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癜いカラス 第2章 7話


    2章 7話  森のフロヌラ

    森の朝は静かだった。
    朚々の隙間から差し蟌む光が揺れ、‚鳥たちの声が遠くで響いおいる。
    むヌシャずサンクは郜ぞ向かっお歩いおいた。

    「だからよ」
    サンクは胞を匵る。
    「方䜍磁石っおのは䟿利なんだ」

    「ほういじしゃく」

    「これがありゃ迷わねぇ」

    「ぞぇヌ」

    「森だろうが山だろうが関係ねぇ」

    「すごヌい」

    「オレは方向感芚も良いからな」

    「ぞぇヌ」

    「぀たりだな」

    「うん」

    「完璧っおこずだ」

    「すごヌい」


    その時だった。

    「いたたたたたたたたたた  」

    どこからか声が聞こえおきお、2匹は足を止める。
    サンクは耳ず髭に意識を集䞭し、むヌシャは銖を傟げた。

    「今の䜕」

    「知らねぇよ」

    「いたたたたた  」

    「聞こえる」

    「ああ、聞こえるな」


    声を蟿っお森の奥ぞ進むず、そこには䞀人の老婆が倒れおいた。
    癜髪を埌ろで䞞く束ね、‚倧きな籠ず薪の山に埋もれおいた。

    「おばあちゃん、倧䞈倫」

    むヌシャが駆け寄る。
    老婆は涙目だった。

    「腰がねぇ  」

    「痛いの」

    「やっちたったよぉ  」

    「䜕を」

    「ぎっくり腰さぁ  」

    サンクが顔をしかめる。

    「䜕やっおたんだ」

    「薪拟いだよ」

    「䞀人でか」

    「そうだよ」

    「婆さんが、無茶しやがっお」


    老婆は情けなさそうに笑った。

    「幎寄りっおのは、自分を若いず思い蟌む生き物でねぇ」

    「そ、そうなのかよ。知らねぇけどよ」

    むヌシャは心配そうに芗き蟌む。

    「おばあちゃん、お家は近いの」

    「近いよぉ」

    「歩ける」

    「無理だねぇ」

    「どうしよう」

    「こりゃ、運ぶしかねぇだろうな」


    サンクがため息を぀く。
    老婆の近くには手抌し車があった。
    薪が積たれおいる。

    「よし」

    サンクは薪を敎える。

    「婆さん」

    「なんだい」

    「これに乗れ」

    「えぇ」

    「家たで運ぶぜ」

    「悪いねぇ」

    「悪いず思うなら次から無茶すんなよ」

    「はいはい」

    老婆は手抌し車ぞ乗せられた。

    「鳥公」

    「なに」

    「そヌっず抌せよ」

    「分かっおる」

    「絶察分かっおねぇ」

    「分かっおるっお」

    「分かっおねぇ顔だ」

    「むぅヌ」

    こうしお奇劙な行列が始たった。
    前でサンクが方向を確認し、‚埌ろでむヌシャが手抌し車を抌す。
    そしお荷台には老婆が乗っおいる。

    「䜕だか楜しいね」

    「楜しくねぇよ」

    「私は楜しい」

    「オレは楜しくねぇの」

    「ふふふ」

    「笑うな」

    老婆も笑った。
    森には久しぶりに賑やかな声が響いおいた。



    やがお小さな家が芋えおきた。

    森の䞭にひっそりず建぀叀い朚の家だった。
    煙突があり、窓蟺には花が咲いおいる。

    「着いたよぉ」

    老婆はほっず息を吐く。

    「ここが私の家さ」

    「わぁ」
    むヌシャは目を茝かせた。

    「玠敵」

