
『待ち合わせ』—何かが呼んでいる—
これは、私が大学生の頃の話。まだスマホが出たばかりの時だったかな。
今でも誰かに「そこで待ってて」って言われると、足が少しすくんでしまう。
その日は、サークルの友達と昼からずっと遊んでた。
カラオケで思いっきり盛り上がって、ボーリングでスコア競って、くだらないことで笑い転げてさ。
絵に描いたみたいな、最高の一日だったんだよね。
中でも、B子とは特別仲が良かった。
寺社巡りが趣味で、そういう類に詳しい子で。
一年の頃からいつも一緒でさ。
明るくて何でも話せる相手だった。
まぁ親友みたいなものかな。
夕方、みんなが解散した後、B子が私を呼び止めていつになく真剣な顔でこう言った。
「ねぇ、この後付き合って欲しいところがあるんだけど……」
「もちろんいいよ」って私は答えた。
B子といる時間が、私は何より好きだったから。
「先に行ってるから1時間後ぐらいに出発してほしい」
それだけ言って、B子は人混みの中に消えていった。
送られてきたのは、行ったこともない場所だった。
繁華街から、バスで1時間以上もかかる場所だ。
とても歩ける距離じゃない。
私はバスを乗り継いで、その場所に向かった。
窓の外が、だんだん暗くなっていく。
明るい看板が減って、人が減って、最後は街灯だけになった。
降りたのは、住宅街から少し離れた、誰もいない空き地のような場所。
中でもいっそう目を引いたのは奥にある、木々に囲まれた大きな鳥居だ。
外観は朽ちていて、長い間手入れされていないだろうことは一目で分かった。
ただ、どこか神々しさを感じる不思議な場所だ。
B子はまだ着いていないようだった。
なんでこんな不気味なところに。
そう思って電話しても出ない。
メッセージを送っても、既読すらつかない。
しばらくそんなことを続けていると、薄暗いところに一人で突っ立っている自分が可笑しくなってきた。
私、何やってんだろうって、つい笑っちゃった。
しばらくして、やっとスマホが震えた。
B子からだった。
「着いた?」
着いたよ、でも誰もいないよ。そう返した。
すぐに返事が来る。
「じゃあそこでさ、鳥居の方向いて、立っててくれる?」
……なんで。
意味が分からなかった。
それでも私は、B子の言うことだ。
何か意味があるのだろうと、指示された通り鳥居の方へ向かって、まっすぐに立った。
「ちゃんと鳥居の方向いてる?」
うん。
「えらいね。そのまま待ってて」
それっきり既読は、つかなくなった。
5分ほどそうしていただろうか。
私はなんだか自分が馬鹿らしくなってきた。
それに理由も告げないでこんなことをさせるB子にもイライラしてくる。
文句の一つでも言ってやろうと思いスマホを開くと、メッセージが届いていた。
「もう帰っていいよ。ありがとうね」
どれだけ連絡しても、そこからの返信はなかった。
数日して大学で見かけたB子は、別人のようだった。
話しかけても空返事で。
口数も少なくなり、笑うことも無くなった。
サークルも辞めてしまい、講義は必修だけ受けてすぐに帰ってしまう。
私が遊びに誘っても「また今度ね」と目も見ないで素っ気なく返事をするだけ。
連絡を入れても返信はない。
あの子に何があったのか。誰に聞いても分からなかった。
あれからずっと、私は考えてる。
B子は、なんで私をあんなに遠くまで行かせたんだろう。
バスで一時間以上もかかるあんな場所まで。
そしてある仮説を立てた。
もしかしたらあそこは、あの子が知ってる中でいちばん安全な場所だったのかもしれないと。
「鳥居の方を向いてて」
あれはきっと振り返るな、っていう意味だったのかもしれない。
私が戻ってこないように。
こっちを見ないように。
あの夜、B子の周りで何が起きていたのか。
私には分からない。
卒業して数年経った今でも、あの日のことが、ふとした時によみがえる。
その度に、申し訳なさと感謝が入り混じったおかしな気持ちになる。
B子にお礼を言わなきゃいけないのは、私の方かもしれない。
ありがとうと、ごめんねと。
もしまた会えたら、そう伝えたい。
ただ、ひとつ引っかかっていることがある。
あの夜、私はずっと鳥居の方だけを向いていた。
その時、背中のすぐ後ろに何かがいたのだとしたら。
それはいったい何だったんだろうかと。
時々無性にあの場所へ行きたくなるのだ。
まるで何かに惹きつけられるように。
果たしてB子は本当に私を守ってくれていたのだろうか。
私は何も知らないままなんだ。
※この物語は、筆者の原案・構成のもと、AIと協働して制作しています。
※見出し画像にAI生成画像を使用しています。