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2026年【第18節:A京都戦】何が私を重くしたのか─京都の夜に抱いたもの

◆重い荷物と終わらない神戸戦

2026年5月23日13時半。
私はスタジアムシティの連絡通路をヒィヒィ言いながら歩いていた。
今日はアウェイで19時から京都戦。
もう、泣いても笑ってもこれが百年構想リーグの最終戦だ。

元々、家でDAZN観戦の予定だったが、とある事情で私はピースタで観戦する事を決めていた。

私の額からは汗が噴き出る。
その手にはポータブル電源が握られている。
これがめちゃくちゃ重い。
休み休み運ぶ事にする。

──何故こんな事になっているのか。

原因はこのブログだ。

京都戦が始まるというのに、この時点で前節の神戸戦のブログが未完成だった。
家で考えていても煮詰まってしまい、京都戦もあるし、気分転換でピースタで続きを書こうと思いついた。
ただ、私のブログの執筆には携帯電話とiPadが不可欠だ。
多分、今持ってるモバイルバッテリーでは試合を見る事も考えると足りないだろう。
そこで私は、ポータブル電源を持ち込むという凶行を思いついたのだ。

──何とかコンコースまでたどり着いた。

席はどこにしようかなと思った。
やっぱりあの席かな、と思い、メイン側の新上五島町の席に赴いた。
もちろんこれは後藤選手を応援するためだ。
だが、席に座ろうとしてふと思った。
この席からは大型ヴィジョンがよく見える。
ただ、私は今日はiPadで試合を見るつもりだ。
ヴィジョンが見えなくても問題ない。
せっかくだったら、この席はヴィジョンで試合を見る人のために譲った方がいいんじゃないかと思った。

私は隅の方の席に移動した。
ここは鉄骨の梁がヴィジョンに一部かかってしまい見えにくい席だ。
何となく勝手に善行を積んだ気持ちになる。
私は床にポータブル電源を置いた。

手が痺れている。

でも仕方がない、快適な執筆空間のためだ。
タオルで場所を確保したのち、私はフードウェイに向かった。

まだ昼食を食べていないので、腹が減っている。
私は欲望の赴くままに、カットメロンとマグロの寿司をカゴに入れた。
他にもいくつか菓子を購入し、自分の席に戻った。

さっそくマグロ寿司を食べようと蓋を開ける。
あれ?と思った。
8貫しか入っていない。
あれ?9貫なかったっけ?
それとも私がサーモン握りと勘違いしていたのか?
真相は分からないので、元々8貫だったのか知っている読者の方がいたら教えて欲しい。

あっという間に寿司を平らげ、私は執筆空間を整える事にした。
照山選手の顔がプリントされたタオルをこちら側に向けて手すりに取り付ける。
いつものポータブル神棚をその前に置く。
広島遠征の際に下瀬美術館で購入したスケッチブックと、ガンバ大阪戦の時に手に入れた彼の写真が付いたボールペンを取り出す。
iPadと携帯をポータブル電源に繋いだら準備完了だ。
私はさっそく、神戸戦のブログ作成に取り掛かった。

そのブログを読んで頂いた方はご存知かと思うが、私はかなり前半で躓いていた。
先に試合展開から書こうと思い、DAZNで神戸戦を再生する。
携帯のメモにまとめてあった内容と照らし合わせながら、スケッチブックにブログの内容を書き出していく。
CB陣のプレーは絶対に入れたい、特に今回は翁長選手のプレーは重要だと思いながら、もう一度、あの日の神戸戦に戻る。

ブログは順調に進み、80分に照山選手が画面の中に出てきた。

──今日は彼は出場するだろうか。

そう思いながら彼のボールペンで彼のプレーをスケッチブックに書きつけた。

◆百年構想リーグ戦、最後の夜

ブログは比較的順調に進み、17時45分になった。
スタメン発表の時間だ。
ブログに熱中していた私は、今日の試合のCBの予想すらしていなかった。
とりあえず、Xを開くと、スタメンの写真が飛び込んできた。

