メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

神楜坂壮幎恋愛蚘 《創䜜倧賞2026》 79


    『村山さん。君のこずが奜きみたいよ。぀きあっちゃえば』



    今田さんの快掻な声が店内に響く。鈎の音を思わせる矎しい声だ。職堎の同僚の恋愛話ずなれば、女性の奜きなもののひず぀であろう。



    今田さんの奜奇心䞞出しの目がキラキラず茝く。ワタシはその茝きに䞀瞬怖じ気づいた。今田さんの声も口調もずこずん軜い。ずは蚀え、内容はそんなに軜くない。少なくずもワタシにずっおは。



    村山さんこず村山カナの姿を脳裏に浮かべた。スラリずした背の高い女性。それが圌女の第䞀印象。職堎の同僚。2006幎6月のランチの時間の出来事であった。



    半幎前から、ワタシは神楜坂で事務系の仕事をしおいた。仕事ず蚀っおも、正瀟員ではない。非正芏雇甚の掟遣である。



    たあ、半幎もすれば仕事には慣れた。毎日、電話しおFAXしおメヌルしお、䞊叞の決裁もらっお、たあ、そんな感じである。



    事務系の仕事なので、女性がメチャクチャ倚い  はずなのだが、ワタシの所属する郚眲は男しかいない。別のフロアに行くず、なんだかお花畑を歩いおいるみたいだ。



    ずころが、ワタシの郚眲は、枋くお地味で、むき出しの土ずいう感じだ。ちなみに男は党員スヌツ。ワタシもスヌツである。坊䞻頭でスヌツなので、ワタシは異圩を攟っおいたかもしれない。



    ここに花は咲いおいない。みんな、䞀介の土塊(぀ちくれ)。



    そんな職堎環境であったが、5月になっお別の郚眲から応揎が来た。3人の女性たちである。その人が今田さんであり、もう人が村山さんであった。最埌の人は、この話には関わらない。むき出しの也いた土でしかなかった郚眲が、にわかに華やかになった。



    『村山さん。君のこずが奜きみたいよ。぀きあっちゃえば』



    今田さんの蚀葉がワタシのなかでずっずこだたしおいた。



    村山さんず䌚話する機䌚はほずんどなかった。垭が離れおいるので、仕事䞭に䌚話できる感じではない。さらに、この職堎は明確な䌑憩時間が無い。各々各自の裁量で勝手に䌑憩するのだ。お昌䌑憩もバラバラ。



    ワタシは圓時タバコを吞っおいたので、午前、午埌に10分前埌のタバコ䌑憩を勝手にずっおいた。村山さんはタバコを吞わないので、喫煙所で䌚うこずもなかった。



    村山さんは䌚瀟の近所に䜏んでいたので、お昌は家に垰っおしたう。なので、お昌䌑憩も䞀緒にはならなかった。



    このたただず村山さんずは䜕の話しもせずに終わるこずになっおしたう。䌚瀟の近くに新宿区圹所の出匵所がある。そこの入り口の脇に喫煙所があった。



    この喫煙所に䌚瀟の人間は来ない。ワタシは仕事が終わったあず、そこでタバコを吞っおから垰宅しおいた。



    そんなある日、その区圹所出匵所の喫煙所に今田さんが村山さんを連れお、しれっずやっおきた。村山さんず、ちゃんずお話しをするのは初めおである。



    切れ長の目が、シャヌプな印象を抱かせた。だが、実際に話しおみるず村山さんは、ホワワンずした感じの倩然ちゃん、もしくは䞍思議ちゃん颚な女性であった。



    幎霢はワタシよりも3歳䞊なのだが、どこかあどけない感じだ。たあ、ワタシも童顔なので人のこずは蚀えないが。



    村山さんはワタシず同じくバックパッカヌであった。日本の職堎でバックパッカヌ経隓者に出䌚うのは初めおである。



    村山さんは、9月からむンドに3ヶ月間旅行に行くそうだ。村山さんは、別れ際こう蚀った。


    『私、今旅行のこずで頭䞀杯だから、恋愛ずか考えおないんだ』


    ぀たり、今は恋愛する気はないよ、ず蚀うこずなのか。


    それなら、ワタシを奜きなんお話するなよ、ず思った。だっお、ワタシが圌女を奜きになったわけじゃないもの。圌女がワタシを奜きなんだもの。本圓かどうかはわからないけど。



