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第2界 ユメヘノヒショウ

    甲斐てつろう

    翌朝、快は準備をしながらニュース番組を見ていた。

    『巨大不明生物と巨人の戦闘による被害総額はおよそ二百億円にも上る模様です』

    キャスターの言葉に震えが止まらない。

    「ガクガク……」

    こんな大金、もし正体が自分だとバレれば払わされるのではないか?

    ダメだ、貧乏なウチにこんな大金払えない。

    祖母が支援してくれたとしても到底無理だ。

     

    『現在判明している死亡者、行方不明者は三千人を越えています。現場はどうでしょう?』

    『はい、ただ今巨大不明生物の残骸処理が始まりました。一方巨人ですが完全に姿を消し捜索は困難を要する模様です。』 

    『なるほど、いかがですかこの巨人について。』

    『そうですね、私も当然この巨人による東京への経済的ダメージは計り知れないものだと考えております。現に巨大不明生物を殺害した時の爆発により周囲の街が…………………』

    恐ろしくなった快はチャンネルを変えた。

    そして一度冷静になり考える。

    「(やばい、どうしよう……)」

    自分が街と人に齎した災いに震えながらも更なる意見を求めてTwitterを開く。

    そこにはまだ多くの意見が記されていた。

    『怪物と侵略者同時に現れるとか地球オワタ』

    自分を侵略者と思う声もあれば。

    『違くない?巨人はヒーローっぽく見えたけど』

    こんな声もある。

    だがこんな肯定的な声からも快の求めるような愛は感じられなかった。

    『光って消えたけど死んだのかな?』

    違う、あの巨人は生きている。

    生きて今学校に行く準備をしているのだ。

    そして快は速報を見た。

    『速報です。政府の発表によりただ今から巨人不明生物を"罪獣(ざいじゅう)"、謎の巨人を"ゼノメサイア"と呼称するものとします。』

    快の目はハッとした。

    ゼノメサイア。それが自分のヒーローとしての名前。

    だがあまり嬉しくはなかった。

    ヒーローというより、未だUMAとして扱われている感じがしてたまらないからである。

    『正体を突き止め次第捕獲しその生態を研究する予定であると総理は公言しています』

    "正体を突き止め次第捕獲"。

    まるで人間が変身しているのを知っているかのような口ぶりだった。

    「……!」

    急に恐ろしくなって快はテレビを消した。

    自分が生物として研究されるというのを想像してしまったのだ。

    人間として扱われていない、ましてやヒーローだなんて。

    「大丈夫?顔色悪いけど……」

    そこへ心配そうに姉の美宇がやって来た。

    「やっぱり目の当たりにしてるから……今日学校休む?」

    仕事の支度をしながらも美宇は心配してくれている。

    しかし快は答えた。

    「大丈夫、行くよ……」

    「そう?無理しないでね……」

    そう言って立ち上がり鞄を手にした。

    「(もっと色んな人の反応を聞きたい……!)」

    ネットだけでなく直接他人の反応が知りたいと思い登校する事を決意した。

    『XenoMessiaN-ゼノメサイアN-』

    第2界 ユメヘノヒショウ

    「………」

    学校に到着し無言で教室の扉を開ける。

    すると瀬川が驚いた顔をして駆け寄って来た。

    「おぉ⁈大丈夫なのかお前、精神面とか諸々……」

    確かに昨日あんな事があったばかりなのに来れるのは不思議だろう。

    流石の姉も休む事を推奨した。

    だがしかし皮肉にも快の心は既に病に侵されている、今更あんな想いをしたところで折れはしない。

    「大丈夫だよ、てかお前マジで寝坊して良かったな」

    「それは言うな複雑だから。いやーでもよかった!お前これ以上暗くなったらいよいよ終わりだと思ったから!」

    教室の入り口でこんな明るいテンションで話す二人。だが教室内の雰囲気は異様に暗く二人をウザがるように見ていた。

    「「…………」」

    そんな暗い雰囲気に気づかず二人は席につき会話を広げる。

    「じゃあさ、お前見たんだろ?罪獣とゼノメサイア!!」

    「……あぁ」

    キラキラした目で聞いてくる瀬川。

    彼はSF大好きなのだ。

    一方快は瀬川には聞かれると思っていたので話す覚悟はしていた。

    だがその会話に反応した者が他にいた。

    「ねぇ!」

    "河島咲希/カワシマサキ"という名の女子だ。

    怒ったような目をこちらに向けている。

    「その話、今はやめて……!」

    そして咲希は振り返りそこに座っていた女子の背中をさすった。

    「(あ……)」

    その女子とは一昨日快の家に来た愛里だ。

    背中をさすられているという事は泣いているのか?

