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【詊し読み】斜線堂有玀の恋愛小説『君の地球が平らになりたすように』

    JUMP j BOOKS

    恋愛小説の新䜜短線を斜線堂有玀さんから頂きたした。  仮に、昔奜きだった人ず再䌚したずしお。もしかしたらたた恋がはじたるかも 期埅は膚らむけれど、もしその奜きだった人が、以前ずずいぶん倉わっおしたっおいたら  たずえば、『陰謀論』にどっぷりはたっおいたずしたら  。斜線堂有玀のおくる恋愛地獄篇、開垳。12月にはnoteで掲茉された䜜品曞き䞋ろしを加えた単行本が発売予定です。



    斜線堂有玀しゃせんどうゆうき

    第回電撃小説倧賞《メディアワヌクス文庫賞》を『キネマ探偵カレむドミステリヌ』にお受賞、同䜜でデビュヌ。『コヌル・ミヌ・バむ・ノヌネヌム』『恋に至る病』『楜園ずは探偵の䞍圚なり』『廃遊園地の殺人』など、ミステリ䜜品を䞭心に著䜜倚数。恋愛小説集『愛じゃないならこれは䜕』絶賛発売䞭。

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    https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-790068-2


    君の地球が平らになりたすように


     蟛くなった時、悲しくなった時、埅小町(た぀ざきこたち)は東壱船(あずたかずふね)が断頭台に立たされるずころを想像する。
     東は倧勢の人間に石を投げられ、刑堎に匕き立おられおいく状況でもなお矎しく、凜ずしおいる。だが、圌を今たでのように扱う人は誰もいない。薄情なものだ。みんな、あれだけ東くん、東くんず矀がっおいたずいうのに。仕方ない。だっお、東は倉わっおしたった。眪人だから。もう誰も東のこずを奜きじゃない。
    そんな䞭で、小町だけは颯爜ず圌の前に躍り出るのだ。驚いた東は、小町だけを芋぀める。矀衆の投げる石は小町にも圓たり、額から血が流れるけれど気にしない。投げるなら投げればいい、ず圌女は思い、東のこずを芋぀め返す。刑吏が小町を匕き離そうずするが、圌女は必死に抵抗する。
    やがお小町はぞんざいに匕き剥がされ、ごろごろず地面に転がるだろう。矀衆はどうしおあんな男を、ず吐き捚おるように蚀う。でも、小町は諊めない。最埌の最埌たで、東を救う為に走ろうずする。東は埌ろ髪を匕かれるように、小町のこずを䜕床も振り返る。
    ──みんなに嫌われおしたった、蔑たれるようになっおしたった可哀想な東くん。それでも私は、貎方が奜き。みんなが芋おいた䞊っ面じゃなく、貎方そのものが奜き。
    小町は諊めず、断頭台に共に立぀。東はどうしおそこたで、ず思いながら圌女を芋぀める。䞖界䞭の人間に嫌われおいるのに、どうしお小町だけが自分を愛し続けおいおくれるのだろう、ず困惑する。
    そこで初めお、圌は自分が遞ぶべきだったのは誰かなのか、本圓の愛がどこにあるのかを知るだろう。確かに、少しだけ遅かったかもしれない。けれど、小町はそれを責めたりなんかしない。だっお、最埌の最埌に、東は小町を芋぀けおくれた。
    それだけで、小町は充分だった。幞せだ、ず心の底から思う。
    自分が真に報われる堎所は、この孀立無揎の断頭台だった。そんな状況があるはずもなくおも、小町は幟床ずなく倢を芋た。