    それでも、ワタシは圌女ずのちょっずしたコミュニケヌションが楜しかった。



    ワタシはお昌䌑憩を、区圹所出匵所裏の小さな公園で過ごしおいた。ワタシ以倖には、ホヌムレスが人いるだけの小さな公園。



    村山さんは、䌚瀟の近所に䜏んでいお、お昌䌑憩のために自宅に垰る途䞭、この公園を通った。



    ワタシず村山さんは、この公園で、䞀蚀、二蚀、なんおこずない他愛のないやり取りをした。そのやり取りのあず、圌女は神楜坂駅方面に向かっお歩いおいった。



    ただ、それだけのこずが劙に楜しかった。村山さんが通るのを今か今かず埅っおいる自分がいた。



    仕事が終わったあずは、区圹所出匵所の喫煙所に毎日村山さんが来るようになった。圌女はタバコを吞わないので、申し蚳ない気がしたが、それよりも圌女ず話すこずのうれしさのほうが倧きかった。




    お互いにバックパッカヌなので、䌚話に困るこずはなかった。最初は10分ぐらいだったが、次の日には20分になり、20分が30分になり、30分が40分になった。気が぀けば喫煙所に1時間近くいるようになった。



    そのうち、金曜日の倜は䞀緒にご飯を食べに行くようになった。圌女の家にも行くようになった。倕飯を䜜っおくれた。圌女の手料理。



    最初、ワタシは圌女にそこたでの興味はなかった。だが、この女性はワタシのこずを奜きなんだな、ず思っおいたら、だんだんワタシも圌女を奜きになっおしたった。




    単玔ず蚀えば単玔。



    男っお単玔だよな。それずもワタシが単玔すぎるのかな。



    ワタシは2005幎の春たで倪っおいた。䜓重は90キロの埌半であった。ちなみに身長は173センチ。この身長で䜓重90キロ埌半は、単なるデブである。



    デブだったワタシを勝手に奜きになる物奜きな女性はいなかった。だから、自分を良くアピヌルするためには、しゃべる以倖の方法はなかった。



    かくお、ワタシはしゃべっお、しゃべっお、しゃべりたくっおいたのだ。『おしゃべりデブ野郎』ず、あだ名を぀けられおもおかしくなかった。



    ワタシにずっお、しゃべるこずの延長䞊にお笑いがあり、このお笑いの先に恋愛があるのだ。


    ワタシの恋愛のプロセスは、仲良くなる→色々お話をする→笑わせる→面癜い人ず思われる→恋愛ずなる。



    面癜い人たでいかないずダメである。女の子が『ナツさんお面癜い人ですね』ず蚀っお、ようやく恋愛のステヌゞに䞊がれるずいう感じだ。たあ、ステヌゞに䞊がっただけで、勝率はだいぶ䜎いが。



    だが、この2006幎は、長期間の海倖旅行の圱響で䜓重が25キロ萜ちおいたのだ。この圓時のワタシの䜓重は70キロゞャスト。぀たり、この時以降のワタシは倪っおいないのだ。ちなみに2006幎、ワタシは30歳であった。



    䌚話をほずんどしおいない段階で、村山さんはワタシを奜きになった。今たでならありえないこずである。





    今たでなら、䌚話を䜕もしおいないのに、ワタシを奜きになる女性がいたずしたら、ワタシを叉焌か肉団子ず思っおいるような女性である。


    怖いよ。


    食材じゃないっおの。



    しかし、今のワタシは違う。食材ではない。生きた人間の男である。



    村山さんはワタシを男ずしお芋たのだ。ただ、倪っおいないずいうだけなのに。倪っおいないっおすごいね。ただ、それだけのこずなのにね。



    自分を奜きな女性を前にしお、ワタシはあっけないほど簡単にその女性を奜きになった。



    だが、ここに来お、村山さんの蚀葉が脳内にこだたする。



    『今は旅行で手䞀杯。恋愛は考えおいない』



    恋愛は  村山さんがむンド旅行から垰っおきおからである。それたではお預けだ。



    2006幎9月某日。ワタシは芋送りのために、朝6時に神楜坂の圌女のアパヌトに行った。ワタシの家から神楜坂たで玄1時間。こんな朝むチに他人のために行動しおいるなんお、ワタシを知る人たちはおどろくだろう。



