
月夜に会いましょう。
日本語ほど自由自在に略語が通じる言語もそうないのじゃないか。
「金夜、空いてる?」と聞けば(すくなくとも書けば)、金曜日の夜の予定を聞いているのだと分かる。
「金曜日の夜」が「金夜」になるのは、英語のFriday nightがつづまって「フライデナイ」に聞こえるのとは根本的に異なる省略で、それなら「きにょびにょる」とかになっているはずだ。
ただ「金夜」は一般的な日本社会の生活スタイル上特権的な地位にあるためこの大胆な省略が許されている節もなくはない。
法則だけ応用すれば、「土朝」とか「木昼」とか「水夕」とかいった概念も作れるが、おおよその人間にとって用事のある場面が少ない。
そんな中で「月夜」は群を抜いて魅惑的だ。
なにせ、月曜日の夜の予定を確認しようと何気なく打ち込んだチャットの、字面と読みの音訓のはざまに
「月夜、空いてますか?」
というヴァンパイアのスケジュールが、
「月夜は出られません!」
というオオカミ男の日程調整が、
不意になだれ込んでくるのだから。
古今東西の魑魅魍魎が来たる月夜に百鬼夜行のお誘いである(オオカミ男が来れないかも知れないのは残念だが)。
月夜だってんでみんな出て来い来いなんて清浄寺の庭に集まれた時代が、もうこんなところにしか見つけられない。