──照山選手の写真はない。

サブに彼の名前がある。
そして江川選手の名前も。

スタメンのCBは先週と同じ、エドゥアルド選手、櫛引選手、そして翁長選手だろう。
PK戦とはいえ、首位の神戸に勝利している。
スタメンを変更しない理由は察しがついた。
そして私は何となく思っていた。
神戸戦はCBを2人交代するという、どちらかというとイレギュラーな事象で彼は出場した。
これはそうそうある事ではない。
もしかしたら、彼の今日の出場は難しいかもしれないなと思った。

いずれにせよ、今日はクリーンシートが見たい。
もちろん勝利が一番の褒美なのだが、しばらく0の数字を見ていない。
いつ以来かなと思って調べたら、実に第8節のアウェイ岡山戦まで遡らなければならない。

実は私がそこにこだわる理由がもう一つある。
私がたまに見ているYouTubeで次のリーグ戦の降格予想がされていた。
まぁ、よくあるやつだ。
そこで長崎が降格予想されていたが、その理由が「守備が不安定」だからだ。

──正直、ぐうの音も出なかった。

確かに長崎はこれまでクリーンシートで終えた試合は17試合中3試合しか無い。
だからこそ、せめてこの最後の試合では無失点が見たいなと思った。

ここまで考えた所で、私はモバイルオーダーの画面を開いた。

今日も、もちろん食べる事を決めていた。

──てりたまバーガー、私のソウルフード。

注文すると程なくして、岩崎本舗から知らせが届く。
私の席からは岩崎本舗はちょうど対角だ。
足早に向かう。

その途中、メインスタンド側のピッチにヴィヴィくんと岩崎選手が来ているのが見えた。
私はこの時初めて岩崎選手の名前が無いことに気がついた。
自分の盲目さ加減を改めて痛感する。

岩崎本舗で、てりたまバーガーを受け取り、また自分の席に戻る。
すでに設置してあったポータブル神棚に、てりたまバーガーをお供えする。
私はいつものように、長崎の勝利と、そして、名倉選手を含む選手たちの健康を祈った。

てりたまバーガーを堪能し、また少しブログを進めているとDAZNの放映時間になる。
DAZNをつけるとすでに中継が始まっていた。
長崎サポーターの姿が画面に映される。
その時、ちょうどピッチに長崎のサポーターが雪崩れ込んでいるのが見えた。
今日は特別にピッチを開放して、大型ヴィジョンでの観戦が企画されている。
皆が思い思いの場所に座っているのを見ながら、改めてDAZNに目を向ける。

京都は現在最下位だ。
対して長崎は8位。
ただ、ここで負けると順位が入れ替わる。
画面の中では京都が5連敗している事が述べられている。

私は意外に思った。
もちろん、順位表は見ているので京都の現状は知っていた。
ただ、前半戦は確か強かったはずだけどな、思いながら解説を聞いていると、やはり8節時点で首位だった事が述べられている。
そして、京都の曺監督がこの試合をもって退任することも分かっている。

──多分、京都の選手たちは気持ちが入っているだろう。

私はこれは厄介な試合になるぞと思っていた。

曺監督のインタビューの途中で、爆音でコール練習が始まった。
あっという間に私のiPadからは音が聞こえなくなる。
今日はサンタナ選手だ。
私は席で「サンタナー!」と叫びながら手を突き上げた。
この時私は気がついた。

──まだ彼のユニフォームを着ていなかったことに。

汗をかいたら嫌だなと思ったので、試合直前に着ようと思って忘れていた。
慌てて今の服の上から彼の48のユニフォームを着る。
これで準備は万端だ。

ヴィジョンにはサブの選手たちの紹介が流れている。
それぞれの選手の写真が映される度に、私は名前を呼んでコールする。
ただ、スタメンの選手の紹介の途中で、私のiPadでは選手たちが入場していた。
私は慌てて画面に向かって彼の名前入りタオルを掲げた。

スタメンの選手の発表が終わり、大型ヴィジョンがDAZNの画面に切り替わる。
だがその時、私はとんでもない逆境に晒される羽目になったことに気がついた。
私の席の問題なのか、音量の問題なのか分からないのだが、実況、解説の声が爆音で反響して全く何を言っているのか分からないのだ。
私のiPadの音も塗りつぶされている。
イヤホンを持ってくれば良かったのだが、以前観戦した時は問題なかったので油断していた。
私は実況、解説が聞こえるよう、自分の顔をiPadに近づけながら見るという、不審者極まりない観戦スタイルを強いられることになった。

