
書籍レビュー😊|映画『マーズ・アタック!』の元になったトレーディングカードの本『Mars Attacks』
ティム・バートン監督の映画『マーズ・アタック!』(1996年)は、奇妙な火星人による地球侵略をダークコメディ風味で描いた極彩色の映画。
この映画が、米国で1960年代に発売されていた同名のトレーディングカードを原案としていることは、よく知られている。
映画『マーズ・アタック!』は、1996年の時点で、30年以上前に描かれたレトロな世界観を、B級SF感覚で映像化したもの。現在では、さらに30年が過ぎているから、二重にレトロな世界観になっていて、より奇妙な体験をすることになる。
映画のもとになったトレーディングカードは、米国のベースボール・カードの老舗”Topps社”が、1962年に発売した風船ガム付き『Mars Attacks』のこと。黄色いワックス・ペーパー(ロウ引き紙)で包まれたパックに、板ガムと4枚のカードがセットで入っていた。
子供向けでありながらグロテスクなデザインやアダルトな内容を含んでいたため、学校・保護者・市民団体からの非難を受けて、発売してから数か月後には製造停止になったという。
ちなみに映画『マーズ・アタック!』も、米国公開当時は「バートン史上最低映画」とまでの評価を受けて、興行的にも苦戦。公開規模(上映館数)は急速に縮小していった。
でも、バートンが趣味全開で作ったようなこの映画は面白く、日本では目にする機会が殆どないこのカードのことは、ずっと気になっていた。
なにしろ、映画の企画自体が、バートンの誕生日プレゼントとして、今作の脚本家であり友人のジョナサン・ジェムズが復刻版カードBOXを贈ったことがきっかけになっている。
二人は、地面にカードを広げて、それらをめくりながら脚本の内容をまとめていったと言うのだから、映画を観たあとでは原案のカードがどんなものなのか知りたくなる。
2012年10月に、このトレーディングカードの50周年記念本『Mars Attacks!』が米国で出版された。

この本はとても丁寧に作られている。黄色いカバーはデザインも材質も、当時のカードパックを模しており、ちゃんとワックス・ペーパーが使用されている。カバーを捲れば表紙には、板ガムが印刷されている。
ページ数は224ページ。内容はといえば、1962年のオリジナルカード55枚の表裏が、カードごとに見開きページで掲載されている。ページの左側にはカードの裏面のテキスト、右側にはそれぞれの写真と共に注釈が付けられている。
さらに1994年の続編カードの表裏、未公開のスケッチ、コンセプトアート、テストマーケットの資料、シリーズの共同制作者であるレン・ブラウンによる紹介と、オリジナルアーティストの娘であるジーナ・サンダースによるあとがきも掲載されている。そして裏表紙には、4枚のMars Attacksトレーディングカードが付属する。

さきほど、”映画『マーズ・アタック!』は、1996年の時点で、30年以上前に描かれたレトロな世界観を、B級SF感覚で映像化したもの”と書いた。
しかし原案となったトレーディングカードは、さらに当時のアメリカで流行していた1950年代のB級SF・モンスター映画から大量のアイデアやシチュエーションを拝借している。どこまで入れ子になっているのか。
例えば、火星人の元デザインとなったのは、『宇宙水爆戦』(This Island Earth/1955年)に登場する「メタルーナミュータント」。宇宙人による無慈悲な侵略と圧倒的な科学力という設定は、『宇宙戦争』(The War of the Worlds / 1953年)。平和の使者ムーブは、『地球の静止する日』(The Day the Earth Stood Still / 1951年)といった具合だ。
ちなみに『地球の静止する日』は、映画『マーズ・アタック!』のスコアを担当したダニー・エルフマン自身が「自分が映画音楽の道に進むきっかけになった、人生で最も影響を受けた映画が『地球の静止する日』だ」と公言している。
テルミンを使用したスコアとレトロな音響表現は、同映画の音楽を担当したバーナード・ハーマンへのオマージュでもある。
トレーディングカードに描かれているのは、残酷な火星人による攻撃、苦しんでいる乙女と英雄的な兵士、熱と氷の放出者、敵の巨大な昆虫、UFOなどなど。
カードの後半にでてくる巨大な昆虫による攻撃の場面は、映画には登場しないけれど、それ以外の場面はうまく映画に取り込まれている。

このトレーディングカード本は、その時代を過ごした米国人には懐かしさを刺激するものだろう。
でも、そんな経験のない僕にとっても、1950~1960年代のレトロSFの世界が楽しみ、映画の発想の素を追ったり、想像を楽しむことができる。
まるでタイムマシンに乗って、歴史を覗いているような一冊だ。