
こちら特異状態解決部にて #23
田中は必要なことを遠回りせず、少ない言葉数で話していった。まるで昔のインテリのイメージのように。
「私は責任を取る。生徒会長の座を辞する決意にある」
幕引きを図るには、まずそれが必要か。でも安易な終わり方でもある。生徒会長を任期まで続けようが、途中で辞めようが安易な終わり方と言われることは避けられないのである。
「これを生徒会を管轄する担当の塩川先生に伝える。罰せられる罰を受けるつもりだ」
本人はそう口にしているが、本当にそれでいいのか。すずは止めて欲しいのだろう。俯いた顔を上げて、瞳に視線を送っている。
「強要された。それでいいのでは」
ミカはそう口走ってしまった。
水を差すような言葉だ。相手の決意を鈍らせる。そんな言葉であることはわかっている。
「そうね。ミカの言う通りね。強要されたとすれば筋は通ります。事実、会長はやりたくてやっているわけではありません。それに相手は脅迫を用いて個人情報を奪っている。成立確率は高いです」
「車校に通っていた事実はどうするんだ」
「証拠が無ければ問題ありません。輪志保高校が車校に対して、確認を取るかどうか。まあ、親族の代わりに資料を貰いにいったとかならばどうにでも言えます。認めてもいいですよ。それは会長に任せます」
グレーを突くことはしない。そもそも本人が否定しているにも関わらず、学校はそれをどこまで信じるか。
世間は犯罪行為の方に目が向く。小さな集団のルール違反を大きく非難するだろうか。
勝てないゲームはうやむやにしてわからなくさせる。二人の策はそのやり方であった。
あれから何日か経って、六月三十日。田中は任期満了の日を迎えた。この事実は学校側も重く受け止めているが、田中への処分は七月過ぎに謹慎処分となった。
学校側としても、生徒会長が謹慎となって任期満了前に辞任というシナリオは好ましくないのだろう。汚点となることは間違いない。
七月一日には選挙で当選した二年生の生徒が新生徒会長に就任した。生徒会は何かあったかのようにメンバーを減らして活動していた。
梅雨時期のたまの晴れ。ミカは昼休みの屋上にいた。
先を噛んだストローが刺さった紙パックの紅茶を手に持って、空を見上げる。
本当にこれで良かったのか。誰かのハッピーエンドになることが全てではない。なんでも正せばいいわけではない。矛盾しながらでも、生活をしなくてはならない。
「なんか、物思いにふけている」
そういって、二人の屋上に上がってきた。瞳と稔であった。
「ふけてたか?」
「充分に」
稔が指摘する。そういえばそうなのか。
「お疲れ様、二人共」
稔は別に特異状態解決部の部員ではない。労いの言葉は不要であるが、かけて貰えるとそれは嬉しいか。
「ももは休み?」
「休み。何かあったの」
「いや、別に」
「買ってきたわよ」
瞳がミカにパンを渡す。ミカは乱雑に袋を破ってパンにかじりついた。かじりつき方は物に当たるような感じであるが、普段からこういった食べ方だ。今日だけではない。
「夏休みまであと二十日くらいか」
「ええ、そうね。今年も暑くなる」
「何かあるの?」
急に休みの予定を口にした二人に稔は訊ねる。
「いや、別に」
「そうね」
「……ももを介して何処か行こうか」
「それ、本人のいない所で話すことはないでしょ」
「そうね……あと二十日、何もなければいいわね」
瞳はそう告げる。けれど、ミカと瞳が七月中にある事件に巻き込まれることに、まだ二人は気づいていなかった。