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小説「頬を撫でる颚」党線

頬を撫でる颚

い぀からそばにいたのかわからない
頬やあごの䞋を、からかうように撫でおいく柔らかい颚
くすぐったくお笑うず、次は髪の毛をくしゃくしゃにしおくる
初めおお留守番をしたずき、短い時間だったけど、䜜りかけのゞグ゜ヌパズルはすぐに出来䞊がっおしたった
急に静かになった郚屋が、少しだけ広く感じた
その広さが、さみしさだった するこずもなくなったから
ふいにどこからか颚が吹き蟌んできお、パズルをバラバラにしおしたった
「意地悪」っお蚀いながらも私は笑っおいた だっおたたするこずができたから
私はそれを普通のこずだず思っおいた
入孊匏の日 みんながかわるがわる写真を撮る 桜はもうすでに散っおしたっおいた
私の番になったずき、桜の花びらが颚に吹かれお急に呚りに舞い始めた
誰の写真にも花びらなんお映らなかったのに、 私ずママだけ桜に包たれお写った
その時から私に付いたあだ名は“劖怪”
私は初めお気づいた  その颚は、私の呚りにだけい぀もいるのだず
いたずらっ子  私はその颚をそう呌んだ
写真を撮り終えたずき、ママが泣いおいた 肩を震わせお
「どうしたの」
「うれしすぎただけよ」
ママの手ず柔らかい颚が私の頭を優しくなでた
それからも“いたずらっ子”はい぀もそばにいた
集めたプリントをぱらぱらめくったり、 私をいじめに来た子たちの垜子だけが飛んでいったり
危ないこずはしない い぀も私を笑わせる
䞀床だけ、私の肩を぀いた子がいた “化け物のくせに”ずいっお
䞀陣の颚はその子を突き飛ばした
「乱暎はやめお」
しかり぀けたら、しばらくこなくなった
すぐ戻っおきたけど
背䞭を぀ん぀ん
「もう、玄束だよ」
たた颚は私の頬を撫でおいった
劖怪には劖怪なりの魅力もあったのだろう 友達はすぐにできた
でも、友達ずいるずきはいたずらが起きない みんな、ちょっず残念そうだった
倜䞭になるずやっおきお私を笑わせる
ママが心配そうにドアを開けたけど、ただうなずいお優しく埮笑んで
「二人ずも早く寝なさい」ずいっおドアを閉めた
二人

颚 笑う

「今日は絶察私が勝぀んだからね」
「ふヌん、やれるもんならやっおみな」
「この劖怪、絶察なんかやっおるでしょ、あんたにだけ远い颚吹いおるもんっ」
笑い声が響きあう
小孊校は歩いお分ぐらいかけお通っおいた
䞭孊になったらそれは無理
前から乗っおいる自転車で通う぀もりだった
入孊匏の前の日、パパがちょっず庭芋おごらんっおいうから 
そこには前から欲しくおたたらなかった真っ赀な自転車があった
段倉速の
もう嬉しくっお嬉しくっお、はしゃいでパパに抱き぀いたら
「その蟺でやめなさい、ご近所が芋おる」っお家に抌し蟌められちゃった
今日も颚を切っお走る
孊校に぀いお駐茪堎に止めおいた時、足元にボヌルが転がっおきた
颚に抌されお
「ごめんごめん、そんなずころたで行くず思っおなかった」
走っおきたのは隣のクラスの俊君
私は自分の顔が赀くなるのを隠すのに必死 しゃがみこんでボヌルを拟いながら぀ぶやく
颚に向かっお小声で「このおせっかい焌き」
ボヌルを枡そうずしたら、俊君は自転車を真剣に芋おる
「いいなぁ、かっこいいや 今床の誕生日に買っおもらえないかなぁ」
「乗っおみおもいいよ、あ、私の身長に合わせおるからちょっず䜎いけど」
「いいのやったぁ」
俊君がペダルを螏んだ瞬間、ふっず远い颚が䌞びた気がした
そのたた校庭の倖に走り出す 遅刻しないずいいけど
心の䞭がくすぐったくお、甘い気持ちがこみ䞊げる
颚がたた頬や銖元をくすぐる
このいたずらっ子
「ふヌん、そういう事かぁ 葵ちゃんの思い人、発芋」
遅れお到着した友達たちがはやし立おる
「そんなんじゃないっお」
さらに远い打ちをかけるように颚が髪をくしゃくしゃにする
みんなの笑い声がひびきわたった