    「……グスッ」

    「大丈夫、きっと大丈夫だから……アイツが簡単に死ぬ訳ないって」

    何やら周りのクラスメイト達もソワソワしている。一体何があったと言うのか。

    「…………」

    そして俯いた顔で先生が教室に入って来る。

    「先生……っ!」

    何か報告を待っていたかのような反応だ。

    それに対して先生は。

    「……フルフル」

    首を横に振った。

    「……あぁぁっ!!」

    その場で泣き崩れる愛里。

    何があったのかは分からない、こんな状態で聴けるはずもない。

    ただ自分達に出来る事は。

    「……そっとしといてやろう」

    それだけだった。

    「……………」

    快には愛里のその涙が自分には何故か関係あると感じて仕方なかった。

    咲希に罪獣とゼノメサイアの事を話すのを制された理由に何かあるのだろうか。

    ☆

    昼休み、瀬川は学校の屋根のない渡り廊下の端で快を待っている間ある記事を見ていた。

    何故そこにいるのかというと他に誰もいないからである。

    『ゼノメサイアの正体は人間⁈現実に現れた変身ヒーローの可能性!』

    特撮も好きな瀬川はすぐに話を理解する事が出来た。

    「(そっか、ゼノメサイアも誰か変身してんのか……)」

    そこへ快が走ってやって来る。

    「ごめん自販機混んでてさ」

    「遅いぞー」

    コーラの缶を持って瀬川の隣に座る。

    そして弁当の箱を広げた。

    「相変わらず姉ちゃんの弁当か」

    「金かかんないようにさ」

    創家はお金があまり無いので学食などは食べさせてくれない。

    「そっか、姉ちゃんも大変だもんな」

    「うん、めっちゃ働いてんのに弁当まで作らせちゃっていつも疲れてる」

    「そのうえこんな大変な弟がいたら余計に疲れるだろうな」

    少し冗談めかして言う瀬川。

    「いやいやお前が言うか?お前だって中々大変なヤツだろ、親に迷惑かけてんじゃないの?」

    それに対して快も冗談で返す。

    すると瀬川は自分の不満を吐き出した。

    「大変なのは俺の方だって!俺の家って創世教だろ?しかも神父ときた!そんな親を持ったらさ、嫌でも神への信仰とか押し付けて来やがる」

    創世教。

    この世界で最もメジャーな宗教だ。

    快は詳しくは知らないが瀬川の父は神父で熱心な信仰をしていると聞いた。

    世界を創造した神の言葉を信じ崇めているらしい。

    「そうだった、忘れてたよ」

    瀬川がそんな父親に困っているという話は前から知ってはいたが最近聞いていなかったので忘れていた。

    「しかも何をトチ狂ったのかゼノメサイアを"神の使者"とか言い出すんだぜ?そんなんじゃねー、あれはきっとスーパーヒーローだろ」

    ここで話題がゼノメサイアのものとなる。

    瀬川の父は創世教のルーツから正体を考察しているらしい。

    「宇宙全体の秩序を守るスーパーエージェントとかだぜきっと、地球に派遣されて来たんだ」

    一方で瀬川は自分なりの憶測を交えて話す。

    「まぁそれは分からんけど神の使者はねぇだろ、流石に呆れたもんだぜ」

    「そっか……」

    すると瀬川は思い出したかのように更に口を開いた。

    「そいえばよ、ネットで見たんだけどゼノメサイアってTVのヒーローみたいに人が変身してる可能性あるらしいぜ!」

    ゼノメサイアの話題から流れる形で話す。

    「っ!!」

    そこで快は今朝見ていたニュースを思い出した。

    まるで街を破壊した加害者であるかのように報道される自分に恐怖を抱いてしまう。

    確かに訳も分からず配慮できていなかった所もあるがヒーローとして精一杯やれる事はやったつもりだ。

    「……どした?」

    突然固まった快を疑問に思った瀬川は問う。

    そこでようやく快は意識を取り戻した。

    「いや、何でもない……」

    恐怖だった。

    もし正体がバレてしまえばニュースで報道されていたように捕らえられ責任を取らされてしまうかも知れない。

    「いやーどこにいるんだろうな、案外近くにいるかも知れないぜ?」

    その言葉にハッとする。

    「会ってみてーな、ヒーローショーで握手するのとはマジで違うだろうなぁ」

    目を輝かせながら言う瀬川。

    彼は世間とは違いゼノメサイアを正義のヒーローとして認識している。

    もしかしたら彼なら分かってくれるかも知れない。

    「実はさ……」

    打ち明けよう。

    とにかく今は褒められたい、愛されたくて仕方がないので細かい事など考えていられずに伝えて反応が見たかった。

    「ん?」

    「俺がゼノメサイアなんだよね……」

    沈黙が訪れる。

    風の音や他の生徒たちが談笑する声がハッキリと聞こえるほどに。

    「……で?」

    「え……?」

    「で、オチは……?」

    ようやく口を開いた瀬川は不思議そうに快を見ていた。

    まるで次の言葉を待っているかのように。

    「いや、まぁオチとかではない……」

    「え、ジョークじゃないの?」

    今の話を冗談だと思っているようだ。

    至極当然であるが快からすると心外である。

    「一応本当なんだけど」

    そうなる事も予見はしていたので補足を加える。

    何とかして信じさせたかった。

    すると瀬川は少し考えるように黙ってからまた口を開いた。

    「ヒーローに憧れてるのは分かってるけどさ、嘘はいけねーな」

    しかし快は本当の事を話している。

    段々とここまで話しても信じてくれない事に焦りを覚え始めた。

    「いや本当なんだって……!」

    瀬川の反応は当然であるがどうしても辛かった。

    信じてくれない、つまり自分はそのようなヒーローに相応しくないと言われているように感じてしまいつい口調が強くなってしまう。

    「やっとヒーローの力を手に入れた、夢を叶えるチャンスなのに皆んな俺のこと悪者扱いするんだ……」

    今の快にとって瀬川というヒーローとして讃えてくれる存在は味方に付けたかった。

    しかし信じてくれなければ意味がない。

