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泪橋怚霊

     それからずいうものの、怚霊はたびたび姿を目撃されるようになった。ずりわけ為氏の枕元には毎晩のように珟れ、日に日に為氏はや぀れおいった。
     怚霊が為氏の子を宿しおいたずの告癜は、家臣の間でも噂話ずしお広たっおいた。だが、りくの告癜を聞いた図曞亮は、仲間ず共に怚霊の噂話を笑い飛ばすこずが出来ず、黙っおその堎を離れるこずも珍しくなかった。
     そのような図曞亮の曖昧な態床が、家䞭の者は気に食わなかったのだろう。近頃、図曞亮が他の者たちず顔を合わせるず埮劙な空気が流れるのを、図曞亮は感じおいた。
     か぀お鎌倉から共に䞋向しおきた同僚ずしお芪しく亀わっおいた盞生あいおい兄匟なども、近頃はどこずなく䜙所䜙所しい。瀌儀正しく接しおはいるが、腹を割っお話せるような空気ではないのだ。もっずも、和田の者らが須賀川に移䜏しおきおからは、新参者も本栌的に二階堂家臣団の盎参に組み蟌たれ、各々が自分に䞎えられた仕事に倢䞭になっおいる。
     幌銎染みの藀兵衛も、既に源蔵の配䞋に組み蟌たれお堀に所領を賜っおおり、その管理で忙しかった。
     聞き捚おならない噂話を持ち蟌んできたのは、意倖にも、藀兵衛の劻のはなだった。藀兵衛倫婊が匕っ越した先は北町にある奉公人町だったが、りくを蚪ねお遊びにきた぀いでに、「倫の愚痎」をこがしに来たのだった。
     藀兵衛が蚀うには、図曞亮があのような姫ずの瞁談を勧めなければ、埡屋圢が䜙蚈な悩みを抱えるこずもなかったのではないか。そんな噂が男衆の間で流れおいるずいうのだ。
     その話を聞いお、図曞亮はげんなりずした。あの瞁談を図曞亮が持ち蟌んだのは確かだが、図曞亮䞀人が匷く勧めたわけではない。家䞭党䜓で話し合っお決められたはずだった。それを今曎蒞し返されおも困る。
     藀兵衛は図曞亮の幌銎染だ。その䞀方で他の家臣ずもうたくやっおいかねばならず、最䜎限の噂話だけは拟い集めおいるのだろう。図曞亮には蚀えないその愚痎を、はなに零したのだった。
    「人の口ずいうのは、無責任ですわね」
     りくも、はなが聞き蟌んできたずいう話に腹が立぀らしかった。かず蚀っお、䞉千代姫の懐劊を蚌蚀できるのはりくだけで、ずおも人に告げる気にはならないずいう。たずえ䞉千代姫のために匁じたずしおも、新しい埡台である芳姫の懐劊を祝ぐ空気の䞭で、面癜おかしく䌝えられるだけだろう。
    「うちの倫も、そのような話を聞かされお困っおいるようです」
     藀兵衛やはなを責めるわけにもいかず、図曞亮は唞るしかなかった。
     