◆守り抜きたい「0」

17分、後藤選手がゴールキックを放つが、京都の選手がセカンドに反応する。
その先には山口蛍選手がいたが、後ろから京都の選手にのしかかられていた。
そのままボールは京都の選手に渡る。
長崎側にボールが送られるが、エドゥアルド選手がカットする。
ただ、体勢が不安定だったため、ボールが捌ききれず、外にボールが流れてしまう。
そのボールをエドゥアルド選手と京都の選手が追いかけるがエドゥアルド選手が先に追いつき、京都の選手に当てて外に出した。
よくある、何てない事のないプレーなのだが、私はそこに、外に出るとしても長崎ボールにするというエドゥアルド選手の執念を感じた。

19分、長崎の守備の時間だ。
この時解説からは、長崎は5−4のブロックを敷いてますねと言われた。
京都が長崎のゴール側にボールを入れるが、タイミングが合わず、溢れた。
それを櫛引選手が回収した。
ただ、ゴール前には京都の選手が集まっている。
その時、櫛引選手が少し対応に躊躇したのかな?と思われる素振りが見えた。

──その瞬間、私は少し嫌な予感がした。

櫛引選手が後ろに少しドリブルをして後藤選手に渡そうとした。
ただ、おそらく、そのボールが後藤選手の予想と違ったのだろう。
少し慌てて外に出かかったボールを足に当てたら、ボールが少し離れてしまった。
その隙を見逃すはずもなく、京都の選手が猛然とダッシュしてくる。

これを取られたらまずい!

だが、後藤選手はそのボールをすぐにエドゥアルド選手に預けた。
そこから櫛引選手、米田選手とパスが繋がり、危機を脱することに成功した。

ほんの少しの隙でも容赦なく狙ってくる。
これがJ1である事はこれまで嫌というほど味わってきた。
ただ、今までだったら、下手したら失点してたなと思った。
少しづつ、少しづつでも長崎は成長している。

24分、山口蛍選手がファールをもらい、長崎がフリーキックを獲得した。
キッカーはマテウス選手だ。
スタジアムは入れろコールが鳴り響く。
私も照山選手のタオルを回して応援する。
ただ、ハーフラインに近い位置なので、京都のゴールとはかなり距離がある。
一体、どうするのかなと思いながら見守る。

マテウス選手がボールを蹴る。
少し低めの鋭いボールをゴール前に送る。
いくつかパスを経由したのち、サンタナ選手が明らかにアシストするかのようにピトゥカ選手の前にボールを落とした。
ピトゥカ選手がシュートを放つ。
「おお!」と思わず声が漏れたが、シュートは京都のDFに当たり左側に逸れていった。

──本当に惜しいシーンだった。

ちなみにピトゥカ選手がシュートを打つのはこれで2本目だ。
私はピトゥカ選手のゴール意識の高さに嬉しくなった。

31分、京都のコーナーキックだ。
長崎のゴール前にボールが送り込まれる。
そのボールを後藤選手がパンチングで弾き返した。
だがそこには京都のエリアス選手がおり、ヘディングで押し込もうとする。
しかし、後藤選手は手を広げ、文字通り壁のようになりそのボールをまた跳ね返した。
さらに京都がシュートを放ったが、それは枠外へと飛んでいった。
後藤選手は2回連続でゴールを守ったのだ。
多分、2回目は顔か喉の辺りにボールが当たったように見えた。
「体を張る」とはまさにこの事だ。
私は、この時、新上五島町の席を譲った自分を少し誇らしく思い、勝手に満足感を得ていた。

39分、長崎のコーナーキック。チャンスだったはずなのだが、京都に奪われカウンターを仕掛けられる。
まずい、CBは前に出てしまっていて、後ろにいない。
京都は長崎側にいるエリアス選手にパスを届けようとする。
だが、それはピトゥカ選手がヘディングでクリアした、と思ったらクリアにならず、エリアス選手に拾われてしまった。
この時点で長崎のゴール前にはピトゥカ選手と山口蛍選手しかいない。
しかも山口蛍選手のところにも京都の選手がいる。
かなり危機的な状況だ。
だが、エリアス選手のトラップが大きくなったところで今度はピトゥカ選手がそのボールを回収した。