    「瀬川は悪者扱いしなかったから……信じて褒めて欲しかったのに……」

    辛い中だからこそ一筋の希望に期待したらしい。

    しかし瀬川は快の期待したものとは違う反応を見せた。

    「あのなぁ、そうやって嘘で気を引くのはやめろよ。ヒーロー目指してるなら尚更だぞ」

    真剣な表情をして嘘を言っていると指摘してきた。

    「本当に本当なんだって!信じてくれよ……」

    どんどん声から力が抜けて行く。

    弱って行くのが分かる。

    「俺とお前、ガキの頃からの付き合いだろ?だから分かる、お前は普通の人間だ」

    まるで説教するかのように快の顔を見つめて言う。

    「でも心ならヒーローになれるかもって信じてるから、昔イジメてきた奴らも見返せるように頑張れよ!」

    そう言って肩を叩いた。

    その発言により快はかつて自分をイジメて来た奴らの顔を思い出してしまった。

    「本当に俺がそんな風になれるか……?」

    心配そうに言うと瀬川はアドバイスをした。

    「まずは自分だけじゃなく他人の事を考えられるようにする事だな」

    するとポケットから一冊の小さな本を取り出して快に見せて来た。

    「俺にも辛い事がある、親父に無理やり創世教のこと習わされるんだ。呆れて母さんも出てったってのに懲りねぇクソ親父だよ……」

    その本には"創世記の歴史"と書いてあった。

    「辛いのはお前だけじゃない」

    そう言う瀬川の言葉を快は真に受けたくなかった。

    「(絶対俺の方が辛い……!!)」

    鬱病にまでなってしまった自分の方が辛いのだと心で叫んでいた。

    ☆

    その後、快は放課後の掃除当番だったため教室の掃き掃除をしていた。

    「(どうすればもっと……)」

    その最中もずっと考え事をしてしまっている。

    すると同じ当番のクラスメイトから話しかけられた。

    「もう掃き掃除終わったよ、雑巾掛けするからどけて!」

    「あっ、ごめん……」

    ボーッとしていたため少し苛立たせてしまったようだ。

    慌てて箒を仕舞い雑巾を用意して床拭きを行う。

    しかし考え事は止まらない。

    ボーッとせずにはいられなかったのだ。

    するとやはり上手く掃除は出来ないようで。

    「ここもうやったよ!」

    同じ所を何度も繰り返して拭いてしまったのを咎められる。

    「ごめんなさい……あぁっ」

    ハッとして慌てて避けると近くにあった水の入ったバケツを蹴飛ばしてしまった、床に大量の水が溢れる。

    「あーあ……」

    クラスメイト達の絶望する声が耳を貫いた。

    「うわぁ面倒くさー」

    そそくさと溢れた水を掃除するクラスメイト達。

    迷惑を掛け続けてしまっているという事実に快はショックを受けて何とか汚名返上するために手伝おうとした。

    するとクラスメイトは完全に呆れたように言った。

    「もう良いから余計な事しないで」

    蔑むような目で快を見る。

    そしてゴミ箱を渡して来た。

    「ゴミ捨て行ってきてよ」

    「うん……」

    「こっちもすぐ終わるからさ、ゴミ捨てたらそのまま帰っていいよ」

    本当は手伝って汚名返上したかったが仕方なくゴミ箱を受け取りゴミ捨て場に向かう事にした。

    しかし"帰って良い"という発言にも少し傷ついた。

    ☆

    ゴミ捨て場に向かっている最中も快はずっと不安感に襲われていた。

    先ほどのクラスメイト達から直接言われた訳ではないが自分の事を嫌に思っているに違いないと考えてしまう。

    「はぁ、はぁ……」

    そんな事を考えていると次第にパニックが始まってしまった。

    「(何でせっかくヒーローになったのにこんな辛いままなんだ……?)」

    寧ろ余計に辛くなっている気すらしたほど。

    「(ようやくスタートラインに立てたのに……)」

    思考がグルグル回って止まらない、考えた所で答えなど出ないというのに。

    夢に近づけたというのに現状は変わらないどころか悪化してもはや自分が生きている理由さえ分からなくなってしまいそうだった。

    そんな最悪な思考回路の中で中庭のゴミ捨て場に辿り着き燃えるゴミを捨てる。

    「あれ……?」

    するとゴミ捨て場に見覚えのある本が捨てられているのが見えた。

    「(これ瀬川の……)」

    それは瀬川が父親から宗教の勉強をさせられていると言って見せてきた"創世記の歴史"というタイトルの本だった。

    『辛いのはお前だけじゃない』

    先ほどの瀬川の言葉を思い出す。

    確かに彼も父親と上手く行かずに辛いのだろう、親と上手く出来ない辛さは快も知っているから分かるつもりだ。

    「(俺の辛さの方がデカい……!!)」

    しかしその程度でマウントを取らないで欲しいと思い余計に腹が立ってしまった。

    そしてゴミ捨てを終えて教室に戻るため校舎に入ろうとすると。

    「ん……?」

    夕陽が差し込む中庭のベンチに一人の女子生徒が座っているのが見えた。

    「グスッ……」

    涙を流している。

    夕陽に涙が反射して美しく輝いていた。

    彼女は今朝も泣いていた与方愛里だ。

    「ん、どうしたの……?」

    見惚れてしまっていると視線に気付いたのか声を掛けられた。

    慌てて涙を拭う様子が伺える。

    「あっ、ごめん何でも無いんだ……!」

    見てしまった事を謝りながらそそくさと戻ろうとするが彼女は引き止めた。

    「ねぇ、ここ座りなよ。ちょっとお話したいな」

    自分の隣の空いている所をぽんぽんと叩き誘って来る。

    「え……」

    「ダメかな……?」

    そこまで言われると断れなかった。

    何故誘ってくれるのかは分からなかったが。

    「わ、分かったよ」

    そして彼女の隣に緊張しながらぎこちなく座った。

    ☆

    愛里の隣に座ったは良いものの緊張して何を話せば良いのか分からない。

    風が吹けば隣から女の子らしい良い匂いが香って頭がクラクラする。

    ソワソワしていると彼女が口を開いた。

    「一昨日はごめんね、夢を否定するみたいなこと言っちゃって……」

    家にプリントを届けに来た時の事だろう。

