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地下牢の魔物

    ある所に、ひとりの少女が居ました。
    ある日、少女は、家の地下に牢屋があって、そこに赤い魔物が閉じ込められているのを知ってしまったのです。
    魔物は血だらけで、手を伸ばして、出してくれと訴えてきました。
    怖くて一目散に逃げましたが、その後、気になって仕方なくなり、その姿を絵に描きました。
    その絵を見せながら、母親に赤い魔物の事を必死になって話しましたが、ああそうなの、と言われただけで、そっけない反応が返ってくるだけでした。
    その後、一家は引っ越す事になりましたが、その地下牢での出来事は、少女の記憶の奥底に深く刻まれたのでした。

    大人になってからは、赤い魔物のことはすっかり忘れてしまっていましたが、その間、次第に母親との折り合いが悪くなっていきました。日々の生活にも追われて、彼女は自信を失いかけていました。人生の行方を見失い、自ら命を経とうとしました。しかし、どうして私が、という強い怒りが込み上げてきて、苦しみながらも生きる事を選択しました。

    母親との仲は益々悪くなり、家族との縁も薄くなっていきました。孤独を強く感じながらも、彼女は生きる希望を見失わないよう、必死で生き抜きました。そんな時、一人の青年に出会いました。彼は美しい曲を作り、歌いました。彼の紡ぐ言葉と音楽は、彼女の心の奥底を揺らし、優しく包み込むように、癒しました。彼女はいつも遠くから、ステージに立つ彼を見るだけでしたが、それだけで十分幸せでした。

    彼女の心が満たされていき、安心出来るようになると、ふと、忘れていた記憶が蘇ってきました。赤い魔物の記憶。あの地下牢へ再び行かなければならないと、彼女は決意しました。

    久しぶりに、子供の頃に住んでいた家へ行きました。大きな家だと思っていましたが、大人になって見てみると、小さく感じました。古くて手入れもされておらず、鍵もかかっていませんでした。地下牢まで行こうと、恐る恐るゆっくりと家の中を歩いて行きました。彼女は驚いて言葉を失いました。この家には、構造として、地下など、元々無かったことがわかりました。

    赤い魔物は、一体、何者だったのか。彼女は自分自身に問いかけました。自分は何を見たのか。疲れ果てて、彼女は深い眠りに落ちました。夢の中に、赤い魔物が現れました。あの時と同じように、暗がりに、血まみれで、目を大きく見開いて、何かを訴えかけるように、手を伸ばしてきました。彼女は不思議と怖いと感じなくなっていました。赤い魔物に近付くと、その手を両手で優しく握りました。すると、赤い魔物が、涙を流して、静かに目をつむりました。温かい光に包まれて、赤い魔物の傷が癒えていき、その姿は晴れやかな表情の女性に変わりました。その女性は、紛れもなく、彼女自身でした。

    夢から覚めると、彼女は、泣いていました。何が起きたのか、よく分かっていました。その後も、しばらく涙が止まりませんでした。その涙は、悲しみではなく、彼女自身を取り戻した事への喜びの涙でした。

    これから、どんな人生を歩んで行くか。生きる苦しみは無くなりはしませんが、彼女はこれまでとは大きく異なっています。心の中に、いつでも安心して帰れる家が出来たのです。彼女はもはや一人ぼっちではありません。あの青年の言葉と音楽と共に生きる。これ以上の幸せはないのだと、彼女は思いました。今日もドアを開けて、晴れやかな表情で、出掛けて行きました。

    2026.6.6

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    Gen・Nagi(ゲン・ナギ)と申します。 大きな木のように、ただそこに在ること。 捉えた言葉とイメージや絵を、静かに置いていきます。 コメント欄は閉じておりますが、 作品を通して皆さまと共鳴できれば幸いです。 詩人、作家、絵描き。

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