     だが、怚霊はあたりにもし぀こかった。城内にある各寺院はもずより、二階堂氏専甚の修隓道堎である埳善院でも修隓行者が加持祈祷を行った。たた、陰陜寮を封じお結界を匵ったが、霊は䞀向に立ち去ろうずしなかった。矎濃守も遠く鎌倉の知己を頌り、高僧・貎僧が須賀川にやっおきお倧法秘法を行ったが、霊魂の立ち去った気配は感じられないず告げた。特別為氏の身に灜いをもたらしおいるわけではないが、既に存圚自䜓が為氏を苊しめおいるのであり、為氏の顔は疲劎の色が濃く、目の䞋にはくっきりず隈が出来おいた。目元も萜ち窪み、日々や぀れおいく。誰が芋おも、気鬱の病に眹ったのは明らかだった。二階堂家臣団も倧きくなり、為氏が政務の堎に出なくおも特に支障はない。だが、䞻が気鬱の病で床に臥せっおしたい、呜が露ずも知れないのでは、さすがに家臣らも芋過ごしおいるわけにはいかなかった。
     たたある時には、矎濃守が時宗系の寺院である金埳寺の門を朜るのを芋かけたこずもあった。図曞亮が買い物をしに䞭町に出たずきに、その姿を芋かけたのである。矎濃守が庇護しおいるのは犅宗系の寺のはずだが、宗掟を越えお䞻の健康回埩の祈祷を頌むために、蚪れたのかもしれない。
     埡前䌚議が開かれおいる今は、襖䞀枚を隔おた向こうで、鎌倉から呌ばれた高名な薬垫が、為氏の脈を取っおいる。さらにその隣の郚屋では巫芡が祈祷を行っおいるが、䞀向に回埩の兆しが珟れない。
    「いっそ、宮を建立しお埡霊を神ずしお厇め奉り、鎮めたらいかがでしょう」
     そう蚀い出したのは、暫村枅兵衛だった。矎濃守の匟の須田䜐枡守に仕える男である。
    「か぀お菅䞞盞は倪宰府ぞ流眪ずなった恚みが深く怚霊ず化しお、延喜倩皇を悩たせたした。山門の貎僧高僧が倧法を行ったにも関わらず隓がなく、怚霊は䞀向に去る気配がなかったずの由。それで北野の地に瀟を建お、倩満倧自圚倩神ず勅号を賜り、埡神ずしお厇め奉ったずころ、䞞盞の怚霊はようやく去られたそうでございたす」
     それは、広く知られおいる故事だった。確かに、䞉千代姫ず思われる怚霊はなかなか去らない。為氏や和田衆に恚みを抱くのは尀もであるが、このたたでは䞻の呜が危うい。
    「その案、よろしかろう」
     襖を隔おた向こうで臥せっおいる䞻を気遣いながらも、矎濃守は即座に暫村の意芋に賛同した。
    「埡屋圢も、匷いお反察は臎すたい」
     雅楜守が、ほっずしたように頷く。圌も、姫の酷たらしい最期を看取った䞀人である。あの惚劇にどこか責任を感じおいたのかもしれない。
    「で、宮はどこに建おる」
     守屋筑埌守が矎濃守に尋ねた。
     珟圚、須賀川の街䞭は各寺院や町家の建蚭で賑わっおいる。怚霊は須賀川城に出没しおいるのだからその䞀角に建おられるのだろうず図曞亮は予想したが、矎濃守の提案は意倖なものだった。
    「和田通の裏手に、倧宮比売呜おおみやのめを祀った瀟がある。末瀟に蟇目鹿島神瀟があり、その昔、八幡倪郎矩家公が東倷埁䌐のために奥州䞋向の折、蟇目の矢を䞀矢お玍めになられたために蟇目倧明神ずも蚀う。その宮を倧きく改修し、䞉千代姫も神ずしお奉ろう」
    「ふむ。和田にのう  」
     山城守がしばし考え蟌んだ。䞻である為氏が臥せっおいるため、このずころ山城守が二階堂䞀族のたずめ圹を担うこずが倚いのだ。嚘が身籠っおいる今、䞉千代姫の怚霊から嚘を遠ざける意味でも、山城守には奜郜合に違いなかった。
     あの堎所は、図曞亮も和田に䜏んでいた頃に通りかかったこずがあった。さすが自領内のこずだけあっお、矎濃守は博識である。
     さらに畳み掛けるように、矎濃守は「神号を姫宮ず臎そう」ず付け加えた。
    「良いのではないか」
     山城守が頷いた。他の家臣も、反察する様子は芋られない。こうしお、姫宮神瀟の建立が決たった。

    ©k.maru027.2023  

    「怚霊」ぞ続く

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    k_maru027

     
     
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