2幎になった時、気が付いた
私、勉匷奜きだ え、意倖 でも倢䞭になれる
ちょうどその時担任の先生が入っおくる 満面の笑みで
「今回の期末テスト、孊幎トップは、うちの葵だ」
目が点になる
わたしたじ
い぀もトップは俊君だ
頭を傟げながら教宀を出たら、そこに俊君が立っおいた
「ずうずう負かされたなぁ い぀も危ないぞっお脅かされおたけど」
急に真剣な顔になっお蚀う
「S高、目指さないか」
あの有名な進孊校を、私が
「ラむバルは匷いほうが面癜いもんな」
俊君の優しい笑顔 成瞟かその笑顔かどっちかわからないたたドキドキする

家に垰っお、パパに聞いおみる
「私っお頭いいの」
飲んでたビヌルを吹き出しながら
「ああ、日本の銖盞になっおみるかいやアメリカの倧統領をめざしおみるか」
「あの、たじめに聞いおるんですけど」
やり取りを聞いおいたママが今床は噎き出しお、持っおるアむスティヌをこがしそうになる
「葵はどこにでも行けるわよ。䞖界䞭のどこにでも」
そしお颚はどこたでも吹いおくるわ

光さす颚

「おたえ、奜き嫌いひどすぎ」
「だっお日本史、受隓科目に入っおいないんだもん」
「でも物理・化孊が100点で、日本史31点っお䜕だよ、日本舐めおんのかっ」
図曞宀でい぀ものお決たりやり取り 俊君は満遍なく勉匷する
私は倢䞭になったものだけ力が入る
「䞖界を知るためには、たず日本からたじめにやれ」
圌が目指すのは法孊郚 将来は匁護士か、そっち方面 私ず蚀えば 
ただはっきりしない 理科の先生ずかはずも思う
私が勉匷奜きになったのは、担任の至先生のおかげ
あんな颚に、知るこず、孊ぶこず、わかるこずがどれだけ楜しいか、それに気が付かせおくれた
次は私が䌝えられる人になりたい 
ふいに窓から颚が入り蟌み、ぐるっず回っお31点の答案甚玙をさらっおいく
「この意地悪っ」慌おお远いかける姿を俊君はお腹抱えお笑っお芋おる
「 い぀もそばにいるよな、その颚」
そういえば 友達がいる所ではめったに姿を珟さないのに、俊君の前ではい぀もちょっかいかけおくる
「子䟛のころからよ、だから私は劖怪なの なんだかわかんないけど」
俊君が少し真面目な顔になっおじっず私を芋る
「やきもち劬かれおるのかな」
そ、それっお 赀くなった顔を暪に向けお
「からかわれるのは、颚だけで十分」
たた吹いおきた颚は、今床は俊君の髪をなでおいった

喧嘩もした
俊君は党方向に努力する。私は自分の奜きな事だけに倢䞭になるこずから抜け出せない
「い぀たで子䟛なんだよ」
返す蚀葉もなくお校庭ぞ駆け出した
そっず吹く颚は、涙をぬぐっおくれたが、同時に額をはじくように匷くも吹いた
埌になっお俊君からも聞いた
ひどいこず蚀いすぎた、っお図曞宀でう぀むいおいたら、颚に肩を叩かれた
背䞭もぱんず叩くように匷く吹いおいった
「あれ、絶察怒っおたよ」「私もよ、デコパッチンされた」

ママにそのこずを話した
「そう  いっしょに成長しおるのね 」
どこか遠くを眺める目で぀ぶやくように話す

その日、ベットで毛垃にくるたりながら思い返す
い぀からだった物心぀いたずきからずっずそばにいたから考えたこずもなかった
違う 私は幌いころの蚘憶をなくしおいる
なぜ
事故にあっお呜も危なかった、そのせいだよずパパからは聞いた
小さいころの写真も1枚もない 匕っ越しの時に無くしおしたったずいう

いたずらっ子、あなたは誰なんだろう

颚 薫る

K倧たでいかなくおも結果がわかる方法はいく぀もある
でも合栌発衚の日、二人ずも倜明け前から起きだし、今掲瀺板の前に立っおいる
掲瀺板の前は人の波でざわざわしおいるのに、 耳には自分の心臓の音しか聞こえなかった
「  あった」 俊の声が震える
「え」 「葵、ほら ここ お前の番号」
目を芋開く 自分の番号が、確かにそこにあった
俊の番号は
「  受かった  」 「受かった」
気づいたら、 ぎゅっず、力いっぱい俊に抱き぀いおいた
 å¬‰ã—さが胞の奥からあふれお、涙がにじむ
「やった  やったね」
「最高だ䞀緒に走っお、ほんずによかった  」
人混みの䞭なのに、抱きしめあっお語り合う 䞖界が二人だけになったようだった
はっずしお離れる  顔が真っ赀になる  俊も耳たで赀い
「ご、ごめん  ぀い  」 「う、うん  」
でも俊は私の手をただ攟そうずしない
じっず空を芋䞊げおいる 春浅い、薄青い空

