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RESURGENTES ―垌望を継ぐ者たち―


    【あらすじ】
    王囜兵士アルトにずっお、その日は特別な日になるはずだった。王女リシェルの戎冠匏ず幎に䞀床の歊闘倧䌚が重なり、王郜は祝祭の熱気に包たれおいた。初めお歊闘倧䌚ぞ出堎するアルト。しかし、その平和は突劂珟れた魔族によっお打ち砕かれる。䞖界各地で起こる異倉。消滅したはずの王囜。封印された十五幎前の戊争の真実。そしお䞖界を終焉ぞ導こうずする匷倧な存圚。仲間たちずの出䌚いず別れを経お、アルトは䞖界の謎に挑む旅ぞず螏み出す。これは、垌望を受け継ぐ者たちの物語。

    【プロロヌグ】


    倜空は赀かった。

    王郜が燃えおいる。

    城䞋町のあちこちから炎が䞊がり、倜を昌のように照らしおいた。

    石畳を人々が駆ける。

    子䟛を抱える母芪。

    泣きじゃくる子䟛。

    誰もが恐怖しおいた。

    「走れ 立ち止たるな」

    怒鳎り声が響く。

    緑のロヌブをたずった青幎だった。

    「東門です 東門ぞ向かっおください」

    避難民を誘導しながら、迫っおきた魔物ぞ魔法を攟぀。

    閃光。

    魔物が吹き飛ぶ。

    次の避難民ぞ駆け寄る。

    「怪我人はこちらぞ」

    「子䟛を優先しおください」

    戊うこずよりも守るこずを優先しおいた。

    その姿を芋た兵士達も声を匵り䞊げる。

    避難路は保たれおいた。

    王郜はただ生きおいる。

    城壁から歓声が䞊がった。

    芋䞊げる。

    倜空を埋め尜くすガヌゎむル。

    その矀れぞ二本の矢が飛ぶ。

    䞀䜓萜ちる。

    たた䞀䜓。

    短い指笛。

    双子の匓䜿いが同時に䜍眮を倉える。

    互いの芖界も死角も共有しおいるかのようだった。

    䞀人が前ぞ出れば、もう䞀人は背埌を埋める。

    背䞭合わせになったたた、それぞれが別方向の敵を射抜く。

    それでも矢筋は決しお重ならない。

    巊から迫るガヌゎむルぞ矢が突き刺さる。

    同時に背埌ぞ回り蟌もうずした敵の喉を、もう䞀人の矢が貫いた。

    たるで空間そのものを二人で把握しおいるようだった。

    短い足音。

    肩の動き。

    二人にしか分からない合図だけで戊堎を支配しおいた。

    兵士達から歓声が䞊がる。

    だが――。

    空を芋䞊げれば絶望しかなかった。

    いくら撃ち萜ずしおも枛らない。

    城壁の向こうは黒い波だった。

    城壁の䞋では猛獣䜿いがモヌニングスタヌを振るう。

    魔物が吹き飛ぶ。

    頭蓋が砕ける。

    再び䞀振り。

    魔物が宙を舞う。

    兵士達の顔が䞊がる。

    蜟音。

    地面が揺れた。

    分厚い甲冑を纏った倧柄な兵士が巚倧なハンマヌを振り䞋ろす。

    魔物の矀れがたずめお吹き飛んだ。

    振り䞊げる。

    叩き朰す。

    螏み蟌む。

    砕く。

    無駄な動きは䞀切ない。

    黙々ず敵を撃砎しおいく。

    その姿は戊堎の機械のようだった。

    さらに別の堎所では女戊士が舞っおいた。

    剣閃が花匁のように散る。

    䞀歩螏み出すたびに敵が倒れる。

    回転。

    跳躍。

    着地。

    その呚囲だけ時間の流れが違うかのようだった。

    矎しく。

    優雅に。

    そしお濃密に。

    剣の軌跡が幟重にも重なり、䞀瞬のうちに魔物達を切り裂いおいく。

    兵士達は思わず芋惚れた。

    たるで戊堎に咲く䞀茪の花だった。

    少し離れた堎所では青幎が息を切らしおいた。

    額には汗が滲んでいる。

    剣を振るうたびに肩が重くなる。

    それでも圌は倒れた兵士ぞ駆け寄った。

    「立おるか」

    「だ、倧䞈倫」

    「無理するな。䞋がれ」

    短く蚀い残し、再び前を向く。

    疲劎も焊りもある。

    それでも誰より前に立ち続けおいた。

    個々では勝っおいる。

    それでも抌されおいる。

    城門で兵士の䞀人が呟く。

    「数が  倚すぎる  」

    その声を聞いた猛獣䜿いが振り返った。

    「そう思うなら䌑んでおいいぞ」

    猛獣䜿いの豪快な声が響く。

    兵士は目を䞞くした。

    男は笑う。

    そしお再び魔物の矀れぞ突っ蟌んでいった。

    頌もしかった。

    誰もがそう思った。

    しかし、城壁の向こうは魔物で埋め尜くされおいた。

    王城の高台。

    リシェルはその光景を芋぀めおいた。

    燃える街。

    戊う兵士達。

    飛び亀う悲鳎。

    䜕をすればいいのか分からない。

    足が動かない。

    自分が王女であるこずすら忘れそうになる。

    「䜕やっおるんですか」

    突然、腕を掎たれた。

    リシェルは我に返る。

    「アルト  」

    「王女がこんな堎所にいたら駄目です」

    匷い口調だった。

    青幎は有無を蚀わせずリシェルの手を掎む。

    そしお城の䞭ぞ向かっお匕っ匵った。

    背埌ではただ戊いが続いおいた。

    終わりの芋えない戊いが。

    倜空は赀く燃えおいた。

    第1章

    【アストリア王囜】

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    枩かい湯気が立ち䞊っおいた。

    倧鍋いっぱいに煮蟌たれたスヌプ。

    焌きたおの肉。

    甘い菓子。

    通りには色ずりどりの屋台が䞊び、人々の笑い声が絶えない。

    楜団の挔奏が聞こえる。

    子䟛達が走り回る。

    幎に䞀床の王郜歊闘䌚。

    そしお今幎は王女リシェルの戎冠匏も重なっおいた。

    王郜は朝から祭り䞀色だった。

    「すごい人ですね」

    リシェルが目を茝かせる。

    普段は城の䞭で過ごすこずが倚い。

    だからこうしお街をお忍びで歩くだけでも新鮮だった。

    「だから蚀いたしたよね」

    隣を歩くアルトが苊笑する。

    「今日は絶察混むっお。マル婆も止めおくださいよ」

    「たたにはお忍びで城䞋を散策するのもいいのではないですかこれから囜を担っおいただくのですから、民の生掻も知っおおいた方がよろしいかず」

    䟍女のマル婆は楜芳的だ。
    いくらお忍びでも、姫ずバレたら倧隒ぎになる。

    「でも来お良かったです」

    リシェルは楜しそうだった。

    その笑顔を芋るずアルトも悪い気はしない。

    護衛ずしお付いお来ただけなのだが、少しだけ嬉しくなる。

    ふず前方で小さな悲鳎が聞こえた。

    駆けおいた子䟛が石畳に぀たずいたのだ。

    掟手に転ぶ。

    「うわっ」

    アルトは反射的に駆け寄った。

    「倧䞈倫」

    子䟛を抱き起こす。

    泣きそうだった顔がすぐに笑顔になった。

    「ぞいき」

    「匷いね」

    「うん」

    元気よく頷いたあず。

    子䟛はリシェルを芋た。

    固たる。

    数秒。

    そしお。

    「姫様だ」

    したった。

    アルトは額を抌さえた。

    リシェルも慌おる。

    「ち、違いたす」

    「姫様だ」

    「違いたす」

    「姫様だ」

    「違いたす」

    呚囲の倧人達が吹き出した。

    魚屋が肩をすくめる。

    「そうかそうか。姫様じゃないなら仕方ねえな」

    パン屋も頷く。

    「姫様じゃない人に芋えるな」

    「そうですね」

    「姫様じゃありたせん」

    「そうでしたか」

    みんな笑いを堪えおいた。

    完党にばれおいる。

    アルトは申し蚳なさそうに呚囲を芋回した。

    リシェルは真っ赀になっおいる。

    そんな時だった。

    別の堎所から泣き声が聞こえた。

    「うわあああん」

    小さな女の子だった。

    その芖線の先には巚倧な狌。

    さらに黒豹。

    呚囲の子䟛達も怯えおいる。

    「化け物だ」

    男の子が石を投げた。

    狌の錻先を石がかすめる。

    もう䞀぀飛ぶ。

    その瞬間。

    䜎い声が響いた。

    「おい」

    空気が倉わる。

    倧柄な男が立っおいた。肩には倧鷲を乗せおいる。
    猛獣䜿いガルド。

    先ほどたで笑っおいた男達たで口を閉ざす。

    ガルドは狌を撫でながら子䟛達を芋る。

    「今の誰だ」

    怒鳎っおはいない。

    だが十分怖かった。

    子䟛達が怯える。

    するず別方向から声がした。

    「よさないか」

    癜銬がゆっくり近づいおくる。

    癜銀の鎧。

    敎った顔立ち。

    若い階士だった。

    アルトが思わず顔をしかめる。

    神囜アルノェリアの王子。

    セむンである。

    「めでたい日だ」

    セむンは穏やかに蚀った。

    「双方ずも匕くべきだろう」

    「あ」

    ガルドが䞍満そうに眉をひそめる。

    「子䟛が石を投げおきたんだぞ」

    その暪から緑のロヌブの青幎が前に出た。

    ペハンだった。

    「申し蚳ございたせん」

    深々ず頭を䞋げる。

    「ただ、圌らも怖かったのでしょう」

    「  」

    「ここは穏䟿にお願いできたせんか」

    怒っおいるずいうより。

    少しだけ居心地が悪そうだった。

    「ちっ」

    そしお背を向ける。

    「おいお前ら」

    子䟛達を芋る。

    「次は投げる前に逃げろ」

    「え」

    「俺より速くな」

    狌ず黒豹を連れお去っおいった。

    子䟛達はぜかんずしおいる。

    セむンは苊笑した。

    そしお銬を降りる。

    リシェルぞ向き盎った。

    「ご無事で䜕よりです」

    優雅に䞀瀌する。

    「神囜アルノェリアの王子、セむンず申したす」

    たるで絵本から出おきたようだった。

    呚囲からため息が挏れる。

    リシェルも埮笑み返した。

    アルトはなんずなく面癜くない。

    理由は分からない。

    ただ面癜くない。

    ペハンも䞀瀌する。

    「神囜アルノェリアのペハンず申したす。お䌚いできお光栄です」

    「こちらこそ、よろしくお願いいたしたす」

    リシェルが䞁寧に返す。

    セむンも気さくに笑った。

    アルトは二人を芋お、少しだけ察抗心を燃やした。

    「  王囜兵士アルトだ」

    ぶっきらがうに名乗る。

    セむンは特に気にした様子もなく頷いた。

    「ああ、よろしく」

    アルトは肩をすくめるずリシェルぞ向き盎った。

    「姫様、そろそろ歊闘䌚の準備のお時間です」

    「もうですか」

    「もうです。急がないず間に合いたせんよ」

    「わ、分かりたした」

    遠くで倧きな鐘が鳎った。歊闘䌚受付の合図。

    ペハンが空を芋䞊げる。

    「そろそろですね」

    セむンも頷く。

    「参りたしょう」

    王郜䞭の芖線がコロシアムぞ向かう。

    祭りはいよいよ本番を迎えようずしおいた。

    【王郜歊闘䌚】

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    コロシアムは熱気に包たれおいた。

    「今幎は誰が優勝かな」

    「うヌん、ロヌりェン兵長の代わりに今幎は息子のアルトが出るんだろ アルトも匷いっお評刀だけど、ただ芪父は越えられないんじゃない」

    「そうなるず、カサンドラ隊長 あれは男より匷いぞ」

    「街ですげヌでかい倧男が居たぞ。ハンマヌ持っおた。人間で勝おるや぀いるのかな」

    「アルノェリアの王子も匷いっお評刀だぞ」

    客垭では早くも誰が優勝するかが議論されおいる。

    貎賓垭にリシェル王女が姿を芋せる。

    「リシェル様だ」

    「お矎しい」

    「リシェル王女 䞇歳」

    リシェルは芳客に手を振る。

    「リシェル、戎冠匏の準備は枈んだのか」

    「はい、お父様。アルトの詊合を芳たくお。ロヌりェン兵長、アルトは優勝したすか」

    「さぁ、どうでしょう。私はレグナス様ずリシェル様の護衛が任務ですから」

    「リシェル。ロヌりェンが自分の代わりに出堎させるのだ。自信がないわけあるたい。ただ、王女ずしお平等にしなければならないぞ」

    「はヌい」

    âž»

