けた。
レストランに入り、三杯のカフェオレを頼む。
湯気の立つコーヒーカップが私の前に一つ。
目の前に二つ。
笑顔のないテーブルには、静寂が流れるだけ。
「終わりにしてもいいよね?」
二つのコーヒーカップに話しかける。
カップの水面が揺れた。
立ち上る湯気が、悲しそうに揺らぐ。
「だって、もう……笑えないのよ。
あなたも娘もいない時間が耐えられないの」
頬を伝う涙が、ポチャリとカップの中で音を奏でた。
その時、老いた店主がやってきた。
手には一皿のピザ。
注文していないそれに、不思議そうに顔を向ける。
すると店主が言う。
「思い出は心の中にあります。
どうぞ、ご家族で楽しい時間を」
耐えようとする涙が頬を濡らし、口から嗚咽が漏れた。
顔を上げるとピザを口にする夫と娘の姿があった。
その顔は、嬉しそうに輝いている。
「そうか……私が消えたら、もうカフェオレもピザも食べさせてあげられないのね」
涙をぬぐい、ピザを手にした。
娘と行った小さなレストランを舞台に、書きました。
最初は「森のレストラン・家族がひとりになる」というところまでで、後は全く浮かばなかったんですよね。
ま、書いてるうちに何かにはなるだろうと、書き始めました。
そうしたら、自分でも悲しくなるような、それでいて最後は暖かく包まれるエンドが生まれました。
物語って不思議ですよね(ウフ)
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