一進一退の攻防というのはこのような事を言うに違いない。

解説は「見応えがありましたよね。」と言っており、確かにその通りなのだが、こちらとしては気が気ではない。
とにかく早く点を取って安心したい。

44分、もう前半も終了間際だ。
エドゥアルド選手がスローインをする。
私はCBの選手がスローインをスローインをするのは珍しいなと思った。
櫛引選手にボールを預ける。
そのまま櫛引選手の隣に戻るのかなと思ったら、前にいるままだ。
おや?と思っていたら、解説も「櫛引選手と翁長選手の2CBのような形になっていますね、エドゥアルド選手と関口選手がSBのような位置を取っています。」と言っていた。
長崎がボールを前に運び、左サイドでエドゥアルド選手と米田選手がワンツーで京都の守備をこじ開けようとする動きが見られた。

──これは明らかにCBの動きではない。

もう、前半残り少ない時間の中で点を取りに来たんだろうと思った。

アディショナルタイムは1分だ。
ここから長崎と京都で激しい中盤の奪い合いが行われたが、スコアは0−0のまま、終了のホイッスルが吹かれた。

◆嬉しさと不安と

ハーフタイムに入り、しばしの休息タイムだ。
私は予めフードウェイで購入し、氷で冷やしておいたローストビーフを取り出す。
どう考えても1人で食べる量ではないのだが、これしか無かったので仕方なく購入した。

そう、「仕方なく」だ。

ただ、先に述べておくと、その空の容器は試合終了後にコンコースのゴミ箱に捨てられることになる。

肉を頬張りながら私はiPadの画面を見る。

京都長崎のデータが映し出され、長崎のポゼッション率が49%である事が判明する。
私は少し意外に思った。
何となく、京都の方が長くボールを保持していたような気がしたからだ。
ただ、シュート数は9本と2本と差をつけられている。
しかし、その時解説から「ゴール前でのプレッシャー、長崎のCBの3人、素晴らしいものがありました。」と褒められ、私は嬉しくなった。
よし、このまま無失点でいくぞ!と私は気合を入れ直した。

しばらくするとピッチではナイトミラージュが始まった。
ピッチにいるサポーターが様々な色で照らされていて、少し幻想的な雰囲気だ。
綺麗だなと思っていたが、同時に私は心配もしていた。
というのも、私の画面ではハイライトが終わり、もうそろそろ後半が始まりそうな雰囲気を醸し出していたからだ。

あれ?これ、後半開始までに終わるのかな?と思っていたら、案の定、私のiPadでは先に試合が始まった。
おやおやと思いながら、自分の画面で試合を見ていたら1分30秒くらいしてから大型ヴィジョンに試合が映し出された。
私はこの間に決定的な得点シーンなどがなくて良かったと思っていた。
せっかくわざわざピースタまで見にきたのに、万が一、長崎の得点シーンが見られなかったら余りにも不憫すぎる。
長崎の運営にそんな意図が無いことは百も承知しているが、私は何となく、試合よりもエンタメを優先したような気がして、少し嫌な予感がした。

◆失われたもの

50分、大型ヴィジョンにプレーが映し出されてから僅か3分と少し。
試合が始まってから少し押され気味だなと思っていたところだった。

京都がスローインから長崎の左サイドを縦パスで突破する。
左サイドをワンツーでかわされ、中にクロスを送り込まれる。
その下にエリアス選手がいた。
ヘディングで長崎のゴールに押し込まれた。

──失点だ。

私はこの時、何でエリアス選手をフリーにしたんだと思っていた。
もう一度、失点シーンが流れる。
クロス対応のため、一瞬だけエリアス選手のマークが外れていたのが分かった。
ただ、この時点で長崎は数的に同数となっていた。
どのみちクロスを送られた時点で勝負はついていたのだ。

私はこの時、関係のない事は分かっていたが、さっきのナイトミラージュの件について、やっぱり試合に集中してないから点を取られるんだと思ってしまった。
とんでもない暴論であることは自覚している。
完全な言いがかりだ。
ただ、今日は無失点でと願った分、この失点のショックは大きかった。

──もう、長崎は点を取るしかない。

60分、マテウス選手が京都のゴールまで迫った時、切り返しで転んでしまった。
その後、ボールは京都に回収されたのだが、プレーがストップした。
何だろうと思っていたら、マテウス選手が手を抑えている。