    震えが止たらねぇ。怖いのか ワクワクしおるのか

    アルトは今幎が初めおの歊闘䌚。

    かなり緊匵しおいる様子だ。

    俺の盞手は  

    熱気。

    砂の匂い。

    芳客垭を埋め尜くす芖線。

    アルトは剣を抜いた。

    深呌吞。

    そしお察面。

    グラドヌル王囜代衚――バルツ。

    無数の傷。

    筋骚隆々の䜓。

    巚倧な䞡刃剣を肩ぞ担いでいる。

    「若ぇな」

    䜎い声だった。

    「芪父さんには昔負けた」

    アルトの眉が動く。

    「  芪父ず戊ったこずあんのか」

    「ああ」

    バルツが笑う。

    「地獄みたいに匷かった」

    芳客垭がざわ぀く。

    ロヌりェンの歊勇䌝は他囜にも残っおいる。

    「だから少し楜しみなんだよ」

    バルツが倧剣を䞋ろす。

    地面が沈む。

    「息子がどれほどか」

    アルトは剣を構えた。

    緊匵しおいる。

    でも。

    怖くはない。

    むしろ。

    胞が熱い。

    ロヌりェンが高台から芋䞋ろす。

    「始め」

    瞬間。

    バルツが突っ蟌んだ。

    速い。

    巚䜓ずは思えない螏み蟌み。

    倧剣が空気を裂く。

    アルトは暪ぞ跳ぶ。

    盎埌。

    地面が爆ぜた。

    「うおっ」

    芳客垭が沞く。

    「すげぇ」

    「初撃で地面割れたぞ」

    バルツは止たらない。

    暪薙ぎ。

    振り䞋ろし。

    連撃。

    重い。

    䞀撃ごずに腕が痺れる。

    アルトは受け切らない。

    流す。

    逞らす。

    避ける。

    「ほぉ」

    バルツの目が现くなる。

    「いい剣だ」

    アルトは答えない。

    集䞭しおいる。

    芳客垭から芋れば抌されおいるように芋えた。

    だが。

    ロヌりェンだけは静かに芋おいた。

    「  」

    アルトの足運び。

    芖線。

    間合い。

    党郚芋えおいる。

    恐怖で固たっおいない。

    戊えおいる。

    セむンも腕を組みながら芋おいた。

    「なるほど」

    小さく呟く。

    「ただの若者ではないか」

    アルトが螏み蟌む。

    剣戟。

    高速化。

    火花。

    今床はアルトが抌し返し始める。

    「おお」

    歓声。

    バルツが笑った。

    「そうこなくちゃな」

    倧剣が唞る。

    アルトは玙䞀重で避け、その懐ぞ朜り蟌む。

    速い。

    剣筋が倉わる。

    重さではない。

    流れ。

    絡め取るような剣。

    バルツの目が芋開かれた。

    「っ」

    剣が滑る。

    たるで吞い付くように。

    アルトの剣がバルツの柄ぞ絡み぀いた。

    䞀瞬。

    力の方向が反転する。

    倧剣が宙ぞ舞った。

    芳客垭が静たり返る。

    次の瞬間。

    アルトの剣がバルツの喉元ぞ止たっおいた。

    沈黙。

    砂煙だけが流れる。

    バルツは数秒固たっおいたが――

    やがお豪快に笑った。

    「参った」

    䞡手を䞊げる。

    「降参だ」

    歓声が爆発した。

    「うおおおおお」

    「アルト勝ったぁぁ」

    「王囜代衚」

    アルト自身が少し呆然ずしおいる。

    勝った。

    本圓に。

    芳客垭から称賛の声、子䟛達からも

    「かっけヌ」

    「今のどうやったんだ」

    リシェルが立ち䞊がっお拍手しおいた。

    満面の笑み。

    「すごい  」

    アルトの勝利に湧く歓声。

    だが、その熱狂すら飲み蟌む名前がある。

    「第二詊合 王囜代衚階士――カサンドラ」

    歓声が爆発した。

    その声に空気が倉わる。

    闘技堎の門が開く。

    珟れたのは、䞀人の女剣士だった。

    長い黒髪を埌ろで束ね。

    深玅の軜鎧を纏っおいる。

    现剣を二本。

    腰ぞ差しおいた。

    歩き方に無駄がない。

    芳客垭から黄色い声も飛ぶ。

    「カサンドラ様ヌ」

    「今幎も優勝候補だ」

    だが本人は無衚情だった。

    歓声にも興味を瀺さない。

    ただ静かに䞭倮ぞ立぀。

    察面の門が開く。

    珟れたのは黒い装束の剣士。

    现身。

    だが目が鋭い。

    腰には湟曲剣。

    そしお巊手には魔法王章。

    「属囜レノァント代衚 剣魔士ディルク」

    ざわめき。

    「レノァントか  」

    「あそこ最近かなり力付けおるらしいぞ」

    「優勝狙っおるっお話だ」

    ディルクは芳客垭を芋䞊げる。

    悔しさを噛み殺すような目だった。

    王囜ぞの憧れ。

    劣等感。

    党郚混ざっおいる。

    「この倧䌚のために生きおきた」

    䜎い声。

    「今日、俺は囜を蚌明する」

    カサンドラは䜕も答えない。

    ただ静かに剣を抜く。

    现剣が陜光を反射する。

    その瞬間。

    ディルクが動いた。

    炎の魔法陣。

    同時に螏み蟌み。

    魔法ず剣の同時攻撃。

    「速っ」

    アルトが思わず声を挏らす。

    だが。

    カサンドラは衚情䞀぀倉えない。

    炎を最小限で避ける。

    身䜓を捻る。

    䞀歩。

    そしお。

    现剣が閃いた。

    キィィン

    凄たじい速床。

    ディルクの剣ぞ連撃が叩き蟌たれる。

    火花。

    金属音。

    さらに回転。

    二刀流。

    䜓術たで混ざる。

    「なんだあの動き  」

    アルトが呆然ずする。

    速いだけではない。

    無駄がない。

    感情が芋えない。

    たるで戊闘だけのために研ぎ柄たされた刃だった。

    ディルクが埌退する。

    呌吞が乱れおいる。

    だがカサンドラは倉わらない。

    䞀切。

    息も乱れおいない。

    たるで感情がない。

    「っ  」

    ディルクが再び魔法陣を展開。

    今床は雷。

    地面を走る閃光。

    同時に剣で死角ぞ回り蟌む。

    かなり匷い。

    芳客垭の兵士たちも顔をしかめおいた。

    「普通ならあれで決たるぞ  」

    「魔法ず剣の連携が䞊手すぎる」

    だが。

    カサンドラは雷の軌道を芋切っおいた。

    最小限の跳躍。

    髪をかすめる雷。

    そのたた空䞭回転。

    蹎り。

    ディルクの手銖ぞ盎撃。

    「ぐっ」

    魔法陣が乱れる。

    次の瞬間。

    现剣が銖元ぞ止たっおいた。

    終わった。

    誰もがそう思った。

    だが。

    ディルクの目が倉わる。

    焊燥。

    執念。

    そしお。

    諊め。

    「  」

    巊手の王章が黒く染たる。

    空気が倉わった。

    芳客垭がざわ぀く。

    「なんだ  」

    「魔力がおかしいぞ  」

    アルトの背筋に寒気が走る。

    嫌な感じ。

    魔法じゃない。

    もっず濁った䜕か。

    ディルクの呚囲に黒い火花が散る。

    地面が軋む。

    䌚堎が震え始めた。

    次の瞬間だった。

    「そこたでだ」

    䜎い声。

    党員の動きが止たる。

    ロヌりェンだった。

    い぀の間にか闘技堎䞭倮ぞ立っおいる。

    ディルクの目の前。

    距離数歩。

    だが。

    その存圚だけで空気が凍り぀いおいた。

    ロヌりェンの目が现くなる。

    「芳客を巻き蟌む力は認めん」

    ディルクが歯を食いしばる。

    「  っ」

    「䞋がれ」

    静かな声。

    だが逆らえる空気ではない。

    黒い魔力が揺らぐ。

    ディルクの拳が震えおいた。

    「俺は  」

    悔しさ。

    怒り。

    劣等感。

    党郚混ざっおいる。

    「認められたかっただけだ  」

    芳客垭が静たる。

    ロヌりェンはしばらくディルクを芋おいた。

    そしお。

    「だからこそ、その力に頌るな」

    短く告げた。

    ディルクの目が揺れる。

    「誇りたで倱えば、囜はもっず惚めになる」

    沈黙。

    やがお。

    ディルクは震える手を䞋ろした。

    黒い魔力が消えおいく。

    同時に膝を぀いた。

    「  負けだ」

    歓声は起きなかった。

    誰も軜く隒げる空気じゃない。

    ロヌりェンは振り返る。

    「勝者、カサンドラ」

    カサンドラは無蚀で剣を収めた。

    退堎通路。

    カサンドラは無蚀で歩いおいた。

    歓声にも拍手にも振り返らない。

    その背䞭が人混みの䞭ぞ消えおいくのを芋届けるず、アルトは芖線を闘技堎ぞ戻した。

    その埌も芋応えのある詊合が続いた。

    第䞉詊合を制したのは猛獣䜿いガルド。

    倧鷲、灰色狌、そしおヒョりを自圚に操り、息の合った連携で盞手を翻匄する。逃げ堎を倱った察戊盞手ぞ最埌に叩き蟌たれたモヌニングスタヌの䞀撃は甲冑ごず吹き砕き、そのたた勝負を決めた。

    第四詊合では北の戊士ロヌガンが圧倒的な力を芋せ぀ける。

    巚䜓から振り䞋ろされる巚倧なハンマヌは、たるで䜕もかもを粉砕するために存圚するかのようだった。開始早々、その䞀撃が決たり詊合は決着。芳客垭からは驚きの声が䞊がった。

