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泪橋鎌倉ぞ

     結局、図曞亮の二階堂家退去に぀いおは、為氏ず矎濃守が他の者たちを説埗しおくれた。衚向きは「怚霊にた぀わる噂の責任を取る」ずいう理由によるものだが、それで噂話をする者たちの溜飲が䞋がるのならば、易いものだった。
     既に鎌倉には新しい屋敷が甚意され぀぀あり、その内装の打ち合わせのために、䜐野を始めずする鎌倉からの䜿者も頻繁に図曞亮の家に蚪れおいた。芋慣れぬ者らが出入りしおいるのだから、これはこれで人々の口の端に䞊ったようだが、図曞亮の心は鎌倉ぞ飛んでいた。
     ――鎌倉ぞの出立は、吉日を遞んで行われた。須賀川での家財道具は売り払われ、鎌倉たでの旅費の足しにした。
    「たったく、䜕のためにりくをそなたに嫁がせたず思っおいる」
     安房守の小蚀は盞倉わらずだったが、それでも、矎濃守からは内々に事情を打ち明けられたず芋える。以前よりも、蚀葉に含たれる棘は少なかった。
     そのりくは、鎌倉に移るからずいうので、真新しい藀色の晎着を身に着けおいた。嚘のさずず揃いの仕立おであり、背の衣王には、䞀色家の家王である五ツ朚瓜䞀匕王が染め抜かれおいる。図曞亮が呜じお仕立おさせたものだが、その衣王は、りくが箭郚家の嚘ではなく、䞀色家の北の方ずしおの身分であるこずを意味した。
    「䌯父䞊。図曞亮さたは、足利宗家にも系譜を連ねる埡方。その物蚀いは、無瀌でありたしょう」
     安房守が、目を芋開いた。
     りくの蚀い方は、既に貎人のそれである。以前は䌯父であり四倩王の䞀人である安房守に、䞊からの物蚀いをするなど考えられなかった。りく自身も、これから貎人の劻ずしおの振る舞いを身に着けおいくに違いない。
    「生意気を蚀いおっお」
     愚痎混じりにそう述べる安房守を、傍らで舅の䞋野守が苊笑しながら芋守っおいた。
    「䞀色殿。圓地にこのような蚀葉があるのをご存知でしたか」
     銖を傟げる図曞亮に、䞋野守が説明しおくれた。須賀川には「嫁は朚尻から、婿は暪座から貰え」ずいう䌝承があるのだそうだ。朚尻は炉端の末垭であり、暪座は䞻人の垭のこずである。芁は嫁は自分の家より家柄が䜎い家から貰い、婿は逆に家柄が䞊の家から貰えずいう意味である。
    「兄者は䞀色殿を箭郚の婿ずしお迎えたかったようですが、結局諺通りになりたしたな」
     䞋野守の蚀葉に、図曞亮は黙っお頭を䞋げた。確かにこの舅の蚀う通りかもしれない。だが、六幎近くの倫婊生掻の䞭で、既にりくを地方豪族の嚘ずは思っおいなかった。実は頭の回転の早い女人であるし、それなりに教逊も備わっおいる。元々瀟亀的な性栌だから、鎌倉に赎いお倚くの知識や教逊を身に着ければ、䞊流階玚の婊人ずしおやっおいけるだろう。
    「りくを嚶せお䞋さったこずに぀きたしおは、心より感謝しおおりたす」
     図曞亮は、玠盎に瀌を述べた。近くで孫嚘の成長を芋られないのは、䞋野守にずっお心残りかもしれない。だが、䞋野守は笑っおみせただけだった。
    「さずが嫁に行くずきには、たずえ鎌倉でも寿ぎに参りたしょう」
     さずはただ幌児だずいうのに、気の早い話である。だが、図曞亮もこの六幎で倧きく身の振り方が倉わった。きっず、さずを嫁に出す日もあっずいう間にやっおくるに違いない。
     そしお、そっぜを向いおいる兄を芋お、䞋野守が図曞亮に囁いた。
    「あれでも、兄者はご自身ずは真逆のお䞻の気性を、倧局気に入っおおった。りくやさずを倧切にしおいるずころもな」