──映し出された手の小指が曲がっているように見えた。

それを見た時、私はただ事じゃないと思った。
下手したら折れてるんじゃないか。

読者の皆様には申し訳ないのだが、この時の描写は正確ではないかもしれない。
と言うのも、このシーンを見ると私の小指も痛いような気がしてくるため、記憶を頼りに書いているからだ。

タッチラインの外に出るマテウス選手の顔が痛みで歪んでいる。
彼のこんな顔は今まで見た事がない。
長崎サポーターの悲痛な顔も画面に映し出される。
マテウス選手はテーピングをして何とか出場しようとしているようだ。
ただ、痛みのあまり叫んでいる様子が見える。

──その様子を見て、私は息が苦しくなった。

波多野選手と照山選手がそばにいて見守っている。
私は彼のことを優しいなと感じる余裕もなかった。

もう、そこまでして出場しなくていい! 
この試合、負けてもいい!
だから交代して今すぐ病院に行ってくれ!

画面は試合に切り替わった。
一時的に長崎は一人少ない状況だ。
それでも、ボールを京都のゴール前まで運び、攻撃する姿勢を見せた。
だが、やはり前の人数が足りず、京都にボールを奪われた。
京都の攻撃となったところで、マテウス選手がピッチに戻ってきた。
スタジアムからは拍手が巻き起こる。

私はさっき負けてもいいと思った。
だけど、マテウス選手にとっては違うのだ。
どんな事があっても自分がピッチに立ち続けて長崎を勝利に導く。
きっとこれがマテウス選手の覚悟なんだろうと私は思った。

◆あと遠い一歩

68分、後藤選手がユン・スンジュン選手の枠内シュートを素晴らしい反応で弾き出した。
ただ、京都のコーナーキックとなる。
長崎の右側からボールが送り込まれた。
そして、京都の選手に当たった。

と思ったら、長崎のゴールにボールが入っていた。

また失点か…と落ち込んでいたら、攻撃側によるハンドの可能性でVARが行われている事が告げられた。
私は今まで画面に近づいて見る不審者スタイルで観戦していたが、さらに近づいて食い入るように画面を見つめた。
私は全力で「ハンドであれ!」と願った。
しばらく見守っていたら、得点は無しという判定になった。

──良かった。

この1点はとんでもなく大きい。
スタジアムからはどよめきと拍手が聞こえる。
私はほっと大きく息を吐いた。

75分、長崎の交代が発表される。
何と山口蛍選手とキャンベル選手が交代する。
山口蛍選手の出場時間が多い事が分かっているが、リーグ戦最終戦で交代するのかと驚いた。
それだけ本気で点を取りに来ているのだと思った。
山口蛍選手はキャプテンマークを翁長選手に託し、ピッチから去った。

すでに長崎はこの10分前に関口選手と笠柳選手を交代している。

──あと、残る交代枠は3だ。

私はこの時点で照山選手が出場する可能性は限りなく低いなと思った。
前節の神戸戦よりも切実に点を取りに行かなければならない状況だ。
CBよりも攻撃の選手を交代するはずだ。
最悪、終盤のパワープレーもエドゥアルド選手と櫛引選手ならこなせる。
CB陣のコンディション以外に彼が交代する意味は薄いなと思った。

77分、京都のコーナーキックを櫛引選手が跳ね返した。
それは一旦京都に奪われるが、ピトゥカ選手が奪い返し前に送る。
そのパスを受けたサンタナ選手が右側にいるマテウス選手にパスをした。
長崎のカウンターの発動だ。
私は「頑張れ、頑張れ!」と全力でマテウス選手を応援した。
ゴールの近くまでマテウス選手がボールを運ぶ。
だが、京都の選手に阻まれた。
マテウス選手の悔しそうな顔を見た瞬間、私はさっき負けてもいいと思った事を恥じた。
マテウス選手は長崎に勝利を届けるために、その身を削ってプレーを続けてくれているのだ。