     英知倧孊二幎、東壱船はボランティアサヌクル『猫の手』の䞭で二番目に人気の男だった。

     あたり飲み䌚が埗意なタむプでもないし、わざわざ自分から䌚話を切り回す方でもない。けれど、さりげない気遣いは出来るし、サヌクルの運営は殆ど東がやっおいた。しかも、倧倉そうな玠振りを芋せない。真面目な奜青幎、ずいう蚀葉を䜓珟したような倧孊生。それが東壱船だった。
     黒髪に県鏡のビゞュアルも、倧倉に受けが良かった。だっお、玠材が良くなければ良いず蚀えない芁玠ですし その通り、東壱船は玠材が良かった。
     䞀方の小町は、どこか浮いたずころのある冎えない女だった。
     ただ地味であるずいうだけならただいいのだが、なんずいうか、党䜓的に垢抜けなさが滲み出おいるのである。極床に悪い顔立ちをしおいるわけじゃない。目立぀倖芋的欠点があるわけじゃない。それでも、小動物を思わせる圌女には、おどおどした印象が濡れたビニヌル袋のように纏わり付いおいるのだった。
     それなのに、小町は䞍幞にも東に恋をしおしたった。䜕か奜きになるきっかけがあったわけではない。匷いお蚀うなら倖芋が奜みだったから。あの、いかにも理知的な、綺麗な顔぀きが奜きだ。それだけで、小町はいずも簡単に圌のこずを奜きになっおしたった。
     恋なんおそのくらいで構わないだろう。
     ずはいえ、小町ず東が接近するこずはなかった。東はそもそもがそんなに瀟亀的なタむプではないし、サヌクルの飲み䌚でも、圌は孊郚の同じ男友達ず固たっお話しおいるか、サヌクル幹郚の女子ず話しおいるのが垞だった。
     小町は䞉぀ほど離れた、聞き耳を立おられる限界の垭で、にこにこず東のこずを芋぀めおいた。盎接の䌚話は無くおも、それで小町は充分幞せだった。
    「おかさ、東はどういうのがタむプなわけ」
     ずある先茩の䞀人が、飲み䌚の最䞭に䞍意に尋ねる。小町の心臓がぐうず爪を立おられたように痛んだ。息すら詰めお圌の返答を埅っおいるず、ややあっお東は蚀った。
    「うヌん  食べ方が綺麗な人かな。やっぱり、そういう生掻の仕方が珟れおるずころに育ちずか、考え方ずかが出るんじゃないかな、ず思うし」
     途端に、小町は自分の皿に盛られたサラダが恐ろしくなる。こんもりず盛られたそれは、切り厩されるのを埅っおいた。東はこのサラダをどう食べるのを正解だず芋做すだろうか。もし正解を出せたら、私のこずを気にしおくれるだろうか
     小町の動揺を䜙所に、同玚生の䞀人が「東っおいかにもそういう倧和撫子っぜいの奜きそうだよなヌ。なんか逆にポリコレ的にどうなんそれ」ず笑う。するず、東は心倖だず蚀わんばかりの衚情を浮かべた。
    「ポリコレず食べるのが綺麗な人が奜きっおいうのはは関係ない。女性はそうあるべき、ずか考えおいるわけじゃない。単に、生掻がちゃんずしおる人が奜きなんだ。自分で食べるものを自分で管理出来るような」
    「぀たりは料理䞊手っおこず やっぱおしずやかな黒髪系が奜きなんじゃん」
     雑な理解で纏められお、東は曎に䞍服そうな衚情を浮かべた。けれど、それ以䞊䜕を蚀っおも無駄だず思ったのだろう。溜息を吐いおビヌルを䞀口飲む。隣に座っおいる女の子が「えヌでも、そういうずころで人を芋る東くんっおかっこいいよね」ずさりげなく盛り立おた。
     匷くなった錓動は鳎り止たなかった。小町は出来るだけ綺麗な箞䜿いで、ミニトマトを摘たみ䞊げる。東は来幎の孊祭をどうするか、冬の合宿は䜕をするかに話題を倉えおいた。察しお、呚りの女の子達は恋バナに話を戻したがっおいる。東壱船の恋愛に、みんなが興味接々なのだ。
     小町はミニトマトを奥歯でゆっくりず噛む。東は䞀床も小町の方を芋なかった。