    ヒーローは選ばれし者がなると彼女は言った。

    「良いよ、だって俺がヒーローらしくないのは事実だし……」

    「そんなこと言わないで、そういうつもりで言ったんじゃないもん」

    確かに彼女はわざとそんな風に言った感じはしなかった。

    今の発言は快の自虐のようなものである。

    「私にはね、凄いヒーローがいたの。家が火事になった時に助けてくれたって言ったよね?」

    「う、うん……」

    「本当に凄い人だった、他人の心にも泣きながら寄り添えて、綺麗事を本当に実践しちゃうような人だった」

    友人の顔が脳裏に浮かぶ。

    「それを否定されてもずっと自分を曲げなかったんだ……」

    彼女の"過去形"を使った言い方が少し引っかかる。

    「凄い人"だった"ってどういう事……?」

    流石に気になったので聞いてみる事にした。

    すると彼女は再度涙目になって答える。

    「……昨日の新宿で死んじゃったの」

    その言葉を聞いた快は一気に血の気が引いた。

    まさかゼノメサイアと罪獣の戦いに巻き込まれたとでも言うのだろうか。

    「え、罪獣の騒ぎで……?」

    恐ろしくてゼノメサイアの名前は出せなかった。

    すると彼女はそのヒーローの昨日について語り出した。

    「あの子本当に凄いヒーローだから罪獣が出た時真っ先に"救助に行くんだ"って言って飛び出して行っちゃったんだ、私たちは全然逃げれる距離に居たのにね」

    昨日の事を思い出してか少し手が震えているのが分かる。

    「私も止めたんだよ?手を掴んで行かせないって止めたの、それなのに……」

    そこで愛里は昨日の友人とのやり取りをハッキリと思い出して快に伝えた。

    ☆

    昨日の新宿。

    罪獣バビロンが出現した時、少し遠くからその姿が確認できる距離に愛里と友人はいた。

    「行かなきゃ……!私に出来る事をやらないと!!」

    「ダメだよ!絶対死んじゃう!!」

    焦るように救助に向かおうとする友人の腕を必死に掴んで止める愛里。

    「今日なんかおかしいよ⁈いつもと違う!!」

    友人の様子が何故かいつもと違う。

    そう感じていた愛里は問い詰めた。

    「無茶はやめて!本当に死んじゃうよ⁈」

    とにかく必死に懇願し友人が行くのを止めようとする愛里。

    「お願い行かせて!何もせずに見てる事なんて出来ないの、知ってるでしょ……?」

    昔からの付き合いのため愛里には自分の事を分かっていて欲しい友人。

    「でも私、この手を離したら一生後悔するような気がして……」

    掴んで止めている手を見て愛里は震えた声で言う。

    それに対して友人も返した。

    「私も同じ、今行かなきゃ一生後悔する」

    そして真剣な表情になって愛里に語り出した。

    「私ずっと自分に出来る事を探してた、そしてやっと答えが分かったの。愛里を火事から救った時の感覚、あれが私に出来る事……!」

    掴まれていないもう片方の手で愛里の頬を伝う涙を優しく拭う。

    「愛里、貴女が私に出来る事に気付かせてくれた。お陰で私は翼を手に入れられたの」

    「翼……?」

    「そう。人は夢を見つけてそのスタートラインに立った時、翼を広げて飛び立つんだよ」

    彼女には今翼が生えているのだろう。

    そして友人は涙を流しながら愛里に感謝を伝えた。

    「ありがとう、私に翼をくれて」

    その時、彼女の首から下げていたネックレスに付いている水晶が輝いた気がした。

    それはただの光の反射かそれとも。

    「っ……」

    友人の言葉を聞いた愛里は思わず手を離してしまう。

    「ありがとう」

    そして友人は救助に向かおうとする。

    その背中に向かって愛里は叫ぶ。

    「絶対、夢を叶えてね!!」

    それは彼女の出来る事への応援でもあった。

    友人は振り返ると優しく微笑む。

    「だって私、ヒーローだから」

    力強くそう言うと彼女は燃え盛る新宿の中に飛び込んでいった。

    ☆

    昨日の事を語り終えると愛里は涙目になって今朝の事を話した。

    「あれから騒ぎが終わった後も連絡取れなくて今朝学校で聞いたんだ、やっぱり死んじゃったって……」

    今朝先生から知らせを受けて泣いていたのはそれが理由らしい。

    「本当バカだよね、私のヒーローにさえなってくれればそれで良かったのに……結局何も出来なかったんじゃん……!!」

    とうとう堪え切れなくなりまた大粒の涙を零してしまう。

    すると愛里が俯いた拍子に首から下げているネックレスのようなものが見えた。

    「それ……!」

    快は思わず目を開く。

    愛里が首からぶら下げているネックレスを指差した。

    「……これ?その友達、英美ちゃんとお揃いのものなの……」

    遂に名前を聞くことが出来た。

    まさかその友人があの英美だったとは。

    「(英美さん……!)」

    愛里がそのネックレスを手に取り見せてくれる。

    するとそれには英美のものと同じ青い水晶が付いていた。

    「俺、実は英美さんと一緒にいたよ……」

    勇気を振り絞り告白した。

    「本当に……?」

    愛里は信じられないというような顔をしているが。

    「本当だよ、ほら!」

    証拠としてポケットから英美の持っていたネックレス、つまりゼノメサイアへの変身をした水晶を取り出して見せた。

    「これ英美ちゃんの……!」

    「うん、最期に俺にくれたんだ……」

    「最期を見たの……?」

    「あぁ……」

    愛里の先程の言葉、"結局何も出来なかった"というのを快は否定したかった。

    そのために英美の最期を伝える。

    「英美さんは最期までヒーローだったよ、男の子を助けて俺まで助けてくれた」

    あの時の事を鮮明に思い出しながら語る。

    英美の持つ水晶を強く握り締め想いを伝えた。

    「そしてこれを託されたんだ。その時気付いた、俺はヒーローになる事を託されたんだって」

    感じた事もしっかり伝えた。

    「頼りないかも知れないけど俺が代わりにヒーローになる事で英美さんは活き続けると思うんだ……!!」

    弱々しい声だが何とか考えついた答えを示した。