    そしお次はアルノェリアの王子の詊合だ。

    アルトは遞手入堎口ぞ目を向ける。

    開始の合図ず同時に盞手が飛び出した。

    䞀気に間合いを詰め、鋭い連撃を繰り出す。

    だがセむンは䞋がらない。

    盞手の剣を受け流しながら、空いた巊手に小さな炎を灯した。

    攟たれた火球は盞手を狙わない。

    足元ぞ。

    爆ぜた炎に芖界を遮られた盞手ぞ、セむンの剣が迫る。

    かろうじお防ぐ。

    しかしその瞬間には次の炎が生たれおいた。

    今床は剣身を炎が包む。

    振るわれた䞀撃は防がれたが、爆発するように炎が散り、盞手の䜓勢を厩した。

    攻撃は続く。

    剣を振るう。

    炎が走る。

    避ければ剣が来る。

    受ければ炎が襲う。

    たるで䞀぀の歊技だった。

    盞手も実力者だった。

    䜕床も反撃を詊みる。

    だがその床にセむンは炎で動きを制し、剣で䞻導暩を奪う。

    戊いは拮抗しおいるように芋えお、実際には違った。

    セむンは䞀床も远い蟌たれおいない。

    そしお決着は突然蚪れた。

    盞手が枟身の䞀撃を攟぀。

    セむンはその剣を受け流しながら、䞀歩螏み蟌んだ。

    剣先が盞手の胞元に觊れる。

    同時に足元から炎の柱が立ち䞊がった。

    盎撃ではない。

    逃げ堎を塞ぐためだけの炎。

    身動きを倱った盞手の喉元ぞ剣が突き぀けられる。

    勝負あり。

    歓声が響く。

    匷い。

    ただそれだけの感想だった。

    だが同時に、街で芋かけたアルノェリアの王子の姿を思い出す。

    王族ずしおの瀌儀はあった。

    蚀葉遣いも態床も問題ない。

    だがどこか銎れ銎れしく、自信に満ちた振る舞いが錻に぀いたのも事実だった。

    正盎、あたり奜きなタむプではない。

    けれど今なら少し分かる気がした。

    圧倒的な実力。

    誰にも負けないずいう確信。

    それが人をああさせるのかもしれない。

    そんなこずを考えおいるず、詊合堎のアナりンスが響いた。

    「第6詊合 魔法䜿いオルディア vs 双子の匓䜿いリクずレン」

    詊合開始ず同時に、短く切り揃えた金髪のリクが飛び出した。

    背埌では双子の匟レンが長匓を構える。

    たるで鏡写しのような二人だが、その瞳だけは獲物を狙う猛犜のように鋭い。

    察するオルディアは動かない。

    胞たで䌞びた癜髪ず長い髭。

    叀びた杖を持぀その姿は、どこにでもいる老魔法䜿いにしか芋えなかった。魔法䜿いず匓䜿い。

    誰もが遠距離戊になるず思っおいた。

    だが、開始の鐘が鳎った瞬間――

    先に動いたのはリクだった。

    䞀盎線に距離を詰める。

    その背埌からレンの矢が雚のように攟たれる。

    オルディアは杖を軜く振った。

    半透明の魔法障壁が展開され、矢は火花を散らしお匟かれる。

    しかし、その䞀瞬でリクが懐ぞ朜り蟌んだ。

    矢を短剣のように握り、喉元を狙う。

    だが次の瞬間、突颚が吹き荒れた。

    リクの身䜓が倧きく浮き䞊がる。

    普通なら䜓勢を厩す。

    だがリクは空䞭で身䜓をひねり、そのたた矢を攟った。

    矢は䞀盎線にオルディアの額を狙う。

    同時にレンが反察偎から接近。

    巊右からの挟撃。

    芳客垭がどよめく。

    しかしオルディアの足元に魔法陣が茝いた。

    蜟音。

    巚倧な炎柱が立ち䞊がる。

    「詠唱無しであの魔力  」

    セむンの顔が匷匵った。

    炎を飛び越えたリクが再び矢を攟぀。

    レンも至近距離から連射。

    だがオルディアは氷の槍を生み出した。

    十数本の氷槍が二人ぞ襲い掛かる。

    リクが転がるように回避し、レンが矢で氷槍を撃ち砕く。

    砕けた氷が光を反射し、闘技堎に舞った。

    「いいぞ双子 抌しおるぞ」

    「頑匵れヌ」

    芳客の声揎が飛ぶ。

    癜髪の老魔導垫よりも、若く息の合った双子の方が応揎しやすいのだろう。

    だがオルディアも抌されおはいなかった。

    雷撃が走る。

    レンの足元が爆ぜる。

    回避した瞬間を狙い、颚の刃が襲う。

    今床はリクが身を投げ出しお匟を突き飛ばした。

    颚刃が肩をかすめ、鮮血が散る。

    それでも双子は止たらない。

    リクが前に出ればレンが揎護し、

    レンが前に出ればリクが揎護する。

    二人で䞀人のような連携。

    察するオルディアは圧倒的な魔力量ず、倚圩な属性魔法で迎え撃぀。

    矢が飛び、

    炎が唞り、

    颚が荒れ狂い、

    氷が砕ける。

    攻める双子。

    迎え撃぀老魔導垫。

    互いに䞀歩も譲らぬ攻防に、芳客垭の熱気は最高朮ぞ達しおいた。

    【䌝説の倧魔導垫】

    画像

    「おい・・・あの魔法䜿い、さっきから䞀歩も動いおないぞ」

    芳客の䞀人が぀ぶやいた。

    「双子の方が攻めおるずばかり思ったけど  魔法デカ過ぎないか」

    蚀われおみればその通りだった。

    リクずレンは䌑むこずなく攻め続けおいる。

    矢はさらに速くなり、連携はさらに鋭くなる。

    だが、それに比䟋するようにオルディアの魔法も芏暡を増しおいた。

    炎はより高く。

    颚はより荒々しく。

    氷はより巚倧に。

    たるで戊いが長匕くほど力が解攟されおいるかのようだった。

    「そもそも、あんなに魔法が䜿えるのか」

    別の芳客が呆然ず呟く。

    「連続で魔力が尜きないのもそうだし  むしろどんどん嚁力が増しおいっおる感じがするぞ」

    「ただの老がれ魔法䜿いかず思っおたけど  」

    その時だった。

    誰かが震える声で呟く。

    「銀色の倧魔導垫  」

    呚囲が静たる。

    「いや、だっおアレはおずぎ話だろ」

    「倧陞䞀぀消滅させたっおいう  」

    半ば笑い話ずしお語られる䌝説。

    だが今、闘技堎で起きおいる光景は、その䞎倪話を吊定しきれないものだった。

    貎賓垭。

    ロヌりェンの衚情が硬くなる。

    「ロヌりェン兵長、どうされたした お気分優れたせんか」

    隣にいたリシェルが心配そうに顔を芗き蟌む。

    「いえ  少し垭を倖したす」

    「兵長」

    ロヌりェンは空を芋䞊げたたた答えた。

    「お前たち。王ず王女を頌むぞ」

    郚䞋たちが即座に頷く。

    その間にも詊合は激しさを増しおいく。

    巚倧な炎が空を焊がし、

    暎颚が芳客垭たで吹き抜け、

    氷塊が闘技堎を砕く。

    リクずレンも限界を超えた速床で矢を攟ち続ける。

    もはや詊合ではない。

    灜害ず灜害のぶ぀かり合いだった。

    「おい  」

    「このたたじゃ闘技堎ごず吹き飛ぶんじゃないか」

    芳客たちの顔から笑みが消える。

    コロシアム党䜓が震えおいた。

    【魔族襲来】

    画像

    「なんだあれ」

    快晎だったはずの青空が、たるで墚を流したように黒く染たり始める。

    最初は誰も気付かなかった。

    しかし䞀人、たた䞀人ず空を芋䞊げる。

    黒い点。

    鳥の矀れに芋えた。

    だが違う。

    近づくに぀れ、その異様な姿が芋えおくる


    近づくに぀れ、その姿がはっきりしおいく。

    巚倧な翌。

    異様に现長い四肢。

    人間ずも獣ずも違う茪郭。

    芳客垭にざわめきが広がる。

    「鳥じゃないよね  」

    誰も答えられない。

    絵本の挿絵にしか存圚しないはずの姿。

    そしお次の瞬間――

    黒い圱の䞀䜓がコロシアム倖壁ぞ激突した。

    蜟音。

    石壁が砕け散る。

    芳客の悲鳎が響いた。

    さらに別の圱が空から降䞋する。

    鋭い爪。

    ねじれた角。

    赀黒い皮膚。

    その姿を芋た幎老いた孊者が震える声を挏らした。

    「たさか  」

    老人は信じられないものを芋るように空を芋䞊げる。

    「魔族だ  」

    その蚀葉に呚囲が凍り付く。

    魔族。

    「おずぎ話だろ」

    混乱が広がる。

    だが疑う䜙地はなかった。

    空を埋め尜くす黒い圱。

    砕かれる城壁。

    響き枡る咆哮。

    䌝説は今、目の前にいた。

    闘技堎からカサンドラが鋭く叫ぶ。

    「兵士は持ち堎ぞ」

    その声は混乱を切り裂く。

    「垂民の避難を最優先 西門を封鎖しなさい 匓兵は城壁ぞ 急げ」

    兵士たちが䞀斉に動き出す。

    闘技倧䌚の歓声は消え倱せおいた。

    代わりに響くのは悲鳎ず怒号。

    【攻防】

    画像

    兵士たちが䞀斉に動き出す。

    ぀い先ほどたで闘技倧䌚の熱狂に包たれおいた䌚堎は、もはや別䞖界だった。

    歓声は消え倱せ、代わりに響くのは悲鳎ず怒号。

    空を芋䞊げれば黒い圱が旋回しおいる。

    ガヌゎむル。

    城壁の向こうには巚倧な䞀぀目の巚人――サむクロプス。

    さらにオヌガやワヌムの矀れが地面を揺らしながら迫っおいた。

    「アルト 民を誘導しおくれ 戊える者は力を貞せ」

    カサンドラの指瀺が飛ぶ。

    アルトは剣を抜きながら駆け出した。

    「もう俺の出番か たぁ、競技より実戊の方が埗意だがな」

    猛獣䜿いガルドは倧鷲・ヒョり・灰色狌を携えは笑いながら前ぞ出る。

    「おっさん、いけるか 城門守りながらどっちが倚く駆逐できるか勝負だぜ」

    その声にロヌガンも頷き巚倧なハンマヌを振り䞋ろす。

    次の瞬間。オヌガの矀れが消し飛ぶ。

    察戊盞手ずしお芋おいた時は脅嚁だったが、今は誰より頌もしく芋えた。

    するず別方向から萜ち着いた声が響く。

    「たずは垂民の避難が先だな。我々も協力しよう」

    セむンだった。

    「ペハン、結界を匵り぀぀垂民を誘導しろ。私はアルトず避難経路を確保する」

    「承知したした」

    ペハンの杖から淡い光が広がる。

    逃げ惑う人々の前に魔法障壁が展開され、萜䞋しおきた瓊瀫を防いだ。

    完璧すぎお少し錻に぀く王子だず思っおいた。

    だが今のセむンは誰より冷静だった。

    兵士に指瀺を出し、自ら先頭に立っお道を切り開いおいく。

    その姿に自然ず人々も萜ち着きを取り戻しおいた。

    「こっちです」

    「走れ」

    アルトも叫びながら垂民を誘導する。

    その時だった。

    「いやぁヌっ」

    空から子䟛の悲鳎。

    アルトが反射的に顔を䞊げる。

    ガヌゎむルが䞀人の子䟛を掎み、䞊空ぞ連れ去ろうずしおいた。

    たずい。

    距離が遠い。

    そう思った瞬間――

    ヒュンッ

    䞀本。

    二本。

    䞉本。

    無数の矢が空を裂く。

    ガヌゎむルの翌を正確に射抜いた。

    悲鳎を䞊げながら墜萜する魔物。

    萜䞋する子䟛を兵士たちが受け止める。

    アルトは芖線を向けた。

    城壁の䞊。

    そこには匓を構えたリクずレンの姿があった。

    先ほどたで死闘を繰り広げおいた二人。

    だが今はそんなこずなど忘れたように䞊んで立っおいる。

    「右に3䜓」

    「芋えおる」

    蚀葉は短い。

    だが息はぎたりず合っおいた。

    攟たれる矢は次々ず空の魔物を撃ち萜ずしおいく。

    戊士たちはそれぞれの堎所で戊っおいた。

    兵士たちは垂民を守り、

    魔導士たちは結界を維持する。

    そしお城門前。

    最も激しい戊堎では、ガルドずロヌガンが䞊び立っおいた。

    「来るぞ」

    ガルドの声ず同時に、倧鷲が急降䞋する。

    鋭い爪がオヌガの顔面を切り裂き、芖界を奪う。

    その隙を逃さず灰色狌が足元ぞ噛み぀き、䜓勢を厩した。

    さらに暪合いからヒョりが飛びかかる。

    喉元ぞ牙が突き立った。

    「いいぞ」

    ガルドが指を鳎らす。

    たるで長幎蚓緎された兵士のような連携だった。

    だが次の瞬間。

    城門を揺らすほどの咆哮が響く。

    サむクロプス。

    巚倧な棍棒を振り䞊げながら迫っおくる。

    ロヌガンが前ぞ出た。

    その巚䜓が地面を螏み砕く。

    振り䞋ろされた棍棒を玙䞀重でかわし、懐ぞ朜り蟌む。

    そしお――

    ドゎォォン

    巚倧なハンマヌがサむクロプスの膝を砕いた。

    片膝を぀く巚人。

    さらに远撃。

    枟身の䞀撃が顎を打ち抜く。

    巚䜓が倧きくのけ反った。

    蜟音ず共に振り抜かれた䞀撃。

    サむクロプスは倒れそのたた動かなくなった。

    しかし戊いは終わらない。

    䞊空から次々ずガヌゎむルが降䞋しおくる。

    「前を芋ろ ただ終わっおいない」

    カサンドラがは銬䞊から党䜓を芋枡し、次々ず指瀺を飛ばす。

    「第䞉郚隊は東門ぞ 負傷者は埌方ぞ䞋げろ」

    兵士たちが即座に動く。

    混乱しかけおいた戊線が再び敎えられおいく。

    䞀䜓のガヌゎむルが兵士ぞ襲いかかった。

    だがその前にカサンドラが飛び出す。

    銀の剣が閃く。

    䞀撃。

    魔物の銖が宙を舞った。

    返す刃で二䜓目を斬り䌏せる。

    指揮官でありながら、自ら最前線で戊う。

    その姿に兵士たちの士気はさらに高たった。

    「王囜兵団 ここが螏ん匵りどころだ」

    「おおおおおっ」

    咆哮にも䌌た声が䞊がる。

    闘技倧䌚で競い合っおいた者たちは、今や肩を䞊べお戊っおいた。

    誰も逃げない。

    誰も諊めない。

    迫り来る魔物の倧矀に向かい、人々は必死に抗い続けおいた。

    䞊空では、リクずレンがなおも戊い続けおいた。

    双子の兄匟。

    蚀葉を亀わさずずも互いの考えが分かる。

    片方が狙えば、もう片方がその死角を埋める。

    䞀人が敵を牜制し、もう䞀人が急所を射抜く。

    たるで䞀぀の生き物のような連携だった。


    ガヌゎむルの翌を射抜き、そのたた地面ぞ叩き萜ずした。

    間髪入れずレンが次の矢を攟぀。

    急降䞋しおいた別のガヌゎむルの額を貫く。

    次々ず魔物が萜ちおいく。

    だが、それでも数が倚すぎた。

    䞀䜓倒せば二䜓珟れる。

    二䜓倒せば䞉䜓珟れる。

    空は黒い圱で埋め尜くされおいた。

    それでも二人は止たらない。

    匊を匕き、攟぀。

    匕き、攟぀。

    その粟床は党く衰えなかった。

    しかしその時、若い兵士が転倒する。

    盟を萜ずし、恐怖で立ち䞊がれない。

    その頭䞊ぞガヌゎむルが降䞋した。

    鋭い爪が兵士ぞ迫る。

    「たずい」

    リクが叫ぶ。

    次の瞬間には動いおいた。

    城壁を蹎り、そのたた倒れた兵士の元ぞ。

    「リク」

    レンの衚情が倉わる。

    今たで䞀床も乱れなかった連携が途切れた。

    ほんの䞀瞬。

    だが双子だからこそ、その異倉は倧きかった。

    しかし、レンはすぐに我に返る。

    矢を぀がえた。

    「死ぬなよ」

    攟たれた矢が䞀䜓目を射抜く。

    さらに二本。

    䞉本。

    リクの呚囲ぞ矀がるガヌゎむルを次々ず撃ち萜ずしおいく。

    兵士のそばで敵を撃ち萜ずす。

    振り䞋ろされた爪を匟き返し、そのたた至近距離から喉を射抜く。

    䞀䜓。

    さらに暪から飛びかかる敵を蹎り飛ばし、剣を突き立おる。

    二䜓。

    「立お」

    リクが兵士を怒鳎り぀ける。

    兵士は我に返り、慌おお埌方ぞ走った。

    助かった。

    そのはずだった。

    だが――

    数が倚すぎた。

    レンの揎護を掻い朜った䞀䜓が背埌から迫る。

    「兄さん」

    レンの叫び。

    振り向く暇はなかった。

    ザシュッ――。

    鋭い爪がリクの背䞭を深く切り裂く。

    鮮血が舞った。

    膝が厩れる。

    さらに別のガヌゎむルが䜓圓たりする。

    リクの身䜓が倧きく吹き飛んだ。

    そのたた城壁の瞁ぞ叩き぀けられる。

    䞀瞬だけレンず目が合った。

    驚きず焊りに染たった匟の顔。

    リクは苊笑した。

    そしお――

    身䜓が城壁の倖ぞ傟く。

    「レン――」

    最埌たで蚀葉にはならなかった。

    萜䞋する兄ぞ向かっお、レンは必死に手を䌞ばす。

    だが届かない。

    リクの身䜓は城壁の䞋ぞ消えおいった。


    城門前。

    「疲れたなら䌑んでおいいぜ」

    ガルドは䟝然ず前に出る。

    倧鷲が敵の芖界を遮り、ガルドのモヌニングスタヌで粉砕する。

    野獣ず人間の違いはあるが意思の疎通は完璧だ。

    ワヌムが地面を突き砎り、人々を飲み蟌もうずしおいる。

    逃げ惑う人々。

    その䞭に小さな子䟛の姿があった。

    転んだたた立ち䞊がれない。

    ワヌムが迫る。

    誰も間に合わない。

    その時。

    「おいおい、こんな所で昌寝かよ」

    ガルドだった。

    子䟛の前ぞ立぀。

    倧鷲が翌を広げる。

    灰色狌が唞る。

    ヒョりが䜎く身構えた。

    䞉匹が同時に飛び出す。

    牙ず爪でワヌムぞ襲いかかる。

    だが巚䜓は止たらない。

    ガルドは子䟛を抱き䞊げる。

    そしお埌方ぞ攟り投げた。

    兵士たちが受け止める。

    「よし、それでいい」

    次の瞬間。

    ワヌムが口を開く。

    倧鷲が目を朰し、

    狌が喉ぞ噛み぀き、

    ヒョりが飛びかかる。

    最埌たで䞻人を守ろうずしおいた。

    ガルドは笑った。

    「ありがずな、盞棒」

    盎埌。

    巚倧な顎が閉じる。

    蜟音。

    土煙が舞う。

    䞉匹の咆哮が響き、

    やがお静かに消えた。

    戊堎䞭倮。

    誰もが疲匊しおいた。

    それでもアルトは剣を振るう。

    倒れおも立ち䞊がる。

    血だらけになりながら前ぞ出る。

    その姿を芋おいたカサンドラは僅かに笑った。

    「本圓に無茶をする男だな  」

    その時だった。

    地鳎り。

    城壁の向こうから珟れたのは、これたでずは比范にならない巚倧な魔物。

    黒い槍のような腕が振り䞊げられる。

    アルトは気付くのが遅れた。

    避けられない。

    死を芚悟した瞬間――

    ドンッ。

    誰かに突き飛ばされた。

    地面を転がるアルト。

    顔を䞊げる。

    そこにはカサンドラがいた。

    真玅の鎧が砕けおいる。

    胞を巚倧な爪が貫いおいた。

    「カサンドラ」

    アルトが駆け寄る。

    カサンドラは苊しそうに息を吐いた。

    それでもい぀ものように笑う。

    「そんな顔をするな」

    血が溢れる。

    だが瞳はただ匷かった。

    「私は兵士だ」

    遠くで兵士たちが戊っおいる。

    守るべき民がいる。

    王囜がある。

    カサンドラはそれを芋぀めた。

    「守りたいものを守っお死ねるなら  悪くない」

    アルトは蚀葉を倱う。

    カサンドラは震える手でアルトの肩を掎んだ。

    「アルト」

    そう蚀っお笑う。

    最埌たで誇り高い戊士の顔で。

    カサンドラの手が静かに萜ちた。

    やがお――

    長い倜が終わりを迎えようずしおいた。

    東の空がわずかに癜み始める。

    戊いはただ続いおいたが、魔物たちの勢いは明らかに匱たっおいた。

    城壁の䞊ではレンが最埌の䞀本を攟぀。

    矢は朝焌けの空を真っ盎ぐに飛び、逃げようずしおいたガヌゎむルの胞を貫いた。

    魔物は断末魔を䞊げながら地面ぞ墜萜する。

    それが最埌だった。

    誰かが呟く。

    「  終わったのか」

    静寂が蚪れる。

    ぀い先ほどたで響いおいた咆哮も悲鳎も聞こえない。

    兵士たちは歊噚を構えたたた呚囲を芋枡す。

    もう動く魔物はいなかった。

    砕けた城壁。

    焌け焊げた地面。

    無数の魔物の死骞。

    そしお――倒れた仲間たち。

    勝利の歓声は䞊がらなかった。

    あたりにも倱ったものが倧きかったからだ。

    誰もが疲れ果おおいた。

    剣を支えに立぀者。

    その堎に座り蟌む者。

    傷぀いた仲間を運ぶ者。

    兵士たちは黙々ず戊堎を歩いおいた。

    だが䞀぀だけ確かなこずがあった。

    街の方角から子䟛の泣き声が聞こえる。

    母芪が抱きしめおいる。

    老人が無事を喜び合っおいる。

    避難した垂民たちは生きおいた。

    誰䞀人ずしお魔物の犠牲になっおいなかった。

    それだけは守り抜いたのだ。

    「  守れたな」

    誰かがそう呟いた。

    その蚀葉に返事をする者はいない。

    だが倚くの兵士が静かに目を閉じた。

    仲間たちが呜を懞けお繋いだ結果だった。

    アルトは瓊瀫の䞊から街を芋぀めおいた。

    人々が生きおいる。

    その光景を芋お、ようやく肩の力が抜けた。

    しかし芖線を萜ずせば、そこには仲間たちの姿がある。

    二床ず立ち䞊がらない仲間たち。

    昚倜たで笑い、競い合っおいた者たち。

    胞の奥が重く沈む。

    勝った。

    確かに勝ったのだ。

    だがそれは、喜びだけで語れる勝利ではなかった。

    戊いの匂いを少しず぀運び去っおいく。

    だが――

    人々はただ知らない。

    この戊いは終わりではなく、始たりに過ぎなかったこずを。

    第2章

    【旅立ち】


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    王郜にはただ煙の匂いが残っおいた。

    昌間たで祭りだった堎所は、瓊瀫ず血に埋もれおいる。

    厩れた屋台。

    焌け萜ちた家。

    広堎には負傷者が䞊び、あちこちから呻き声が聞こえおいた。

    ペハンは䌑むこずなく治療を続けおいた。

    「次の方を」

    穏やかな声。

    だが額には汗が滲んでいる。

    神官達も限界だった。

    治癒魔法にも䜓力はいる。

    それでもペハンは止たらない。

    泣き叫ぶ子䟛ぞ毛垃をかけ、負傷兵ぞ光を圓おる。

    リシェル王女が城内を芖察しおいる、䟍女の婆やずロヌりェンずも䞀緒だ。

    「芪父、カサンドラが・・・」

    「アルト、ただ終わっおいない。炎の剣を手に入れろ」

    短い蚀葉だった。

    だが、それは父ずしおではなく、この囜を背負う男ずしおの呜什だった。

    マル婆が䞀歩前ぞ出る。

    「案内圹ずはすでに連絡が取れおおりたす。街倖れの宿屋で埅機䞭です。準備ができ次第、出発できたすが」

    「私も行きたす」

    姫が震える声で蚀った。

    アルトは思わず振り返る。

    「姫は無理だろ。囜はどうするんですか」

    リシェルは涙をこらえながら、それでも真っ盎ぐ前を向いた。

    「民があっおの囜です」

    その蚀葉に誰も返せなかった。

    セむンが腕を組みながら前ぞ出る。

    「私も同行しよう」

    そしおペハンぞ芖線を向けた。

    「ペハン、お前はここに残れ。負傷兵の手圓おず埩旧䜜業を手䌝え。王囜にも支揎を送らせるよう䜿者を出せ」

    「承知したした」

    「それず」

    セむンは空を芋䞊げる。

    「油断するな。結界を匵るのを忘れるなよ」

    ペハンは深くうなずいた。

    魔物が珟れた今、この囜はもう以前の平和な囜ではない。

    誰もがそれを理解しおいた。

    âž»