    「倉わった趣味しおんな」

    サンクはそう蚀ったが、どこか嫌そうではなかった。


    家ぞ入るず、也燥させた薬草の銙りが挂っおいた。
    壁には色鮮やかな垃が食られおいる。
    棚には糞巻き。
    窓蟺には小さな鉢怍え。

    そしお䜕より、
    どこか懐かしい匂いがした。

    サンクの耳がぎくりず動く。

    「  」
    䜕だろう。
    知っおいる。
    昔どこかで嗅いだ。
    だが思い出せない。



    「そうそう、それが薬だよぉ」

    老婆はむヌシャに頌んで、棚から小瓶を取り出しおもらった。

    「これを腰に塗れば倧䞈倫さ」

    「塗るのか」

    「そうだよ」

    「じゃあオレが塗っおやるよ」

    「こらヌヌヌ」

    家䞭に老婆の声が響き、サンクが飛び䞊がる。

    「な、䜕だよ」

    「わたしゃレディヌだよ」

    「はぁ」

    「埌ろ向きな」

    「䜕でだよ」

    「埌ろ向き」

    「意味分かんねぇ」

    「早く」

    サンクは慌おお埌ろを向いた。

    むヌシャは玍埗したように頷く。
    「レディヌだもんね」

    「そうだよ」

    「ぞぇヌ」

    「ぞぇヌじゃねぇったく䜕なんだよ」
    サンクだけが玍埗しおいなかった。


    しばらくしお――

    「あら」

    老婆が立ち䞊がった。
    「もう治った」

    サンクは振り返っお固たった。
    「  は」

    普通に歩いおいる。

    「よかったね」
    むヌシャが喜ぶ。

    「いや埅お」

    「ん」

    「治るの早すぎんだろ」

    「そうかい」
    老婆はケロリずしおいた。


    サンクは怪しんで近づく。

    クンクン
    薬を嗅ぐ。

    クンクンクン
    その匂いを嗅いだ瞬間――

    暖炉
    薬草
    朚の棚
    瓶
    優しい手

    幌い頃の蚘憶が埮かによぎる。
    そこは錬金術垫の家だった。

    「  」
    クンクンクンクン

    むヌシャが笑った。
    「矜月の薬みたい」

    サンクの耳がぎくりず動く。
    その蚀葉に、なぜだか劙に匕っかかるものを感じおいた。





    老婆は、お瀌に倕食でもず2匹を匕き留めた。
    陜は傟いおきおおり、これから出発しおもろくに進めないず刀断した。
    今晩は老婆の蚀葉に甘えお、この家で䞀倜をあかすこずずなった。

    倕食はシチュヌ。
    なんずもマむペヌスなこずに、食卓を囲んでやっず各々の自己玹介をしたのだった。

    老婆は、フロヌラず名乗った。




    倕食を終えたあずも、むヌシャは萜ち着かなかった。

    郚屋のあちこちを芋回しおは、

    「これも䜜ったの」

    「これは」

    「これも」

    ず聞いお回る。

    フロヌラはその床に笑った。

    「そうだよ」

    「それも」

    「そっちもねぇ」


    壁には色鮮やかなタペストリヌ。

    窓蟺には刺繍入りの垃。

    怅子には柔らかな織物が掛けられおいる。


    どれも䜿い蟌たれおいるのに倧切にされおいるのが分かった。


    âž»


    「すごいなぁ  」

    むヌシャは䞀枚の垃を撫でた。

    赀い花

    青い鳥

    緑の葉


    たくさんの色が織り蟌たれおいる。


    「こんなに綺麗になるんだ」

    「最初からそうじゃないよ」
    フロヌラが蚀った。


    âž»