    その言葉を聞いた愛里は。

    「……うぅっ」

    また泣き出してしまった。

    これに快は慌ててしまう、自分が泣かせたのだと思ってしまったのだ。

    「あぁっ、泣かないで……!」

    すると彼女は何とか泣き止もうとして言う。

    「うん、大丈夫だよ……っ」

    そして快の持つ英美のネックレスを見た。

    「やっぱり英美ちゃん凄かったんだね、本当のヒーローだ」

    そして快の顔の方に向き直る。

    自分のネックレスを掲げて言った。

    「今度は快くんとお揃いだ」

    笑顔を見せてくれた事が快は嬉しかった。

    「うん、今度は俺が翼で飛び立つ番だ」

    「じゃあ応援しなきゃね!」

    愛里も応援してくれると言う。

    託された事をより一層自覚し英美の代わりに飛び立つ事を決意する快であった。

    ☆

    その後、掃除を終わらせた快は急いでバイトへ向かっていた。

    「はっはっ……」

    走って向かう彼の心は少し晴れていた。

    一人でも夢を理解し応援してくれるのだ。

    それだけで嬉しい事この上ない。

    今なら辛いバイトも楽しく出来てしまう気がする。

    「おはようございますっ」

    いつもより元気にバイト先であるチキン店の従業員用出入口に入ると先輩ともう一人見慣れない男がそこにはいた。

    「なんかいつもより元気じゃん」 

    快のいつもと違う態度に驚きながらも先輩は隣にいる男の紹介をした。

    「コイツ今日から入る新人。挨拶して」

    そう言われて新人の顔に注目してみる。

    「っ……!!」

    その正体に気付いた快は絶句してしまった。

    「マジで快じゃん、俺のこと覚えてる?」

    気さくに話しかけて来る、その野太い声に吐き気がする。

    「俺だよ俺、"横山純希(ヨコヤマジュンキ)"!小学校で同じクラスだったさー!」

    その正体を理解した途端、快の脳裏には今日の瀬川の言葉が過ぎる。

    『昔イジメてきた奴らも見返せるように頑張れよ!』

    まさにこの横山純希こそかつて快をイジメていた張本人なのである。

    「(コイツ……!)」

    あまりの怒りにキツく歯軋りをしてしまった。

    ☆

    出勤するといきなり純希にフライドチキンの作り方を教えなければいけなくなった。

    「えっと、まず部位ごとにパーツを分けて……」

    出来るだけ丁寧に教えていくがどうしても純希の視線が怖くて萎縮してしまう。

    「え?今何て言った?」

    その分声が小さくなってしまったようで聞き返して来る。

    その声の大きさに少し驚いてしまった。

    「あっ、部位ごとにパーツを……」

    余計に声が小さくなってしまう。

    すると純希が突然笑いながら肩を組んできた。

    「何だよ久しぶりで緊張してんのかー⁈そんな必要ねーって!」

    「〜〜っ」

    完全に固まってしまった。

    すると先輩に見つかって軽く注意される。

    「遊んでんじゃねーぞー」

    すると純希も軽く返事をする。

    「さーせーん」

    ヘラヘラと笑っている純希に更に怯えてしまう。

    この雰囲気、完全に小学校の頃に戻ったようだ。

    かつての純希とのやり取りを思い出してしまう。

    『お前みたいな弱い奴がヒーローになれる訳ねーじゃん!』

    そう言われた事を忘れてはいない。

    他の皆にも共にバカにするように勧めて一緒になってバカにした事も。

    「っ……」

    快は先程の愛里との会話でやっとヒーローのスタートラインに立てたのだと少し自信が持てた。

    しかし純希にまた否定されてしまうのではと感じて不安で仕方なかったのだ。

    「お前ちょっと変わった?」

    すると純希がそのような事を口に出す。

    「高校生にもなりゃ流石の俺もちったぁ変わったけどよ、お前は見るからに落ち着いてる」

    少し嫌味にも感じたが確かに彼は変わってしまった。

    「俺は暗くなっただけだよ」

    変わったという気持ちを純希に伝える。

    「でも純希は本当に変わったよ、昔とはまるで別人だ……」

    以前はイジメて来るような人物だった。

    しかし今はそんな事まるで無かったかのように明るく接して来るのである。

    「何だ、成長してるって言ってくれるのかぁ〜?」

    勢いよく肩を組んで来る純希に対してその肩を震わせてしまう快。

    「(その態度が逆に怖いんだ……)」

    まるで過去の嫌がらせなど無かったかのように明るく接して来る彼を心が受け付けなかった。

    ☆

    一通りチキンの作り方を教えると今度は先輩がより難しい清掃などの仕事を教える番となった。

    その間、快は一人でチキン作りを任されるが純希と先輩の会話が嫌でも耳に入って来る。

    「へー、レスキュー隊員目指してるんだ」

    「そうなんすよ、ヒーローみたいでカッコよくないっすか?」

    「確かにヒーローだなぁ」

    将来の夢の話をしているのが聞こえる。

    イジメっ子がヒーローなどという言葉を使っている事に腹が立つ。

    「(絶対俺の方が凄いヒーローになってやる……!)」

    瀬川に言われた"イジメっ子を見返してやれ"という言葉を思い出して自分を奮い立たせる。

    すると先輩が純希に気になる話題を振った。

    「そうだヒーローといえばさ、ゼノメサイアとかどう思う?話題なりまくっててさ、ヒーローかどうかって言われてるよね」

    その言葉に快は思わず反応してしまう。

    もしかするとここでゼノメサイア、つまり今の快のヒーローとしての印象が聞けるかも知れない。

    「あー、ゼノメサイアっすか……」

    ドキドキしながら純希の反応を待っているが望んだ答えは返って来なかった。

    「アイツお気にのビリヤードカフェ壊したんすよ、罪獣ぶん投げて!許せないっすわ……!!」

    その言葉を聞いて快は思い出す。

    歌舞伎町の辺りに罪獣バビロンを無我夢中で投げ飛ばした事を。

    その時に純希の好きな店を潰していたと言うのか。

    「あんなのヒーローじゃないっすよ……」

    ハッキリと純希はそう言った。

    見返せていないという事が分かった瞬間だ。