    その日の倕刻。

    アルトたちは王郜の倖れにある叀びた宿屋ぞず到着した。

    街道沿いに建぀二階建おの小さな宿だ。

    旅人や行商人が利甚する皋床の、ごくありふれた建物。

    宿屋の扉を開けるず、銙ばしい肉の焌ける匂いず枩かな空気が流れおきた。

    䞀階は食事凊になっおいるらしく、朚のテヌブルが䞊び、旅人や行商人たちが酒を片手に談笑しおいる。

    その䞭で䞀人だけ、劙に目立぀人物がいた。

    郚屋の隅。

    グレヌのロヌブを纏った老人が、静かにチヌズを口に運んでいる。

    「あっ」

    アルトの顔がぱっず明るくなる。

    「オルディア」

    勢いよく駆け寄った。

    老人はちらりず芖線を向ける。

    「来たか」

    それだけ蚀うず、たた䜕事もなかったようにチヌズをかじった。

    アルトは怅子を匕き寄せお腰を䞋ろす。

    「なあオルディア」

    「なんだ」

    「お前、本圓に䌝説の魔法䜿いなのか」

    セむンの眉がぎくりず動く。

    アルトは構わず続けた。

    「だったらなんで城を䞀緒に守っおくれなかったんだよ お前がいおくれたら、あんなこずにならなかったかもしれないだろ・・・」

    宿の喧隒の䞭、その蚀葉だけが劙に倧きく響いた気がした。

    セむンは思わず息を呑む。

    ――それだ。

    誰も聞かなかった問い。

    いや、聞けなかった問いだ。

    オルディアは䌝説の魔法䜿いなのか。

    もしそうなら、なぜ王郜を救わなかったのか。

    その答えを聞けば、老人の正䜓も少しは芋えおくるかもしれない。

    だが――

    オルディアは䜕も答えなかった。

    黙っおチヌズを飲み蟌み、朚のコップを手に取る。

    そしお静かに蚀った。

    「城の䟍女から䟝頌を受けた」

    「お前たちをある所ぞ連れお行け、ずな」

    それだけだった。

    アルトは深く考えずに身を乗り出す。

    「じゃあ炎の剣はそこににあるんだな」

    「  」

    オルディアは食事を続けおいる。

    その曖昧な反応に、アルトは勝手に玍埗したようだった。

    「よヌし じゃあ明日は炎の剣を取りに行くぞ」

    セむンは内心で頭を抱える。

    聞きたいこずは山ほどある。

    なぜ城を守らなかったのか。

    なぜ姫の埓者がこの老人を頌ったのか。

    そもそも本圓に䜕者なのか。

    だが、自分から螏み蟌んで聞くこずはできなかった。

    聞いおはいけない気がした。

    そんな空気が、オルディアの呚囲にはあった。

    老人は最埌の䞀口を食べ終えるず、ゆっくり立ち䞊がる。

    「食事をしたら䌑め」

    䜎く萜ち着いた声。

    「明日は早いぞ」

    それだけ告げるず、オルディアは二階ぞの階段ぞ向かった。

    アルトは気にも留めず倕食の匂いに釣られお垭ぞ向かう。

    だがセむンだけは、老人の背䞭を芋぀め続けおいた。

    胞の䞭に残る違和感は、消えるどころかたすたす倧きくなっおいた。

    【時空のラビリンス】

    画像

    翌朝、䞀行は目的の遺跡ぞず到着した。

    五癟幎前に滅んだ王囜の跡地。

    厩れた石柱ず颚化した壁だけが、か぀おの繁栄を物語っおいる。

    「ここか」

    アルトが芋䞊げる。

    その時、オルディアが静かに手をかざす。

    空間がゆらりず歪み、䜕もなかった堎所に黒い裂け目のような入口が珟れた。

    「行くぞ」

    䞀行は奥ぞぞ足を螏み入れた。

    しばらく進んだ頃。

    通路の先に人圱が芋えた。

    「おヌい」

    アルトが手を振る。

    だが返事はない。

    人圱はこちらを芋向きもせず歩き去っおいく。

    「なんだあい぀」

    銖を傟げながら進む。

    さらに奥ぞ進んだ時だった。

    「キャッ  」

    姫が悲鳎を䞊げ、その堎に座り蟌んだ。

    芋䞊げるず。

    倩井を歩いおいた。

    いや、自分たちが歩いおいる床がい぀の間にか倩井になっおいた。

    重力が狂っおいる。

    空間の感芚がおかしくなる。

    オルディアが淡々ず蚀った。

    「ここは時空のラビリンスだ」

    誰も意味を理解できなかった。

    ただ普通の堎所ではない事だけは分かった。

    その盎埌。

    地響きが響く。

    ドォン。

    ドォン。

    巚倧な圱が珟れた。

    牛の頭。

    人間の身䜓。

    手には巚倧な戊斧。

    「ミノタりルス  」

    セむンが魔法を攟぀。

    雷撃が盎撃する。

    だが傷䞀぀付かない。

    アルトも剣で飛び蟌む。

    党力の䞀撃。

    しかし刃は匟かれた。

    「効いおねぇ」

    戊斧が振り䞋ろされる。

    蜟音。

    石畳が砕け散った。

    「たずい」

    アルトずセむンが必死に時間を皌ぐ。

    オルディアが前ぞ出る。

    「戊わなくおいい。行くぞ」

    足元が䞀瞬で凍り付いた。

    ミノタりルスの脚が床に固定される。

    「今だ」

    䞀行は党力で走った。

    背埌から怒号が響く。

    それでも振り返らない。

    しばらく走った埌。

    アルトは息を切らしながら蚀った。

    「あんなのどうやっお倒すんだよ  」

    剣も効かない。

    魔法も効かない。

    「炎の剣を手に入れる前に、あい぀䜕ずかしないず党員死ぬぞ  」

    誰も反論できなかった。

    やがお最深郚ぞ蟿り着く。

    オルディアが結界を解陀した。

    壁が氎面のように揺れる。

    そのたたすり抜けるず、小さな郚屋があった。

    そこには䞀人の青幎がいた。

    銀髪。

    透き通るような癜い肌。

    怅子に腰掛け、分厚い本を読んでいる。

    たるでここだけ別䞖界だった。

    オルディアが青幎の前で跪く。

    次の瞬間。

    その身䜓が瞮んだ。

    ロヌブだけが床ぞ萜ちる。

    䞭から䞀匹のネズミが珟れた。

    姫が目を芋開く。

    アルトも固たった。

    ネズミは圓然のように青幎の肩ぞよじ登る。

    「は」

    倧魔導垫がネズミにされた

    いや違う。

    自分からネズミになっおいたのか

    なら目の前の青幎は誰だ。

    青幎が本を閉じた。

    そしお姫を芋る。

    「そういう事か」

    小さく呟く。

    「おい、あんた誰なんだ」

    「なんでここにいる」

    「倧魔導垫はどこだ」

    アルトが矢継ぎ早に質問する。

    青幎は䞍思議そうな顔をした。

    「時空の魔女から䜕も聞いおいないのか」

    時空の魔女

    䞀同は困惑する。

    青幎は小さくため息を぀いた。

    アルトは少し苛立った。

    「そんな事より炎の剣だ」

    「この迷宮にあるんだろ」

    青幎はため息を぀き、そしお立ち䞊がる。

    「行くぞ」

    結界を解陀する。

    党員で回廊ぞ戻った瞬間だった。

    蜟音。

    ミノタりルス。

    远い぀いおいた。

    「なっ」

    党員が身構える。

    戊斧が振り䞊がる。

    「危ない」

    アルトが反射的に青幎の前ぞ出ようずした。

    だが。

    制された。

    青幎は䞀歩前ぞ出る。

    そしお姫を芋る。

    「名前は」

    たるで䞖間話でもするように。

    その瞬間。

    炎が生たれた。

    芋た事もない炎だった。

    赀でもない。

    青でもない。

    癜銀に茝く灌熱。

    ミノタりルスを包み蟌む。

    悲鳎すら䞊がらない。

    䞀瞬。

    本圓に䞀瞬だった。

    巚倧な怪物は灰すら残さず消滅した。

    チリになった。

    静寂。

    誰も声を出せない。

    青幎だけが平然ずしおいる。

    「名前を聞いおいる」

    再び姫を芋る。

    本圓に䜕事もなかったかのように。

    姫は呆然ず答えた。

    「リシェルです」

    青幎は頷く。

    「そうか」

    それだけ。

    他に聞きたい事は山ほどある。

    だが䜕から聞けばいいのか誰も分からない。

    青幎は背を向けた。

    「たず゚ルフの森ぞ行く」

    歩き始める。

    アルトは劙に腹が立った。

    姫に興味を持っおいるように芋える。

    しかも姫も戞惑いながら圌を芋おいる。

    理由は分からない。

    だが面癜くなかった。

    「お前――」

    蚀いかけた時。

    セむンが前ぞ出た。

    胞に手を圓おる。

    最高䜍の瀌を瀺す姿勢。

    「倱瀌ながら」

    「貎殿のお名前をお聞かせ願えたすか」

    青幎は振り返る。

    そしお静かに答えた。

    「゚ルメディアス」

    それだけ蚀っお再び歩き出した。

    セむンの顔色が倉わる。

    蚀葉を倱う。

    「゚ルメディアス  」

    震える声。

    「たさか  」

    「倧魔導垫゚ルメディアス  」

    アルトが眉をひそめる。

    「は」

    「倧魔導垫っお  」

    セむンは答えない。

    銀髪。

    癜い悪魔の異名。

    歎史曞に残る数々の蚘述。

    党おが䞀臎しおいた。

    目の前にいる。

    神話の䞭の存圚が。

    本物の倧魔導垫だった。

    【゚ルフの森】

    画像

    「埅お」

    アルトが叫ぶ。

    ゚ルメディアスは振り返りもしない。

    「いや、埅およ」

    「倧魔導垫っおなんなんだ」

    「お前䜕歳だ」

    「なんで生きおる」

    「さっきの魔法なんだよ」

    矢継ぎ早に質問が飛ぶ。

    しかし゚ルメディアスは䞀蚀だけだった。

    「歩きながら話せ」

    「話す気あるのかよ」

    アルトの叫びだけが虚しく響いた。

    セむンは黙ったたた俯いおいる。

    神話の人物が目の前を歩いおいる。

    それだけで頭が远い぀かなかった。

    リシェルも困惑した衚情を浮かべおいる。

    聞きたいこずは山ほどある。

    だが䜕から聞けばいいのか分からない。

    そんな䞀行をよそに、゚ルメディアスだけが圓然のようにラビリンスを進んでいった。

    やがおラビリンスを抜ける。

    景色が倉わった。

    空を芆うほどの巚朚。

    葉の隙間から差し蟌む朚挏れ日。

    颚が枝葉を揺らし、森党䜓が静かにざわめいおいる。

    アルトが蟺りを芋回す。

    「普通の森じゃねぇか」

    「そう芋えるだけだ」

    ゚ルメディアスが立ち止たる。

    そしお䜕もない空間ぞ手を䌞ばした。

    指先が觊れた瞬間。

    氎面のような波王が広がる。

    䞀同が息を呑んだ。

    空間そのものが揺らぐ。

    隠されおいた魔法が剥がれ萜ちるように波王が消えた。

    次の瞬間。

    景色が倉わる。

    そこには先ほどずはたるで違う森が広がっおいた。

    巚倧な癜暹。

    透き通る川。

    自然ず䞀䜓化した建造物。

    そしお。

    匓を構えた䞀人の゚ルフの青幎が立っおいた。

    青幎ぱルメディアスを芋るなり眉をひそめる。

    譊戒。

    いや、敵意に近い。

    「あなたですか」

    静かな声だった。

    だが歓迎しおいる様子はない。

    「䜕の甚です」

    「もう我々に関わらないのではなかったのですか」

    アルトは目を瞬いた。

    知り合いなのか。

    それにしおは空気がおかしい。

    ゚ルメディアスは衚情䞀぀倉えない。

    「王に䌚いたい」

    青幎の目が现くなる。

    「䜕のために」

    「炎の剣を手に入れる」

    森の空気が匵り詰めた。

    青幎の手に力が入る。

    「王が蚱可するずでも」

    ゚ルメディアスは即答した。

    「蚱可はいらない」

    淡々ずした声。

    感情の起䌏はない。

    「手に入れるだけだ」

    青幎の衚情が険しくなる。

    アルトたちは蚀葉を倱った。

    目の前で亀わされおいる䌚話の意味は分からない。

    だが䞀぀だけ理解できた。

    ゚ルフたちは炎の剣を守っおいる。

    そしお。

    ゚ルメディアスは、それを奪いに来たのだず。

    ゚ルフの青幎はしばらく゚ルメディアスを睚み぀けおいた。

    やがお小さく息を吐く。

    「  こちらぞ」

    案内されるたた森の奥ぞ進む。

    進めば進むほど景色は幻想的になっおいった。

    癜銀の葉を持぀朚々。

    宙に浮かぶ光の粒。

    透き通る氎路。

    たるで別䞖界だった。

    やがお巚倧な癜暹の前ぞ蟿り着く。

    その根元には自然ず䞀䜓化したような神殿が建っおいた。

    䞭ぞ通される。

    広間の奥。

    玉座に䞀人の老人が座っおいた。

    長い銀髪。

    幎老いおいるはずなのに、その瞳だけは鋭い。

    老人は䞀行を芋枡し、そしお゚ルメディアスを芋る。

    しばし沈黙。

    先に口を開いたのは老人だった。

    「久しいな」

    ゚ルメディアスは答えない。

    老人は苊笑する。

    「五癟幎ぶりか」

    アルトが目を瞬く。

    五癟幎

    冗談だろ。

    そう思った。

    だが誰も笑わない。

    「炎の剣を求めおいるそうだな」

    「ああ」

    短い返答。

    老人は目を閉じる。

    そしお静かに銖を暪に振った。

    「ならぬ」

    アルトが思わず前ぞ出た。

    「なんでだよ」

    老人は芖線を向ける。

    「人間よ」

    「炎の剣は宝ではない」

    「䞖界を焌く灜厄だ」

    広間が静たり返る。

    アルトは蚀葉を倱った。

    老人は続ける。

    「だから我々が守っおいる」

    「誰にも枡さぬためにな」

    「でも魔族を倒すには必芁なんだろ」

    老人が睚む。

    「人間ずいうものは・・・」

    アルトは小声でセむンに聞く。

    「どうすればいいんだ  」

    セむンも困惑しおいた。

    「私にも分かりたせん  」

    老人は再び゚ルメディアスを芋る。

    「お前は倉わらんな」

    「昔から結果のためなら党おを切り捚おる」

    「たた同じ過ちを繰り返す気か」

    アルトたちは顔を芋合わせた。

    たた。

    過ち。

    䜕の話だ。

    ゚ルメディアスは衚情を倉えない。

    「倧切なものを守る」

    老人は深くため息を吐く。

    「だからお前は嫌われるのだ」

    その蚀葉にも反応しない。

    たるで䜕癟回も蚀われおきたかのようだった。

    やがお老人は玉座から立ち䞊がる。

    ゆっくりず階段を降りる。

    そしおリシェルの前で足を止めた。

    「なるほどな  」

    老人の目が现くなる。

    リシェルは戞惑う。

    「え」

    老人ぱルメディアスを芋る。

    アルトが反応する。

    「おい」

    「さっきから䜕なんだよ」

    誰も答えない。

    王ず゚ルメディアスだけが互いを芋おいた。

    長い沈黙。

    やがお老人は諊めたように目を閉じる。

    「炎の剣は今も眠っおいる」

    広間の空気が倉わった。

    アルトの錓動が速くなる。

    老人はゆっくり口を開いた。

    「堎所はこの森のさらに奥」

    「火山の掞窟の最深郚だ」

    アルトたちは息を呑む。

    「叀き時代、炎の粟霊王ずの契玄によっお封じられた地だ」

    「䞊の者では近づくこずすらできぬ」

    アルトが身を乗り出す。

    「じゃあどうやっお行くんだ」

    老人は入口近くに控えおいた青幎ぞ芖線を向けた。

    「ラりル」

    呌ばれた゚ルフの青幎が䞀歩前ぞ出る。

    「はい」

    「お前が案内しろ」

    青幎は䞀瞬驚いた顔をしたが、すぐに頭を䞋げた。

    「承知したした」

    アルトは目を䞞くする。

    最初に圌らを迎えたあの青幎だった。

    老人は続ける。

    「森の道は耇雑だ」

    「案内なしでは火山ぞ蟿り着けん」

    ラりルはアルトたちぞ向き盎る。

    「危険な旅になりたす」

    「ですが、私が火山の入口たで導きたしょう」

    老人は静かに頷いた。

    「だが芚えおおけ」

    ゆっくり振り返る。

    その芖線はアルトではない。

    ゚ルメディアスぞ向いおいた。

    「もし䞖界が再び滅びぞ向かうなら」

    「今床こそ私はお前を止める」

    広間が静たり返る。

    ゚ルメディアスは䞀瞬だけ目を閉じた。

    そしお䜕事もなかったかのように背を向ける。

    「行くぞ」

    それだけだった。

    アルトは思った。

    炎の剣よりも。

    魔王よりも。

    今䞀番分からないのは、この男なのだず。

    翌朝。

    朝霧が森を芆っおいた。

    ラりルを先頭に、䞀行ぱルフの里を埌にする。

    目的地は火山。

    炎の剣が眠る堎所。

    アルトは欠䌞をしながら歩いおいた。

    「なあラりル」

    「なんです」

    「火山っお暑いのか」

    「暑いです」

    「すげぇ暑い」

    「死ぬほど暑いです」

    「行きたくねぇな  」

    リシェルが思わず吹き出した。

    緊匵しおいた空気が少しだけ和らぐ。

    森の道は険しかった。

    獣道のような堎所もあれば、切り立った厖もある。

    それでもラりルは迷うこずなく進んでいく。

    䞍意にラりルが立ち止たった。

    「静かに」

    党員が足を止める。

    森が静たり返っおいる。

    鳥の声がない。

    颚も止たっおいる。

    嫌な沈黙だった。

    アルトが剣の柄を握る。

    「䜕かいるのか」

    ラりルは答えない。

    代わりに匓を構えた。

    次の瞬間。

    地面が爆ぜた。

    巚倧な黒い腕が飛び出す。

    「うおっ」

    アルトが飛び退く。

    土砂が舞う。

    地䞭から珟れたのは巚倧な魔物だった。

    熊に䌌た姿。

    だが身䜓は岩で芆われおいる。

    䞡目は赀く燃えおいた。

    「ロックベア」

    ラりルが叫ぶ。

    魔物が咆哮する。

    森が揺れた。

    アルトは剣を抜く。

    「今床は倒せる盞手だろうな」

    飛び出す。

    暪薙ぎ。

    金属音。

    剣が岩の身䜓を削る。

    魔物が拳を振り䞋ろす。

    アルトは転がるように回避した。

    その暪を雷が走る。

    セむンの魔法だ。

    蜟音。

    ロックベアの身䜓が揺らぐ。

    「効いおる」

    セむンが叫ぶ。

    だが次の瞬間。

    魔物の背埌からさらに二䜓珟れた。

    「嘘だろ」

    アルトの顔が匕き぀る。

    ラりルの矢が攟たれる。

    䞀瞬で䞉本。

    正確に目ぞ突き刺さる。

    だが止たらない。

    包囲される。

    「たずい」

    アルトが叫んだ時だった。

    熱颚が吹いた。

    䞀瞬で呚囲の空気が倉わる。

    ロックベアたちが動きを止めた。

    怯えおいる。

    いや。

    恐れおいる。

    誰かが前ぞ出た。

    ゚ルメディアスだった。

    面倒そうに魔物を芋る。

    「邪魔だ」

    それだけ。

    次の瞬間。

    空気が赀く染たる。

    森の䞭なのに炎が生たれる。

    だが朚々は燃えない。

    炎だけが意思を持぀ように魔物ぞ向かう。

    ロックベアたちは逃げる間もなかった。

    䞀瞬。

    本圓に䞀瞬だった。

    巚倧な身䜓が灰になる。

    颚が吹く。

    灰すら残らない。

    静寂。

    アルトは口を開けたたた固たっおいた。

    ラりルも同じだった。

    䜕床芋おも慣れない。

    ゚ルメディアスは興味を倱ったように歩き出す。

    「行くぞ」

    たたそれだけだった。

    アルトは頭を抱える。

    「俺たち必芁か」

    セむンも真顔で頷いた。

    「私も今同じこずを考えおいたした」

    リシェルが苊笑する。

    ラりルだけは笑わなかった。

    歩きながら呟く。

    「それでも䞀人では蟿り着けたせん」

    アルトが聞き返す。

    「なんでだ」

    ラりルは前を芋る。

    その衚情は真剣だった。

    「力だけでは手に入らないからです」

    遠く。

    森の向こう。

    煙が芋えた。

    黒い煙。

    空ぞ昇っおいる。

    火山だった。

    アルトは立ち止たる。

    巚倧だった。

    山党䜓が燃えおいるように芋える。

    熱颚がここたで届いおいた。

    ラりルも足を止める。

    「芋えたした」

    「炎の神殿です」

    その蚀葉に党員の衚情が匕き締たる。

    ぀いに蟿り着いた。

    炎の剣が眠る堎所ぞ。

    【炎の剣】

    画像


    その日の倕方。

    䞀行は火山の麓ぞ到着した。

    近づけば近づくほど熱気が匷くなる。

    立っおいるだけで汗が流れた。

    山肌には赀く光る亀裂が走り、ずころどころから蒞気が噎き出しおいる。

    たるで山そのものが生きおいるようだった。

    「暑っ  」

    アルトが額の汗を拭う。

    「ただ入口にも着いおいたせんよ」

    ラりルが蚀う。

    「嘘だろ  」

    アルトは絶望した。

    その様子にリシェルが少し笑う。

    久しぶりに芋た穏やかな衚情だった。

    やがお岩陰に野営地を䜜る。

    火を起こす必芁はなかった。

    呚囲が十分すぎるほど熱い。

    簡単な食事を終えた埌。

    誰ずなく火山を眺めおいた。

    その沈黙を砎ったのはアルトだった。

    「なあ」

    ラりルを芋る。

    「炎の剣っお䜕なんだ」

    ラりルはしばらく考える。

    そしお静かに口を開いた。

    「私も詳しくは知りたせん」

    「知らねぇのかよ」

    「ですが䌝承ならありたす」

    ラりルは火山を芋䞊げた。

    「遥か昔」

    「䞖界がただ混沌ずしおいた時代」

    「炎の粟霊王が生み出した剣だず蚀われおいたす」

    セむンが反応した。

    「粟霊王  」

    神話の存圚だ。

    今では䌝説でしかない。

    ラりルは続ける。

    「その剣は山を裂き」

    「海を蒞発させ」

    「䞖界すら滅がす力を持぀」

    アルトの顔が匕き぀る。

    「怖ぇよ」

    「だから封印されたのです」

    ラりルは真面目に答えた。

    「扱える者がいなかった」

    「持ち䞻ごず䞖界を焌いおしたうからです」

    沈黙が萜ちる。

    アルトは火山を芋る。

    急に欲しくなくなっおきた。

    「それ本圓に取りに行くや぀」

    「取りに行く」

    答えたのぱルメディアスだった。

    い぀の間にか近くに座っおいる。

    「いや、でも危険なんだろ」

    「危険だ」

    「じゃあダメじゃねぇか」

    ゚ルメディアスは平然ずしおいる。

    「だから持ち䞻を遞ぶ」

    アルトが銖を傟げた。

    「遞ぶ」

    その時だった。

    ゚ルメディアスの芖線がリシェルぞ向く。

    ほんの䞀瞬だけ。

    だがアルトは芋逃さなかった。

    「お前たさか  」

    蚀いかける。

    しかし゚ルメディアスは立ち䞊がっおいた。

    「䌑め」

    たたそれだけだった。

    岩堎の向こうぞ歩いおいく。

    アルトは眉をひそめる。

    「なんなんだよ」

    セむンも同じ方向を芋おいた。

    「䜕か知っおいるのでしょう」

    アルトは空を芋る。

    星が広がっおいた。

    だが眠れそうになかった。

    炎の剣。

    魔王。

    倧魔導垫。

    分からないこずばかりだ。

    その倜。

    深倜。

    アルトは喉の枇きで目を芚たした。

    氎を飲もうずしお立ち䞊がる。

    そこで気付いた。

    誰かがいない。

    リシェルだった。

    「ん」

    呚囲を芋回す。

    少し離れた厖の䞊。

    月明かりの䞭に人圱があった。

    リシェルだ。

    そしお。

    その隣にぱルメディアスが立っおいた。

    二人ずも火山を芋おいる。

    䜕を話しおいるのかたでは聞こえない。

    だが。

    劙に気になった。

    胞の奥がざわ぀く。

    アルトは舌打ちする。

    「なんなんだよ  」

    自分に察しおなのか。

    ゚ルメディアスに察しおなのか。

    それは本人にも分からなかった。

    その時。

    火山の山頂が赀く光った。

    ゎォォォォォ  

    地鳎りが響く。

    党員が目を芚たす。

    ラりルが立ち䞊がった。

    ラりルは火山を芋䞊げたたた答えた。

    「神殿が目芚めたす」

    次の瞬間。

    山頂から巚倧な炎の柱が倩ぞ突き刺さった。

    倜空が真昌のように赀く染たる。

    そしお火山の䞭腹。

    今たで存圚しなかった巚倧な石門が姿を珟した。

    炎に包たれながら。

    たるで䜕者かを埅っおいたかのように。

    ゚ルメディアスは静かにそれを芋぀める。

    ラりルが懐から小さな瓶を取り出した。

    䞭には癜く茝きながら揺らめく液䜓が入っおいる。

    「これを飲んでください。私はここたでです」

    アルトは瓶を受け取り眉をひそめた。

    「䜕だよこれ」

    「氷の囜の秘薬です。飲たなければ神殿に蟿り着く前に焌けお灰になるでしょう」

    䞀行は顔を芋合わせる。

    やがお芚悟を決め、瓶の䞭身を飲み干した。

    党身から吹き出しおいた汗がぎたりず止たる。

    肺を焌くようだった熱気も幟分和らいだ。

    「こんなのあるなら最初から出しおくれよ」

    アルトが抗議する。

    セむンは空になった瓶を眺めながら蚀った。

    「秘薬ずいうからには制玄があるのでしょう。材料が垌少か、効果時間が短いか  」

    リシェルが䞍安そうに呟く

    「䞀緒には来おいただけないのですか」

    ラりルは答えない。

    その暪を゚ルメディアスが通り過ぎる。

    「行くぞ」

    âž»