──私が勝利を願わないでどうする。

私はポータブル神棚を見た。

試合前にてりたまバーガーを食べながら勝利を願った事を思い出した。
私はとりあえず、そこにあったチョコレートの菓子をお供えしてもう一度祈りなおした。

──長崎の勝利を。

84分、長崎の最後の交代だ。
米田選手から高畑選手、ピトゥカ選手から松本選手、サンタナ選手から山﨑選手に交代した。
この交代で、照山選手はこの試合に出ない事、そして、マテウス選手が出続ける事が確定した。
分かっている。
今求められているのは得点だ。
だけど、この瞬間、彼の百年構想リーグのリーグ戦は終わった。

──仕方がない、これがサッカーなのだ。

私はピッチの選手たちに1点を託した。

私はこの交代でボランチはどうなるんだろうと思っていた。
今までは少なくとも、山口蛍選手、ピトゥカ選手、山田陸選手の誰かがいた。
フォーメーションを見ると、どうやら長谷川選手と松本選手が務めているようだ。
この2選手はどちらかというとシャドーの選手だ。
初めての組み合わせでどうなるかなと楽しみになった。

長崎は交代の勢いそのままに立て続けに攻撃を仕掛ける。
マテウス選手がヘディングを放ち、山﨑選手がシュートを打つ。
だが、それでも京都のゴールをこじ開けることはできない。

スコアが変わらないまま90分が過ぎる。
アディショナルタイムは6分、これが長崎に残された時間だ。

92分、長崎は自陣でスローインを獲得した。
ただ、翁長選手が投げたボールは京都に奪われた。
ワンタッチのパスを繋がれ、長崎のゴール前に迫る。
シュートを放たれるが、それは後藤選手がブロックした。
その跳ね返りのボールをまた京都が押し込もうとするが、また、後藤選手が弾き返した。
連続ブロックだ。
今日は本当に後藤選手に助けられている。
ハイライトを見た人は分かると思うが、後藤選手のナイスセーブ集かと思うほど、活躍している。

──今日も「神後藤」は健在だ。

その後、長崎のカウンターが発動するが、シュートまで辿りつく事ができない。
もう、95分になるとエドゥアルド選手と櫛引選手が前線で張っている。

──終盤のパワープレー要員。

長崎が京都側に迫っていく。
マテウス選手が左サイドから京都のゴール前に素晴らしいクロスを送り込む。
そのまま入りそうな勢いだ。
私は思わず「ああ!」と言葉にならない声を上げる。
ただ、そのボールは目の前にいたエドゥアルド選手を通り越し、京都のゴールのほんの少し右側を抜けていった。

──本当に、あと少し、ほんの少しだったのだ。

そのすぐ後、試合終了の笛が鳴った。

──追いつけなかった。

敗戦だ。

◆京都の夜に残されたもの

画面では曺監督が選手やスタッフたちと喜んでいる様子が映し出されている。
解説は「長崎も最後まで素晴らしいカウンターを見せてくれましたよね。」と言っている。

最後のクロスもそう、本当にあと1歩だったのだ。
その1歩が圧倒的に長崎には足りなかった。

そのまま画面を見ていると後藤選手が曺監督に挨拶をしているのが見えた。
あれ?関わりがあったのかなと思った。
後から調べたら、どうやら湘南で一緒だった事が判明した。
後藤選手の律儀さが分かる一幕だ。

そのまま曺監督の退任セレモニーが始まった。
彼の歩みは何となく私も知っている。
一連の騒動には私も少し思うところはある。
ただ、京都のサポーター、選手、スタッフには愛されていたんだなという事は分かった。

──良い退任セレモニーだと思った。

ただ、長崎がそれに花を添えてしまったのは複雑だった。

私はモバイルオーダーの画面を見た。
ポータブル神棚に備えるためにてりたまバーガーを購入しようと思ったが、もう、営業時間外だった。
残念な気持ちになったが、手に入らないものは仕方がない。
私はさっきお供えしたチョコレートの菓子を再度神棚に備え、真っ先にマテウス選手の怪我が大した事がありませんようにと願った。

