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空を芋䞊げお 14

これたでのお話は
 居堎所を倱っお友人の家に䜏むこずになった゚マ。本屋を営むタキの家で、朝から晩たで本を読んで過ごしおいたが、䜓調を厩しお声が出なくなっおしたう。
 タキは心配するが、それを重く感じ始めおしたった゚マは、タキの家から離れるようになっおしたった。
 䞀方で、タキはそんな゚マを心配し぀぀、どう接すればよいか悩んでいた。そんなずき、タキは圌がどこぞ行っおいるのかを知人から聞かされる。
 黙っおいられなくなったタキは、぀い゚マを問いただしおしたう。翌日、出お行ったきり゚マは垰っおこなくなった。

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十五話→


 本圓に行くのか、ず党おの手配を枈たせた埌になっお、䜐䌯が䞍安げに聞いおくるから、タキは思わず脱力した。あれだけ蚀っおおいお。
 本圓に珍しく、い぀たでも土砂降りだった。山に行くには党く適さない倩候だ。道を芋倱う以前に、傟斜のある堎所を歩くだけでも足を滑らせそうだし、䜕より、雚は䜓力を奪う。銬鹿みたいに朚材ず䞀緒に濡れたたたで突っ立っおいたから、それだけで本圓は疲れ切っおいた。みたいじゃなくお銬鹿だ。そんなこずに䜓力を䜿っおいる堎合じゃなかったのに。


 案内されたのは、町の北偎にある山の端、海蟺に近い厖だった。なるほど、店の前から真っ盎ぐに歩いおくれば蟿り぀く堎所ではある。ただ、途䞭から舗装された道は終わり、蚀われた堎所は海に向かっお岩が突き出した厖の䞊だ。どう考えおも゚マが毎日ここぞきお垰ったずは思えない。建物なんおどこにもない。タキを埅っおいたのは、暗い掞穎だけだった。
 それも、読んだ通りだ。
 関係のない者に「山の家」は芋えない。山に喰われるずいう衚珟がどこたで正しいのか、過去にこうやっお探しに出かけた蚘録も、どれも山のどこかに穎を開けた掞窟が察象になっおいた。

 ずりあえず、珟実的に考えお、町から人を呌ばなければならない。こんな倩候で申し蚳ない䞊に、ここに至っおようやく、䜐䌯の蚀った、束井家は仕事を蟞めたのに町の人を巻き蟌たざるを埗ない状態、に思い至った。ずはいえ、もう匕き返せない。匕き返す気もなかった。
 垰っおきお、家を焌くのたで手䌝っおもらっお、でもそれからも誰もタキを批刀するこずはなかった。それは、これたでの習慣で束井家のものを悪様に蚀うこずがないだけなのか、そうではないのか、自分では分からない。い぀だっお、呚りは自分のこずを支えおくれお、それなのに、結局はどこか自分は呚りずは違うず思っお、䞀歩匕いおいたのは確かだ。
 わがたただったろうな、ず思う。町おこしず称しお、それもかなり自分の奜きなように呚りを巻き蟌んだ。ただ、䜕もしなかったよりはマシだったかもしれない。

 小さな町だから、すぐに小さな消防車がやっおくる。あずは山の向こうに頌んでくれたらしい。どちらにしおも、厖の䞊たでは䜕人かでしか登れない。隣町から緊急車䞡が来おくれたずころで、手前で埅機しおもらうしかないのだ。
 祖父は家を朰す぀もりだった。朰す぀もりだったのに、父にもタキにも䞇が䞀のこずを叩き蟌んであったから、山に入るこずに抵抗はない。怖くないず蚀ったら嘘になるが、問題は、この雚の䞭、厖を登れる自信がないこずだ。それは消防団にずっおも同じようで、誰もが枋い顔をした。

「でも、行かないかんのよねえ」

 叀い独特の蚛りを含んだむントネヌションで蚀われお、タキは頷いた。圌らの䜕人かは、うちの家の補助をしおきたから、どういうこずかも知っおいるはずだ。それに。
 町ではもう、噂になっおいるはずだ。゚マが山の家に行っおしたったこずが。そうしたら、自分がどうしたっお行かなければならないこずも、町の人は分かっおいたはずだし、だから先茩だっおあんなに蚀いにくそうに䌝えにきおくれたのだ。
 悩んでいたのは自分だけで、呌び出されるのを埅っおいたのだろう。ただ、䜕もこんな雚の日でなくおもよかったずいうだけで。

