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【26-27第1節:A山形戦】新たなる挑戦─もう一つの8月9日

◆8月9日ピースタにて

(あれ、やっぱりスタメンは厳しかったのかな。)
私はそう思いながら、スマホの画面を見ていた。

今、私がいるのはピーススタジアム。
席につき、ホテルから長崎の選手たちが入場してくるのを待っている。

今日は、19時からV・ファーレン長崎のホーム開幕戦だ。
そして、全く同時刻に、私が応援する照山選手が所属している、栃木シティの試合も開催される。

当然、気になるのは照山選手がスタメンかどうかだ。
ただ、私が見ている画面には彼の名前はなかった。
少し残念な気持ちになった。
代わりに元長崎の加藤大選手と鈴木武蔵選手の名前がある。
彼の代わりに頑張ってほしいなと思ったが、少しおかしいことに気がついた。

──栃木シティのキャプテン、奥井選手の名前がない。

改めてちゃんと見たら、私はサブの選手の投稿を見ていた。

長崎では、スタメンとサブは1つの投稿で表示される。
だから、私は気がつかなかったのだ。
気を取り直して、スタメンの方の投稿を見る。

──あった。

腕組みしている彼の写真と新しい背番号の3が画面に映った。
さっそく第一関門をクリアしたことに私はほっとした。

ただ、私はまた違和感を感じた。
もう一度、サブの方の投稿も確認する。

──やっぱり。

バイロン選手の名前がない。
FC町田ゼルビアから鳴り物入りで加入した選手だ。
栃木シティサポーターもかなり期待していたことを知っている。
だが、サブにも名前がない。

ただ、長崎でも同じ状況を経験していた私には心当たりがあった。
おそらく、外国籍の問題だ。
J2で外国籍の選手が出られるのは4人までだ。
メンバーを見るに、その枠を使い切ってしまっているのだろうと思った。
(ちなみにこの時、シモンズ選手が日本国籍なのは知らなかった。)

そして、栃木シティはすでに、大切な選手を欠いている。
田中パウロ選手だ。
Jリーグのサポーターならば知らない人はいないのではないか。
私ですら、照山選手が移籍する前から知っていた。
SNSでバズりまくっている、栃木シティの広告塔でもあるが、精神的な支柱の選手でもある。

しかし、足の怪我で全治5か月と診断されていると公式から発表された。
額面通りに受け入れると、前半戦の復帰は難しいだろう。

だけど、私は思っていた。
こういう逆境の時こそチームはまとまるものなんだと。
一刻も早く、復帰してほしいと願うばかりだが、その間は彼も含めた栃木シティの選手たちが奮闘するはずだ、と私は信じていた。

今日の栃木シティの相手は、モンテディオ山形だ。
栃木シティにとってはアウェイ戦となる。

長崎は、アウェイ戦の山形は特に相性が悪い。
去年は勝利したが、その前は2-4、1-5、0-2と負け続けていた。
長崎サポーターの中で、NDスタは鬼門となっている。
だからこそ、より一層、栃木シティには勝利してほしい。
そう、私は願っていた。

ただ、今からは、長崎の試合の時間だ。
私はスマホの画面から目を離し、ピースタのピッチに目を向け、長崎の選手たちが登場するのを待った。

◆ハーフタイム

長崎の試合が始まり、私は応援に集中する。
サンタナ選手の2得点で長崎は前半を2-0で折り返した。
会場の盛り上がりは最高潮だ。

さて、栃木シティはどうかな、と思い、スマホの画面を見る。

──0-1のスコアが目に入った。

そうか、山形は強いしな、と思った。
ただ、まぁ、後半もあるしと思いながら試合詳細を見て、私は驚いた。

35分にSBのシモンズ選手が退場している。

これは大変な試合になったなと思った。
10人でしかも、アウェイの山形。
ただ、長崎にいる私は、山形に向けて祈ることしかできなかった。

──どうか、どうか頑張ってほしい。
まずは1点。

長崎の選手がピッチに出てきた。
私は後ろ髪を引かれる思いでスマホの画面を閉じた。

◆試合終了

長崎はこのあと、1点を返されたものの、何とか勝利した。
8月9日という日に勝利を収めて本当によかったと思っていた。
だが、そうなると気になるのは栃木シティの結果だ。