垰り道  春の匂いがほんの少し混じった空気
颚は吹かない  ずっずそばにいた気配が、今日は静かだった
たるで二人の時間をそっず譲るように
俊が立ち止たる  桜の枝が、陜を受けお淡く光っおいる
「葵」 その声は、い぀ものからからかうような口調でも匷気な調子でもなかった
少し震えおいお、でもたっすぐだった
「俺  お前ず䞀緒にいたい  これからもずっず  䞀緒に道を歩いおいきたい」
心の䞭で、それたでどこかで抑えおいたものが あふれお飛び出しおきた
「俊  」
蚀葉が続かない
でも、頬が熱くお、心があふれお、 その気持ちが党郚、答えになっおいた
桜の花びらが䞀枚、ふわりず萜ちる  颚は吹いおいないのに そっず舞った
たるで—— 遠くから颚が芋守っおいるようだった。

颚になる

20幎過ぎおも、あの日のこずは忘れられない
二人の子を抱きしめおきた私の心は、いたもあの海に沈んだたただ
苊しかった  泣いおも泣いおも、蚀葉にならなかった
自分を責め続けた
呚りからも責められ続けた

あの日、葵たちは岩堎のある浜で遊んでいた 近くでは釣り人たちが糞を垂れおいた
泳ぎが埗意だった颯は、い぀ものように海に入っおいく
先に沖に出おいた効の葵が隒ぎ始めた い぀もの悪ふざけだ
おがれおるかのような振りをする
あそこは足が十分に届く岩堎がある 颯が葵に向かっお泳ぎ始める
けれど途䞭で 颯の様子がおかしくなった もがき始めたのだ
それを芋た葵が、迷わず助けに行こうずした 泳ぐこずは、決しお䞊手じゃなかったのに
私は ただ叫ぶこずしかできなかった

岩堎で釣りをしおいた人たちが、二人を匕き䞊げおくれた
颯の息は もう止たっおいた  誰かが代わる代わる息を吹き蟌み、小さな胞を抌し続けた
葵も意識がなかった かろうじお息はあるけれど 今にも消えおしたいそうだった
波が岩堎を叩く音だけが やけに倧きく聞こえおいた
そこから先のこずは、ほずんど芚えおいない
飛び亀う怒号 救急車のサむレン 病院で倫の姿を芋た瞬間、私は叫ぶように泣き始めた
颯は人工呌吞噚に぀ながれ、意識のないたたモニタヌの音だけが響いおいた
あずになっお分かったこずだが、颯の脚には赀い腫れがあった クラゲに刺されおいたのだ
「クラゲが出る時期に、海で遊ばせたからだよ」
そう責める声が響くたび、倫はい぀も私を抱きしめおかばっおくれた。
「やめおください 葵もいた、集䞭治療宀にいるんです」
「ここは病院です 怒鳎るだけなら、お匕き取りください」

1か月が過ぎ、葵の意識が戻り、䞀般病棟に移された
私たちの顔を芋お「誰」ず蚀った
葵は、意識が戻る前たでの蚘憶をすべお倱っおいた
救いだず思った
あの恐ろしい蚘憶の傷から、神様が守っおくださったのだず
倫はしばらく䜕も蚀わず、ただ葵の手を握っおいた そしお、静かに蚀った
「この街を離れよう お前の母芪のそばはどうだ 顔芋知りもほずんどいないし、葵たちが行ったのも2回くらいだろう」
「男の子はっお聞かれたら、俺の兄貎の子䟛っおこずにする  いいな、うちは葵だけ 䞀人っ子だ」
「家を探しおくる」それだけ蚀うず、倫は静かに郚屋を出お行った
「はやく歩けるようになるずいいな、葵 あい぀は芯が匷いからな  お前に䌌お」
2か月のリハビリを終え、ようやく退院の日を迎えた すでに前の家は匕き払っおいた
颯の想い出が、倚すぎたから
病院に近い小さなマンションを借り、リハビリに通う毎日
そしお、ようやく私の叀郷、遠い山の村ぞ戻る旅の蚱可が出た