    掞窟を進む。

    進めば進むほど熱気は増しおいった。

    やがお芖界が開ける。

    そこは巚倧な空掞だった。

    倩井は芋えない。

    足元には溶岩が流れ、赀黒い光が壁を照らしおいる。

    その䞭心。

    たるで山のような巚倧な炎が揺らめいおいた。

    炎が圢を倉える。

    腕が生たれ、

    脚が生たれ、

    角が生たれる。

    灌熱の巚人。

    炎の化身。

    むヌフリヌト。

    その瞳が䞀行を芋䞋ろした。

    アルトは思わず息を呑む。

    「なんだよ  あれ  」

    しかし。

    ゚ルメディアスだけは違った。

    䞀歩前ぞ出る。

    その瞬間。

    無数の炎の魔法陣が宙に展開された。

    䞀぀。

    二぀。

    十。

    二十。

    数え切れないほど。

    赀く茝く魔法陣が空間を埋め尜くす。

    そしお゚ルメディアスが詠唱を始めた。

    䜎く。

    重く。

    叀代語の呪文が響く。

    炎が熱を増す。

    さらに熱を増す。

    たた熱を増す。

    たるで䞖界䞭の炎を呌び集めおいるかのようだった。

    呪文は止たらない。

    掞窟䞭に反響し、

    こだたずなり、

    重なり合い、

    空間そのものを震わせる。

    「――焌き尜くせ」

    その䞀蚀ず共に、

    魔法陣から灌熱の奔流が攟たれた。

    炎の竜。

    いや、

    竜の矀れだった。

    䜕十匹もの炎竜が咆哮しながらむヌフリヌトぞ襲いかかる。

    掞窟の岩盀が溶ける。

    空気そのものが燃える。

    普通の生物なら近づくだけで灰になる魔法だった。

    しかし。

    むヌフリヌトは動かない。

    巚倧な炎の腕をゆっくりず掲げる。

    次の瞬間。

    その身䜓から倪陜の衚面のような癜い炎が噎き䞊がった。

    炎竜の矀れを飲み蟌み、

    抌し朰し、

    消し飛ばす。

    さらに勢いを増した癜炎が゚ルメディアスを襲う。

    だが。

    ゚ルメディアスは埮動だにしない。

    「ただだ」

    再び詠唱。

    今床はさらに長い。

    さらに重い。

    空間に無数の魔法陣が出珟する。

    倩井。

    壁。

    床。

    掞窟党䜓が魔法陣で埋め尜くされた。

    「――降れ」

    空があったなら。

    きっず流星雚に芋えただろう。

    無数の炎の槍が降り泚いだ。

    䞀本䞀本が城を消し飛ばせる嚁力。

    それが数癟。

    数千。

    雚のように降る。

    蜟音が䞖界を埋め尜くした。

    しかし。

    むヌフリヌトは笑ったように芋えた。

    その巚䜓が膚れ䞊がる。

    炎がさらに濃くなる。

    赀から癜ぞ。

    癜から青ぞ。

    青から黄金ぞ。

    そしお。

    黄金の炎が爆発した。

    炎の槍が蒞発する。

    岩が消える。

    地面が消える。

    空間そのものが歪む。

    ゚ルメディアスはさらに前ぞ出る。

    ロヌブが燃え䞊がるほどの熱量。

    それでも止たらない。

    長い。

    あたりにも長い詠唱。

    叀代語が幟重にも重なり、

    掞窟党䜓が共鳎する。

    炎が集たる。

    䞀点ぞ。

    䞀点ぞ。

    䞀点ぞ。

    やがお。

    圌の頭䞊に小さな火球が生たれた。

    あたりにも小さい。

    その火球に掞窟䞭の炎が吞い蟌たれおいる。

    むヌフリヌトの炎さえ。

    溶岩の熱さえ。

    空気䞭の熱さえ。

    党お。

    火球は倪陜になった。

    盎芖できない。

    存圚しおいるだけで呚囲が厩壊する。

    むヌフリヌトも初めお譊戒した。

    䞡腕を広げる。

    咆哮。

    そしお。

    巚倧な炎の柱を攟぀。

    山を蒞発させるほどの炎。

    察する゚ルメディアスは静かに呟く。

    「行け」

    小さな倪陜が前ぞ進む。

    炎の柱ず衝突。

    蜟音。

    衝撃。

    爆颚。

    䞖界が割れたかのような光。

    だが。

    止たらない。

    炎の柱を抌し返し。

    砕き。

    飲み蟌み。

    倪陜はゆっくりず前進する。

    むヌフリヌトの黄金の炎がさらに膚れ䞊がる。

    それを䞊回るように倪陜も巚倧化する。

    抌し返す。

    抌し返される。

    抌し返す。

    抌し返される。

    互いに䞀歩も譲らない。

    炎の粟霊王ず、千幎を生きた倧魔導垫。

    二぀の灌熱がぶ぀かり合うたび、

    掞窟は悲鳎のような音を立おお震え続けおいた。

    やがお――

    むヌフリヌトが笑った。

    蜟音のような笑い声だった。

    巚倧な炎の身䜓が厩れ始める。

    炎は枊を巻き、

    収束し、

    䞀本の剣ぞず姿を倉えおいく。

    赀金色に茝く倧剣。

    呚囲の空気さえ揺らめかせる灌熱の刃。

    その剣が静かに゚ルメディアスの前ぞ降り立った。

    アルトは呆然ず呟く。

    「終わり  なのか」

    ゚ルメディアスは剣を手に取る。

    「炎の剣ずは歊噚の名前ではない」

    そう蚀っお剣を芋䞊げた。

    「炎の化身むヌフリヌト。その仮の姿だ」

    「仮の姿」

    リシェルが銖を傟げる。

    「炎の剣ずは剣ずしお存圚しおいるわけじゃない。粟霊が認めた盞手にのみ、この姿を䞎える」

    セむンが目を芋開いた。

    「埅っおください、我々が扱う炎魔法は炎の粟霊から力を借りおいるものです。その粟霊自身に認められるなど  そんなこずが可胜なのですか」

    ゚ルメディアスは錻で笑った。

    「魔法は契玄だ」

    そう蚀っお炎の剣を肩に担ぐ。

    「力を借りるだけなら誰でもできる」

    「だがむヌフリヌトは炎そのものだ」

    「氷も雷も颚も意味はない」

    「打ち消される」

    「炎を極めた者だけが、炎の王に挑む資栌を持぀」

    静寂が萜ちる。

    アルトは改めお゚ルメディアスを芋た。

    䞖界最高峰の魔導垫。

    その事実を嫌ずいうほど思い知らされおいた。

    【氷の囜】 

    画像

    掞窟から抜けるず、入口の近くでラりルが埅っおいた。

    「行きたしょう。」

    「埅っおおくれたんだな。おいうか、行くっおどこに行くんだよ」

    アルトが尋ねる。

    「氷の囜だ」

    ゚ルメディアスは足を止めずに答えた。

    「氷の囜」

    「そい぀は案内圹ではない。監芖圹だ」

    そう蚀っおラりルぞ芖線を向ける。

    「監芖」

    アルトは目を䞞くした。

    「なんでだよ。おいうか、もしかしお案内なんかなくおもここたで来れたのか」

    「瀌を尜くしたたでだ」

    ゚ルメディアスはそれだけ蚀った。

    あれほど膚倧な魔力を䜿った盎埌ずは思えない。

    汗䞀぀かかず、涌しい顔で歩いおいく。

    アルトは玍埗がいかず頭をかいた。

    「説明が少なすぎるだろ  」

    するず隣を歩くセむンが静かに口を開いた。

    「私にもよく分かりたせん」

    「だよな」

    「ですが、䞀぀だけ確かなこずがありたす」

    セむンは前を行く倧魔導垫の背䞭を芋぀める。

    「炎の剣があれば党お解決する、ずいう話ではないようです」

    「  」

    「剣を手に入れおもなお、私たちは次ぞ進んでいる。぀たり、ただ必芁なものがあるのでしょう」

    アルトは黙った。

    「時が来れば話しおくれるのかもしれたせん。ですが、もう私たちは人智を超えた領域に足を螏み入れおいたす」

    セむンは小さく息を吐く。

    「今は埓いたしょう」

    その蚀葉に誰も反論しなかった。

    ゚ルメディアスだけが迷いなく先ぞ進み続ける。

    たるで党おを知っおいるかのように。

    âž»

    それから数日埌。

    倧地から緑が消えた。

    冷たい颚が吹き始め、吐く息は癜く凍る。

    炎の剣を手にした䞀行は、新たな地ぞず足を螏み入れた。

    氷の倧地を越えた先。

    䞀行の前に珟れたのは、空ぞ突き刺さるような巚倧な氷の城壁だった。

    入り口は芋圓たらない。

    アルトが眉をひそめる。

    「行き止たりだぞ」

    ゚ルメディアスは答えず、炎の剣を前ぞ掲げた。

    赀い刀身が茝く。

    次の瞬間。

    蜟音ず共に炎が噎き䞊がった。

    巚倧な炎の粟霊――むヌフリヌトの幻圱。

    その姿が珟れるず、城壁を芆う氷が次々ず溶け始める。

    やがお氷の奥から䞀本の道が姿を珟した。

    「なるほどな。」

    セむンが呟く。

    「炎の剣は鍵でもあったずいうわけか。」

    アルトぱルメディアスを芋る。

    ゚ルメディアスだけは驚く様子もなく、その道を芋぀めおいた。

    たるで芋芚えがあるかのように。

    âž»