    「…………」

    思わず手が止まってしまう。

    やっとヒーローに近づけたと思った矢先にこう言われてしまったのでショックが大きかった。

    すると道具を取りに快の近くを通りかかった純希が快に対して言った。

    「お前は良いヒーローになれるよう頑張れよ」

    優しく肩を叩いて応援するような発言をする。

    しかし彼は知らない内に快の夢を否定していたのだ。

    『お前みたいな弱い奴がヒーローになれる訳ねーじゃん!』

    それと同時にこの発言も思い出し余計に辛くなる快であった。

    「……どうした?」

    「いや、何でもない……っ」

    震える様子の快に純希も心配するような様子を見せたが心理までは分からなかった。

    ☆

    バイト後、快は家の近くの梅林公園の丘、通称"カナンの丘"に来ていた。

    月と星に照らされるカナンの丘で一人座っている。

    「(ダメだ……)」

    よくないと分かっていてもどうしても考えてしまう。

    純希を見返したいという事はつまりは純希にも必要とされるヒーローになりたいという事。

    しかし先程聞いた話によるとどうも純希は自分であるゼノメサイアに怒りを表している。

    当然叶えられた訳がない。

    「はぁ……」

    せっかく愛里といい話が出来たと思った矢先にこれなので溜息しか出ない。

    苛立ちが沸いてくるが純希の気持ちも分かるようになってしまったためこの苛立ちをどこにぶつければいいか分からなかったのだ。

    『は?バ先に純希が来たぁ?』

    「今までの事なかったみたいに接して来てさ……」

    とりあえず電話で瀬川に気持ちを伝える事にした。

    彼も以前の純希の快への仕打ちは知っているので共感してくれると踏んだのだ。

    『イジメる側は遊びのつもりって話よく聞くからな、そんなつもりは無かったって感じなんだろ』

    「しかもレスキュー隊目指してるって言っててヒーローとしても先越されそうでさ……」

    『あんなヤツに助けられたくねーよ……』

    そして話題は今の快の心情へ。

    「純希にも認められるようなヒーローになりたいけどさ、今のままじゃ上手くやれる気がしないんだ……」

    ゼノメサイアとして憎まれた事などを思い浮かべながら語る。

    「あいつゼノメサイアを憎んでた、好きな店壊したからって。どうしても悪い所が目立つといくら頑張ってもヒーローとして認められない」

    『確かにな』

    「はみ出しモノは俺たちの方なんだよ、純希の方が世間的には普通なんだ。現に純希は先輩に好かれてたし昔もクラスメイトといつも仲良くしてた……」

    それに気付いてしまった。

    「俺がイジメられたのも今回のゼノメサイアと同じ、純希にとって不快な事をしたからなんだ……」

    どうしてもネガティブな考えが頭を過ぎってしまい止まらない。

    「アイツは多分いい奴なんだ、それがより大人になったってだけでダメなのは俺の方だったんだよ……っ」

    『おいおい、ネガティブ思考すぎるだろ……』

    「俺みたいなヤツがヒーローになれる訳がない……っ!」

    つい卑屈になってしまい瀬川も思わず黙ってしまう。

    「ごめん、つい……」

    『良いんだよ』

    そして瀬川は慰めるように言葉を連ねる。

    『今納得できるか分かんねぇけどさ、少なくとも俺はお前にヒーローになって欲しいぜ?』

    「うん……」

    『世間がどう言うかよりさ、ソイツらよりお前を分かってくれる人がどう言うかを大切にしろよな』

    「そうだね……」

    その言葉を言われて頭に浮かんだのは愛里の顔。

    「うん、なるべくそう思えるようにしたい……」

    『ん、じゃあ頑張れよ。俺は風呂入ってくるから』

    そう言って瀬川は電話を切った。

    そのまま快はスマホの画面を操作し始める。

    「(あれ、何やってんだ俺……)」

    気付いたらクラスのグループLINEから愛里を登録し真っさらなトーク画面を開いていた。

    彼女と良い話が出来たため無意識に指が動いていたのかも知れない。

    「(何だよ、慰めて欲しいのか……?)」

    こんな弱い自分にもつくづく苛立つ。

    そしてどんなLINEを送ろうか考えていると。

    プルルルル……

    スマホに着信が入る。

    「ん、また瀬川か……?」

    しかし着信画面を見ても相手は"非通知"。

    しかも夜十一時を回っている。

    こんな時間に掛けて来ること自体非常識だが逆に気になったため出てみる事にした、緊急かも知れない。

    「……もしもし?」

    元気なく電話に出ると対照に明るい声が聞こえた。

    ボイスチェンジャーを使っているのか素の声は分からないが明るい男性だと推測できる。

    『やぁ、創 快くんだね?』

    「……えっと、どちら様ですか?」

    『まだ知る必要はないよ、それより伝えたい事がある』

    快の問いについては答えてくれず自分の話したい事を一方的に話して来た。

    『まさか君に神の心が宿るとは、予想外だった』

    「神の心……?」

    『心当たりはあるんじゃないかな?ゼノメサイアの事さ』

    そう言われて快は衝撃を受ける。

    まさか正体を知っている人物がいるとは。

    『怖いかい?正体を突き止め次第捕らえると政府は発表したからね』

    「…………」

    しかし快にはそれ以上にショックな事があった。

    「俺がなったのって予想外なんすか……?」

    その事だ、何か事情に詳しいであろう人が予想外と言うのだから自信が無くなってしまう。

    『あぁ、全くの想定外だよ。永い輪廻の記録からもね』

    正直細かい内容までは何を言っているのか分からなかったが兎に角ゼノメサイア等の事情に詳しい人から想定外と言われた事がショックだった。

    「そうすか……」

    すっかり自信を失くして項垂れてしまう。

    しかしそれを気にせずとも電話越しの相手は話を続けた。

    『それで本題に入るんだけどね、今から君の近くに罪獣を出現させる予定なんだ』

    「え……?」

    思わず固まってしまう。

    彼は今確かに"罪獣を出現させる"と言った。

    「出現させられるものなんですか……?」

