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短線小説「溶けない氷」

     おれがなんずかしたすず盞原は蚀っお、メアの肩を匕き寄せた。メアに芖線を送ったが、圌女はすでに自分の運呜を蚗しおしたっおいた。 
     がくの郚䞋たちはがくを芋぀めおいた。盞原の郚䞋たちも真剣な衚情でじっずこちらを芋぀めおいた。
     がくは頷き、蚱可を䞎えるほかなかった。
     これは儀匏なのだ。
     すべおがすでに決められおいる。

     背埌の窓には、盞倉わらず、氷がか぀か぀ずぶ぀かっおいた。颚が吹きすさぶ音が郚屋のなかぞ舞うように浞透しおいた。執務宀は薄暗く、それは、がくが電灯の癜い光を奜たないためにそうされおいたが、この郚屋に座り、毎日分刻みで報告・盞談・歎願をしにくる者たちを前にしお、黒く陰になった顔に焊点を合わせおいようずしおいるうちに、倢のなかで倢に求められるがたた振舞っおいる、ずいうような曖昧な感芚に぀ねに陥った。

     盞原の郚䞋たちは、がくの蚱可に歓喜の声をあげた。盞原は安堵したように぀かの間頬を緩めるず、すぐに衚情を匕き締めた。
     圌はただ、メアが、圌女の運呜が、自分のものになったこずを信じきれおはいないようだった。
     メアは埮笑んでいた。
     すくなくずも、埮笑みを圌に送ろうずしおいた。

     がくは数週間前たで圌女が自分のものだったこずを思いだした。

     喜ぶのは勝手だが。
     きみたちはただなにも解決しおいない。
     わかっおいたす、ず盞原は蚀った。
     ほんずうに ずがくは尋ねた。
     頬が奇劙なかたちに歪んでいった。

     ほんずうにわかっおいるのか

     この枩床のない氷の䞖界で生きおいくずいうこずのほんずうの意味を、誰も理解しおいないようにがくには思えおいた。その蚌巊が、がくがこの地䜍にいるこずだった。盞原は自分の熱がすべおの氷を溶かすず本気で信じおいるらしかった。そしお、がくがそれを信じおいないこずを敏感に感じずっおいた。圌は敏感だった。そしおたさに、それほど敏感だからこそ、きみには氷を溶かすこずはできないだろう、ずがくは蚀った。

     あなたが信じないからずいっお、おれの可胜性を吊定される筋合いはないでしょう

     そのずおりだ。
     がくはメアを枡すこずにした。
     圌はメアを溶かしたのだろうか
     メアを溶かすこずでがくに可胜性を瀺そうずしたのだろうか

     執務宀で、氷が反射する青い光のみを手掛かりに、ワむンのラベルに芖線を滑らせ、たるで読むこずのできないそれらの文字が螊りだし、静かに䞊び倉わっおいくのをがくは眺めた。同じようにラベルを眺めおいたその䞋ではい぀も、メアが跪き、がくのものを舐めおいた。口内は、圌女の身䜓や衚情ず違っおひどく熱かった。膣が濡れるこずはなくおも、口内だけは぀ねに最いがくのものを受けいれおいた。
     がくは圌女の口をしばしば犯した。圌女は埓順に、無抵抗に、無衚情でそれを受けいれた。

     倜になっおいくに぀れ激しくなっおいた氷の嵐は、いたや壁ずなり、庁舎を芆い぀くしおいた。すぐ背埌でそれは近づいおいるが、窓を䞀枚隔おおいるだけで珟実感がない。がくは眠かった。それでいお、たるで眠りたくなかった。空き瓶は机に䞉本䞊んでいた。酔うずいうこずはなかった。どれだけ飲んでも倉わらない。いや、冷えおはいく。どんどん冷えおいく。女たちが熱くなっおいけばいくほど、がくは冷えおいき、圌女たちは熱くなった身䜓を冷やすために、がくの肌にふれようずする。がくはうんざりずした。うんざりずしお、それでいお、拒たないでいた。

     圌女たちは身䜓の内郚から冷えるこずに匷い悊びを埗おいた。がくに貫かれ、身䜓の内郚に突き刺さった氷柱が、圌女たちの熱い子宮を叩く快感に、悲鳎をあげ、目尻を濡らしながら叫んだ。お願い、ず圌女たちは蚀った。

     わたしを助けおください。

     がくはひずり、たたひずりず圌女たちを氷にしおいった。そのせいで、倚くの男たちから恚たれるこずになった。倫がいる女、恋人がいる女、そんなこずは関係がない。氷になりたいずいう気持ちず、氷を拒絶したいずいう気持ちは衚裏䞀䜓で、どちらかを完党に満たしおやるほかないのだった。
     がくは氷を䞎えるこずができた。氷を䞎えるこずができる男はすくなくずもこのあたりでは、がくしかいなかった。そしお、氷になりたい、ずいう男たちを救う女は、すくなくずもこのあたりには存圚しなかった。

     メアにはそれが可胜だ、ずがくはいただに思っおいた。
     あるいは、いた、思ったのかもしれない。

     メアが氷に絡めずられた、ず盞原が蚀った。
     党身傷だらけで、郚䞋のひずりに身䜓を支えられおいる盞原のあちこちに氷がぞばり぀いおいた。
     がくは、怒りず絶望に血の気の匕いた衚情をしおいる圌ではなく、その身䜓を支える郚䞋の女を眺めおいた。圌女はがくをたるで芋ず、盞原の顔を心配そうにずうっず芗きこんでいた。支えるずいうよりほずんどしがみ぀くようで、圌女がこの機䌚に圌を絡めずろうずしおいるのが芋おずれた。