    道を進むず氷の魔物たちが襲いかかっおきた。

    氷狌。

    氷でできた巚倧な獣。

    アルトたちは迎え撃぀。

    セレンの魔法が炞裂する。

    ラルフの矢が正確に敵を射抜く。

    だが敵の数が倚すぎた。

    倒しおも倒しおも珟れる。

    埐々に包囲されおいく。

    「゚ルメディアス」

    アルトが怒鳎った。

    「お前が本気を出せば終わるだろ」

    しかし゚ルメディアすは動かない。

    その時だった。

    吹雪が巻き起こる。

    氷の魔物たちが䞀斉に動きを止め、道を開いた。

    珟れたのは癜銀の鎧を纏った女戊士だった。

    その姿を芋た瞬間。

    ゚ルメディアスが目を现める。

    女戊士もたた圌を芋据えおいた。

    「䜕をしに来た、゚ルメディアス。」

    ゚ルメディアスは答えない。

    明らかに顔芋知りだった。

    呚囲の空気が凍り぀く。

    アルトたちは状況が理解できない。

    だが二人の間に長い因瞁があるこずだけは分かった。

    「効は最埌たでお前を埅っおいた。」

    アルトたちは息を呑む。

    ゚ルメディアスは䜕も蚀わない。

    ただ静かに受け止めおいた。

    「それでもお前は来なかった。」

    吹雪が激しくなる。

    沈黙。

    それが䜙蚈に女戊士の怒りを煜った。

    女戊士が手を振った。

    地面の氷が生き物のように動き出す。

    アルトたちの足に絡み぀き、䞀瞬で党身を拘束した。

    「なっ」

    セレンが魔法を攟ずうずするが間に合わない。

    ラルフも動きを封じられる。

    アルトも剣を振るえなかった。

    「女王陛䞋の前ぞ連れお行け。」

    氷の兵たちが珟れる。

    「そこで裁きを受けおもらう。」

    女戊士ぱルメディアスを睚み぀けた。

    「お前が䜕を望もうず関係ない。」

    「氷の囜は、お前を蚱しおいない。」

    こうしお䞀行は拘束されたたた、氷の王城ぞず連行されるのだった。

    ヌ

    氷の王城は静寂に包たれおいた。

    透き通る氷の柱が䞊び、その先に玉座がある。

    玉座には䞀人の女性が腰掛けおいた。

    銀色の長い髪。

    氷のように矎しい瞳。

    氷の囜の女王だった。

    拘束されたたた連れおこられた䞀行の前に、女戊士が進み出る。

    「女王陛䞋。」

    女戊士は片膝を぀いた。

    「䟵入者を捕らえたした。」

    女王は静かに頷く。

    その芖線が゚ルメディアスぞ向けられた。

    「䜕をしに来たのです。」

    声は穏やかだった。

    だが冷たい。

    氷よりも冷たい。

    女戊士が口を開く。

    「問答は䞍芁です。」

    その瞳には怒りが宿っおいた。

    「即刻死刑に。」

    城内が静たり返る。

    しかし女王は女戊士を制した。

    「たずは話を聞きたしょう。」

    ゚ルメディアスは䞀歩前ぞ出た。

    そしお迷うこずなく跪いた。

    アルトは目を芋開く。

    倧魔導垫が頭を䞋げる姿など想像もしおいなかった。

    「お願いがありたす。」

    女王は黙っおいる。

    「囜宝である短剣をお貞しいただきたい。」

    ざわめきが広がった。

    氷の囜の民たちが顔を芋合わせる。

    囜宝。

    この囜にずっお最も倧切な宝。

    それを貞しおほしいず蚀っおいるのだ。

    「理由は。」

    女王が尋ねる。

    「倧切なものを守るためです。」

    ゚ルメディアスは答えた。

    それ以䞊は蚀わない。

    蚀い蚳もしない。

    匁明もしない。

    ただ静かに跪いおいる。

    女王はしばらく圌を芋぀めおいた。

    長い沈黙が続く。

    やがお女王はゆっくりず立ち䞊がった。

    誰にも感情を読たせない声だった。

    「宝物庫を開けなさい。」

    城内がざわ぀く。

    女戊士が思わず顔を䞊げた。

    「陛䞋」

    「聞こえたせんでしたか。」

    静かな声だった。

    しかし逆らえる者はいない。

    やがお数人の䟍女が神々しい宝石箱を運んでくる。

    玔癜の宝石で圩られた箱だった。

    女王は箱を開く。

    䞭には䞀本の短剣。

    たるで氷から削り出したような矎しい刃が収められおいた。

    囜宝。

    氷の囜に䞀぀しか存圚しない宝。

    女王はそれを手に取る。

    民たちは息を呑んだ。

    次の瞬間。

    女王は短剣を゚ルメディアスの足元ぞ投げ捚おた。

    也いた音が響く。

    誰もが目を疑った。

    「陛䞋」

    驚きの声が䞊がる。

    女王は冷たく蚀い攟った。

    「くれおやる。」

    ゚ルメディアスは黙っお短剣を芋぀める。

    「その代わり。」

    女王の瞳が现められる。

    「二床ず私たちの前に珟れるな。」

    その堎の党員が蚀葉を倱った。

    予想しおいた刀決ずは違った。

    だが女王の怒りは誰よりも深かった。

    殺す䟡倀すらない。

    そう蚀われたに等しかった。

    ゚ルメディアスは静かに短剣を拟う。

    「感謝したす。」

    女王は答えない。

    「必ずお返ししたす」

    リシェルが思わず声を䞊げた。

    城内の芖線が集たる。

    姫は真剣な衚情だった。

    善意だった。

    圓然の玄束だず思った。

    しかし。

    「黙れ、小嚘。」

    女王の䞀喝が響く。

    姫は身䜓を震わせた。

    初めおだった。

    良かれず思っお蚀った蚀葉を真正面から拒絶されたのは。

    思わず蚀葉を倱う。

    胞の奥が少しだけ痛んだ。

    なぜ怒られたのか分からない。

    ただ女王は姫を芋おいた。

    【アルナベヌル】

    画像

    短剣を、゚ルメディアスが懐にしたおうずした時。

    玉座の間の倧扉が勢いよく開かれる。

    「女王陛䞋の埡前だぞ」

    だが、飛び蟌んできた兵士は顔面蒌癜だった。

    「よい。どうした」

    女王が静かに蚀う。

    兵士は片膝を぀き、震える声で報告した。

    「ご報告申し䞊げたす ――アルナベヌルが消滅したした」

    その蚀葉に堎の空気が凍り぀く。

    アルトは思わず顔を䞊げた。

    「消滅  」

    兵士は続ける。

    「鉱石の取匕に行った者の報告です。街も村も焌かれおおりたす。生存者は確認できおおりたせん」

    沈黙。

    誰も蚀葉を発しない。

    アルナベヌル。

    蟺境に存圚する小囜。

    豊かでも匷倧でもない。

    だが人間の囜でありながら、゚ルフの森ず氷の囜の双方ず亀流を持぀、極めお珍しい囜だった。

    圌らは城壁や兵噚に頌らない。

    神を敬い、森を敬い、自然の流れに身を委ねお生きる民。

    春には花を育お、

    倏には森の実りを分け合い、

    秋には収穫を祝い、

    冬には静かに祈る。

    人間嫌いの゚ルフでさえ、その生き方には䞀定の敬意を払っおいた。

    氷の囜も同じだった。

    互いに深く関わるこずはない。

    だが、魔法薬の材料ずなる垌少な薬草や、その土地にしか咲かない花々、鉱石など、必芁最䜎限の亀易は続けられおいた。

    それほどたでに穏やかな囜だった。

    「ありえぬ  」

    女戊士が䜎く呟く。

    「アルナベヌルには軍事的䟡倀などない。攻める意味がないではないか」

    兵士が震えながら蚀う。

    「目撃者によれば  街の倖壁ごず吹き飛ばされおいたず」

    「魔法か」

    「分かりたせん。ですが、生き残った家畜すら芋圓たらなかったず  」

    女王はゆっくりず立ち䞊がった。

    その蒌い瞳が遠くを芋぀める。

    「゚ルメディアス、短剣の察䟡ずしお情報を持ち垰りなさい」


    「自然を愛した囜が最初  」

    女王の぀ぶやきは誰にも聞こえなかった


    第3章

    【 skeleton in the closet】

    画像

    王城地䞋――

    空気が重い。

    冷たい。

    たるで地䞋そのものが呌吞しおいるようだった。

    壁䞀面に刻たれた叀代文字。

    鎖。

    巚倧な封印杭。

    そしお――

    扉の隙間から挏れ出す黒い瘎気。

    ロヌりェンは無蚀で剣を地面ぞ突き立おた。

    瞬間。

    黒い魔力が噎き出す。

    たるで埅っおいたかのように。

    䜎い笑い声。

    人ではない囁き。

    耳ではなく脳ぞ盎接響く声。

    『  限界だ』

    ロヌりェンは目を閉じた。

    『もう隠せぬ』

    「黙れ」

    『王は匱っおいる』

    「黙れ」

    『貎様も壊れおいる』

    黒い靄がロヌりェンの腕ぞ絡み぀く。

    皮膚が軋む。

    血管が黒く浮かび䞊がる。

    だがロヌりェンは動じない。

    『なぜ抗う』

    『貎様は理解しおいるはずだ』

    『人は守れぬ』

    『結局、党お滅ぶ』

    ロヌりェンは剣の柄を匷く握る。

    「  それでも」

    黒い靄が嗀う。

    『それでも』

    「王が守ろうずしたものを」

    ロヌりェンは顔を䞊げた。

    「俺は最埌たで守る」

    その瞬間。

    瘎気が爆発した。

    地䞋党䜓が震える。

    封印杭に亀裂。

    鎖が軋む。

    ロヌりェンの口元から黒い血が流れ萜ちた。

    それでも。

    圌は片膝すら぀かない。

    「ただだ」

    䜎い声。

    「ただ終わらん」

    【蟺境の地】

    画像


    氷の囜を出発した䞀行は、蟺境ぞ向かう途䞭の宿屋で䞀倜を過ごしおいた。

    䞀行はテヌブルを囲んで翌日の確認をしおいた。

    「あの女王様、無茶苊茶だよな」

    肉を頬匵りながらアルトががやく。

    「二床ず来るなっお蚀ったり、情報を持ち垰れっお蚀ったり。姫を怒鳎り぀けたかず思ったら高そうな指茪くれたり」

    アルトは腕を組む。

    「頭おかしいんじゃないか」

    ゚ルメディアスが本から目を䞊げた。

    「やめおおけ」

    「䜕がだ」

    「その指茪だ」

    アルトはリシェルの右手を芋る。

    青癜い宝石が埋め蟌たれた指茪。

    「その指茪には察になる魔道具がある」

    「ぞぇ」

    「遠距離でも意思疎通が可胜だ」

    アルトの動きが止たった。

    「぀たり」

    ゚ルメディアスは淡々ず蚀う。

    「聞かれおいる可胜性がある」

    数秒の沈黙。

    アルトは背筋を䌞ばした。

    「女王陛䞋は倧倉聡明なお方だず思いたす」

    セむンが吹き出す。

    姫も思わず笑った。

    「遅いです」

    「いや、そういうこずは先に蚀えよ」

    アルトは慌おお呚囲を芋回した。

    ゚ルメディアスは興味を倱ったように再び本ぞ芖線を萜ずす。

    「それより地図だ」

    ラりルがテヌブルぞ地図を広げる。

    「消滅した囜はここだ」

    现い指が地図の端を瀺した。

    「私も行ったこずはないが䜍眮は分かっおいる」

    「゚ルフの里にも䌝承がある。人間の囜でありながら、我々ず氷の囜の䞡方ず亀流しおいた唯䞀の囜だ」

    「じゃあ明日には着くのか」

    「ああ、ここからなら日暮れ前には到着するはずだ」

    アルトが胞を叩いた。

    「なら案内は任せろ」

    党員が嫌そうな顔をした。

    「なんだその反応」

    「䞍安です」

    リシェルが即答する。

    「倱瀌だな」

    「私も䞍安だ」

    セむンが続く。

    「お前たで」

    「今たでの実瞟を考えるず劥圓な評䟡だ」

    ゚ルメディアスが蚀った。

    アルトは玍埗いかない顔のたた垭を立った。

    「芋おろよ。明日は完璧に案内しおやるからな」

    誰も返事をしなかった。

    ヌ

    翌日。

    䞀行は砂挠を進んでいた。

    アルトが埡者台で手綱を握る。

    銬車の巊右をセむンずラルフが銬で護衛しおいた。

    銬車の䞭には姫ず゚ルメディアス。

    揺れる車内で゚ルメディアスは魔導曞を読んでいる。

    姫は䜕床も話しかけようずしおいた。

    「あの  」

    返事はない。

    「その本は面癜いんですか」

    「普通だ」

    䌚話終了。

    「玠敵なロヌブですね」

    「ああ。」

    それでも姫は諊めない。

    しばらくしお荷物袋からりんごを取り出した。

    「りんご剥きたしょうか」

    ゚ルメディアスの指が止たる。

    䞀瞬だけ。

    遠い昔。

    同じ蚀葉を聞いたこずがあった。

    倱われた日々。

    戻らない時間。

    「りんごは嫌いだ」

    姫は目を䞞くする。

    「そうなんですか」

    「でも、このりんごは矎味しいですよ」

    姫は剥き始めた。

    「はい、どうぞ」

    差し出された。

    ゚ルメディアスは無蚀になる。

    姫は笑顔だ。

    しばらく睚み合った埌、根負けしお受け取る。

    䞀口。

    甘い。

    居心地の悪さから芖線を逞らし、倖ぞ声を匵る。

    「アルト」

    「なんだヌ」

    「ただ着かないのか」

    「もう着く」

    元気な返事が返っおきた。

    しかし。

    それから䞀時間。

    砂挠しかなかった。

    【䌝説の階士レオンハルト】

    画像

    アルトは地図ず前方を䜕床も芋比べる。

    「おかしいな  」

    「どうした」

    セむンが近付く。

    「もう着いおるはずなんだ」

    ラりルも呚囲を芋回した。

    「確かにおかしい」

    巚倧な岩がある。

    蚘録ず䞀臎する。

    方角も合っおいる。

    だが。

    囜がない。

    山も川も存圚しない。

    どこたでも続く砂だけ。

    「消滅っお・・・」

    アルトが呟く。

    誰も答えられなかった。

    倪陜は傟き始めおいる。

    結局、その日は捜玢を諊めるこずになった。

    ヌ

    倜。

    砂挠で野営する。

    焚き火が小さく揺れおいた。

    やがお党員が眠りに぀く。

    しかし。

    セむンだけは起きおいた。

    剣を握る。

    型を繰り返す。

    䜕床も。

    䜕床も。

    汗が流れる。

    呌吞が荒くなる。

    それでも止めない。

    奢っおいたわけではない

    剣を振る。

    ただ、頂点だず思っおいた

    さらに振る。

    剣術も魔法も

    炎が宿る。

    だが、それは人間界での話だ

    魔力を借りただけのネズミ。

    数々の怪物。

    䞖界は広い。

    魔族は階士道など知らない。

    悪意のたた牙を向けおくる。

    もっず匷くならなければならない。

    もっず高みに。

    もっず先ぞ。

    剣を地面ぞ突き刺す。

    詠唱。

    巚倧な魔法陣が浮かび䞊がった。

    さらに詠唱。

    業火が生たれる。

    炎は膚れ䞊がる。

    それでも足りない。

    もっず。

    もっずだ。

    そしお剣を抜き炎を纏わせる。

    䞀閃。

    蜟音。

    巚倧な岩が真っ二぀になった。

    旅が始たっおから毎倜続けおいる鍛錬だった。

    その様子を少し離れた堎所から゚ルメディアスが芋おいた。

    その時だった。

    セむンが動きを止める。

    「  なんだ」

    砂挠の向こう。

    空気が揺らいでいる。

    蜃気楌のようだった。

    だが違う。

    䜕かがある。

    巚倧な城壁。

    黒い塔。

    たるで闇そのものを積み䞊げたような巚倧な城。

    「おい」

    セむンが叫ぶ。

    「起きろ」

    党員が飛び起きた。

    アルトが目を擊る。

    「なんだよ  」

    そしお固たった。

    砂挠の圌方。

    䜕もなかったはずの堎所に巚倧な城が浮かび䞊がっおいる。

    ラりルが息を呑む。

    「そんな  」

    ゚ルメディアスが静かに呟いた。

    「なるほど」

    ゚ルメディアスは目を现めた。

    「事実を眮き換えおいるのか」

    その城は姿を珟した。

    銖の無い黒銬が、音もなく霧の䞭から珟れる。

    いや――銬だけではない。

    その背には黒い倖套をたずった男が跚っおいる。

    人の圢をしおいる。

    だが人ではない。

    その身から挂う気配だけで分かる。

    生物ずしお䜕かが決定的に違う。

    アルトは無意識に剣ぞ手を䌞ばした。

    「魔族  」

    セむンが䜎く呟く。

    魔族は䞀行を芋回し、口元を歪めた。

    「おやおや」

    やけに䞁寧な口調だった。

    だがその声には露骚な䟮蔑が混じっおいる。

    「面癜い組み合わせですね」

    芖線がアルト達ぞ向く。

    「人間」

    次にラりル。

    「゚ルフ」

    そしお最埌に゚ルメディアスぞ。

    「ではあなたは  なんでしょう」

    たるで珍しい動物でも眺めるような目だった。

    「ふふ」

    魔族は小さく笑う。

    「興味深いですね」

    その笑みには敬意など欠片もない。

    人間も゚ルフも、自分より遥か䞋の存圚。

    だからこそ䞁寧に接する。

    子䟛が蟻を芳察するように。

    セむンが䞀歩前ぞ出る。

    そしお、アルトも剣を抜いた。

    「俺も――」

    「䞋がれ」

    ゚ルメディアスが制した。

    「え」

    「やっおみろ」

    淡々ずした声だった。

    「もっず厄介なものが、この先にはいる」

    セむンは苊笑した。

    「信甚されおるのか詊されおるのか分からないな」

    そのやり取りを芋おいた魔族が肩を震わせる。

    「なるほど」

    「人間に戊わせるのですか」

    楜しそうに蚀う。

    「人間の埓者ですか」

    「あるいは」

    口元が倧きく吊り䞊がる。

    「ペットですかね」

    「では」

    指を鳎らす。

    「私もおもちゃで遊んであげたしょう」

    地面から黒い霧が立ち䞊る。

    その䞭から珟れたのは――

    銖の無い甲冑の階士だった。

    重厚な鎧。

    巚倧な剣。

    そしお銖だけが無い。

    珟れた瞬間。

    階士は地面を砕きながら突進した。

    速い。

    セむンが剣を構える。

    蜟音。

    火花。

    䞀撃を真正面から受け止める。

    「ぐっ」

    重い。

    だが耐える。

    戊士は容赊なく远撃を济びせる。

    二撃。

    䞉撃。

    四撃。

    セむンは埌退しながら党お防いだ。

    その最䞭。

    鎧の胞元に刻たれた王章が目に入る。

    芋芚えがあった。

    叀い歎史曞で芋たこずがある。

    そしお――

    魔族が鳥籠のような物を取り出した。

    「ほら」

    楜しそうに揺らす。

    その䞭には。

    銖が入っおいた。

    短髪の男の銖。

    閉じおいた目がゆっくり開く。

    「逃げろ」

    突然叫んだ。

    「我が名はレオンハルト」

    セむンの目が芋開かれる。

    「なっ  」

    「人類の敵う盞手ではない」

    レオンハルト。

    䌝説の階士。

    数癟幎前の英雄。

    誰もが知る名前だった。

    魔族は楜しそうに笑う。

    セむンの動きが止たる。

    その䞀瞬。

    銖無しの剣士が振り䞋ろした。

    蜟音。

    今床は防埡が遅れた。

    「ぐあっ」

    吹き飛ばされる。

    地面を䜕床も転がった。

    魔族が嬉しそうに拍手する。

    「いいですね」

    「もっず楜したせおください」

    その瞬間だった。

    ヒュン――

    颚を裂く音。

    䞀本の矢が籠を貫いた。

    ガシャン

    籠が砕ける。

    銖が地面ぞ転がった。

    同時に。

    銖無しの戊士の動きが止たる。

    ピタリず。

    たるで糞が切れた人圢のように。

    魔族の笑みが消えた。

    「  あ」

    次の瞬間。

    ラりルが目の前にいた。

    颚そのものだった。

    魔族の目が芋開く。

    剣閃。

    䞀瞬。

    銖が宙を舞った。

    地面に転がる魔族の銖。

    だが死なない。

    口だけが動く。

    「貎様ァァァァ」

    先皋たでの玳士的な口調は消えおいた。

    「薄汚い耳長が」

    「䞋等皮族が」

    怒号が飛ぶ。

    ラりルは䜕も蚀わない。

    ただ歩く。

    そしお。

    転がる銖を螏み぀けた。

    ぐしゃり。

    骚が軋む。

    魔族の悲鳎が響く。

    さらに力を蟌める。

    頭蓋が割れ始めた。

    「やめろ」

    「やめろォォ」

    ラりルは無衚情だった。

    たるで虫でも朰すように。

    最埌に䞀蚀だけ呟く。

    「汚らわしい」

    鈍い音ず共に。

    魔族の頭郚は完党に砕け散った。

    静寂が蚪れる。

    アルトは蚀葉を倱う。

    セむンも立ち尜くしおいた。

    静寂が戻った。

    砕かれた魔族の頭郚は黒い灰ずなり、颚に散っおいく。

    セむンは肩で息をしおいた。

    もしラりルの揎護がなければ死んでいた。

    「助かった」

    セむンが蚀う。

    「瀌はいらん」

    ラルフは興味なさそうに答えた。

    その時、地面に転がっおいたレオンハルトの銖が再び目を開いた。

    「ただ話せるのか」

    アルトが驚く。

    「長くはもたん」

    セむンが膝を぀く。

    「あの城は」

    「魔族の城だ。陞の魔族、空の魔族が控えおいる。今戊ったのは斥候に過ぎない。あの城には近づくな・・・」

    そう蚀い終わらないうちに䌝説の階士レオンハルトは煙の様に消えた。

    やがおアルトが口を開く。

    「どうする」

    ゚ルメディアスは即答した。

    「魔城ぞ行く」

    「様子芋か」

    「違う」

    「乗り蟌む。時間がないはずだ。」

    颚が吹く。

    黒い雲の向こう。

    山脈の奥に芋える巚倧な黒い圱。

    魔城。

    たるで䞖界に突き刺さった墓暙のようだった。

    【魔城】

    画像

    魔城ぞ続く荒野は死の倧地だった。

    だが、䞀行を止められるものはもういない。

    牙を剥くオヌガ。

    矀れを成すワヌりルフ。

    巚倧な毒蜘蛛。

    魔物たちは次々ず襲い掛かっおくる。

    しかし。

    アルトが前に出る。

    䞀倪刀。

    二倪刀。

    たるで盞手の行動を知っおいたかのように急所を斬り裂く。

    戊うたびに匷くなる。

    それも異垞な速床で。

    最初は剣の腕だけだった。

    次は間合い。

    次は駆け匕き。

    そしお今では盞手の思考たで読んでいるようだった。

    敵が䜕を狙うのか。

    どこぞ動くのか。

    党お芋抜いおいるかのようだった。

    セむン・ラりルは匷い。

    そしお゚ルメディアスは蚀わずもがな。

    その䞭で、アルトの成長には目を芋匵る物があった。

    しばらく行くず぀いに魔城が芋えた。

    黒い雲に芆われた巚倧な城。

    その門前に埅ち受けおいたのは死者の軍勢だった。

    朜ちた鎧。

    折れた槍。

    腐り果おた兵士たち。

    アルトの顔色が倉わる。

    滅んだ囜の兵たちだった。

    ゚ルメディアスが前ぞ出る。

    「ここは私が匕き受けよう」

    「でも」

    ゚ルメディアスは静かに蚀った。

    「先ぞ進め」

    死者の軍勢が抌し寄せる。

    無数の魔法陣が展開された。

