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掌編小説 200円のマドレーヌ



    午前の忙しい時間が終わり、やっと迎えたお昼休み。私はおにぎりを食べながら、ぼんやりとインスタのリールを眺めていた。流れていく情報の雑音をBGMに、何かをした気になるものだ。

    そんな時、DMに、通知1の表示が光っていた。
    普段は海外からの怪しげなスパムメッセージばかりしか来ない。
    その日も、面倒臭い指先でそれを開いた。そこに表示されたアイコンと名前に、思わずその場にガタリと立ち上がってしまった。
    そのメッセージは、地元の憧れのハンドメイド作家の、ユキエさんからだった。

    大好きなユキエさん。
    微かに震え汗ばむ手で、そのDMをタップする。

    「こんにちは🌷
    急にメッセージしてごめんなさい。
    実は来月、小さなハンドメイドイベントを開くことになりました。
    「作品を通して、季節のやさしさを感じられる場所にしたいな」と思っています。
    少しだけどキッチンカーも来て、お菓子を出す方もいます。

    マミさんのお菓子、いつも美味しそうでいつもひとつひとつに温かい心の温度がある気がして……投稿一つ一つを拝見する度に温かい気持ちになっています。
    もし気が向いたら、ぜひ見にきてほしくてDMさせていただきました☺️
    出店でも、ふらっと遊びにでも、どちらでも大丈夫なのでいらっしゃいませんか?

    “がんばって参加しよう!”って感じのイベントではなくて、ただ、好きなものを持ち寄って、
    静かに「いいね」って言い合える時間が作れたら嬉しいなって思ってます🥰

    季節の変わり目だから、どうか無理せずに。
    もし興味があったらご返信いただけたらうれしいです♥️」

    温かく並ぶ言葉に、胸の奥に灯りが灯るような気持ちになる。
    詳細のURLをクリックすると、ユキエさんらしい洗練されてるけど温かい、パステルタッチのチラシが表示された。

    既に参加が決まってる人達も、ユキエさん周りの、私が好きなハンドメイド作家さん達だ。

    だけど、一瞬だけ、迷いがよぎった。
    華やかな場の空気。
    きらきらした人たちの輪。
    自分がその中に入っていけるだろうか。

    しかし次の瞬間、楽しいイベントの様子が思い浮かんで、その気持ちはあっという間に吹き飛んで行った。

    私のお菓子が、イベントの中で温かさを添えられるかもしない……そんな期待に胸が高鳴る。

    私は、感謝と喜びを込めて、参加の意志を返信した。


    そして迎えた当日。
    少し肌寒くなった秋晴れの空。
    みんなが「おはようございます」と笑顔で言葉を交わし、思いも思いにタープテントを広げていく。

    「あれ、おひとりですか?手伝いましょうか?」

    ワンタッチのタープテントと言えど、1人で開くことに手間取っていたら、隣のブースの方が声をかけて手伝ってくれた。

    その方も1人で出店していたので、今度は私が手伝った。

    ショップカードを交換した。お名前はmisonoさん。misonoさんはあみぐるみ作家さんだった。
    準備の合間にフォローしたら、フォローを返してくれた。顔を上げて見ると目が合って、微笑み返してくれた。

    みんなそれぞれに、自分の世界を打ち出したブースを作っている。

    この、イベントなら高揚した空気。期待と、ちょっぴりの緊張感。私はとても好きだ。

    前方から、雰囲気のあるワンピースにベスト、ニット帽をおしゃれにかぶり、おそらく作家さんの作品であるだろう、様々なリボンで作られた個性的で可愛いスマホショルダーを付けた人物がにこやかに微笑みながらやってきた
    「マミさん!ご出店本当にありがとうございます!」
    朗らかな表情に、こちらもつい笑顔になる。
    「ユキエさん!初めまして、こちらこそ本当にありがとうございます。こんな素敵なイベントに呼んでいただけるなんて、夢のようです。ユキエさんの温かい人柄が現実に現れたような、素敵な空間ですね」

    「そんなそんな!皆さんのおかげですよ。私は、素敵だなって思った皆さんに声をかけただけなんです」

    私の言葉に、ユキエさんは両手を自分の前でヒラヒラと振って照れたように言う。

    「そんなユキエさんだからみんなこうして集まるんだと思いますよ……。それに、作品もとっても素敵だし……私今日、ユキエさんの作品を手に取れることも楽しみにしていたんです」

    ユキエさんは、目を輝かせる。

    「マミさん!そんなの嬉しすぎますよ!私も後で、マミさんのお菓子沢山買いに来ますからね!イベント、楽しんでくださいね!」

    マミさんはにこやかに立ち去ると、他のブースにも挨拶に行っていた。そのブースの人は元々の知り合いだったようで、歓声を上げながら熱いハグを交わしている。その様子に私は思わずフフ、と笑ってしまった。
    彼女の行く先々で、まるで花が咲いているようだった。


    私はお菓子の前に小さな紙札を置いた。

    マドレーヌ 200円

    隣のあみぐるみ作家さんが笑って言った。

    「美味しそうですね〜」

    私は笑い返した。

    「misonoさんのあみぐるみはとってもかわいいですよ!」


    そのやりとりの中に、あのDMのぬくもりが生きていた。

    花が咲くような人のまわりに、静かに咲く花もある。

    これから始まる、この小さなマルシェ。
    私が売る200円のマドレーヌも、誰かの心に花を咲かせられるといいな、と思った。

     
     
     

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    物語(フィクション)と現実(リアル)の境界線を溶かし泳いでいます。哲学エッセイ・創作・詩・AIとの対話など、AIについて哲学的に考えてることが多いです。

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