    『全ては我々が管理している、朝飯前だよ』

    その言葉に余計に衝撃を受けてしまう。

    『まだ我々には君の情報が圧倒的に不足している、管理下の中で君という存在を存分に示してくれ』

    その言葉を最後に電話は突然切れた。

    「あっ、もしもし?もしもし⁈」

    何度も聞き返すが聞こえるのは通話が切れた音のみ。

    「(ヤバいぞ……!)」

    カナンの丘から眺める住宅街はまだ明かりが灯っている、人が沢山いるという証拠だ。

    このままではまた大勢を犠牲にしてしまう、ヒーローどころではなくなる。

    「(今出来る事……!!)」

    それは何かと考え一つだけ思い付いた。

    次の瞬間、快は走り出しカナンの丘から住宅街へと降りたのだった。

    ☆

    住宅街に降りた快がやった事とは。

    「みんなぁーー!!逃げて下さぁぁーーい!!」

    走り回りながら避難を促す事だった。

    しかし今は夜の十一時過ぎ、何も事情を知らない人からすれば迷惑でしかなかった。

    「何時だと思ってんだ⁈」

    痺れを切らした男性が窓から注意してくる。

    その声を聞いて冷静さを取り戻した。

    「はぁ、はぁ……」

    またパニックになりかけてしまう。

    このままではまた巻き込んでしまうではないかと不安になる。

    するとそのタイミングで"ヤツ"が現れた。

    「グギャアォォォッ!!!」

    甲高い雄叫びが聞こえ上空を巨大な影が過ぎていく。

    「飛んでる……⁈」

    第二の罪獣"マルコシアス"はまるで鳥のような美しい翼を広げながらも蛇のような顔を見せて夜の住宅街の上を飛んでいた。

    「ヤバい、誰も避難してない……!」

    余計にパニックになってしまう。

    心臓の鼓動が激しくなり寒気がして冷や汗が流れる。

    すると。

    「っ……⁈」

    ポケットに入れていた英美の水晶が突然蒼く輝き出したのだ。

    何か特別な温かさを感じる。

    「この感じ……」

    先日バビロンとの戦いで初めて変身した瞬間と同じような感覚が訪れる。

    これはまさか。

    「……そうだ、俺が守れば良いんだ」

    ゼノメサイアになった時の感覚を思い出す。

    あの力を上手く使えばきっと皆んなを救いヒーローとして認められるかも知れないと考える。

    「もう一度、力を貸してくれ……!!」

    そしてポケットから蒼い水晶、"グレイスフィア"を取り出し力強く握った。

    すると更に光が溢れた、指の隙間から漏れ出るほどに。

    「そうだ、この力だ!」

    その勢いで拳を前に突き出す。

    するとその眩い光は快の全身を包み込みその姿を変えて巨大化させた。

    『ハアアァァァァッ……!!!』

    ゼノメサイアが再度現れた瞬間である。

    ☆

    現れた白黒の巨人、ゼノメサイア。

    勢いよく変身したはいいものの明らかに足下を気にしていた。

    『クッ……』

    前回は何も考えずに戦った結果大勢を巻き込んでしまった。

    今回は人々を踏み潰さぬように気をつけるがそれだと上手く立っていられない。

    「グギェエエエッ!!」

    マルコシアスは翼を広げながら滑空して突っ込んで来る。

    『オォワッ……』

    それを何とか避けるがまた変なバランスで体勢を崩しそうになってしまう。

    『クゥゥッ……』

    やはり人を気にしていてはまともに戦えない。

    「グォォォォォッ」

    マルコシアスは再び滑空に入る。

    そして爪でゼノメサイアの胸を切り裂いた。

    『ウアッ、グゥッ』

    まともに防ぐ事が出来ず往復で背中にも食らってしまう。

    そしてとうとう地面に倒れ込んでしまった。

    建物が崩れる感触が皮膚に伝わる。

    『あぁ、やっちゃった……!』

    それでもマルコシアスは止まってくれない。

    何とか身体を起こして構える。

    『ハァァッ!』

    するとマルコシアスは上半身を前に倒した。

    「ギエンッ」

    『ッ……⁈』

    よく見ると背中にいくつもの"銃口"のようなものが付いている。

    嫌な予感がした。

    「ギュオォォォォッ!!!」

    その銃口から大量のミサイルのようなものを発射した。

    『ハァッ⁈』

    何とか足下を気にしながらも横に避ける。

    しかし何とミサイルは追尾性能付きだった、全弾背中に命中してしまう。

    『ウアァァァッ……!!』

    背中が物凄く熱かった。

    もがき苦しむ事しか出来ない。

    『グゥッ……』

    せめて人さえいなければと考える。

    周りを見るとやはり逃げている人々が大勢いた。

    しかしその人たちも戦っていては見えない。

    『クソっ、人さえ居なければ……!!』

    しかしそんな事を考えている間もマルコシアスは待ってはくれない。

    「ギエェェェッ!!」

    鳥のような足でゼノメサイアの肩を鷲掴みし空へと連れ去って行った。

    『ドォォアァァァッ……』

    鋭い爪が肩に食い込んで痛い。

    そんな間にもマルコシアスはどんどん高く飛んでいく。

    間違いなくコレは落ちたら死ぬ。

    そんな事を考えながらゼノメサイアはただされるがままに空に連れ去られて行った。

    「ギュオォォォォ!!」

    そして軽く雲を越えた辺りでマルコシアスは大量のミサイルを放った。

    遠くから円状になって徐々にこちらに向かって来ている。

    『まさか……』

    着弾するタイミングで離して一気に食らわせるつもりなのでは。

    そんな事をされては流石に死んでしまう。

    徐々に迫る大量のミサイル。

    『ヤバい、このままじゃ死ぬ……!』

    快はまだ死ぬ訳にはいかない、何故ならまだヒーローになれていないから。

    誰かに必要とされるヒーローになるまでは絶対に死んではいけないと言い聞かせて来た。

    そしてようやく1人応援してくれる者が現れたばかりなのだ。

    『与方さん……!』

    快の頭には愛里の顔が浮かんでいる。

    せっかく英美さんが託してくれたのだ、彼女のためにも死ぬ訳にはいかない。