    その䞭心ぞ。

    ゚ルメディアスが䞀人歩いおいく。

    振り返りもしなかった。

    【死者の王 ノァルネクロム】

    画像


    死者の軍勢が城門前を埋め尜くしおいた。

    朜ちた兵士。

    腐敗した階士。

    骞骚の匓兵。

    数千。

    いや、それ以䞊。

    か぀お滅んだ囜々の兵士たちが、再び立ち䞊がっおいた。

    その䞭倮。

    黒い法衣を纏った魔物がゆっくりず前ぞ出る。

    䜎い声が響く。

    「我が名はノァルネクロム」

    杖を掲げる。

    呚囲の死者たちが䞀斉に歊噚を構えた。

    「死者の王なり」

    ゚ルメディアスは歩みを止めなかった。

    「叀の魔法䜿いか」

    ノァルネクロムが目を现める。

    「名前を聞いおおこう」

    ゚ルメディアスは答えない。

    ただ前ぞ進む。

    「お前に名乗る名など無い」

    ノァルネクロムの眉が僅かに動いた。

    「随分な自信だな」

    杖の先が向けられる。

    「この数を目の前にしお」

    呚囲を埋め尜くす死兵たち。

    「呜乞いをしおも遅いぞ」

    ゚ルメディアスは立ち止たる。

    そしお初めお芖線を向けた。

    「それが最埌の蚀葉でいいか」

    空気が凍った。

    「  あくたでも我を愚匄する気か」

    杖を振り䞊げる。

    倧地が震えた。

    土を突き砎り新たな腕が珟れる。

    骞骚。

    死䜓。

    階士。

    次々ず這い出しおくる。

    数癟。

    数千。

    軍勢はさらに膚れ䞊がった。

    「芋よ」

    ノァルネクロムが叫ぶ。

    「これが死の軍団だ」

    ゚ルメディアスは顔色䞀぀倉えない。

    「お前の胜力は手䞋を増やすだけか」

    「䜕を──」

    蚀葉は最埌たで続かなかった。

    蜟音。

    癜い閃光。

    次の瞬間。

    ノァルネクロムの右半身が消し飛んでいた。

    「な  」

    ノァルネクロムが膝を぀く。

    ゚ルメディアスは芖線を死の軍団ぞ向ける。

    そしお右手を䞊げた。

    無数の魔法陣。

    空を埋め尜くすほどの数。

    死者たちが初めお埌退る。

    「人間を匄ぶのは終わりだ」

    光が降り泚いだ。

    死者たちは悲鳎すら䞊げられない。

    觊れた瞬間に消滅しおいく。

    骚も。

    鎧も。

    呪いも。

    魂すら残さず浄化されおいく。

    たるで雪が朝日に溶けるように。

    数千の軍勢は数分ずかからず消え去った。

    最埌に残ったのは地を這うノァルネクロムだけだった。

    「埅お  」

    ノァルネクロムが震える声を挏らす。

    ゚ルメディアスは歩き出す。

    その盎埌。

    ノァルネクロムの身䜓は音もなく厩壊した。

    【空の魔王 れファルド】

    画像

    アルト、セむン、ラりル、リシェルの4人が魔城の広堎ぞ足を螏み入れる。

    城内ぞ進むず二぀の気配が埅ち受けおいた。

    䞀぀は倧地を揺らす重圧。

    䞀぀は空を裂く殺意。

    そこは異様な空間だった。

    黒い石畳。

    厩れた塔。

    そしお広堎の䞭倮に二぀の巚倧な圱。

    䞀぀は倧地のような巚䜓を持぀陞の王。

    もう䞀぀は翌を広げた空の王。

    巚倧な翌が広堎を芆う。

    その嚁圧感だけで普通の兵士なら立っおいられない。

    ラりルが䞀歩進み出た。

    「こっちは任せろ」

    空の魔王がゆっくりず空ぞ浮かび䞊がる。

    「我が名は空の芇者れファルド」

    ラりルは答えない。

    静かに匓を匕く。

    れファルドが咆哮する。

    空気が震えた。

    雲が裂ける。

    次の瞬間。

    空を埋め尜くすほどの魔物が珟れた。

    ワむバヌン。

    飛竜。

    巚倧鳥。

    「喰らい尜くせ」

    空の魔物たちが䞀斉に襲い掛かる。

    だがラルフは冷静だった。

    䞀本の矢を攟぀。

    矢は空䞭で分裂する。

    二本。

    四本。

    八本。

    十六本。

    さらに増える。

    空を埋める無数の光の矢。

    その䞀本䞀本から魔法陣が珟れた。

    次の瞬間。

    倧地が揺れる。

    蜟音。

    広堎䞀垯の地面を突き砎り巚倧な朚々が生えた。

    幹は塔ほど倪い。

    枝は蛇のように䌞びる。

    空ぞ向かっお爆発的に成長した朚々が飛行魔物たちを次々ず貫いた。

    ワむバヌンが䞲刺しになる。

    飛竜が胎を裂かれる。

    巚倧鳥が悲鳎を䞊げながら墜萜する。

    血が降り泚ぐ。

    だが朚々は止たらない。

    さらに成長する。

    さらに䌞びる。

    気付けば広堎䞀垯は巚倧な森ぞ倉貌しおいた。

    れファルドが翌を振るう。

    暎颚。

    森が吹き飛ぶ。

    巚朚が折れる。

    根こそぎ匕き抜かれる。

    竜巻のような颚が森を薙ぎ払った。

    だが。

    ラりルの姿はない。

    「こざかしいどこだ」

    れファルドが呚囲を芋回す。

    その瞬間。

    頬に衝撃。

    䞀本の矢。

    血が流れる。

    背埌だった。

    れファルドが振り向く。

    ラりルは既にいない。

    たた別方向から矢が飛ぶ。

    肩。

    翌。

    腹。

    確実に呜䞭する。

    どれも臎呜傷ではない。

    だが必ず圓たる。

    回避できない。

    森の䞭。

    姿を隠しながら射撃を続けるラルフ。

    それは狩りだった。

    獲物を匱らせる猟垫の戊い。

    傷は増え続ける。

    魔力も削られる。

    そしお䜕より。

    芋えない。

    「出おこい」

    れファルドが咆哮する。

    「臆病者が」

    森が吹き飛ぶ。

    朚々が裂ける。

    それでもラりルは姿を芋せない。

    矢だけが飛んでくる。

    そしお、突然ラりルが姿を珟した。

    森の䞭倮。

    䜕も隠れるもののない堎所。

    静かに立っおいる。

    れファルドの目が芋開かれる。

    「ようやく正面に出おきたか」

    巚倧な腕を振り䞊げる。

    勝利を確信した。

    だが。

    動かない。

    腕が止たる。

    翌も動かない。

    身䜓が空䞭で固定されおいた。

    「なに  」

    れファルドが呚囲を芋る。

    光が芋えた。

    今たで撃ち蟌たれた無数の矢。

    地面。

    壁。

    朚々。

    至る所に刺さっおいる。

    その党おを繋ぐ巚倧な魔法陣。

    「気付くのが遅かったな」

    ラりルが呟く。

    「矢は攻撃じゃない」

    光が匷くなる。

    「檻だ」

    無数の魔法陣が連動する。

    巚倧な光の鎖がれファルドの党身を瞛り䞊げた。

    「貎様ぁぁぁぁ」

    れファルドが暎れる。

    だが倖れない。

    ラルフは静かに矢を番えた。

    目を閉じる。

    詠唱が始たる。

    呚囲の魔力が集たる。

    癜い霧のようなものが矢ぞ集たる。

    冷たい空気。

    神聖な光。

    矢が癜く茝き始める。

    「おおぉぉぉぉぉ」

    ぜファルドが咆哮する。

    拘束を匕きちぎろうずする。

    だが間に合わない。

    ラりルが目を開く。

    矢が攟たれた。

    音もない。

    光だけが走る。

    次の瞬間。

    れファルドの銖が宙を舞っおいた。

    巚倧な身䜓が厩れる。

    同時に森が消え始める。

    朚々が光ぞ倉わる。

    枝が。

    幹が。

    葉が。

    党お無数の矢ぞ戻っおいく。

    空を埋め尜くすほどの矢。

    そしお。

    雚のように降り泚いだ。

    銖を倱ったれファルドの身䜓ぞ。

    巚䜓が穎だらけになる。

    肉が裂ける。

    骚が砕ける。

    最埌には原圢すら残らない。

    蜟音ず共に粉々になった。

    空の王れファルドは完党に消滅した。

    ラりルは静かに匓を䞋ろす。

    そしお振り返りもせず、アルトたちの戊堎ぞ向かった。

    【陞の魔王ザルガス】

    画像

    䞀方、

    アルト、セむン、リシェルの䞉人は広堎の反察偎ぞ向かう。

    そこにいたのは巚倧な圱。

    山のような䜓躯。

    黒鉄の鎧。

    城門ほどもある倧斧。

    その姿だけで圧迫感があった。

    巚人のような魔族が䞀歩前ぞ出る。

    「我が名はザルガス」

    䜎い声が倧地を震わせる。

    巚倧な斧が持ち䞊がる。

    「倧地を螏み砕く者」

    それだけ蚀うず芖線がリシェルぞ向く。

    ザルガスが消えた。

    巚䜓ずは思えない速床。

    「姫」

    アルトが叫ぶ。

    蜟音。

    巚倧な斧が振り䞋ろされる。

    アルトが飛び蟌み剣で受けた。

    石畳が砕ける。

    衝撃で吹き飛ばされながらもリシェルを守る。

    「リシェル様」

    セむンが駆け寄る。

    「䞋がっおいおください」

    セむンの声にリシェルは唇を噛み、埌方ぞ䞋がった。

    セむンが呪文を詠唱する。

    魔法陣が展開される。

    火球。

    雷撃。

    氷槍。

    次々ずザルガスぞ叩き蟌む。

    爆発が広堎を芆う。

    だが。

    煙の䞭から珟れたザルガスは無傷だった。

    焊げ跡すらない。

    セむンは剣を抜く。

    炎の魔法陣が足元に浮かぶ。

    毎晩。

    皆が眠った埌も続けた修行。

    魔法を剣に纏わせる技術。

    刀身に炎が宿る。

    赀い炎が揺らめく。

    セむンが飛び蟌む。

    炎の斬撃。

    今床は違った。

    ザルガスの腕に浅い傷が入る。

    初めお。

    血が流れた。

    その瞬間。

    アルトが動く。

    セむンが䜜った僅かな隙。

    懐ぞ朜り蟌む。

    脇腹ぞ䞀閃。

    ザルガスが反撃する。

    巚倧な拳。

    アルトが避ける。

    そこぞセむンの魔法。

    炎匟が顔面で炞裂する。

    芖界が遮られる。

    アルトが斬る。

    セむンが魔法を攟぀。

    アルトが斬る。

    二人は少しず぀呌吞を合わせ始めおいた。

    ザルガスが斧を振るう。

    倧地が割れる。

    岩が突き䞊がる。

    アルトが飛び越える。

    セむンが魔法で砕く。

    ザルガスが拳を攟぀。

    セむンが避ける。

    その背埌からアルトが斬りかかる。

    アルトが芋切り始めた。

    䞀床芋た攻撃。

    二床目は通じない。

    斧の軌道。

    螏み蟌み。

    重心。

    癖。

    党おを芚えおいく。

    ザルガスが振り䞋ろす。

    アルトは半歩だけずれる。

    回避。

    斬撃。

    さらに回避。

    さらに斬撃。

    動きが加速しおいく。

    い぀の間にか。

    セむンがサポヌトになっおいた。

    魔法で芖界を奪う。

    炎で足を止める。

    雷で動きを鈍らせる。

    その隙ぞアルトが飛び蟌む。

    ザルガスが咆哮する。

    党身から魔力が溢れ出した。

    倧地が隆起する。

    広堎党䜓が厩壊を始める。

    巚倧な岩柱が無数に突き䞊がった。

    必殺の構え。

    巚倧な斧が持ち䞊がる。

    セむンが前ぞ出る。

    炎を剣ぞ集䞭させる。

    刀身が真玅に染たる。

    ザルガスの芖線が向く。

    その瞬間だった。

    アルトが消えた。

    加速。

    今たでで最速。

    ザルガスの背埌ぞ回り蟌む。

    ザルガスが気付く。

    だが遅い。

    セむンが正面から飛び蟌む。

    炎の剣を振るう。

    ザルガスが迎え撃぀。

    巚倧な斧が振り䞋ろされる。

    衝突。

    蜟音。

    セむンの肩が裂ける。

    血が舞う。

    それでも止たらない。

    背埌。

    アルトが剣を振るう。

    銖筋ぞ。

    同時だった。

    正面からセむン。

    背埌からアルト。

    二぀の斬撃が亀差する。

    䞀瞬の静寂。

    そしお。

    ザルガスの銖が宙を舞った。

    巚䜓が止たる。

    膝を぀く。

    そしお山のような身䜓が厩れ萜ちた。

    蜟音。

    倧地が揺れる。

    陞の王ザルガス。

    蚎䌐。

    アルトは振り返る。

    セむンが片膝を぀いおいた。

    肩から倧量の血が流れおいる。

    「おい」

    駆け寄る。

    セむンは苊笑した。

    「勝ったんだから  いいだろ」

    その頃。

    空ではラりルが最埌の矢を番えおいた。

    【決戊 魔王】

    画像

    それぞれの戊いが終わり、゚ルメディアスずラりルが合流する。

    セむン巊肩粉砕。

    ラりルが治癒魔法でなんずか止血するが痛みは消せない。

    姫が付き添いその堎に残る事になった。

    アルト・゚ルメディアス・ラりルは玉座の間ぞ。

    玉座の間ぞ続く倧扉が開かれる。

    その瞬間、熱気ずも冷気ずも぀かぬ圧力が党身を包んだ。

    アルトは思わず足を止める。

    広倧な空間の最奥。

    黒い玉座。

    そこに魔族は座っおいた。

    二぀の顔。

    四本の腕。

    たるで耇数の生物を無理やり繋ぎ合わせたような異圢。

    その存圚だけで空気が重い。

    「よくここたで来れたな」

    䜎く響く声。

    右の顔が喋り終える前に、巊の顔が䜕かを呟いおいる。

    途切れるこずのない詠唱。

    アルトの背筋に嫌なものが走った。

    「気を぀けろ」

    剣を構える。

    「郚䞋が隠れおいお奇襲をかけおくるかも」

    魔王は錻で笑った。

    「そんな者必芁か」

    四本の腕がゆっくり広がる。

    「我は最匷にしお王」

    その瞬間。

    空間そのものが震えた。

    ゚ルメディアスが舌打ちする。

    「チッ」

    ラりルも眉をひそめた。

    「盞性が悪いですね」

    「俺たちならいけるだろ」

    アルトが蚀う。

    ラりルは芖線を魔王から離さない。

    「顔が二぀あるずいうこずは呪文を垞に詠唱できる。そしおその詠唱は魔法を無力化するもの」

    巊の顔が詠唱を続ける。

    右の顔が笑う。

    「゚ルメディアスが䞀番脅嚁ず思われおいるのでしょう」

    ゚ルメディアスは炎の剣を抜いた。

    赀い刀身が蜟音ず共に燃え䞊がる。

    「この状況じゃ炎の剣も真䟡を発揮できない。たぁ、ないよりはマシだが」

    ラりルは苊笑する。

    「元より私は先の戊いで魔力を䜿い果たしおしたいたした。セむンの止血ができたのが奇跡です」

    アルトは剣を肩に担いだ。

    「剣でぶっ叩けばいいんだろ」

    二人を芋る。

    「今たでそれでやっおきた」

    ゚ルメディアスは呆れたように息を吐いた。

    「心匷いのか銬鹿なのか・・・揎護しろ」

    蚀い終わる前に。

    ゚ルメディアスが飛び出す。

    炎の剣が䞀盎線に魔王ぞ迫る。

    同時にラりルの矢が攟たれた。

    魔王の目を狙った䞀射。

    だが。

    四本の腕が同時に動く。

    二本で炎の剣を受け止め。

    二本で矢を叩き萜ずす。

    残る二本が゚ルメディアスぞ拳を振り䞋ろした。

    蜟音。

    石床が爆発する。

    ゚ルメディアスは寞前で回避したが衝撃で吹き飛ばされる。

    そこぞアルトが飛び蟌む。

    「うおおおおっ」

    枟身の斬撃。

    魔王の脇腹を狙う。

    しかし。

    金属を叩いたような音。

    刃が浅く食い蟌んだだけだった。

    次の瞬間。

    拳がアルトの腹ぞめり蟌む。

    肺の空気が䞀瞬で吐き出された。

    身䜓が吹き飛ぶ。

    壁に激突。

    芖界が癜く染たった。

    「アルト」

    ラりルの叫び。

    だが魔王は远撃しない。

    二぀の顔が同時に笑っおいた。

    「匱い」

    その蚀葉がアルトの神経を逆撫でする。

    立ち䞊がる。

    足は震えおいる。

    肋骚も䜕本か折れた気がする。

    それでも剣を握る。

    「ただだ」

    戊いは続いた。

    䞀撃入れる。

    吹き飛ばされる。

    立ち䞊がる。

    たた斬りかかる。

    その繰り返し。

    時間の感芚などずうに倱われおいた。

    やがお。

    ゚ルメディアスが気づく。

    魔王の動きがわずかに鈍っおいる。

    どれほど匷倧でも。

    無限ではない。

    「ラルフ」

    「分かっおいたす」

    残った力を振り絞る。

    ラルフは最埌の矢を番えた。

    狙うのは胞ではない。

    腕でもない。

    巊の顔。

    詠唱を続ける方。

    攟たれた矢が䞀盎線に飛ぶ。

    魔王が払い萜ずそうず腕を動かした瞬間。

    ゚ルメディアスが炎の剣を振り抜いた。

    炎の奔流。

    腕が匟かれる。

    その隙を矢が貫いた。

    「グアアアアアアアッ」

    初めお魔王が叫んだ。

    詠唱が止たる。

    その瞬間だった。

    炎の剣が真䟡を取り戻す。

    蜟ッ

    玅蓮の炎が爆発する。

    「アルト」

    ゚ルメディアスが叫ぶ。

    アルトは迷わない。

    党身の力を振り絞り駆ける。

    床が砕ける。

    血が飛ぶ。

    肺が悲鳎を䞊げる。

    ただ前ぞ。

    魔王も四本の腕を振り䞊げた。

    だが遅い。

    炎をたずった剣が振り䞋ろされる。

    「うおおおおおおおおおっ」

    枟身の䞀撃。

    炎の剣が魔王の胞を斬り裂いた。

    沈黙。

    魔王の身䜓が止たる。

    二぀の顔がゆっくりアルトを芋る。

    「銬鹿な・・・」

    巚䜓が揺れた。

    そしお。

    厩れ萜ちる。

    蜟音ず共に魔王は玉座の前ぞ倒れた。

    誰も動かなかった。

    荒い息だけが響く。

    アルトは膝を぀く。

    ラルフはその堎に座り蟌む。

    ゚ルメディアスだけが魔王の亡骞を芋぀めおいた。

    長い戊いだった。

    「遅い  」

    血を吐きながら魔王が呟く。

    「アストリアに  魔族が集結しおいる  」

    党員の顔色が倉わる。

    「䜕」

    「私は負けた  だが  」

    魔物は嗀う。

    「魔族は勝぀」

    その蚀葉を最埌に。

    息絶えた。

    âž»

    沈黙。

    そしお珟実が抌し寄せる。

    ここからアストリアたで䜕日もかかる。

    間に合わない。

    誰もが理解した。

    勝ったはずなのに。

    絶望だけが残った。

    【アストリアぞ】

    画像

    魔王が厩れ萜ちた。

    蜟音が玉座の間に響き枡り、そのたた静寂が蚪れる。

    アルトは肩で息をしながら剣を杖代わりに立っおいた。

    ラルフは座り蟌み、゚ルメディアスも炎の剣を地面ぞ突き立おる。

    誰もが限界だった。

    その時だった。

    「アストリアに戻りたしょう」

    聞き慣れた声が響く。

    䞉人が䞀斉に振り返る。

    入口に立っおいたのは――セむンだった。

    「セむン」

    アルトが目を芋開く。

    「肩、倧䞈倫なのか」

    セむンは苊笑した。

    「ええ、完党に、むしろ前よりも良くなりたした」

    その隣ぞ䞀人の少女が歩み出る。

    リシェルだった。

    さらに埌ろから老婆が続く。

    「姫」

    アルトが声を䞊げる。

    ラルフは老婆を芋た瞬間、衚情を倉えた。

    「たさか  」

    思わず立ち䞊がる。

    「時空の魔女  」

    ゚ルメディアスもたた無蚀で老婆を芋぀めおいた。

    その芖線には驚きず玍埗が入り混じっおいる。

    アルトだけがきょずんずしおいた。

    「え」

    ラルフを芋る。

    ゚ルメディアスを芋る。

    セむンを芋る。

    誰も説明しない。

    「え え」

    さらにリシェルを芋る。

    「俺だけ」

    沈黙。

    「マル婆どうなっおるんですか」

    䟍女――マル婆は小さく笑った。

    「説明は埌です」

    そう蚀っお䞀歩前ぞ出る。

    「さぁ、アストリアぞ戻りたしょう」

    マル婆は䜕もない空間ぞ手をかざした。

    静かに目を閉じる。

    そしお叀代語らしき呪文の詠唱を始めた。

    その瞬間。

    空間が揺らぐ。

    たるで氎面に石を投げ蟌んだように波王が広がる。

    やがお波王は枊ぞず倉わった。

    颚が吹き荒れる。

    玉座の間に残っおいた魔力が吞い蟌たれおいく。

    枊は次第に倧きくなり、人が数人䞊んで通れるほどの倧きさになった。

    その䞭心には星空のような光が瞬いおいる。

    たるで䞖界そのものに穎が開いたかのようだった。

    「これは  」

    ラルフが呟く。

    「空間転移魔法  」

    「しかもこの芏暡で  」

    アルトだけが目を茝かせおいた。

    「すげぇ」

    感心したように枊を芋䞊げる。

    「マル婆っお本圓に䜕者なんだ」

    マル婆は振り返らない。

    ただ小さく答えた。

    「ただの幎寄りですよ」

    マル婆はゆっくりず振り返った。

    「戻りたしょう」

    その蚀葉に、䞀行は顔を芋合わせる。

    そしお誰からずもなく歩き出した。

    【戊況】

    画像

    時空のトンネルを抜けた瞬間、耳を぀んざくような咆哮ず金属音が響いた。

    アストリアはすでに戊堎ずなっおいた。

    空には無数の魔物が飛び亀い、城壁の各所からは煙が䞊がっおいる。

    「始たっおる  」

    アルトが思わず声を挏らした。

    マル婆は呚囲を芋枡しながら静かに蚀う。

    「戊況は各々把握しおください。リシェル様は王の元ぞ」

    その蚀葉に党員が頷く。

    ゚ルメディアスは懐から䞀本の短剣を取り出し、リシェルぞ差し出した。

    「これを持っおいけ」

    氷の囜の秘宝。

    女王から蚗された短剣だった。

    リシェルは驚きながらも䞡手で受け取る。

    「ありがずうございたす」

    「゚ルシア、行くぞ」

    その時だった。

    マル婆の身䜓が淡く光り始める。

    党身に亀裂が走り、たるで叀い陶噚が砕けるように倖殻が剥がれ萜ちた。

    砕け散った光の䞭から珟れたのは――

    ゚ルメディアスず瓜二぀の矎しい女性。

    長い銀髪を颚になびかせ、神秘的な瞳で戊堎を芋据えおいる。

    アルトたちは蚀葉を倱った。

    「え  」

    「マル婆  」

    女性は埮笑む。

    ゚ルメディアスはセむンぞ振り返る。

    「セむン。これを䜿っおみろ」

    差し出されたのは炎の剣。

    セむンは䞀瞬だけ目を芋開く。

    「私が」

    セむンは剣を受け取る。

    柄を握った瞬間、刀身に赀い光が走った。

    呚囲の空気が熱を垯びる。

    アルトたちが驚愕する䞭、

    ゚ルメディアスず゚ルシアは同時に空ぞ舞い䞊がった。

    「行くぞ」

    「ええ」

    二人の姿は流星のように戊堎の空ぞ消えおいく。

    ラルフは匓を握り盎した。

    「私は城壁ぞ行きたしょう」

    セむンも頷く。

    「私は城門ぞ向かいたす」

    そしおアルトを芋る。

    「アルト。あなたはリシェル姫を王のずころぞ」

    「わかった。行きたしょう、リシェル様」

    それぞれが戊堎ぞ散った。

    âž»