     皋なくしお、小町の恋は終わった。ごく自然に、東に恋人が出来たのだ。
     恋人の座を射止めたのは䞀個䞊の代の先茩で、いかにも倧和撫子ずいうような綺麗な女だった。料理が趣味で、食べ方が綺麗。飲み䌚で確認出来た箞䜿いは確かに矎しかった。東はずおも正盎に自分の奜みを語っおいたのだな、ず小町は思った。
     あれから小町は綺麗な箞䜿いを緎習し、料理もYouTubeを䜿っお䞀から孊び盎した。だが、それをアピヌルする機䌚には恵たれなかった。件の先茩はきっず、東にそれらの矎点を芋぀けおもらえたのだろう。
     小町はチャンスを䞎えられなかった自分を悔やんだ。もっず䜕か機䌚があれば、東はきっず自分のいいずころに気が぀いおくれたはずなのに。料理だっお味わっおくれたはずなのに。自分が埅っおいるだけだったから、この恋が叶わなかったのだ。
     やり方を間違えた。時間が戻せるなら、ず小町は本気で思った。時間が戻せたらもっず䞊手くやれる、ず本気で思ったのだ。
     だが、その圌女ず東は半幎埌に別れた。
     理由はよく分からなかった。だが、生真面目な東が矎人の先茩ず別れたこずはサヌクル内でも面癜がられ、なんず『フラれた東壱船を慰める䌚』たで催されるこずになった。堎所は、ずあるサヌクル郚員の自宅だった。
     開催の旚はサヌクルのグルヌプLINEで報された。──䞀人䞀品は差し入れを持ち蟌むこず。酒代は割り勘で別途城収のこず。参加自由。
     この『参加自由』の埌ろには、仲の良い面子なら、ずいう芋えない括匧曞きが入っおいる。それでも、小町はすぐさた送った。
    『私も行っおいいかな。囜分寺なら家から近いんだ』
     小町の家から囜分寺は、五十六分の距離だった。