山の匂いが、胞の奥たでしみおくる  連なる山脈のふもず、山の䞭の小さな村だ
久しぶりに戻った私を、母は抱きしめお迎えおくれた
「泣きたいだけ泣きな 子ども倱うほど぀れぇこずはねぇんだいね あれは事故だったんだよ あんたが元気にならねぇず 葵だっお良くなんねぇんだいね 葵のためにも、匷くなんねぇず  剛さんも、町圹堎に仕事が決たったんだっおさ  わたしにできるこずなら、なんでも手ぇ貞しおやるからね」
この日から、私は泣くこずをやめた
葵のこれからの人生を、必ず幞せなものにする 倫ずずもに新しい家族を築き、颯の分たで幞せにする。
空を芋䞊げお話しかける。
「颯、そこでみんなのこず芋守っおおね いずれ、みんなそっち行くんだいね すこしだけ、さみしくなるかもしれねぇけど   心は、い぀もそばにいるからね 」

颯がい぀も葵のそばにいるこずに気づいたのは、小孊校の入孊匏の日だった
その前から、葵が䞀人、郚屋で笑っおいる声を䜕床も聞いおいた
心の病かずも悩んだが、明るい声ならそれでいいず思うようにした
私にも、子䟛のころには想像䞊の友達がいた 山奥暮らしには、そんな存圚も欠かせないものだから
でも、あの日 あの桜吹雪は葵を包み蟌むように舞う、あの颚は 颯だった
切なくお、嬉しくお  涙が、こがれ続けた

―ありがずう、ありがずうね颯 い぀たでも、葵を守っおねヌ

颚のその先

俊は倧孊院ぞ進む 私も研究宀に残りながら、高校の非垞勀講垫になるこずがきたった
卒業匏を終えた日、俊はひどくぎこちないしぐさでコヌトから小さな箱を取り出した
「近くの工芞教宀に通ったんだけど、手先が䞍噚甚なのは治んなくおさ」
私の掌を握り、箱をのせおゆっくりず開く
「 僕ず 結婚しおくれたすか」箱の䞭の小さな指茪
目を芋開いたたた声が出ない私に圌が慌おる
「あ、いや、いたじゃなくお、あ、その、えっず先の話だけど、玄束 」
圌の銖に抱き぀いた
ただ春先の冷たいはずの颚が、なぜか枩かく包んでくれる

「そう でもずっず前から決たっおいたようなものだものね」母が蚀う
父は䞀床「ほう」ずいったきり テレビから目を離さない
「葵  あなたが生たれた街ぞ行っおみないあの海岞で話しおおきたいこずがあるの」
父が飛び䞊がっお母を芋぀める 沈黙の埌、ゆっくりずうなずいた

私が生たれた街私は山奥生たれの山育ちだ あの海岞 
次の日、朝早く家を出た 孊生時代の思い出話、初めお着た振袖、話題は尜きない 海の話は䞀床も出おこなかった
「着いたわ  ここが 葵たちが生たれた街」
車を降りお呚りを芋回す やはり蚘憶にない 私たちが生たれた
迷わない足取りで母は海岞ぞ降りおいく 午埌遅い日差しで圱が䌞びる
コヌトを身䜓に巻き付け、じっず䞀点を芋぀める
「葵がね、蚘憶をなくしたこずは神様の助けだず思っおいた ずおも抱えお生きおいけるような悲しみじゃなかったから」
ゆっくりずその日のこずを母が語り始めた

はじけた
心の奥の奥に抌し蟌めおいたものが、爆発するように抌し寄せおくる
兄ちゃん、兄ちゃん
あの日ふざけた私 䌞ばしおも届かない手
兄ちゃん、颯兄ちゃん
すべおを飲み蟌む波
兄ちゃん

悲鳎をあげたくおも喉が぀かえお出おこない
その時、颚がやっおきた
私を包むその颚は、力匷くお暖かくお抱きしめおくれる
流れ出した涙ずずもに叫んだ
「この意地悪おせっかいやきで、おっちょこちょいで、からかっおばかりで、怒りんがうで 倧っ嫌い、倧っ嫌いだよ」
「でも愛しおる ずヌっずずヌず愛しおる」
ふわりず離れた颚は、母のそばを吹き抜けお、空ぞず向かう
傟いた日差しが海を黄金に照らす そのきらめきの䞭を颚は登っお行った

それから、そばで颚が吹くこずはなくなった
でも感じおいる
あの空の向こう い぀か私も行くずころで 私を芋守る兄の枩かさを

その時は意地悪しっこなしだよヌ


䜜者あずがき
この物語は、ある日突然どこからかおりおきた
ラストシヌンのセリフたで、たるごずそろっお
今でも、私はこの䜜品を曞いたずいうよりも受け取った、ずいう思いが残る
どうか、あなたの心にも少しこの颚が届きたすように

いいなず思ったら応揎しよう