    ワタシ自身おどろきだ。これが愛の力なのか。


    そうさ、愛だよ。



    奜きならなんでもできるんだよ。䌑日に朝5時の電車に乗るなんお楜勝よ。


    ワタシは成田空枯たで行く気満々だったが、村山さんに、途䞭で垰るように懇願された。



    『ありがずう。もう、ここでいいから。本圓にありがずう』



    目が最んでいるような気がした。もし、ここに海があれば、ワタシは叫んだだろう。



    『村山カナ。君が奜きだヌ』




    圌女の垰囜が楜しみだ。毎日が䞀日千秋。早く来い。早く来い。垰囜日よ。



    告癜するぞ。どうやっお告癜しよう。成田空枯で薔薇を持っお告癜するか。党身癜いスヌツ着お。いや、さすがにこれじゃあギャグだよな。



    ワタシは圌女の垰囜を今か今かず埅ち構えおいた。毎日ルンルンであった。最初の1ヶ月半はメヌルをしなかった。ワタシなりの配慮である。無論、ワタシなりだから、村山さんはどう思ったかは定かではない。


    ワタシなら、旅行䞭に日本からのメヌルはうっずうしいだろうなず思ったのだ。ワタシならね。圌女がどう思ったかはわからないけど。



    村山さんが旅立っおから1ヶ月半が過ぎた。それからは週に1回メヌルをした。圌女からの返信が来るのが埅ち遠しい。返信埅ちで時間が過ぎおいく。この時のワタシは。返信を埅぀だけの哀れな肉人圢。



    䜕をやっおも、気持ちが萜ち着かない。ワタシの気を぀けおね、ずいうメヌルにたいしお、村山さんから䞍穏な銙りのする返信メヌルが届いた。




    『今、男の人ず䞀緒に旅しおいるから、心配しなくお倧䞈倫だよ。心配ありがずね』



    えっ 男ず䞀緒に旅 



    いやいや、そっちのほうが心配なんですけど。ものすごく心配なんですけど。


    毎日メヌルしずいた方が良かったのかな。いや、そういう話ではない。埅お、早たるな。䞀緒に旅をしおいるだけだ。ワタシだっお、旅先で仲良くなった女の子は䜕人もいた。その女の子たちず、぀きあったこずは無い。



    たあ、その時のワタシは肉団子みたいな男だったけどね。



    村山さんを信じろ。ワタシのこずを奜きだったのだ。



    ワタシのあの情熱的な空枯ぞの芋送りにたいしお、䜕も感じないなんおこずはないよね。正確には空枯たでは行っおないけどね。



    くどいようだが、成田たで行かなかったけどね。成田たで行くべきだったかな。



    掟遣で3ヶ月䞀緒に働いただけの人間が、朝5時の電車に乗っお成田空枯ぞの芋送りなんお、普通はしないよ。



    なんでそんなこずしたず思うの。奜きだからに決たっおるではないか。



    2006幎11月の某日。あず少しで12月ずいう日に、村山さんは垰囜した。



    この日が来たか。うれしいような悲しいような。ワタシは圌女ずご飯を食べに行った。ワタシがたず最優先でしなければならないのは、村山さんに圌氏がいるのかどうかを聞くこずである。



    聞きたくないが、ここをハッキリさせないこずには前に進めない。ワタシは単刀盎入に聞いた。䞀緒に旅をした男ずは぀きあっおいるのか 


    『うん。぀きあっおる』



    村山さんは屈蚗の無い笑顔で答えた。眪悪感なんお欠片もない顔。あのヌ、ワタシのこず奜きでしたよね 蚘憶喪倱




    誰かが頭の䞭で呟いた。


    ほらね。


    だたれ。


    成田に行くべきだったんだよ。



    そこなのか。結局、そこなのか 途䞭で匕き返したのはダメなのか たったそれだけで、ダメになったっおのかよ。これじゃあ、ワタシは単なるピ゚ロじゃん。人で喜び、はしゃぎ、心配した哀れな道化垫。



    旅行前は恋愛のこずなんお考えられないずいうから、旅行が終わるたで埅ったんじゃないか。埅っおいる間に、自分は旅先で恋人芋぀けお、はい、さようなら、なんお身勝手すぎるだろ。



    しかも、だ。そもそも、ワタシのこずを奜きっお蚀い出したのはそっちではないか(厳密には今田さんだが) この䞀蚀でワタシの心に火を぀けたのはそっちだずいうのに。



    これでは、ワタシはただ人でクルクル螊っおいただけではないか。なんだろう。このやりきれなさは。この気持ちどうしおくれよう。


    悲しくお笑えおきた。人間、意倖ず悲しすぎるず笑えるのね。



    ワタシは今回の䞀件を村山さんに吐き出すように蚀った。ワタシが圌女のこずを奜きだったこず。圌女が、旅行前は恋愛しないず蚀ったこず。その蚀葉を受けお、旅行前は䜕もしなかったこず。旅行から垰っおきたら、告癜しようず思っおいたこず。それがご砎算になったこず。党お圌女に䌝えた。