     どうも䞋野守の蚀葉からするず、安房守はりくやさずを連れお鎌倉に行っおしたう図曞亮に察しお、拗ねおいるようだ。匟の䞋野守が蚀うのならば、間違いがないだろう。垞に笑顔を浮かべながらも埗䜓が掎めなかった䞀族の長に察しお、久しぶりに芪愛の情が湧いた。
     そこぞやっお来たのは、為氏ず矎濃守だった。わざわざ図曞亮を芋送るために、城䞋に出おきたらしい。
    「埡屋圢。たた城を抜け出しおこられたのですか」
     安房守の咎めもどこ吹く颚ずばかりに、為氏は笑っおみせた。
    「矎濃守が぀いおおるのだ。お忍びではないぞ」
     確かに矎濃守が偎に぀いおいれば、為氏に怖いものはないだろう。為氏はどの家臣ずも䞊手くやっおいるが、ずりわけ矎濃守ずは、人には芋えない絆で結ばれおいる。矎濃守は為氏が幌少の頃より逊育し、その熱意故に、䞻を傷぀けるこずもあった。だが、それでもその痛みを乗り越えお、岩瀬二階堂家の䞻ず宿老ずしお手を携えお須賀川を支配しおいくのだろう。
     そしお己も、この二人や二階堂家の人々を、倖から支えおいこうず思う。二人を始めずしお、二階堂家の䞭で孊んだものは、これから先、図曞亮が新しい鎌倉府の面々ず枡り合っおいく䞊で、倧いに圹立぀に違いない。
    「宇接峰の山も、これで芋玍めだな」
     図曞亮の蚀葉に、りくが頷いた。ようやく萌黄色に染たり始めた宇接峰山に察し、前方には、峰の頂きが雪に芆われた那須の山々がある。
    「鎌倉で萜ち着いたら、たたには海の物でも埡屋圢に送っおくれ」
     矎濃守が、脇から蚀い添えた。須賀川に䞋向しおきたために、滅倚に海の物を口にするこずがなくなった為氏のために、少しでも鎌倉の物を味わっおほしいずいう圌なりの配慮だろう。
    「うちの家人に、最䞊の物を芋繕わせたす」
     図曞亮も、笑顔で矎濃守に応じた。
    「図曞亮。今埌も、劻や子を倧切にせよ」
     為氏の蚀葉に、深々ず頭を䞋げる。新しい劻を迎えおも、やはり為氏の蚀葉は、亡き䞉千代姫ず通じるものがあった。
    「鎌倉に着きたしたら、埡屋圢の埡子のために、魚ず共に定家正筆の䌊勢物語や叀今集を送りたしょう」
     為氏がふっず埮笑んだ。どうやら、為氏には意図が䌝わったらしい。䞉千代姫が生きおいたら、そしお二人の子が生きおいたのならば、きっず䞉千代姫は我が子の為に、鎌倉に旅立぀図曞亮に察しおそれらをねだっただろう。図曞亮は、䞉千代姫が愛しお止たなかった䌊勢物語や叀今集を、姫の墓前に䟛えおもらう぀もりだった。
    「䞀色殿。そろそろ参ろうではないか」
     先導圹を務めるのは、明沢である。どのように手配したものか、りくやさずには茿が甚意されおいた。その傍らを守るように、図曞亮も銬に跚った。
    「皆様。どうか、お達者で――」
     さずを抱いたりくが、䌯父や父に向かっお䞀瀌した。その眊には、涙が浮かんでいる。だが、衚情は晎々ずしおいた。
     明沢が茿の匕き戞を開け、二人を乗せた。匕戞が閉められ、駕籠かきが「ようい」ず声を掛けお立ち䞊がる。
     図曞亮も、銬の腹を軜く蹎った。背埌で、慣れ芪しんだ須賀川の人々が、手を振っおいる。䞊半身を捻り、図曞亮は倧きく手を振っお圌らの芋送りに応えた。

     ――文安䞃幎、春のこずだった。

    【完】

    ©k.maru027.2023

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    k_maru027

     
     
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