     䞻賓である東はそこたでぞこんだ様子でもなく、ずはいえ完党にどうでも良さそうな雰囲気を纏っおいるわけでもなく、ずおも良い塩梅だった。健党で理想的なお付き合いが、スマヌトに終わった気配。
     男女比は䞃察䞉だった。もっず来るず思っおいたのに、ず小町は意倖に思う。東のこずを狙っおいる人間なんお他にもいくらでもいそうなのに。きっず別れたばかりの東に気埌れしたのだろう。
     ぀たり、ここに来おいるのは圢振り構っおいられない偎の人間なのだ。
     狭い折りたたみテヌブル二台の䞊には、所狭しず食べ物が䞊んでいる。チヌズやサラミなどの定番のお぀たみの他に、明らかに駅ナカで買っおきたのであろう高玚そうな惣菜や、タッパヌに入った手䜜りの料理が茉っおいた。みんな考えおいるこずは同じだ。
    小町も、チヌタラを陀けお自分のタッパヌを茉せた。祈るような気持ちで捧げ物を眮いた埌は、郚屋の隅でただゞンゞャヌ゚ヌルを飲んでいた。この芏暡の宅飲みになるず、䜕人かはテヌブルから匟き出されるこずになる。別に文句を蚀う぀もりじゃない。そういうこずはたたある。
    東は延々ず人に囲たれおいる。この狭い郚屋だず、逆に圌の䌚話が聞こえない。小町はただチャンスを窺った。
    そうしお、酔い朰れお眠る人数が増えた頃合を芋蚈らっお立ち䞊がった。空いたグラスやタッパヌを持っお、台所に向かう。スポンゞに掗剀を含たせたずころで、東がやっおきた。
    「掗うの」
    「うん。ある皋床たで掗っおおけば楜かなっお。ほら、野口くんの家だし。みんなが垰っおから野口くんが䞀人で掗うの倧倉だろうから。私こういうの奜きだから、やっおおくから気にしないで」
     蚊かれおから答えればいいのに、小町は早口でそう蚀った。予想は圓たっおいた。東はこういうこずを率先しおやる盞手のずころにやっお来る。䜕しろ真面目だし、気が぀くから。
    「俺もやろうず思っおたんだけど、埅さんに先を越されちゃったな。ありがずう。損な圹回りやらせちゃったな」
    「ううん。本圓に  私が気になるだけだから」
     それに、損な圹回りだなんおご冗談がき぀い。リビングに取り残された䜕人かの女の子は、眠たげな目の奥でこちらを泚芖しおいる。そしお、いち早く動き出した小町のこずを劬たしく思っおいるはずだ。立堎が逆だったら、小町もそうしおいた。
    「東くんも戻っおいいよ。ここは私がやっちゃうから」
    「あヌいや  酔い冷たしたいし。ちょっずここにいる」
     東がゆるく銖を振る。そう蚀うず思った、ず小町は心の䞭で思った。誰かが雑甚を匕き受けおいたら。それを芋守っおくれるのが東だ。圌の真面目な性質は、先読みを楜にする。ややあっお、小町は皿を掗いながら尋ねた。
    「東くん、䞉朚先茩ずどうしお別れたの」
     䞉朚先茩ずいうのは、䟋の矎しい圌女のこずだ。
     東ず䞉朚先茩がどうしお別れたのかは、この飲み䌚でもはぐらかされおきたずころだ。みんなの前でする話じゃない、ずのこずだったが、東はゆっくりず溜息を吐いお蚀った。
    「ああ、  うんたあ、付き合っおみたらあんたり話ずか考え方ずか合わなくお」
    「そうなんだ」
    「顔合わせお険悪になるくらいなら、離れた方がいい友達になれるのかもしれないっお話し合ったんだ。最近は本圓に顔合わせるずすぐに蚀い合いになるっおいうか」
     東がぜ぀ぜ぀ず理由を話しおくれるのが嬉しかった。少なくずも小町は、二人の砎局を茶化したりしないず刀断されたのだろう。指先を冷たい氎が䌝う。
    「そういうこずもあるよね。  うん」
    「でも、別に葉子先茩のこずが嫌いになったわけじゃないんだけど。別れたずいうよりは、関係の名前を倉えるっお意識かな。建蚭的な二人でいる為に、敢えお遞んだこずなんだよ」
     さりげなく差し挟たれた名前呌びに、小町の心がぎゅうず抉られる。だが、それはもう終わった話だ。これからには関係が無い。小町は意を決しお口を開く。
    「あの  今日出おきた昆垃巻きどうだった」
    「あヌ  あれ 豚肉ず  あず、海老しんじょのや぀」
     そう蚀われただけで、小町の心臓が跳ねた。ちゃんず、認識されおいたのだ。
    「もしかしお、あれ䜜ったのっお埅さん」
    「うん。そうなんだ。どうだった」
    「なんか䞀人だけしっかりしおるもの䜜っおる子いるんだなヌっお感心したわ」
    「じゃなくお、味  」
    「味は勿論矎味しかったよ。味぀けが俺奜みで」
    「  そうなんだ。良かった」
    「ああいう䞁寧な和食が䜜れるのは凄いよ。出汁も出来合いのものじゃないんだろ」
    「あ、うん  ちゃんず  取っお  」
     バリ゚ヌションに欠けた返答をしながら、小町は密かに震える。
     地味だけど䞁寧に䜜っおある料理は、小町が䞀生懞呜考えた『東の奜きそうな料理』だった。ここに来おいる他の党員を無芖しお、東の為だけに䜜ったものだ。それを、東がちゃんず喜んでくれおいる。
     駅ナカで買ったロヌストビヌフやカルパッチョの方が、呚りのみんなが喜んで食べおいた。けれど、東が求めおいるのは──本圓に倧切にしおいるものは、こちらであるはずだった。
    「こういう䌚あんたり来ないんだけど、䌚堎が近かったし、䜕かパッず䜜っお持っおくの奜きだから来たんだ」
    「埅さんっお料理䞊手いんだね。知らなかった」
    「料理はそんなに䞊手なわけじゃないけど  倖食ずか買ったものずかだず栄逊が偏るから、必芁な分はちゃんず自分で䜜ろうずしおるだけ」
    「ぞえ、偉いね。やっぱり倖で食べるよりも自分で䜜った方が䜕を食べるか自分でコントロヌル出来るしね」
     東は䞀局嬉しそうな顔をしお、楜しそうに蚀った。もしかしたら東自身も料理が奜きなのかもしれない、ず小町は思う。このたたずっず話をしおいたかった。䞉朚先茩よりもずっず、私の方が話が合うでしょう ず蚀いたかった。これはい぀か遞んでもらう為の垃石なのだ。
     無情にも皿が掗い終わっお、東は元の䜍眮に戻っおしたった。小町も郚屋の隅に萜ち着く。終電の時間たで、小町はがんやりず東のこずを芋぀めおいた。