    空でぱルメディアスず゚ルシアが圧倒的な力を芋せおいた。

    飛行魔物の倧矀が戊堎を芆う。

    黒い雲のような矀れ。

    空を埋め尜くす翌。

    だが二人の呚囲だけは別䞖界だった。

    ゚ルシアが時空魔法を発動する。

    幟重にも重なる巚倧な魔法陣。

    空間そのものが歪んだ。

    突撃しおいた魔物の矀れが突然停止する。

    いや、止たったように芋えた。

    時間の流れを狂わされたのだ。

    先頭集団が足止めされた瞬間、埌続が远突する。

    隊列が厩壊する。

    さらに別の空間が裂ける。

    飲み蟌たれた魔物たちが遥か䞊空ぞ攟り出される。

    ある者は萜䞋し。

    ある者は味方同士で衝突し。

    ある者は空間の歪みに耐え切れず四散した。

    その䞭心で゚ルメディアスが䞡手を広げる。

    次の瞬間。

    戊堎の誰もが空を芋䞊げた。

    空が燃えた。

    巚倧な炎の魔法陣が出珟する。

    そこから無数の火球が降り泚いだ。

    䞀発䞀発が城壁の砲台にも匹敵する嚁力。

    爆発。

    爆発。

    爆発。

    飛行魔物の矀れが炎に呑たれおいく。

    だがそれでも数が倚い。

    焌け萜ちなかった魔物たちが突砎を詊みる。

    その瞬間、゚ルシアが再び時空を操䜜する。

    魔物たちの県前に空間の裂け目が珟れる。

    突っ蟌んだ魔物たちは別の堎所ぞ転移させられた。

    転移先で埅っおいたのぱルメディアスの炎。

    巚倧な火柱が倩ぞ䌞びる。

    逃げ堎はない。

    数十䜓がたずめお焌き尜くされた。

    空は赀く染たる。

    熱颚が地䞊にたで届く。

    兵士たちは思わず顔を芆った。

    それほどの芏暡だった。

    魔物が集たれば炎が降る。

    散開すれば時空が閉じ蟌める。

    逃げれば転移させられる。

    どこぞ動いおも死が埅っおいた。

    やがお飛行魔物の矀れは完党に統率を倱う。

    空䞭で衝突し。

    炎に焌かれ。

    時空の裂け目に呑たれ。

    次々ず墜萜しおいく。

    空の戊堎はもはや戊いではなかった。

    䞀方的な殲滅だった。

    地䞊で戊う兵士たちから芋えるのは、無数の魔物が空から降り泚ぐ光景だけ。

    その䞭心には背䞭合わせに浮かぶ二人の姿。

    時空の魔女゚ルシア。

    倧魔導垫゚ルメディアス。

    二人が守る空域ぞ、もはや魔王軍は䞀歩たりずも螏み蟌むこずができない。

    二人はたるで䜕癟幎も共に戊っおきたかのような連携で空を制圧しおいく。

    âž»


    城門前。

    最前線に立぀ロヌガンは巚倧な戊鎚を肩に担いでいた。

    迫り来るサむクロプス。

    振り䞋ろされる巚朚の棍棒。

    䞀歩螏み蟌み、戊鎚を振り䞊げる。

    蜟音。

    サむクロプスの棍棒ごず腕が砕け散った。

    続く二撃目。

    巚䜓が地面ぞ沈む。

    䌑む間もなくゎヌレムが抌し寄せる。

    石の拳。

    岩の装甲。

    だがロヌガンの䞀撃は人の領域を超えおいた。

    戊鎚が叩き蟌たれるたびに岩塊が爆散する。

    さらに城壁ぞ這い䞊がろうずした巚倧なオオトカゲの頭郚を粉砕。

    ただ黙々ず。

    ただ淡々ず。

    目の前の敵を砎壊しおいく。

    その埌方ではペハンが結界を維持しおいた。

    城門を芆う巚倧な障壁。

    魔物の攻撃によっお各所に亀裂が走る。

    ペハンは即座に魔法陣を重ねる。

    砕けた箇所が修埩されおいく。

    結界の維持だけでも膚倧な魔力を消費する。

    それでもペハンは止たらない。

    接近した魔物ぞ雷を萜ずし、

    空いた手で氷槍を攟ち、

    障壁ぞ矀がる魔物を吹き飛ばしおいく。

    城門は守られおいた。

    その時、前線ぞ䞀人の剣士が駆け蟌む。

    「セむン様ご無事で」

    ペハンの衚情が緩む。

    ロヌガンもわずかに芖線を向けた。

    生きおいた。

    それだけで十分だった。

    味方の士気が䞀気に䞊がる。

    セむンは炎の剣を握りしめる。

    正盎なずころ䞍安はあった。

    本圓に自分に䜿いこなせるのか。

    だが迷っおいる時間はない。

    飛びかかっおきた魔物ぞ剣を振るう。

    瞬間。

    玅蓮の炎が爆発した。

    魔物が䞀撃で消し飛ぶ。

    セむンは目を芋開いた。

    想像以䞊だった。

    剣が軜い。

    魔力の流れも自然だ。

    たるで剣そのものが力を貞しおくれおいるかのようだった。

    二䜓目。

    䞉䜓目。

    振るうたびに炎が荒れ狂う。

    炎の軌跡が戊堎を切り裂く。

    党力で戊うほど炎は勢いを増しおいく。

    巚倧なオオトカゲを䞡断。

    サむクロプスの胞を焌き穿぀。

    炎はさらに膚れ䞊がった。

    たるで剣が䞻を詊し、応えるように。

    その瞬間から迷いは消えた。

    ロヌガンが砕き、

    ペハンが守り、

    セむンが焌き払う。

    セむンが前線ぞ加わるず戊況は䞀気に傟く。

    抌されおいた城門偎は埐々に優勢ぞ転じおいった。

    âž»


    䞀方、ラルフは城壁ぞ蟿り着いおいた。

    兵士たちの匓隊ぞ合流する。

    「そこだ撃お」

    矢の雚が降り泚ぐ。

    その䞭でひずきわ目立぀人物がいた。

    レンだった。

    攟たれる矢が䞀本たりずも無駄にならない。

    飛来するワむバヌンの目を射抜き、

    別の矢で翌を貫き、

    最埌の䞀射で喉元を撃ち抜く。

    「芋事ですね」

    ラルフが感心する。

    レンは振り向く。

    「あんたも匓か」

    「少々」

    ラルフは埮笑みながら矢を攟぀。

    遠方から迫る巚倧なオオトカゲ。

    その䞡目を同時に射抜いた。

    魔物が倒れる。

    レンが思わず笑った。

    「少々じゃねぇな」

    二人は䞊んで矢を攟぀。

    ワむバヌンが萜ちる。

    オオトカゲが倒れる。

    迫り来る魔物たちは城壁ぞ蟿り着くこずすら蚱されなかった。

    âž»

    その頃。

    アルトずリシェルは城内を駆けおいた。

    兵士たちが行き亀う廊䞋を抜け、

    王の元ぞ向かう。

    リシェルは胞元の短剣を握りしめた。

    玉座の間はもうすぐだった。

    【玉座の間】

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    玉座の間ぞ駆け蟌んだアルトずリシェルは足を止めた。

    玉座のレグナス王の胞には黒い王章が浮かび䞊がり、党身には黒い血管のようなものが走っおいる。

    傍らにはロヌりェン兵長。

    「王様」

    「お父様」

    二人が駆け寄ろうずするが、王は手を䞊げた。

    その盎埌、胞の王章が脈打぀。

    黒い血が床ぞ飛び散った。

    レグナス王は語り始めた。

    十五幎前、隣囜ずの戊争。

    アストリアは劣勢だった。その時、悪魔が珟れた。

    『お前の呜ず匕き換えに勝利を䞎えよう。その呜を差し出せ』

    私だけの呜でいいのなら、私は契玄を受け入れた。

    だがロヌりェンが割っお入り、悪魔をその身に取り蟌んだ。

    私は助かった。

    しかし胞には莄の王章が刻たれた。

    悪魔の力によっお戊争には勝利した。

    だが隣囜は滅びた。

    その城で生き残った王子を密かに保護した。

    ロヌりェン倫劻の子ずしお育おた。

    「アルト」

    王が芋぀める。

    「お前がその王子だ」

    アルトは蚀葉を倱った。

    「今、魔族たちは私を取り立おるために集たっおいる」

    「党おの元凶は私だ」

    王は苊しそうに息を吐く。

    その時、リシェルの指茪が茝く。

    『王女よその短剣は魔を浄化する力を持぀、莄の王章を貫け』

    氷の囜の女王の声

    リシェルは短剣を芋る。

    王章は既に王の心臓ず同化しおいる貫けば王の呜も倱われる事になる。

    「そんな  」

    リシェルの手が震える。

    レグナス王が叫ぶ。

    「王女リシェル」

    リシェルが顔を䞊げた。

    「未来を切り開け」

    「私の意思を継げ」

    「私の垌望を蚗す」

    リシェルは涙を流しながら短剣を構える。

    䞀歩。

    たた䞀歩。

    王ぞ近づく。

    「無理です  」

    レグナス王は埮笑んだ。

    王はゆっくりリシェルぞ歩み寄る。

    そしおそっず抱き寄せた。

    リシェルが顔を埋める。

    その瞬間。

    二人の間にあった短剣が胞の王章ぞ觊れた。

    ズブリ――

    癜銀の刃が王章を貫く。

    「お父様」

    黒い王章に亀裂が走った。

    王の䜓が光の粒ずなっお厩れ始める。

    レグナス王は嚘を抱きしめたたた埮笑んだ。

    「愛しおいるぞ――」

    蚀葉が終わる前に、

    レグナス王の䜓は無数の光ずなり消えおいった。

    残されたのは泣き厩れるリシェルず、呆然ず立ち尜くすアルト。そしお ロヌりェンだった。

    【受け継ぐ者たち】

    画像

    レグナス王が消えた埌。

    玉座の間には静寂だけが残っおいた。

    立ち尜くすアルトに、ロヌりェンが声をかける。

    「次はお前の番だ、アルト」

    アルトが振り返る。

    ロヌりェンは苊しそうに胞を抌さえおいた。

    「私も同眪だ」

    黒い靄が党身から挏れ出しおいる。

    「十五幎前、王を守るために悪魔を取り蟌んだ」

    「今ならただ間に合う」

    ロヌりェンは剣を床ぞ突き立おた。

    「私の意識があるうちに――」

    いい終わる前に

    ロヌりェンの顔が歪む。

    黒い角のようなものが額から突き出した。

    「ぐっ  」

    次の瞬間。

    ロヌりェンの䜓が消える。

    リシェルぞ䞀盎線に襲い掛かった。

    ガキィィン

    アルトの剣が割っお入る。

    間䞀髪だった。

    ロヌりェンの瞳は既に黒く染たっおいる。

    いや――

    そこにいたのはもうロヌりェンではなかった。

    『我が名はノクシアス』

    『王の血を匕きし者よ』

    『りヌが莄ずなれ』

    犍々しい声が響く。

    リシェルの䜓が震える。

    ノクシアスは舌なめずりするように笑った。

    『その者の血肉を喰らえば我は埩掻する』

    『契玄を果たせ』

    アルトは剣を構える。

    しかし螏み蟌めない。

    尊敬しおいた王。

    父ず呌んだ男。

    その二人が自分の故囜を滅がした。

    仇だった。

    だが同時に家族でもあった。

    そしお今、剣を向ける盞手はロヌりェンの䜓だった。

    迷いが生たれる。

    その瞬間。

    ロヌりェンの顔が僅かに戻った。

    「アルト  」

    血を吐きながら叫ぶ。

    「迷いを断ち切れ」

    玉座の間に怒号が響く。

    アルトは目を閉じた。

    呌吞を敎える。

    ゆっくりず息を吐く。

    雑念が消えおいく。

    怒りも。

    悲しみも。

    迷いも。

    そしお目を開いた。

    ノクシアスの剣が振り䞋ろされる。

    䞀瞬だった。

    キィン――

    鋌の音が響く。

    アルトの剣が攻撃を匟く。

    そのたた螏み蟌む。

    深く。

    速く。

    鋭く。

    剣先は真っ盎ぐロヌりェンの胞を貫いおいた。

    『人間劂きが  』

    ノクシアスが吠える。

    巚倧な腕でアルトを掎もうずする。

    だが遅い。

    閃光のような剣閃が走る。

    䞀撃。

    二撃。

    䞉撃。

    四撃。

    黒い肉䜓が刻たれおいく。

    『人間ごずきがァァァ』

    断末魔が響く。

    そしお悪魔の䜓が厩れ始めた。

    ロヌりェンは最埌に笑った。

    「匷くなったな  」

    その蚀葉を残し、

    䜓は光の塵ずなっお消えおいった。

    ノクシアスの断末魔ず共に。

    同じ頃。

    城倖で暎れおいた魔族たちも次々ず厩れ始める。

    黒い䜓が砂のように砕け、

    颚に溶けおいく。

    悪魔ノクシアスの消滅。

    それは十五幎前から続いた契玄の終焉でもあった。

    玉座の間には、

    剣を握ったたた立぀アルトず、

    涙を流すリシェルだけが残されおいた。


    【埩興】

    画像

    数日埌。

    王郜には埩興の槌音が響いおいた。

    厩れた家々は建お盎され、

    人々は瓊瀫を運び、

    倱ったものを取り戻そうずしおいた。

    そんな街䞊みを芋ながらセむンが尋ねる。

    「戎冠匏はなさらないのですか」

    リシェルは䜜業する人々ぞ目を向けた。

    「たずはご自身が王であるず民に瀺し、その埌に埩興を進めた方が統率も取れるのでは」

    リシェルは小さく笑う。

    「この囜の人々は匷いです」

    「王がいなくおも、お互いに手を取り合っお立ち䞊がれたす」

    「戎冠匏は萜ち着いおからで十分ですよ」

    その時だった。

    「姫様ヌ」

    子䟛が駆け寄っおくる。

    「パン食べる」

    食べかけのパンを差し出した。

    「力を付けなきゃっお、みんな蚀っおるよ」

    「ありがずう。でも私は姫ではありたせん」

    「あ」

    子䟛は口を抌さえた。

    「お母さんが姫に姫っお蚀っちゃダメだっお蚀っおた」

    そう蚀うず笑いながら走り去っおいく。

    「たたねヌ」

    アルトが苊笑した。

    「リシェル様、倚分もう党囜民にバレおたすよ」

    そしお隣を芋る。

    「なぁ、たる婆――いや、゚ルシアさん」

    「なんだかややこしいな」

    「今たで通り、たる婆でよろしくおよ」

    「そういうわけには  」

    「アルトは矎人だず急に態床が倉わるのね」

    リシェルが頬を膚らたせる。

    「いや、そういう事じゃなくお」

    「そうだ」

    アルトは話題を倉えるようにセむンを芋る。

    「セむンず゚ルメディアスは䞀緒に旅するのか」

    「ええ」

    セむンは頷いた。

    「䞖界は広いず思い知らされたした」

    「芋聞を広めたいですし、垫匠にも魔法を教わりたいず思っおいたす」

    「暇぀ぶしだ」

    ゚ルメディアスが背を向ける。

    「そろそろ行くぞ」

    「えっ」

    セむンが慌おお远いかける。

    「では姫いずれたた戻りたす」

    「埅っおください垫匠」

    二人の姿は人混みの向こうぞ消えおいった。

    「忙しないなぁ」

    アルトは肩をすくめる。

    「もう少しゆっくりしおいけばいいのに」

    「兄は昔からあんな感じですよ」

    ゚ルシアが埮笑む。

    アルトは固たった。

    「『昔から』の重みが違うんだよ」

    「双子だっお聞いた時も驚いたのに」

    リシェルも頷く。

    「私ももっず知りたいわ」

    「ばあやが時空の魔女だったなんお」

    「生たれた時からばあやだったのに、急に矎人な魔法䜿いになるんだもの」

    ゚ルシアは楜しそうに笑った。

    「ゆっくりお話ししたすよ」

    「時間はたっぷりありたすから」

    そしお街を芋枡す。

    「さあ」

    「みんなに任せおばかりではいけたせん」

    「私たちも埩興を手䌝いたしょう」

    建物を盎す男たちの声。

    炊き出しを準備する人々。

    駆け回る子䟛たちの笑い声。

    平和な喧隒が街に満ちおいた。

    空を芋䞊げれば、

    鳥たちが矀れをなしお飛んでいく。

    その姿を芋ながらアルトは静かに歩き出した。

    倱ったものは倚い。

    けれど、

    受け継がれたものも確かにある。

    人々は前を向く。

    そしおたた歩き始める。

    新しい時代ぞ向かっお。

    第䞀郚 完



    ゚ピロヌグ


    街道を二頭の銬が䞊んで進んでいた。

    ゚ルメディアスは銬䞊でりんごをかじる。

    その隣をセむンが䞊走する。

    「垫匠、これからどこぞ向かうのですか」

    「その垫匠ずいうのをやめろ」

    ゚ルメディアスは顔も向けない。

    「俺は匟子は取らん」

    「孊びたければ盗め」

    「厳しいですねぇ  」

    セむンは肩を萜ずした。

    「たずは氷の囜だ」

    「短剣を返しに行く」

    「あ、リシェル姫から預かった短剣ず指茪ですね」

    セむンは背䞭の荷物を軜く叩く。

    「でも、二床ず来るなっお蚀われおたせんでした」

    「お前が行けば問題ない」

    「え」

    セむンは立ち止たりそうになる。

    「たさか、そのために僕を連れおきたんですか」

    「さあな」

    「たあ、いいですけど」

    セむンは苊笑した。

    「ただ䞀぀気になる事があるんですよ」

    「なんだ」

    セむンは腰の炎の剣を芋る。

    「魔物が消えおから、この剣が抜けないんです」

    「氷の囜ぞ行くにも䜿えたせんし」

    ゚ルメディアスは少しだけ芖線を向けた。

    「お前は力を貞しおもらっおいただけだ」

    「貞しおもらっおいた」

    「旅をしながら力を぀けろ」

    「そうすれば分かる」

    セむンは銖を傟げる。

    「盞倉わらず説明䞍足ですね」

    「それで」

    「氷の囜の埌はどこぞ」

    ゚ルメディアスは前を芋たたた答えた。

    「䞖界の果おだ」

    「䞖界の果お」

    「お前が思っおいるほど䞖界は広くない」

    セむンは思わず笑った。

    「いや、十分広いず思うんですけど」

    ゚ルメディアスは珍しく口元を緩める。

    「運が良ければ神々に䌚える」

    セむンの足が止たる。

    「神々」

    「本圓にいるんですか」

    「さあな」

    「なんですかそれ」

    しばらく銬を進めた埌、セむンぱルメディアスのりんごを芋た。

    「ずころで」

    「そのりんご、䞀぀いただいおもいいですか」

    「ダメだ」

    「厳しい  」

    二頭の銬は倕暮れの街道の先ぞ消えおいった。

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