長崎の選手がピッチを回ってくる間に、私はスマホの画面を開いた。

──スコアは0-2になっていた。

そうか、やっぱり難しかったか…。
そう思いながら試合詳細を見た。
81分に吉田選手が、そして、82分に照山選手がイエローカードをもらっていた。

それを見た瞬間、私は、照山選手の長崎デビュー戦となった2024年のホーム水戸戦を思い出した。

この時も平和祈念マッチで8月の試合だった。
彼は出場してすぐ、イエローカードをもらった。

もしかしたら、栃木シティのデビュー戦で気合が入っていたのかもしれないな、と思った。
そして、10人の戦いで、これ以上失点する訳にはいかないと思ったのかもしれない、とも思った。
事実、2失点目を喫したのは93分だった。
最後の最後まで栃木シティは耐えていたのだ。

この試合経過を見た瞬間、私はこの試合のことも、「青橙ノ記憶」に残さなければならないと決意した。

◆8月13日

世間はお盆だ。
この日にやっと、私はこの試合を見ることができた。
前日まで仕事だったことと、長崎の観戦記を書くことを優先したため、見るのが遅くなってしまった。

さっそく、DAZNの画面を付ける。
CMの後に、NDスタの中継が始まった。
しばらくすると、照山選手が画面に映った。
真剣な表情で歩いていたが、知り合いを見つけたのか、笑顔で手を振る様子を見ることができた。

画面にはそれぞれのフォーメーション図が映し出される。

まずは、山形だ。

この時、初めて私は氣田選手が10番を背負っていることを知った。

氣田選手は2020年ルーキーで長崎に加入した。
その後、2021年にベガルタ仙台に移籍したが、この時に照山選手ともチームメイトだった。
また、今、長崎で病気療養中の名倉選手とも仲が良く、インスタではよく2人の写真が投稿されている。
何かと長崎にゆかりのある選手だ。
だから、怪我をしてしまい、ずっと療養中だったことも知っていた。
この開幕戦に間に合って、照山選手と対戦出来て、本当に良かったと思った。

その後、今度は栃木シティのフォーメーション図が映し出される。
栃木シティのフォーメーションは4-3-3。

彼は左CBだ。
この位置で出場するのは、2025年、下平監督が率いていた前半戦以来。
それ以降、高木監督に代わってからは、3バックの右が彼の主戦場だった。

百年構想リーグの栃木ダービーで少しだけ予習していた私は、栃木シティに知念選手という左利きのCBがいることを知っていた。
だから、私は、もし彼が出場するなら、知念選手がコンビになるかもな、と思っていた。

しかし、色々な情報を得ていくうちに、彼は栃木シティでは左CBを期待されているようだと分かった。
その大きな理由はヨニッチ選手だろう。
ずっと、何か名前を聞いたことがあるんだよなぁ…と思っていたが、山口蛍選手と一緒にセレッソ大阪でプレーしていた選手だ。
私が見ていた栃木ダービーでもいい守備をしていた。
おそらく、ヨニッチ選手が栃木シティのCBの要なのだろう。
そして、ヨニッチ選手は右CBを務めている。
彼が左を任されるのは、栃木シティの中では合理的な判断だったのかもしれない。

ただ、私は少し心配をしていた。
というのも、彼の効き足は右だ。
長崎では4バックも3バックも左で出場した経験はある。
しかし、その時は左足が効き足のエドゥアルド選手や江川選手の「代わり」だった。
彼もインタビューで左側は少し勝手が違うようなことを述べていた。

だが、これも含めて、彼の新しい挑戦なのだろう。

◆山形と栃木シティの過去

DAZNでは山形と栃木シティの百年構想リーグでの戦いぶりが紹介されている。
山形はEAST-Aで7位、そして栃木シティはEAST-Aで8位だ。
栃木シティが百年構想リーグで苦戦していたことは何となく知っていた。
前述の田中パウロ選手のSNSを見ていたからだ。
この時は、まさか、このチームに照山選手が移籍するとは思ってもいなかった。

そして、私は、山形の順位が意外だった。
私の中で山形は、なんだかんだプレーオフかそれに近い順位で毎年フィニッシュしているイメージがあるからだ。
土居選手やディサロ選手などいい選手もいる。

ただ、直接対決の成績も表示されたが、ホーム、アウェイともに栃木シティが勝利していた。

もうすでにこの試合の結果を知っている私は、これは栃木シティサポーターは悔しい思いをしただろうなと思った。

その後、DAZNでは山形がJリーグでホーム開幕戦を迎えるのが初めてという情報が流れた。
確かに、山形と言えば、サポーターたちが毎回スタジアムを雪かきしているイメージがある。
これは山形は相当気合が入るだろう。