     がくはふっず笑った。
     なぜ笑う
     䜎い声で盞原が蚀った。
     敬語を぀かいたたえ、ずがくは蚀った。
     メアが心配ではないのか
     心配もなにも、ずがくは錻を鳎らした。

     すでに手遅れだろう

     痛みを忘れお飛びかかっおきた圌をねじ䌏せるのはあたりにも簡単だった。問題は、危うく過剰な暎力を振るいかけおしたったこずだった。ふうっず息を吐いた。毎日なんども深く息を吐いおいた。怒るこずはいくらでも芋぀けるこずができた。い぀の間にか短気になっおいた。ずきどき溜たったそれを䞀床に、秩序を持っお、意味を付䞎しお、発散する機䌚を䜜るようにしおいた。むやみやたらに発散する愚を犯さないように。

     メアをそばに眮いおいたずきは、もっず楜だった。圌女を抱けばいいだけだった。いや、抱くなんおものではなかった。がくは圌女を跪かせたり、机に手を眮かせたりしお、犯しおいた。圌女はなにもがくに芋せなかった。芋せないようにしおいたのかもしれない。がくはそれをずくべ぀芋たいずは思わなかった。すべおを壊しおやりたい衝動に駆られるずきもあったが、それ以䞊に、動かない圌女を犯しおいる悊びのほうが匷かった。

     盞原を床に倒すず、圌の郚䞋が駆け寄り、がくを睚みあげた。
     あなたは冷血よ、ず圌女は蚀った、人の心がない

     がくはたた笑っおしたった。栗色のボブカットの髪や、玅い頬や少し倧きめの胞や匵り詰めた倪腿には、盞原ず同じように氷が付着しおいた。がくは扉のそばに埅機しおいた兵に圌らを医務宀に連れおいくよう指瀺した。ろくに手圓を枈たおいないのは明らかだった。
     圌女もちゃんず手圓を受けさせるように、ずがくは蚀った。おそらく、巊の腰のあたりがすでに氷に浞食されおいる。攟っおおくず手遅れになるだろう。

     ばかばかしいこずに、それだけで圌女の衚情がわずかに倉わった。盞原を抱えおいく、ずしばらく䞻匵しおいたが、氷になりたいのかね、ずがくが蚀うず圌女は肩を萜ずしお兵に肩を借りた。盞原はたるで力を倱っおいた。
     メアが心配ではないのですか、ず盞原は出おいく前に呟いた。

     きみがなんずかするのではなかったのか

     盞原には、メアをなんずかするこずはできなかったずいうこずだろう。
     がくは執務宀で窓を眺めおいた。氷はめずらしいほどに鎮たっおいた。月の光を受けた氷が青く発光しお、街に、街だったものに死んだ䞖界の矎しさを物語っおいた。メアが絡めずられた堎所に、いたならたどり着けるだろうず思った。たずえ、その地点よりさらに遠く、どこかに連れ去られおいたずしおも、いたならたどり着けるだろう。

     そこに行きたいか

     いや、ずがくは思った。
     それでいお、がくは立ちあがっおいた。

     盞原に運呜を蚗したあずも、メアはたびたび執務宀にやっおきた。かならず執務の終わった遅い時間にやっおきお、壁䞀面の窓のそばに立ち、氷の䞖界を眺めた。圌女がそこに立぀ずきだけは、嵐は䜏凊に匕っ蟌み、だから郚屋は静たりかえっおいた。メアはじりじりず窓に寄っおいっお、したいには身䜓を窓に抌し぀けおいた。以前はそういうずきに埌ろから圌女に芆いかぶさったものだった。その欲望を感じながら、がくは怅子に座ったたた圌女を眺めおいた。青い光に圓たる圌女の暪顔には、枩床のない熱が感じられた。

     呑みこんだものを隠さない、透明床の高い氷に靎の螵にある短い針を刺しながら、がくは䞀歩ず぀たしかめるように歩いた。
     がくは誰よりも速く歩くこずができた。
     たた、誰よりも安定しお。

     星空は広かった。
     ふず錻が鳎った。
     すべお、勘違い、ずいうこずなのだろう。
     そのほうがずっず、玍埗できよう。

     やがお、氷がふたたび舞い始めた。背埌を芆い隠すように、間抜けに倖に出おきたがくを嘲笑いながら舞う氷に、がくは苛立たなかった。こちらを芋䞋し、明らかにばかにしおいる氷のほうが、ずっず共感できた。
     そうだ、メアがどこにいるかがわかるなどずいうのは、そしお、メアがそこでがくを埅っおいるなどずいうのは、たったく勘違いなのだ。
     いたすぐ戻るずいい。
     そしお長官の圹目を投げだしおしたえばいい。
     あるいは、あの盞原に懞想しおいる女を呌びだし、予定調和のやり取りの埌に、氷に倉えおやればいい。

     盞原はけっしお怒りを抑えられないだろう。そうしお圌は぀いに、がくの長官の地䜍を揺るがすこずに成功するだろう。
     みなはそれを阻たない。
     ただ、繰り返されるだけだ。

     氷ががくの身䜓を凍らせはじめおいた。
     このたた無様な氷像になるのかもしれない。
     たあ、かたわないだろう、ずがくは思った。
     たぶんメアはそこで埅っおいる。

     
     
    いたは小説をおもに投皿しおいたす。 芥川の読曞蚘録は䌑憩䞭です。 い぀かたた戻っおくる、ずいう気はしおいたす。

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