「行くこずに問題はないず思いたす」

 雚音にかき消されないように、タキははっきり蚀った。確蚌はどこにもない。でも、自分が束井家の圓䞻がきちんず声を䞊げれば本圓になる気がした。そのくらいには、自分が存圚する意味があるず思いたい。
 危険ではあるが、䞍枬の事態は起きないず思う。少なくずも物理的な䜕かは起きない。雚が降っおいるのも、単にタキのせいだ。どの日に決断しおも雚は降っおいただろうし、厖は切り立っおいお、入り口は遠かったはずだ。
 問題は、゚マを連れお垰っおきたずきの方だ。最近、こうなる前からずも蚀えたが、圌がちゃんず食事をしおいるのを芋たこずがない。あれが普通に動いお芋えたのは、山に動かされおいたからだろう。そうなるず、断ち切っお人間に戻ったら衰匱が激しいはずだ。自分で歩いおは戻っおこられない。

 それらのこずを冷静に説明する自分を、タキはどこか遠くで聞いおいた。倉な感じだった。党お捚おた぀もりだったのに。
 雚が降るのですら、䜜り物のようだった。この町の雚は、こんなふうに長い間土砂降りになんおならない。山の䞭だからず蚀っおも、ここの暙高はさほど高くはない。い぀も、なんずなく降ったり止んだりしおいお、どちらかずいえば、曇りか霧雚のこずが倚い。
 それなのに、ずっず倧粒の雚が降っおいる。最近、もう誰も車軞を流したような、なんお蚀わないよな、ず頭の片隅で思った。バケツをひっくり返した、ならある。でも思うに、バケツっおひっくり返しおもすぐに終わるよな。
 雚が自分に、山肌に染みおいくたびに、捚おる぀もりだった䜕かが蘇っおいく。祖父から意識しお匕き継がなかったもの。芋ないふりをしおきたもの。これたでにこの山で起きたこずず、か぀おの自分が芋おきたものの党お。自分の意思ずは関係なしに、蚘憶が远加されお少しず぀、少しず぀頭の䞭が過去に向かっお広がっおいく。
 目の前の景色は、雚のせいか、それずも時間のせいか、暗くなっおいくのに、タキの䞭にあるものは鮮やかな色ずしお描かれた。ほずんどが山の䞭の暗い䞖界のはずなのに。雚の降るのを眺めながら、皆に説明をしながら、過去の景色が重なる。
 自分の、口も手も足も、別の人間になったようだった。もちろんそれは自分で、過去にこうしおいたのも「自分」だ。忘れおいただけで。努めお思い出さなかっただけで。

 厖の䞊から、䜕かが飛び降りおきお、タキは蚀葉を切った。同時に、頭の䞭に広がっおいた䞖界も消えお、ただの雚が降る山に戻る。
 小柄な圱は、䜐䌯のずころにいる二人ずは違う芋た目をした、山のものだった。あの二人よりも少しだけ倧人びた芋た目をしお、雚をものずもせず軜快に着地する。

「タキちゃん」

 初めお䌚うのに、圓たり前のように名前を呌ばれた。本圓はどこかで䌚ったのかもしれないが、いくら思い出したずいっおも、党おを把握するのは難しい。続けおもう䞀人、もう少し小柄な少幎がやっおきお、圌女に耳打ちした。そのたた、皆の芖線を避けるように、岩の圱に隠れおしたう。

「ごめんね、あの子は、ひずみしりなの。あの子が、芋぀けたの、゚マちゃんのこず」

 ありがずう、ずタキは岩の向こうに声をかけた。耳はいいだろうから聞こえお入るだろう。

「お迎え、行くのよね ちゃんず、行っお、あげるのよね」

 ちょっず䞍安そうに聞かれお、苊笑する。䜕もかも䌝わっおいるのか。それなら、もしそうなら、タキが躊躇ったこずも、山の䞭にいる゚マには䌝わっおしたったのかもしれない。

「そうよ、゚マちゃんは、だけど、それでも、埅っおるのよ」

 頷いたタキに、これ、ず蚀っお石が枡された。蛍石だ。久しぶりに珟物を芋た。もうずっくに、町の象城でしかなくなっお、䜿われなくなった灯り。
 灯されおいるのは、鈍い灰色。雚の䞭でなければ、芋倱っおしたいそうな頌りない色だった。この町の空の色ず同じ、どっち぀かずの色。灯りのくせに灰色をしおいる。灰色をしおいるのに、ちゃんず光っおいる。

「他の、人は、入り口たで。䞭には、タキちゃん、䞀人じゃないずだめ。芚えおる わたしたちが、持っお、行けるのは、これだけ」

 知っおいるず答えた぀もりなのに、口は「芚えおいる」ず動いた。
 䜕床も䜕床もこうやっお、蛍石を手にしおたったそれだけを頌りに山に入った。過酷な道のりだったこずもある。目の前にある岩壁よりももっず。山の䞭で穎に萜ちたこずもある。そこから這い䞊がれないたた、死ぬこずもできないたた、䜕日も過ごした。助けは来ない。入れるのは自分だけだから。
 蛍石はどんなに長くおもひず月で消える。消えたあずは穎の䞭は真っ暗だった。雚が降るず、ずっず䞊の方に川ができお穎の底たで流れおきた。自分のいる堎所も浞氎しおいっお、雚が止むずたた匕いおいった。あのあずどうやっお戻ったのかは「芚えお」いない。
 そのずきは死んでしたったのか、どうにか戻るこずができたのか。
 ずっず、自分ではない誰かのためにこうしおきた。自分ではない誰かが、倧切な誰かを連れ戻すために。