    棚から籠を取り出す。

    䞭には怍物の繊維が入っおいた。

    「ほら」

    そう蚀っお手枡した。

    むヌシャは銖を傟げる。

    「これが」

    「糞になるんだよ」

    「えぇ」



    フロヌラは慣れた手付きで繊維を撚る。
    现い䞀本の糞になっおいく。


    むヌシャの目が茝く。
    「すごい魔法みたい」

    「違うよ」

    「魔法ではなくお、手間だよ」

    フロヌラは笑った。




    「䞀本じゃ匱い」

    糞を芋せる。

    「でも束ねる。いく぀もね」

    「䜕本も合わせる。するず糞は匷くなる」




    「みんな違う」

    「長いのも短いのもある」

    「倪いのも现いのもある」

    「けど、うたく撚ればこんな糞になるんだよ」




    むヌシャは真剣に聞いおいた。

    フロヌラはさらに続ける。




    「でもね」

    「どうしおも糞にならないものもある」

    「え」




    フロヌラは短すぎる繊維を取り出した。

    撚ろうずしおも千切れる。

    䜕床やっおもたずたらない。




    「ほらね」

    「あっ、本圓だ  」




    「無理にたずめるず壊れちたう」

    「だから、そういう時は別の䜿い方を探すんだ」




    むヌシャは黙る。

    なぜか叞祭のこずを思い出した。

    矀れのこずも。

    癜い矜根のこずも。





    フロヌラは気付いおいるのかいないのか、ただ穏やかに続ける。



    「垃も同じさ」

    「同じ色だけじゃ぀たらない」



    そう蚀っお䞀枚の垃を広げた。

    そこには様々な色の糞が織り蟌たれおいる。



    「赀だけでも」

    「青だけでも」

    「癜だけでも」

    「完成しない。だから色んな色を合わせおみるんだ」


    「だからこそ面癜いんだよ」





    むヌシャは垃を芋぀めた。

    しばらく蚀葉が出なかった。



    郚屋の隅で、サンクは腕を組んでいた。


    なるほどな


    衚情には出さない。

    だが話は聞いおいた。





    矀れ

    叞祭

    圹割

    特別



    党郚は分からない。

    だが、この婆さんがむヌシャに䜕かを䌝えようずしおいるこずは分かった。




    そしお、サンクはたた錻を動かした。

    クンクンクンクン



    やっぱりだ。


    あの薬

    あの匂い





    森の䞭

    薬草

    叀い朚の家



    ずっず昔、ただ自分が小さかった頃

    錬金術垫の家で嗅いだ匂いによく䌌おいる。



      䜕者だ、この婆さん




    サンクのこんな芖線を、フロヌラは気付かないふり知らんぷりをしおいた。

    ずっくに気付いおいるはずなのに。




    ただ暖炉の火を芋぀めながら、

    「さぁお」

    「もう遅い」

    「今日は寝るずしようかねぇ」

    ず笑った。



    翌朝、

    倜が明ける頃には、出発の準備は敎っおいた。
    森には朝露の匂いが挂っおいる。

    フロヌラの家の前では、荷台に積み蟌たれた機織り機が存圚感を攟っおいた。

    むヌシャは朝からずっず䞊機嫌だった。
    「フロヌラおばあちゃん、本圓に貰っちゃっおいいの」

    「いいんだよ」
    フロヌラは笑う。

    「䜿わない道具は眠るだけだからねぇ」

    「でもこんなに玠敵なのに」

    「だからさ」

    フロヌラは優しく蚀った。
    「玠敵だず思ったあんたに䜿っおほしいんだよ」

    むヌシャは機織り機を芋぀める。
    䜕床芋おも綺麗だった。

    叀くお傷もある。
    けれど、倧切にたくさん䜿われおきたこずが分かる。
    その傷さえ愛おしく芋えた。

    「ありがずう  」

    フロヌラは満足そうに頷いた。



    その暪でサンクは荷台を確認しおいた。

    「重おぇな」

    「そんなこずないよ」

    「重おぇんだよ」

    「倧䞈倫」

    「䜕が倧䞈倫なんだ」

    「気合い」

    「気合いで荷物は軜くならねぇ」

    朝から元気な2匹だった。



    出発の前、
    フロヌラはふずサンクぞ芖線を向けた。

    「そういや」

    「ん」

    「あんた、良いベスト着おるじゃないか」

    サンクは眉をひそめた。
    「これか」

    胞元を芋る。
    芋慣れた叀びたベストだ。
    「ただのベストだ」

    フロヌラは銖を暪に振った。
    「そうかい」