◆変わったもの、変わらないもの

画面には、ピッチ入場前の選手たちが映っている。
栃木シティはピンク色のユニフォームだ。
照山選手がピンク色のユニフォームを着ている姿を見るのは初めてだ。
なんか新鮮だなと思った。
キャプテンマークを巻いた奥井選手の姿も映される。

いよいよ、選手入場だ。

整列したのち、長崎の試合と同じようにこの試合でも黙とうがささげられた。
熊本地震の犠牲者のためだ。
山形サポーターの、熊本を励ます弾幕も画面に映された。
ここで、山形のGKの佐藤選手が熊本出身だという情報が入る。
私は何となく、この試合、山形が無失点だった理由を想像した。

写真撮影が終わったのち、選手たちが円になって集まる。
この時、栃木シティの選手たちが話しているのが見える。
おそらく、何か確認することがあるのだろう。
その後、円陣を組んだのちに、お互いにハイタッチをした。

──やっぱり、長崎とは違う。

長崎では円陣を組んだ後、各々がポジションに向かってダッシュする。

栃木シティの作法にすっかり馴染んでいる照山選手に少しだけ寂しさを覚える。
でも、これでいいのだ。
1人だけダッシュしてもおかしいし。
そう思いながら見ていると、彼が胸のエンブレムを叩いているのが見えた。

──これは同じだ。

私は彼の変わらないルーティンを見ることができて嬉しくなった。

その直後、ホイッスルが鳴った。
前半がスタートだ。

◆求められたもの

スタートしてすぐ、照山選手が前へと守備に行った。
だが、山形の選手に裏にパスを出される。
それをヨニッチ選手がカバーしていた。

さっそく、CB同士の連携が見られる。

その後、また、山形ボールに対して照山選手が激しくチェックに行く。
最初から結構ぐいぐい行くなと思っていたら、また、土居選手と激しく交錯して、照山選手がファウルを取られた。
かなり、当たりが強い。
正直なところ、長崎ではそこまで激しい守備はあまり見られなかった。
どちらかというと、彼は隙を伺って奪うタイプだ。
私は、おそらくこれが栃木シティで彼が求められているプレーなんだろうなと思った。

8分。
栃木シティが中盤でパスを回していたが、山形の選手に引っかけられた。
そのまま、ゴールに攻め込まれる。
照山選手が氣田選手からボールを奪おうとしたが、躱された。
そのままシュートを打たれたが、かろうじてそのシュートは外れた。
これは氣田選手の反転の仕方が上手かったが、ちょっとまずいなと思った。

11分。
今度はディサロ選手にゴール前まで持ち込まれる。
照山選手が対応したがまた、体を反転され、シュートを打たれた。
これは、キム選手が止めて事なきを得た。
私は同じようなことが立て続けに起きたため、大丈夫かなと心配した。
もう、結果は変わらないが、このとき失点の仕方がかなり気になっていた。

◆失ったもの

15分。
ここまでは何となく、山形がボールを保持する時間が長いなと思っていた。
その矢先に、栃木シティボールになった。
照山選手がボールを持っている。
そこから、彼が十八番のロングフィードを放った。
その先にいたのは吉田選手だ。
上手く抜け出した。
オフサイドはない。
お、と思ったが、これは佐藤選手にキャッチされた。
ただ、これはいいパスだと私は嬉しくなった。

たが、その直後。
山形が栃木シティ側に攻めてくる。
氣田選手がPA内に侵入する。
対応した奥井選手が背中を押したように見えた。
氣田選手が倒れる。

──PKだ。

少し軽率なプレーだと私は思った。
これはPKでも仕方がない。
そして、ボールをディサロ選手が持った瞬間に、1失点目はこれだと分かった。
ディサロ選手が蹴ったボールは、ゴールの右隅に吸い込まれた。
そうか、PKだったのか…もったいない失点だったなと思った。

23分。
栃木シティが初めてのコーナーキックを獲得する。
キッカーは小池選手だ。
長崎の時は、彼はニアの位置にいてヘディングでスラす役割だった。
どこにいるかな?と思って見たら、ファーの位置にいる。
そして、キックしたと同時に後ろに下がった。
ただ、そのボールは佐藤選手にキャッチされた。
おそらく、栃木シティでのセットプレーの彼の役割は、中での競り合いだなと私は感じた。