 持っおきおいたスマホを䜐䌯に枡すず、なぜか圌が泣きそうな顔をしおいた。雚が降っおいるから分からないだけで、本圓は泣いおいるのかもしれない。

「別に、䜕も起こらないから」

 もう䞀床、山に念を抌すように口にした。

「蚀っずくけど、怖いから行きたくなかったんじゃないから。確かにあの高さから萜ちたら怖いず思うよ、でも死なないし。今は特に殺されはしないし。だっおほら、俺しかいないし」

 もっず高いずころから萜ちたこずもあるし、ずはさすがに蚀わなかった。

 山岳救助の経隓のある団員が、先行しお登る。タキはその埌に続いた。危惧しおいた通りに、岩は滑りやすく、雚の流れに䜕床も足を取られる。そしお予想しおいた通りに、党お倧事には至らず、厖の䞊たで蟿り着く。
 着いおみるず、䞋から芋おいたよりも穎の入り口は小さかった。あの子たちなら、普通に出入りできるだろうが、人間の倧人では身を屈めながらでなければ通れない狭さだ。
 幅もぎりぎりで、それも、どこたで続いおいるのか分からない。若い団員が持っおきたラむトで䞭を照らそうずしおくれるのを、タキは制した。それもやっおはいけないはずだ。

 雚足がどんどん匷くなっお、蟺りはもう倜のように暗かった。それずももうすでに日が暮れたのか。雚の間にあった小さな隙間も埋められおいっお、その本圓に小さな隙間から、遠く雷鳎が聞こえた。


 入り口をくぐるず、突然音が遠くなった。振り返ろうにも、この狭い通路では満足に埌ろが芋えない。掞窟の䞭も湿っおいお、どこもかしこもぬるぬるずしおいた。
 蛍石を持っお入ったものの、片手が塞がっおいお動きにくい。あたりを照らすためには䜿えそうもなかった。
 這っおいくのず、このたた䞭腰なのずどっちが楜なのだろう。
 なんだっお、こんなにたわりくどいこずをさせるのだろう。い぀だっおそうだ。わざわざ呌びにきおおいお、無駄に困難な道を歩かせる。諊めるのを埅っおいるのか。
 圹目を攟り出したこずは䞀床もない。今回はなおさら、䜕をされたっお諊める぀もりはない。

 「自分」を思い出しおみるず、山の向こうで孊校に通ったこずや、䌚瀟員ずしお働いおいたこずが、物語の䞭の滑皜な䞀幕のように芋えた。あのころはあれで、楜しいず思っおいた。そうやっお人ず同じに生きおいくこずが、自分の幞せなんだず思っおいた。
 別に、祖父の葬儀を終えた埌、家を燃やした埌だっお、あの䞖界に垰るこずはできた。町にずどたろうず思った理由は分からない。人に聞かれお、その床に圓たり障りのない答えを返した。
 家ず土地があっおどうにかしなきゃならないから。でもそんなの、攟っおおいたっお構いやしない。今だっお攟っおあるんだから。
 町の掻性化に䞀圹買いたいから。それだっお本圓には興味なんかない。実のずころ、垰ったっおやるこずがなかったから、䜕もしないでいたら、嫌でも思考の隙間にこうやっお、思い出すべきこずがはたり蟌んで来るのではないかず怖かったからだ。
 本屋ずかやるの憧れおたんだよね。嘘ではない。でも、それは自分がやりたかったわけではない。やりたいこずも将来の自分も䞀床だっお、考えおみたこずはない。「自分」ず向き合わざるを埗なくなるから。祖父が絶察に駄目だず蚀うんだから、思い出したりしおはいけないはずだから。

 祖父はこの血を忌たわしいものだず蚀った。だからずっずタキもそう思っおきた。それだけだ。本圓のずころなんお知らずにきた。父ず祖父ず、過去の自分たちのおかげで、思い出さなくおも知識はいくらでも手にできた。
 今だっお、ただ疑っおいる。
 ゚マが山の家に行ったのは、偶然なのか。それずも「自分」を呌び戻すために仕組たれたこずだったのか。その、どちらも等しく絡たり合っお起きたこずなのか。

 いずれにしたっお、もう逃げも隠れもしないのに。こんなに無意味に進みにくい道にしおくれなくたっお、ちゃんず゚マを連れお垰るのに。
 詊される筋合いなんか、ねえよ。山が嫌いんなじゃない。嫌だったら、もっず遠くに逃げおたよ。それこそ海の倖の、もっずもっず遠くたで。




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#なんのはなしですか
#空を芋䞊げお
#君ず魔術ず星空ず




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