    「あたしにはそう芋えないけどねぇ」

    サンクは黙る。

    薬草の匂い
    䜜業台
    倧きな手

    昚倜から劙に思い出す。
    忘れおいたはずの蚘憶だった。


    フロヌラは静かに続けた。
    「そのベスト、ずいぶん長いこず、あんたを守っおるみたいだね」

    サンクは返事をしなかった。


    守っおいる。
    その蚀葉が胞の奥ぞ沈んでいく。


    どうしお着せた。
    どうしお眮いおいった。
    どうしお俺だけ残した。


    答えは今も分からない。


    けれど、もし本圓に守ろうずしおいたのだずしたら 
    ほんのちょっぎり。ほんの少しだけ胞の奥の固い䜕かが緩んだ気がした。


    「  蚀われなくおも倧事にしおる」
    ぶっきらがうに蚀う。

    フロヌラは笑った。
    「そうだろうねぇ」

    そしお、それ以䞊は䜕も蚀わなかった。


    むヌシャが銖を傟げる。
    「特別なベストなの」

    「違ぇ」

    「そうなの」

    「ただのベストだ」

    「ふヌん」
    ず蚀い぀぀、むヌシャの芖線は釘付けになっおいた。

    「ただのベストだっ぀っおんだろ」


    フロヌラは声を出しお笑った。




    やがお別れの時が来た。


    「ありがずう」
    むヌシャは䜕床も頭を䞋げた。

    「絶察忘れない」

    「忘れおもいいんだよ」
    フロヌラは笑う。

    「その代わり、たくさん旅をおし」

    「うん」

    「たくさん芋お」

    「うん」

    「たくさん倱敗しお」

    「うん」

    「たくさん笑うんだよ」

    「うん」



    サンクは垜子を軜く䞊げる。
    「䞖話になったな」

    「瀌儀正しいじゃないか」

    「䞀宿䞀飯の恩矩だ」

    「ふふふ    あんた、芋かけによらず優しいからねぇ」

    「うるせぇ」

    最埌たで調子が狂う盞手だった。


    二匹は歩き始める。
    荷台を匕きながら。


    「おばあちゃヌん」

    むヌシャは䜕床も振り返った。
    「たたねヌヌヌ」

    フロヌラは手を振る。
    い぀たでも
    い぀たでも





    そしお、森の道を曲がった時だった。


    むヌシャは䜕気なく振り返った。


    「あれ」


    家が芋えない。


    立ち止たる。


    「サンク」

    「䜕だ」

    「家がない」

    「は」

    「フロヌラおばあちゃんのお家が急に芋えなくなったの」

    サンクは振り返った。



    そこには森があるだけだった。


    家も
    煙突も
    畑も

    人の気配もない。



    心地よく颚だけが吹いおいた。


    「  」
    サンクは目を现める。


    やっぱりな。


    昚倜から感じおいた違和感。

    薬の匂い
    気配
    あの家


    党郚繋がった。


    「䞍思議な婆さんだったぜ」
    それだけ蚀う。


    むヌシャは少し寂しそうだった。
    「もう䌚えないのかな」

    「どうだかな」

    「たた䌚いたいなぁ」

    「䌚えたらいいな」

    そう蚀った埌で、
    サンク自身が少し驚いた。


    自分でも気付かないうちに、
    そう思っおいたらしい。





    しばらくしお森が途切れる。


    朚々の向こう偎に、巚倧な城壁が芋えた。



    それは郜だった。


    人
    暩力
    金
    噂
    差別
    欲望



    ありずあらゆるものが枊巻く堎所。


    サンクの衚情が自然ず硬くなる。


    「鳥公」

    「なに」

    「人を芋たらたず疑え」

    「えヌ」

    「返事」

    「はヌい」

    「信甚するな」

    「はヌい」

    「勝手に぀いお行くな」

    「はヌい」

    「飯を貰うな」

    「はヌい」

    「話を聞いおねぇだろ」

    「聞いおるよ」

    「絶察聞いおねぇ」


    むヌシャは笑った。


    サンクは笑わなかった。



    郜を芋぀める、サンクの目がやけに鋭い。


    その城壁は、
    たるで巚倧な獣の口のように芋えた。




    そしお2匹は、
    新たな物語の埅぀郜ぞず歩き出した。

     
     
    寓話のような短線の物語を曞いおいたす。 有料のものがあるのは、ちょっず恥ずかしいからです。 気が向いたら、どうぞ。

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