    『おおぉぉぉっ!!』

    そして一気に覚悟を決めた。

    『オラァァァッ!!』

    マルコシアスの足の爪と皮膚の間に指を突っ込んでグリグリとほじくる。

    『オォォォッ……!』

    「ギエェェェアッ……」

    マルコシアスはあまりの痛みに悶え苦しんで暴れる。

    爪の間からは血が流れて来た。

    『オォッ!』

    それでもやめない、だんだんと高度が下がって来た。

    そして。

    「グガァァァァッ!!!」

    ゼノメサイア目掛けて放たれたミサイルはマルコシアス自身に命中した。

    その衝撃でゼノメサイアを離してしまう。

    『あ』

    支えるものを失ったゼノメサイアは落下していく、そこまでは考えていなかった。

    今この高度で落とされては流石に死んでしまう。

    『オワァァァァッ!!!』

    落下速度は勢いを増していく。

    『やばいやばいやばいやばい』

    徐々に地面が近づいていく。

    このままでは死んでしまうだろう。

    『あぁダメだ!俺はまだ死ぬ訳には……!』

    落下しながら空に浮かぶ月に手を伸ばす。

    まだ羽ばたけていない、スタートラインに立ったばかりなのだ。

    こんな所で死ぬ訳にはいかないと心で叫ぶ。

    『くぅっ……』

    しかしあまりの恐怖に目を閉じてしまう。

    地面まであと少しだ。

    そして時間が過ぎる。

    五……

    四……

    三……

    二……

    一……

    ☆

    『………あれ?』

    いつまで経っても地面の感触がしない。

    何よりまだ生きているのだ。

    『何だ……?』

    恐る恐る目を開けてみる。

    すると。

    『ッ……⁈』

    なんと自分の身体が宙に浮いていた。

    これもゼノメサイアの能力だというのだろうか。

    『浮いてる……いや、飛んでる!』

    そこで愛里が英美に言われたというのあの言葉を思い出す。

    快は今夢に向かって羽ばたいたのだ、だから飛んでいる。

    そう納得し自由に飛んでみせた。

    『おぉ、飛んでる……飛んでるぞぉ!』

    そこに煙を纏いながらマルコシアスが降りて来る。

    傷だらけだ。

    「ギャルルル……」

    『……!!』

    あれだけの威力の攻撃を受けてまだ生きているとはとてつもない生命力の持ち主のようだ。

    『でもこれなら!!』

    しかしこれなら地上に被害を出す事はない。

    突然自信に満ち溢れゼノメサイアは更に高く飛翔した。

    『デリャアァァァァッ!!!』

    高い空で風を切って飛ぶ。

    下からマルコシアスが追いかけて来ているが明らかにスピードは落ちている。

    なのでこちらの方が速い。

    「ギャエエエッ!!」

    背中から大量のミサイルを放つ。

    『ハッ、セヤッ!』

    しかしゼノメサイアはそれらを全て華麗にかわしていく。

    この空中での機動力にマルコシアスは驚いていた。

    そしてそのままゼノメサイアは一気に下降しマルコシアスの顔面に蹴りを入れた。

    『ハッ!』

    マルコシアスの顔が大きく歪む。

    「ギャオォォ……」

    そのまま力を無くして落ちて行くマルコシアス目掛けてゼノメサイアは空中でエネルギーを溜めた。

    そして一気にそれを放つ。

    『ライトニング・レイ!!!』

    神の雷は一直線にマルコシアスへと向かっていった。

    そして命中。

    「グゴオォォォ……ッ!!」

    そのまま空中で大爆発を起こし消滅した。

    ゼノメサイアの勝利である。

    『はぁ、少しはヒーローっぽくなれたかな……?』

    そんな事を考えながら快は人間態に戻り帰宅するのであった。

    ☆

    その後マルコシアスとゼノメサイアが現れた地区は停電。

    快と美宇の家は何とか無事だった、空中で戦い被害を減らしたお陰だろう。

    「…………」

    相変わらずただいまは言わない。

    激戦を終えて電気の消えた自宅に帰って来ると姉である美宇が駆けてきた。

    「あぁ〜よかったぁ!」

    前回同様泣きながら抱きしめてくる。

    「ちょ、避難してなかったの⁈」

    「バイト先に電話したら帰ったっていうから!心配でずっと待ってたの……!!」

    やはり快は姉に死ぬ直前の母親を重ねてしまう。

    愛情というものが何なのか余計に分からなくなった。

    「もう、疲れたから!」

    そう言って無理やり引き剥がし部屋へと向かった。

    ・

    ・

    ・

    キャンプ用のランタンだけが灯された部屋に戻った快はベッドに寝てスマホを見ていた。

    「(与方さんのLINE、これか)」

    愛里にお礼が言いたかったためクラスLINEから彼女を追加して個人チャットにメッセージを入力する。

    今日の勝利は彼女の言葉によるものが大きい、彼女のお陰で夢に羽ばたく事が出来た。

    「"今日はありがとうございました"、違うな……」

    何と打てばいいか分からずに迷う。

    「まずは無事を報告した方がいいのか……」

    愛里に何と送るべきか試行錯誤していると。

    『また罪獣出たけど無事ですか?よければお返事下さい』

    何と愛里の方からLINEを送ってきたのだ。

    「!!」

    向こうから来た事に驚いて思わず固まってしまうが返事を送る事にした。

    『無事です。与方さんと英美さんの言葉のお陰で少しだけヒーローに近づけた気がします、ありがとう』

    そう返すと即座に返事が。

    『無事でよかった!夢に近づけたのもよかったね!』

    先ほどまで丁寧語だったのが砕けた口調に変わった事で安心しているのが伝わって来る。

    「……ははっ」

    まだまだヒーローとしては未熟すぎるが応援してくれる者が1人現れた。

    これはきっと救いになる事に違いないだろう。

    そんな快の首にはグレイスフィアがネックレスとして掛けられていた。



    つづく

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