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ハーブ魔女の家 第17話

    これは、ハーブの魔女と、ぶっきらぼうな黒猫の静かな物語。

    ―鐘の音と、色のない冬の続き―
    菜の花とベーコンの彩りサラダ




    冬はまだ、森の奥に残っていました。

    風は冷たく、枝は白いままです。
    けれど、どこかで何かが少しだけ変わりはじめていました。

    魔女の家の台所では、保存食の棚が少なくなっていました。

    干し肉の瓶。
    豆。
    野菜達
    冬のために積んだものが、少しずつ減っています。

    魔女は頬杖をつきながら、それを眺めていました。

    「……少し買い出しに行かないとね」


    暖炉の前で、黒猫の耳がぴくりと動きます。

    ファーダリングの火は、今日も静かに揺れています。

    何も言わず、ただそこにある火です。

    棚の上から、クラリカーンが顔を出しました。

    「長い冬の終わりには、鐘を鳴らす奴がいる」

    魔女は視線だけを上げます。

    「鐘を鳴らすもの?」

    クラリカーンは小瓶を軽く揺らしました。

    「すぐに次のものがくる」

    それだけ言って、また影の奥へ消えます。

    魔女は羽織を取りました。

    「買い出し、行きましょうか」

    黒猫は一度だけ暖炉を見てから、静かに立ち上がります。

    魔女の後ろをついて行きます。

    森の道は、まだ冬のままでした。でも、時折柔らかい空気が混じります。

    黒猫はときどき立ち止まり、土の匂いを確かめています。

    魔女はそれを見て問いかけますが、返事はありません。

    「ふん」

    それだけが返ってきます。

    丘へ出たときでした。

    音が聞こえます。

    「ちり……ん」

    魔女は足を止めました。

    黒猫のしっぽが、ゆっくり揺れます。

    丘の上に、それはいました。

    花のような透けた衣、手には鐘。

    鳴らすたびに、音が冬へ溶けていきます。

    「ちり……ん」

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    スノードロップは、そこに立っていました。

    振り返りません。
    誰かを見ているわけでもありません。

    ただ、鐘を鳴らすためにそこにいます。

    そのとき。

    空気がわずかに冷えました。

    「コロ……コロ」

    笑い声。

    丘の影から、白い気配が現れます。

    ジャックフロストでした。

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    輪郭だけのような存在。色はなく、雪の様な色。辺りは急に冷たい空気が流れます。
    ジャックフロストはスノードロップの方を見て立っています。

    スノードロップはジャックフロストに近づきます。

    鐘の音を鳴らしながら。

    「ちり……ん」

    ジャックフロストは動きません。

    逃げることもなく、ただ、その瞬間を待っています。

    スノードロップはジャックフロストに腕をのばしました。
    そして、指先がジャックフロストに触れました。

    ジャックフロストの体に、色が流れ込みます。

    春の青。

    春の緑。

    春のピンク。

    遅れて、淡い春の黄色が滲みます。

    それは、そこに戻ってくるようでした。

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    ジャックフロストの輪郭が、少しだけ揺れます。

    硬いものが緩みます。

    固まっていたものが、ゆるむように。

    「コロ……」

    声は途中で途切れました。

    触れた場所から、静かに離れていきます。

    まるで役目を終えて戻っていくように。

    白は薄くなり、境界が曖昧になります。

    そこにあったものの形が、ゆっくりと溶けていきました。

    鐘が鳴ります。

    「ちり……ん」

    スノードロップは何も言いません。

    そのまま、歩き出します。

    鐘だけが、少し遅れてついていきます。

    丘には、静けさが戻りました。

    少しだけ温度の違う空気だけが残っています。

    ジャックフロストは、立っていました。

    淡い春の色は冷たい体の奥に残っています。

    ジャックフロストはゆっくりと顔を上げました。

    そして。

    笑っています。

    「コロ……コロ」

    それは軽く、少しだけ暖かい音でした。

    悲しみはありません。

    そこにあるのは、終わりを知っている静かな満足だけです。

    スノードロップはもう振り返りません。

    鐘を鳴らしながら丘の向こうへ歩いていきます。

    ジャックフロストは追いません。

    そして、自分の手を見るように、指を開きました。

    そこに残っている色を、確かめるように。

    そして、もう一度笑いました。

    「コロ……コロ」

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    ジャックフロストの体はゆっくりと溶けていきます。

    その音は、冬が終わったときの音でした。

    魔女はその丘を見たまま、小さく息を吐きます。

    「…冬が終わったのね」

    黒猫は何も言いません。

    ただ、しっぽを一度だけ揺らしました。

    次の日。

    菜の花が、台所に並んでいます。

    鮮やかな黄色と緑。

    ベーコンはフライパンで焼かれ、カリカリと音を立てます。

    オリーブオイル。

    塩。

    黒胡椒。

    ニンニク。

    皿の上に、春の色が並びます。

    魔女はそれを見て言いました。

    「春の匂いね」

    黒猫は当然のようにそこに座っています。

    ファーダリングの火は静かに揺れています。

    それは、何も説明しないまま、すべてを見ていました。



    第17話 第1章おしまい


    ハーブ魔女の家、第一章はこれで最終話になります。

    ここまで読んでくださってありがとうございました。

    食べ物と、小さな妖精たちのいる物語を書きたくて始めたお話でした。

    二章は、森、キャンプ、食べ物、森での出会い、少しダークなお話しなんかが書きたいなと思ってます。

    第二章は、ゆっくり更新していこうと思います。

    ※創作大賞2026応募範囲は第1話〜第17話です。

     
     
    加護月乃 押絵的なイラスト、創作童話を好んでかいています。 気ままにですが色々載せて行けれたらなと思ってます。 イラスト、写真素材 https://creator.pixta.jp/@prof1312236

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