
畑のカギ
またか。
AIならすぐに学習してくるであろう。
これで何度目だろうか。
二週間ぶりの畑へ出かけたこの日。
昨年は実らなかったトマトもすくすくと育ち、何度目かの挑戦のかぼちゃも実り始め、やっぱり土や野菜(植物)に触れると気持ちいいなぁ。
と晴れ晴れした気分で、そろそろ帰ろうと車のドアを開ける。
そして、ポケットをいつもの習慣としてたたく。
ん?ん?
音がしない。
まさか。ね。
あるよね?
もう一度たたく。
やはり何の音もしない。
これはやばいぞ、ポケットの中身を手でさぐるが、望んでいるものは出てこない。
そう。家の「カギ」である。
あぁぁー、またやってしまった。
以前書いたが、高速でいくほどの遠方の公園にカギを落とし、家の近くに着いてからそのことに気付いたことがあった。
今回は、家に着く前の畑だ。
畑作業をしながら、一度カギがポケットから落ちたのに気づき、再びポケットに戻したのだ。
だから、畑にある。
それは確かだ。
が、しかし梅雨時期の畑、予想以上に草が生い茂っている。
もしかして畑脇で水汲みしながら落とした?流された?
時刻は13時。
お腹もすいてきたし、お昼を食べたら用事があって出かけなくてはならない。
日中の蒸し暑さと、作業後の疲れで、今からさがすのは素直に「イヤ」だ。
そうは言ってもこのままでは家に入れない。
生い茂った草を大きなシャベルでかき分けるも見当たらない。かけている眼鏡もあまりよく見えずでチリンとも鳴らない。
そのうちトイレにも行きたくなってきた。
いつまでも外をうろついているわけにもいかない。
あ!先日、友人に預けた予備カギを思い出す。
でも仕事で今は家にいないよね。。。
なんと奇跡はあるものだ。友人から「家に居るよ」との返答がきた。
急いでカギを受け取りに。
友人の「大丈夫?」の問いかけに
「わからない。」とだけ返す。
とりあえず家の中に入れた。
まあ、トイレにいくか。
まあ、お昼食べるか。
まあ、用事をすませたあとにさがすか。
「まあ」でいいのか?
もっと焦ろうよ私。
そして、用事をすませて帰ってきた。
あーなんだかちょっと疲れたな。
一休みするか。
なんだ、この焦りのなさ。
余裕なのか?
予備カギがある安心感か?
それともあきらめか?
カギが行方不明になって、3時間半すぎた頃
ようやく重い腰をあげて再度畑へ行こうと決意をする。
なんとかして最短で見つけたい。
いい方法はないだろうか。
そうだ!!
わたしは日ごろから植物を愛している。友人たちにも公認の樹木好きである。
朝起きたら、家にあるハーブや観葉植物に「おはよう」と声をかけ、葉っぱの香りを確かめ、近くの神社のご神木、街路樹と目が合えば、「どう?元気?」と話しかけている。
たまにそよそよ、と揺れる葉っぱが何かしらの反応を返してくれてるように思うのだ。
家を出る前に頼んでみる。
「ハーブさん、さっき畑でカギ落としちゃってね、暗くなる前になんとしても簡単に目につくとこで見つかるようにして欲しい」と、一方的に自分の要望を詰め込みお願いする。
万一、水の中に落としていた場合として防水靴も持ち、よく見えない眼鏡からコンタクトに切り替える。準備万端、いざ出陣。
再び大きなシャベルを持ち、慎重に、ていねいに、一歩一歩草をかき分け進んでいく。
しゃがんだときに落ちるとしたら、この辺か。
など、いちいちしゃがんだり立ったりの繰り返し。
「畑の葉っぱたちよ、カギがある方を示しておくれ。」
全くそよがない。予想以上に反応なし。
こんなにも日ごろ触れ合っているのに、わたしの植物たちへの想いはまだ届いていないらしい。
そんなこんなで5分ぐらいが過ぎた。
赤い紐が見える。鈴らしき形がみえる。!!もしかして、もしかして、期待しちゃうよ。
もしも違ったらのショックを最小限にするために、カギであれ。と念じながらシャベルでそーっと草をかき分ける。
あった!カギだ。
ほぁ〜シャベルを持った腕の力が抜けていく。
畑の子たちと同じぐらい大きく育ったクローバーの葉っぱの下で静かに眠っていた。
夕刻、再び友人宅へお邪魔する。
今回のことを話したところ、友人から返ってきた一言。
「大人の余裕じゃない?」
今日もポケットで鈴が鳴る。