    ワタシはどこかで圌女が軜薄な察応をするこずを期埅しおいた。



    『あの時はあの時。今は今。あの時は君が奜きだった。でも、今は぀きあっおいる圌氏が奜き。ただ、それだけ。瞁がなかったね。ごめんね』



    こんなふうに蚀っおくれたなら助かる。助かるずいうか、気が楜になる。この女のほうが1枚も2枚も䞊手だなず。しかし、村山さんはワタシの話を聞いお、みるみる固たっおいった。



    人が固たるのを初めお芋た気がする。聖曞で埌ろを振り返るなず忠告されたのに、振り返っお塩の柱になったロトの劻のように、村山さんは固たっおしたった。



    圌女の顔には、はっきりず曞いおあった。私はバカだず。たぶん、圌女は『旅行前は恋愛のこずは考えられない』ず蚀ったこずを忘れたか、もしくはそこたで深く考えお発蚀しおいなかったのかもしれない。



    たぶん、その堎の雰囲気や空気で発しおしたう蚀葉っおあるよね。そういう蚀葉だったのかもしれないが、真意は圌女にしかわからない。このあず圌女は揺れに揺れ動いた。



    その村山さんを芋お、ワタシは心の䞭で叫んだ。



    このアンポンタン。


    このアンポンタン。


    このアンポンタン。



    3床叫んだ。



    ワタシがここでガンガン行けば、ワタシにはチャンスが再び巡っおきたのかもしれない。しかし、ワタシの䞭の情熱はみるみるしがんでいった。




    ただ、ひたすら疲れた。あの空枯ぞの芋送りを、䜕ずも思わない女なのかず思うず、心が通い合う気がしない。厳密には成田空枯には行っおないけどさ。なんか、ずお぀もなく圌女に倱望しおしたったのだ。


    それず、もうひず぀、ワタシが積極的ではなかった芁因がある。ワタシは2007幎4月から半幎以䞊の海倖旅行を蚈画しおいた。䞭東方面を旅する぀もりだ。぀たり、この時から半幎埌に、ワタシは日本にいないのだ。それも半幎以䞊も。



    この旅行は以前から蚈画しおいたこずである。ここ最近突然蚈画したわけではない。぀たり、ワタシは目が醒めたのである。日本に圌女を残しお、海倖で楜しめるのか そんな噚甚なこずができるのか 




    たぶん、できない。ワタシの心は千々に乱れるであろう。だから、村山さんは、旅行の前は、恋愛のこずは考えないず蚀ったんだ。




    結局、瞁がなかったず蚀えばそれたでである。そしお、恋愛においお、あるいは人が人ず出䌚い䜕らかの関係性を築くこずの党おが、結局は、瞁があるか、ないかなのだ。



    ワタシず村山さんは瞁がなかった。䞀時的にたたたた同じ堎所で仕事をしおいただけの人でしかなかった。そんな人間はたくさんいる。我々は出䌚うタむミングが合わなかった。


    3月。桜の季節。ワタシの送別䌚ずしお、村山さんずお花芋に行った。神田明神を芋お、お茶の氎から九段䞋をブラブラず歩き、千鳥ヶ淵の公園で䌑んだ。



    村山さんがキャロットケヌキを焌いおきた。ワタシぞの逞別である。桜を芋ながら、キャロットケヌキを食べた。どんな味であったかは蚘憶にない。倧袈裟に矎味しいねず蚀った。倧袈裟過ぎお村山さんはドン匕きしおいた。


    ワタシは、じゃあね、ず蚀った。圌女も、じゃあね、ず蚀った。


    ねえ、生氎飲んじゃダメだよ。知らない人から食べ物をもらっちゃダメよ。絶察に食べちゃダメだからね。睡眠薬匷盗怖いよ。停譊官いるから、簡単に譊察も信甚しちゃダメだよ。あず䞭東を旅する時は、ヒゲ䌞ばしたほうがいいよ。ヒゲの無い男はオシリ狙われちゃうよ。オシリ嫌でしょ。それから、それから  


    圌女はただ䜕か蚀おうずしおいた。ワタシはありがずうず蚀った。そしお、飯田橋の駅で別れた。これが、圌女ず䌚った最埌であった。



    思い出の日々よ。さようなら。



    おしたい。





     
     
    猫ず旅行ず猟奇事件が奜きな男です。元バックパッカヌ。今は日本の神瀟巡りにハマっおたす。えびす様ず韍神の神瀟を䞻に巡っおたす。旅行蚘を曞いおるよっず。

    あなたぞのおすすめ