28分。
西谷選手が左サイドから切り込んでいく。
そこからクロスが上がった。
中にいたのは吉田選手だ。
ヘディングを放ったが、山形の選手に体を当てられていたのか、ゴールには入らなかった。
その瞬間、悔しそうにピッチを叩いた。
その姿を見て、私は吉田選手のことがいいなと思った。
気持ちが溢れる選手は見ていて応援しがいがあるものだ。

◆10人での戦い

34分。
山形の杉井選手が右サイドからボールを運ぼうとする。
そこに、シモンズ選手がスライディングで厳しめにチェックに行った。
その瞬間、レッドカードが出された。
あのレッドはここだったのかと思った。
スローモーションでその場面が流れる。
私は正直、え?これでレッドなの?と思った。
私の目からは足裏を見せているようには見えなかったが…。
まぁ、ただ、私の素人の節穴の目では分からないことがあるのだろう。
リアルタイム観戦なら、審判に少し物申したいところだが、もう、私が何を言ったところで結果は変わらない。
ここからの戦いを見守るしかない。

フォーメーションはどうなるんだろうと思っていたら、4-3-2のような形になっていた。
左SBにいた奥井選手が右側に移動し、インサイドハーフにいた森選手が左のSBに入っていた。
前線は吉田選手とトクマック選手の2トップだ。

ここから栃木シティは10人での戦いとなる。

40分。
照山選手がボールを持っている。
と、また、15分の時に見せたようなロングフィードを放った。
吉田選手がそのボールに追いつく。
ループ気味にシュートを放ったが、これは佐藤選手にキャッチされた。
正直、このシュートは入って欲しかったなと思った。
本当に惜しいシュートだった。
あともう少しループが高ければ…と思ったが、それを言ったら何でもタラレバになってしまうので辞めておく。

前半のアディショナルタイムは5分だ。
アディショナルタイム2分。
山形の右サイドの國分選手から氣田選手にパスが通る。
PA内に持ち込まれ、シュートを打たれた。
だが、そのシュートはかろうじて左側に外れて行った。
スローで見たら、照山選手がシュートコースを限定していたのが分かった。
これは、彼が得意なタイプの守備だ。
栃木シティでも健在で安心する。

もちろんそのままスコアが変わることはなく前半は0-1で終了した。

◆互角の戦い

画面には前半のスタッツが表示されている。
シュートは両チームとも8本ずつ放っており、1人少ない栃木シティも互角にやりあっている。
ここまでは、PKでの失点はあったものの、だからと言って防戦一方という訳でもなく、いい戦いが出来ているなと思っていた。
だからこそ、後半の試合運びが気になった。

栃木シティは、ここで選手の交代をした。
ウイングの小池選手から升掛選手に交代した。
解説では攻撃のための采配だろうと言っていた。
升掛選手は栃木ダービーの時に活躍していた印象がある。
ただ、どのポジションに入るのかな、と思っていた。

画面にはまた、円陣後にハイタッチをしている栃木シティの選手たちが映される。
そののちに、それぞれがポジションにつく。
どうやら升掛選手が左SBに入るようだ。
いよいよ後半がスタートだ。

◆かつての敵

56分。
栃木シティがフリーキックのチャンスだ。
キッカーはトクマック選手。
蹴ったボールは山形の壁に当たったが、それを吉田選手が回収した。
また、中央に送り込むが、それは跳ね返される。
だた、また、奥井選手が回収する。
そして、そのボールを右サイドのトクマック選手にパスをした。
そこからドリブルで切り返して、中央に向かってパスを入れる。
その下にいた奥井選手がヘディングを放ったが、それは佐藤選手に防がれた。
良いシュートだったのに、惜しかったなぁと思っていた。

その時、解説が佐藤選手について「筑波大からのルーキーで、浦和から期限付き移籍で…」と話し始めた。
その瞬間にあっ!と思った。

去年の天皇杯。
長崎は筑波大学と対戦している。
この試合、長崎は本職のCBが照山選手だけという異色の采配だった。
2-1でなんとか勝利したことを覚えている。
当時のブログにも書いているが、この時「あの筑波大のGK、長崎に来てくれないかな」と思っていたのだ。