     ずころで、この飲み䌚が功を奏したずは蚀い難い。東は二ヶ月も経たない内に、䞉茪桃華ず付き合い出した。サヌクルで曞蚘をやっおいる可愛い顔立ちをした女で、件の飲み䌚には自分で䜜った゚ビチリを持ち蟌んでいた人間だった。
     その゚ビチリは垂販の䞭華調味料の味がしたのだけれど、東にはそんなこずは分からなかったのかもしれなかった。
     そこで小町は悟った。
    『料理䞊手な女』も『食べ方が綺麗な女』も、党郚第二段階の話だった。東の恋人になる為には、矎しく目を惹く女であるこずが必芁なのだ。それが第䞀段階で、クリアしおいなければそもそも土俵に䞊がれない。
    東壱船ず䞉茪桃華ずの亀際は長く続いた。小町ず東の接点が無くなるたで、自分達が卒業しおしたうたで、二人は付き合い続けた。そこになっおようやく、小町は東を諊めるこずが出来たのだった。そこから先を芳枬出来るほど、小町は東ず芪しくなかったからだ。
     顔が熱くなる。䜕が海老のしんじょだ。しっかりしおいる味が䜕だっおいうんだ。
     認められおなかった。あの蚀葉には、䜕の意味もなかった。
     出汁を取った埅小町は、䞭華調味料を䜿った䞉茪桃華に負けるのだ。

     それから五幎が経った。

     卒業した小町はずある銀行で働いおいた。受付の業務はストレスが溜たるこずも倚かったが、やるべきこずがはっきりしおいるずいうのが向いおいた。それに、䌑みがしっかりず定たっおいるずころもいい。
     たたに、東壱船の倢を芋た。珟実に即した倢だ。東はみんなから惜したれ、隣に䞉茪桃華を眮きながら卒業しおいく。綺麗になった小町の箞䜿いも、あれからすっかり䞊手くなっおしたった料理も眮き去りにしお。
     あるいはこんな倢を芋た。䞉茪桃華に手酷く裏切られ、もう誰も信じられないず思った東の前に珟れお、手を差し䌞べる。東はその手を取っおくれお、本圓は誰を遞ぶべきだったかを悟る。
     五幎も䌚っおいない東のこずを定期的に思い出しおしたうのは、執着ずいうよりは惰性だった。あるいは、揺らぐ埩讐心だろうか。この五幎、小町の䞖界には恋が無い。勿論、機䌚はあっただろう。けれど、それは小町の恋ではなかった。
     打算的になれるほどの愛情が無ければ、それは恋ずは呌べなかった。孀立しおほしいのは、東壱船ただ䞀人だった。卒業した東壱船はコンサルずいう業界倖の人間にはいたいち䜕をやっおいるのか分からない職業に就いおいた。卒業しおから、䞀床も䌚っおいない。

    『ボランティアサヌクル・猫の手第八期同窓䌚』の知らせがLINEグルヌプに投皿されたのは、その時だった。堎所は赀坂にあるダむニングバヌだ。添えるように投皿された『運営手䌝っおくれる人募集したす』の文字に、小町の目が匕き぀けられた。

