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夏の最後の打者は三振した。それでも、みんなが「ありがとう」と言った理由



全力の残像:高校時代のチームメイトで、今でも忘れられない選手

私たちの部には、A・B・Cの3つのチームがありました。

夏の大会で背番号をもらえる候補になるのは、基本的にAチームの選手です。

1年生の多くはCチームで、体力づくりや基本を、1年生指導係の2年生から厳しく教わっていました。

その中で彼は、1年生の春から3年生に混じってAチームにいました。

Aチームに交わり、先輩から厳しく叱責される姿

夏は背番号を手にできませんでしたが、新チームになった
1年生の秋からは主力でした。

野球が上手かったのは間違いありません。

でも、私が今でも覚えているのは、プレーよりも日々の姿です。

約束の時間は必ず守る。

嘘をつかない。

不平不満を言わない。

自分にも仲間にも厳しく、妥協している姿を一度も見たことがありません。

弱音を吐いている選手がいると、彼は放っておきませんでした。

話を聞き、時には励まし、時には厳しい言葉で背中を押していました。

レギュラーか控えか、先輩か後輩かで態度を変えることもありません。

誰に対しても真摯に向き合い、仲間を見捨てる姿を私は
一度も見たことがありませんでした。

練習中は常に真剣。

でも、練習が終わると、全力でギャグを言って周りを笑わせる人
でもありました。

得意のギャグを披露する姿

当時の私は、それを特別なことだとは思っていませんでした。

チームにそういう人がいる。

それが当たり前だと思っていたのです。

社会人になって、初めて分かった

社会人になって、少しずつ分かってきたことがあります。

「この人なら心から信頼出来る。」
「部下の私に対して真摯に話を聞いてくれる。」
「安心して物事を任せられる」

そう思える人は、意外と多くありません。

仕事ができる人はいます。

野球が上手い人もいます。

頭がとても良い人もいます。

でも、能力が高いことと、信頼されることは同じではありません。

組織における信頼の研究でも、相手を信頼できるかを判断する要素として、「能力」だけでなく、相手のために行動する「善意」や、言葉と行動に一貫性がある「誠実さ」などが挙げられています。

今振り返ると、彼には野球の能力だけではなく、
日々の行動に誠実さがありました。

社会人になってから、それがどれだけ難しいことなのか
を感じるようになりました。

約束を守る人はいます。

嘘をつかない人もいます。

部下、後輩にも真摯に向き合える人もいます。

でも、それらを相手や状況によって変えず、毎日当たり前のように
続けられる人は、それほど多くないと思います。

高校生だった彼は、それをやっていました。

信頼は、小さなことで決まる

社会人になると、約束を守れなくなる原因が、自分ではなく、
他の人や環境にあることもよくあります。

パートナー企業に依頼していた仕事の納期が、何らかの事情で遅れる。

調整していた会議が、上司の都合で別日になる。

入ってくる予定だった機器、部材が、台風や大雪で想定より遅れる。

どれも、自分ではコントロールできないことです。

それでも、相手と約束していた日程が守れなくなることに
変わりはありません。

そんなとき私は、

「自分のせいではない」

で終わらせないようにしています。

相手にとって、どうすれば一番影響を小さくできるのか。

別の方法はないのか。

いつまでなら対応できるのか。

できるだけ早く事情を伝え、謝罪したうえで、
真剣に社内で調整し次の対応を検討する。

社会人にとって当たり前のことだと思います。

でも、その当たり前を続けることが、信頼につながるのだと思っています。

危機対応を扱った研究では、不利な情報を第三者から先に知られるより、自分から先に開示した場合のほうが、情報源の信頼性が高く評価されるという結果も報告されています。

もちろん、これは企業の危機対応を扱った研究です。

日常の仕事で起きる小さな予定変更と、
そのまま同じではありません。

それでも、

都合の悪いことほど、自分から早く伝える。

この考え方は、仕事でも大切だと感じています。

そして、最後の夏

私達の最後の夏の県大会。

最後の試合で、最後の打者になったのが彼でした。

結果は、三振。

私たちの高校野球は、そこで終わりました。

試合が終わると、彼はチームメイト一人一人に、

「ごめん!」

と謝りました。

まとめて一言ではありません。

一人一人にです。

三振は、野球では珍しいことではありません。

どれだけ良い打者でも三振はします。

それでも彼は、一人一人に謝りました。

仲間のために。

チームの目標のために。

控え選手や保護者の方、
いつも指導してくださる方のために

3年間、本気で野球をやってきた彼から出た心からの
言葉だったのだと思います。

その場にいた全員が泣いていました。

彼がどれだけ真剣にチームのために頑張っていたのか。

みんな知っていました。

だから、彼の

「ごめん」

に対して返ってきたのは、

心からの「ありがとう」

でした。

あのときの「ありがとう」は、最後の三振を帳消しに
するための言葉ではなかったと思います。

最後の打席だけを見て出た言葉でもありません。

それまでの3年間に対する「ありがとう」だったのだと思います。

信頼は、最後の日に突然生まれるものではない

彼が最後に「ありがとう」と言われた理由は、最後の試合で謝ったからではありません。

1年生の春からAチームにいたからでもありません。

野球が上手かったからだけでもありません。

時間を守る。

嘘をつかない。

仲間が弱音を吐いたら、話を聞く。

必要なら厳しいことも言う。

レギュラーにも、控えにも、先輩、後輩でも態度を変えない。

練習では絶対に妥協しない。

そんな姿を、仲間は3年間見ていました。

一つ一つは、大きなことではありません。

でも、その小さな積み重ねがあったからこそ、最後の「ごめん」に対して、みんなが「ありがとう」と言えたのだと思います。

高校生でもできることだった

考えてみれば、彼がやっていたことは、特別な能力
がなければできないことではありません。

時間を守る。

嘘をつかない。

約束を守る。

相手によって態度を変えない。

仲間に真摯に向き合う。

どれも、高校生でもできることです。

それなのに、大人になると、

「自分のせいではない」

「自分の仕事ではない」

「忙しかったから」

「後輩だから」「部下だから」

と理由をつけて、できなくなることがあります。

私自身も、すべてできているとは言えません。

だからこそ、社会人になった今でも彼のエピソード
を覚えているのだと思います。

最後の「ありがとう」は、あの日突然生まれたものではありませんでした。

3年間積み重ねてきた信頼が、最後の夏に
「ありがとう」という言葉になった。

私は、そう思っています。

高校生だった彼が当たり前にやっていたことを、

社会人になった今の自分は、

どれだけできているだろうか。


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kai|元高校球児×IT技術者 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。 高校野球での経験と、IT技術者としての経験を、誰かの仕事や人生を 少し前向きにする言葉に変えていきます。 「また読みたい」と思っていただけたら、応援していただけるとうれしいです。いただいた応援を、次の記事に必ずつなげます。