──まさか、あの時のGKだったとは。

サッカーの縁とは不思議なものである。

しみじみしてしまったが、これは栃木シティにとっては厄介だっただろうな、と今更ながら思った。

◆嫌な予感

60分。
中盤で激しいボールの奪い合いが行われている。
少しづつ、栃木シティのゴール側へ近づいてくる。
照山選手も前に当たりに行く。
だが、そのボールは栃木シティ側へと飛んで行った。
それは奥井選手が回収して、一旦、キム選手に戻した。
そして、キム選手は右側にパスを出したのだが、その瞬間、私は嫌な予感がした。
というのも、右サイドには山形の選手が残っていて、数的には不利な状況だったからだ。
案の定、山形の柳町選手にボールを奪われた。
そこから中央へクロスを運ばれたが、照山選手がクリアしてその場はしのいだ。
わざわざ人がたくさんいるヨニッチ選手側じゃなくて、照山選手側にパスを出せばよかったのにと思ったが、とっさの判断では難しい部分もあるのだろう。

62分。
左サイドのボールの奪い合いで照山選手が土居選手にかなり激しくチェックに行き、ファウルを取られた。
解説からは「フラストレーションが溜まっている状態ですね」と言われていた。
確かに、いいプレーではない。
実際にファウルをもらっている訳だし。
ただ、私は正直なところ、まぁ、DFならやりがちなファウルだよなと思っていた。
この直後、栃木シティは選手を交代した。
森選手に代えて、鈴木武蔵選手だ。
元長崎組の登場だ。
おそらく、点を取りに行く交代かなと思った。

◆希望

その直後の63分。
後方からパスを入れられた吉田選手が前を向こうとする。
ただ、山形の選手が2人がかりで奪いに来る。
だが、どれだけ引っ張られても倒れずに、トラップしながら、前への道をこじ開けた。
実況も興奮して「吉田が強い!」と言っている。
そのままドリブルして、左足でシュートを放った。
だが、そのシュートはほんの少し、左側に外れた。
本当にこの一連の流れは素晴らしかった。
この瞬間、私の中でのこの試合のMVPは吉田選手に決定した。

68分。
奥井選手がボールを運ぼうとしたが奪われる。
そこから山形のショートカウンターが発動する。
土居選手が中央に運び、そのボールを左側にいた柳町選手に渡した。
そのまま、柳町選手はシュートを放つ。
だが、そのシュートは照山選手がブロックした。
ここを彼がブロックできたのは大きい。
1人少ない中でも何とか守れている。

73分。
DAZNにこの時点でのスタッツが表示された。
ボール支配率は栃木シティが48%。
シュートは山形が15本で栃木シティが14本だ。
1人少ないとは思えない互角の戦いを演じている。
だからこそ、これで退場者が出なければなぁ…と考えてしまった。

◆2枚のイエローカード

80分。
吉田選手が審判に抗議してイエローをもらっていた。
なるほど、吉田選手のイエローはこれだったのかと思った。
私は状況と時間的にてっきりプレーで何かファウルをしてしまったのかなと思っていた。
少しもったいないイエローだったなと思った。

そして、先に情報を見ていた私は分かっている。

──この後すぐ、照山選手もイエローをもらうことを。

栃木シティのビルドアップ。
珍しく彼がアンカーの位置まで出てきてボールを受ける。
ただ、そのボールを寺山選手に奪われ、氣田選手にパスされた。
彼はすかさず追いかけた。
そして、後ろからスライディングした。

主審からイエローカードが提示された。

この時間、10人の状態で1点を入れられてしまったら、もう、逆転は難しい。
多分、焦ってしまったんだろうなと思った。
自分のミスで失ったボールを自分で取り返そうとした。
だけど、これはイエローカードが出されても仕方がないプレーだ。
かろうじてPA外だったのが不幸中の幸いだなと思った。

彼が与えたファウルからのフリーキック。
低いボールが入ってくる。
ただ、それは、升掛選手と山下選手が対応し、クリアした。
だが、また、今度はコーナーキックとなった。
それは、キックの時点でラインを割ったようで、事なきを得た。

結果は承知しているものの、リアルタイムで見ていたらこのシーンは気が気じゃなかっただろうなと思っていた。

◆最後の賭け

88分。
栃木シティのゴール近くの左サイドで山形にボールを奪われた。
横山選手がクロスを上げようとする。
ただ、その前で照山選手がスライディングで防いだため、少し、ボールの軌道が変わった。
そのボールは升掛選手が回収した。
そのままドリブルで前に運んだが、防がれてしまい、栃木シティのスローインとなった。
そこから吉田選手に充てたボールは山形が2人がかりで奪いに来て、吉田選手が山形からファウルをもらった。
その時に吉田選手が足を延ばすような仕草を見せた。
無理もない。
ここまでずっと前線で体を張り続けている。
こんなことを言うのもあれだが、長崎のCFのサンタナ選手だったらとっくに交代している時間だ。