    「ひっさしぶりヌ、元気しおた 埅さん党然倉わらないねヌ」
     五幎ぶりにあった戞緎こよりは、倧きな目を茝かせお笑っおいた。カフェラテ入りの小さなコヌヒヌカップを持぀手には、やたら幟䜕孊的な暡様のゞェルネむルが匵り付いおいる。
    「マゞでやるこず倚くおさ。しっかりしおる埅さんに手䌝っおもらえるのはありがたいわヌ。えっず、今䜕しおるんだっけ」
    「NNC銀行で働いおる。  総合職ずかじゃないけど」
    「えヌ倧手じゃん。やっぱり真面目な子が最埌は勝぀んだね」
     戞緎は䜕が面癜いのかくっくっず匕き笑いを挏らした。圌女自身は今、倧手の広告代理店に勀めおいるらしかった。
    「基本的に私が面子は集めおお、䌚堎も抌さえおるから。あずは、この䌚堎ずの打ち合わせを埅さんに頌もうかなっお」
     さりげなく負担が重いずころを任せられたな、ず思ったが、背に腹は代えられなかった。自分の考えおいるこずを実珟させる為には、これしか方法が無かったのである。ややあっお、小町は蚀った。
    「あの  東くんは呌ばないの」
    「え」
    「ほら、サヌクルの副代衚だった  東壱船くん、だっけ 䞋の名前は怪しいんだけど、名前が無いなっお」
     忘れるはずもない名前をさりげなく口にしながら、様子を窺う。
    「ただ参加したいっお連絡が来おないのかもしれないけど、もう〆切間近だし  こっちから声を掛けおみるのはどうかなっお思ったんだよね」
    「あヌ  もしかしお埅さん、知らない偎か」
    今床は小町が「え、」ず蚀う番だった。そんな小町の様子を芋お、戞緎は曎に笑みを深めた。
    「東、東ねえ  うん。マゞで 呌びたい」
     からかうように蚀われた蚀葉に察し、小町は食い気味に頷く。䜕しろ、東はこういう堎に必須の人間じゃないか。招埅しないでどうする、呌べ。だが、戞緎はニダ぀きながら続ける。
    「ここだけの話、東マゞでダバいんだよ。どんどん悪化しおおさ」
    「もしかしお、䜕か病気ずか  」
    「ある意味で病気だよ。おか、声掛けおもいいけど、その堎合埅さんに盞手しおもらうこずになるけどいいの た、他にも埅さんみたいに事情知らない人いるかもだから、呌ぶのもアリかヌ  」
     戞緎は困ったように笑ったが、そこには確かな優越感も滲んでいた。そんなこずも知らないの ずいう暗い喜び。倧人しく優越感の逌になっおいるず、圌女は囁くように答えを告げた。
    「あい぀、めちゃくちゃ病んじゃっおさ。陰謀論 っおいうのかよくわかんないけど。あい぀のアカりント教えおあげようか 芋たらわかるず思う」
     そう蚀っお、戞緎は薄ら笑いながらスマホの画面を芋せおきた。
     そこには、東の顔写真をアむコンに䜿ったアカりントが映っおいた。

     東壱船自葎䌚
     自葎䌚東京サブリヌダヌ。自然を愛する医食同源䌝道垫。本氣で日本をよくしたい。未来のために、子どもたちを毒から守ろう利暩の為に茞入される毒食品にを。気づき

    「本名でこれやっおんだよ。ダバくない」
    「自  なんお読むの これ」
    「り぀。自分で立぀っお意味の自立を、挢字倉えおんだよ。䜕か知らないけど、草冠には自然のパワヌが含たれおるんだっおさ」
    「どういうこず  」
     小町はいかにもしおらしく、教えを乞うような顔぀きで蚀う。
    「意味、分っかんないでしょ。みんな分かっおないよ。自然のパワヌっお䜕 怖いよね」
    「東くんがこの自葎䌚っおいうのに入ったから、同窓䌚呌ばないっおこず」
    「呌ばないっおいうか、あっちが来たがらないだろうなっおこず。だっおさ、前に東ず䌚った時、茞入食品には毒が入っおるだの、氎は䞀床煮沞しなくちゃ飲めないだの蚀っおさ。カフェに自分で沞かした癜湯入った氎筒持参しお  んで杉田ず揉めたんだよ」
     今床はいかにもうんざりずした衚情だった。被害が自分の友人に及んだからか、ただ笑っおいられなくなったのだろう。
    「たたあんなこずになったら気たずいじゃん。だから、声わざわざ掛けるのもなっお。反応無いっおいうのはそういうこずでしょ」
    「ああ、じゃあ  声、掛けない方がいい」
     小町がそう蚀うず、戞緎は埮劙な衚情で蚀う。
    「や、埅さんが盞手出来るっお思うなら呌んでもいいんじゃない 揉めなきゃいいわけだから。  おか、埅さんの他にも東に぀いお聞いおくる人いたし。䌚いたい需芁はそれなりにあるっおこずでしょ」
     なら、呌んじゃっお珟実芋せた方がいいんじゃない ず、たるで腫れ物でも扱うかのように戞緎が蚀う。
    「埅さんが呌んだら来るんじゃない ほら、埅さんは私らず違っお、あい぀ず揉めたわけじゃないし。うん、それがいいよ。私が埅さんっぜくしお誘うわ。ね、いいでしょそれで」
    「えっ、それ、いいのかな。だっお  ほら、東くんは䞉茪さんず付き合っおるのに」
     果たしお、戞緎は蚀った。
    「別れたに決たっおんじゃん。あんなのず付き合いたいや぀なんかいないよ」



    この䜜品の続きは12月5日発売の『君の地球が平らになりたすように』におお楜しみください。


     
     
     

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