
海羊水前線🎶
本日 海面と羊水面の
見分けが つかなくなった
以下は その前線を読む者たちの
通報だよ
つぎの通報を読み 各問いに答えよ
試験時間は 陣痛の始まりから破水まで
答案は 濡れていてよい
配点は 生まれて来るものの数
いずれの海図にも 記されぬ羊水の
海前線が いま発生した
中心気圧不明 胎圧
依然として下がらず
本前線は 呼称なしだ
前線は 時速ひとりずつ
彼岸へ向けて 北上中
等圧線は すべての臍を中心に
内へ内へと 巻いている
レーダーには胎動
潮が映る 明滅する点は
まだ名のない者の 現在地
産道に沿って 温かく
湿った気塊が 流れ込み
しじまの 産科病棟
その窓だけを 雨が濡らしている
雲を経ない 雨なのだ
産声になりきれなかった声が
そのまま 降る
本日の 降水確率は
生まれてくる 確率に等しい
すなわち 100なのだ
満潮は 陣痛とともに満ち
干潮と ともに退く
ぼくらはヘクトパスカルで
その痛みを 周る
単位はあるが 意味は無い
羊水面と 海面は
もう見分けがつかない
両者の分かれていた 最後の日付を
観測士は 思い出せない
破水ののち 床に
うすく残るのは なごり水
退いた潮が 砂に書きつける
最後の一文字に似て
誰にも読めない
僕らは 前線を読む
もはや天気図と 亀卜の
見分けがつかない
問一
破水を 気象用語として説明せよ
問二
前線の通過後 海面は幾センチ昇るか
問三
次のうち 予兆でないものを ひとつ選べ
問四
通報の呼称欄に まだ名を持たぬ者の名を記せ
前線は 今夜半
われわれの真上を 通過する見込み
答案を回収せよ
濡れていて かまわない
採点は 海面が退いてからとする
それまで われわれは
ただのひとりも 落とさない
ただの ひとりも
(原詩 無花果回)