その後、ボールがセンターラインを越えてきたキム選手まで下げられる。
そこから直接、前線の右サイドにいる山下選手へとパスが渡った。
そこからなんと、そのままダイレクトでクロスを入れた。
私は思わず画面の前で、「おぉ!」と声が出てしまった。
そのゴール前にはペドロ選手がいたが、その前で山形の選手にクリアされた。
これも本当に惜しいシーンだった。
山下選手のクロスが本当にすごすぎて、私は舌を巻いた。

スコアが変わらないまま、アディショナルタイムに突入する。
3分と表示される。
私は93分に失点することを知っている。
その時が着実に近づいてくる。

92分。
栃木シティのゴール側でヨニッチ選手から加藤丈選手にパスが渡った。
だが、その時、解説は「照山から加藤丈」と間違えて言っていた。
私は違うけどなぁと思いながら照山選手の姿を探した。
CBの位置にはいない。
なんと、前線の山下選手と吉田選手の間にいた。

完全に前線のパワープレー要員だ。
長崎でも、終盤、得点が欲しい時、CBを1枚前線に送り込んでいた。
長崎の場合は3バックだ。
だから、後ろを4バックにして、前に1人送り込んでいた。
だが、栃木シティは4バックだ。
しかも、1人足りない。

──もはや、勝つために捨て身の攻撃をしている。

今矢監督も度胸があるなと思った。
と、同時に、これが最後に失点した原因だなとも思った。

栃木シティは何が何でも点を取りに行かなければならない。
かなり前がかりになっている。
そこを山形にひっくり返された。

山形にボールを奪われた瞬間に、本当は自陣に戻らなければならなかった。
だが、彼を含む前線の選手たちは、もう、足が動いていなかった。
そのまま、山形にドリブルで持ち込まれる。
シュートを放たれ、ボールは栃木シティゴールの右隅に吸い込まれた。

アディショナルタイム3分。
あともう少しだった。
もう少しだけ、耐え切れなかった。

この直後のリスタートで試合終了のホイッスルが鳴った。

──本当に、ラストワンプレーだった。
これが、10人の代償だと思った。

◆8月9日、もう一つの試合

画面にはこの試合のスタッツが表示されている。

──ほぼ互角の戦いだ。

栃木シティの支配率は48%。
シュート本数は山形が18本で栃木シティが17本だ。
解説も言っていたが、とても1人少ない試合のスタッツではない。
それだけ、1人1人が1人の隙間を埋めようと全力を出し切ったのだ。

正直、試合の内容をみるまでは、かなり山形に押されていたのかなと思っていた。

でも違った。

スコアには表れない戦いがこの試合にはあった。

結果としては敗戦だ。
だけど、私は彼を含む栃木シティの選手が好きになった。

8月9日19時キックオフ、もう一つの試合。

多分、照山選手が移籍していなかったら、この試合は見ていなかった。
こんなに懸命に勝利のために走り続けた選手たちがいたことを知らないまま、8月9日の試合を終えていた。

私は吉田選手がピッチを叩いたあのシーンを思い出した。

──大丈夫、次はきっと大丈夫だ。

次こそは照山選手と、そして、栃木シティのみんなの笑顔が見られますように。
そして、サッカーが見られる平和が続きますように。

そう願いながら、私はDAZNの画面を静かに閉じた。


◆あとがき

照山選手が移籍してから始めての試合。
日程が発表されたときは、まさか長崎と丸被りになるとは思ってもいませんでした。
長崎の選手たちが戦っていた裏で、栃木シティの選手たちもまた、必死に戦っていた。
これが「サッカーがある平和」なんだろうと思います。
今回は栃木シティは敗戦してしまいました。
でも、それでも希望が持てる試合だったと私は思っています。
次こそは、勝利を願って。

もし、この文章がいいなと思ってくれた方は、スキやフォローで執筆活動を応援いただけると嬉しいです。

では、次は鳥栖戦でお会いしましょう。

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楓|青橙ノ記憶 「面白かった!」と思っていただけたら、チップで応援していただけると嬉しいです。 頂いたチップは、蛍さんの好物のヨーグルト代になります。 試合後にポータブル神棚にお供えしてから私のお腹の中へ。 今回も相変わらずの応援スタイルです。

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