そして、いつものように名倉選手を含む選手たちの健康と次の試合の勝利を願った。

これで、百年構想リーグのリーグ戦は終了だ。
順風満帆とは言い難いが、それでもJ1の舞台でプレーをする照山選手が見られて良かったなと思った。

──まだ、過去を振り返るのは早いだろう。

プレーオフがある。
彼が出場するかはもちろん未知数だが、彼が出たら私はまた全力で応援するだけだ。

◆何が私を重くしたのか

さて、読者の皆さんは、この後の私の身にどんな事が降りかかるか分かるだろう。
そう、持ってきたものは持って帰らなければならない。
ポータブル電源だ。
私はテーブルを片付け、両手でそれを持った。
敗戦のポータブル電源は重さも格別だ。
絶対に来る時よりも重くなっている。
でも、これが私が引き受ける責任だ。

私はまたヒィヒィ言いつつ、ピースタを後にした。

車を運転して、家まで帰る。

自宅近くの交差点を曲がったら、警察から止まるように促された。

え?私何かした?
携帯も触ってないし、スピード違反もしてないし…。
私は緊張しながら窓を開けた。

2人組の警察官が近づいてくる。
開口一番、こう言われた。

「あ!Vファーレン!」
私はビックリした。
ちなみにこの言葉は一切着色していない。
本当にこう言われた。
「は、はい、今日、試合があったもので…」
「えー、勝ったんですか?」
「いえ、負けてしまいました…」
「相手はどこだったんですか?神戸?」
「あ、いえ、神戸は先週で、今日は京都です。」
「ああ、京都パープルサンガね。」
パープルはもう、付いていないんです、と言いたかったが、私は気が気じゃなかった。

一体、私は何をやらかして止められたのか。

いつもだったらVファーレンの話をするのは好きなのだが、流石にこの状況だ。
楽しめるわけがない。
「そ、そうですね、あの、私は何か問題が…」
「ああ、すみませんね、ライトが片方消えておりまして」
「え!」
慌てて見てみると確かにライトが切れていた。
「あっ、すみません、全然気が付きませんでした。」
「大丈夫ですよ、早めに替えて下さいね。」
「は、はい、分かりました。」
免許証を見せているとまた、Vファーレンの話になった。
よほど私がユニフォームを着ているのが珍しいようだ。
「今日は何対何だったんですか?」
「あ、1-0で負けちゃってですね。でもGKの方が活躍してくれて何とかこの点数で収まりました。」
「あ、あの大きい人ですよね、後藤選手でしたっけ。」
「はい、そうです。」
「あの人はすごいって聞きますよ。」

どうやら後藤選手の活躍は、ウチの近くの警察署にも届いているらしい事が判明した。
喜ぶべきなんだろうが、判明した経緯を考えると複雑な気分だ。
その後、私の免許証を控えた警察官は気をつけて下さいね、と言って去っていった。

私は狐につままれたような、何とも言えない心持ちの中帰宅した。

余談だが、ライトは次の日にすぐに代えてもらったので、大丈夫だ。

家に帰り、私は車からポータブル電源を降ろした。

ピースタに行く時は「神戸戦の記事を書こう」という希望を積んでいたはずなのに、不思議と帰りの方が重く感じる。

いや、気のせいではないのかもしれない。

神戸戦の勝利も。
京都戦の敗戦も。
マテウス選手の怪我への不安も。
照山選手のリーグ戦が終わったことも。

全部、この中に入っている気がした。

私はまたヒィヒィ言いながらそれを部屋の隅に運び、元の場所へ戻した。

──これでようやく、長かった一日が終わる。

だが、百年構想リーグはまだ終わっていない。

プレーオフがある。

もしかしたらこのポータブル電源も、また出番が来るかもしれない。

次に持ち出す時は、もう少し軽い気持ちで運べるといいな。

そう思いながら、私は静かに部屋の明かりを消した。


◆あとがき

今回の京都戦、かなり書くのが大変でした。
正直に申し上げると、照山選手不在、アウェイで敗戦、マテウス選手の怪我で書く意欲が余り湧かなかったんです。
それでも、書き上げる事が出来たのは、私のブログを待っていてくれる読者の皆様のお陰です。
本当に感謝致します。

次のプレーオフ、ホーム水戸戦は大丈夫ですので、また、しばしお待ちくださいませ。

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楓|青橙ノ記憶 「面白かった!」と思っていただけたら、チップで応援していただけると嬉しいです。 頂いたチップは、蛍さんの好物のヨーグルト代になります。 試合後にポータブル神棚にお供えしてから私のお腹の中へ。 今回も相変わらずの応援スタイルです。

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