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Photo bynavyy

【せりふ三題噺】花を贈る #「ずるいね」

    木野山キノ

    ■セリフ
    「ずるいね」
    ■三題
    ・屋上
    ・春一番
    ・ローファー

    今週のお題

    栄テナントの屋上庭園に春一番が吹きすさぶ。
    このビルは個人起業家向けのレンタルオフィスで、希望する利用者には無料解放を行っているスペースだ。
    絢爛な寄せ植えで彩られた一角もあれば、夏場に収穫を終えたミニトマトの株が虚しく枯れたまま放置された一角もある。
    休憩用にと設置されたベンチは鉄製のアンティーク。ここに座るとちょうど、オーナーが育てているクリスマスローズの花がよく見える。

    「ずるいね、一番の特等席にしちゃって」

    ピカピカのローファーが視界に入り、うつむいた顔を上げた。
    女子高生起業家、とテナント内でも話題の少女が鉢植えを抱えて立っていた。

    「うてなさん」
    「こんにちは」

    こんにちは、と返すと大輪の花のような笑顔が咲き誇る。彼女の事業はよく知らないけど、きっと順風満帆なのだろうなと思わせる、自信みなぎる満面の笑顔だった。

    「細井さんの所はノースポール?」
    「うん、うちの社長が好きらしくて」

    ノースポールはマーガレットにも似た愛らしい花で、12月から5月まで長く咲き続ける。繁殖力が旺盛で、そろそろ切り戻してやらないといけないのだが、“うちの社長”はこういう所でズボラだからいけない。

    「ずるいね」
    「本当にね」

    仲の良かった同僚が独立して、ようやく一年。
    起業手続きを手伝ってやった縁で、時折雑務を頼まれるようになってからも、一年。軌道に乗ったら養ってくれよ、なんて軽口を叩き合った結果はまだ未知数。

    「うてなさんの鉢植えは……ニラ?」
    「違いまーす、ムスカリでーす。これも秋に剪定しないとこうなるんだって」
    「ああ、あの葡萄みたいな花」

    僕の例えが面白かったのか、また笑顔が深まる。

    「家で育ててた奴なんだけど、花が終わったら球根掘り返すから、ちょっとおすそ分けしようか? 一応、植えっぱなしでも問題ないよ」
    「それじゃあこちらは、花束でも贈ろうか」

    ノースポールの花言葉は誠実・清潔・高潔。次々に花を咲かせる生命力の強さから輪廻転生、なんてのもある。正しくエネルギッシュな彼女には似合いの花じゃないだろうか。

    「…………ずるいね」
    「えっ」

    顔を赤らめる少女に、下心なんてないからと本気の弁明をするまで、あと5秒。



    以上、921字。こちら参加させて頂きました。

    下心がないのもないで、いや、ないんかーいってなるやつ。

     
     
     
    コノヤマ キノ と読みます。 昭和生まれ平成育ちな令和のおかん。 猫と忍者が好きなオタク。 noteではショートショートとBLメインに活動中。 2025年6月よりエブリスタ始めました。 https://estar.jp/users/1861844409

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