
【特別公演】遠回り人生、夏フェスに出ます。|Nフェス2026
本日は、架空バンド「遠回り人生」のステージへお越しいただき、ありがとうございます。
この特別公演は、「noter Creative Fes 2026」への自由参加公演です。
昼から夕方、そして夜へ。
移り変わる夏の空とともに、3曲をお届けします。
それでは、開演まで今しばらくお待ちください。

クリックして夏フェス会場へ🎸🌻🏕
初めて「遠回り人生」と出会う人へ

「遠回り人生」は、人生の遠回りを音楽に変える架空バンドです。
言葉になる前の景色を音にする、キーボードのほぴこ。
夕焼けみたいな声で、その言葉を客席へ届けるボーカル・天使様。
しまえない記憶ごと、深紅のギターを鳴らすアニキ。
太陽みたいな音で、今日を前へ進めるドラムのパイセン。
誰より静かに、バンドの帰る場所を作るベースのじじ様。
そして、彼らが道を外れすぎないよう見張っているマネージャー、霧島蓮太。
近道を選べなかった5人とひとりが、それぞれの遠回りを持ち寄って、今日も音を鳴らしています。
これは、文章と挿絵と音楽でお届けする『読むLIVE』です。
どうぞ、最後までごゆっくりお楽しみください。
M01.|昼『再生する空』

真昼の空は、どこまでも青かった。
ステージの上へ容赦なく降り注ぐ夏の日差しに、客席のタオルが揺れている。
パイセンが高く掲げたスティックを打ち鳴らした。
「Nフェスー!始めるぞーーーッ!!!」
4つのカウントが、青空を突き抜ける。
ドラムの音が一歩目を踏み出すと、じじ様のベースが地面を作った。アニキのギターが風を切り、ほぴこのキーボードが、その先に広がる空を描いていく。
最後に天使様がマイクを握った。
迷った日も、立ち止まった日も、誰かのために音を鳴らそうとして、自分の音が分からなくなった日もあった。
それでも、もう一度。
今度は、自分が鳴らしたい音を選ぶために。
夏の真ん中へ、最初の歌が放たれた。
最後の一音を待たずに、客席から歓声が上がった。
パイセンは満足そうに笑い、スティックの先を客席へ向ける。
「遠慮してるやつも、後ろのやつも、今日は全員まとめて楽しんでけ!」
そのまま次の曲へ行くのかと思った瞬間、天使様が隣からマイクを近づけた。
「パイセン、今日の打ち上げのお店は、もう決まってるんですか?」
「当たり前だろ。下見も済んでる」
「まだ1曲目だけど」
じじ様の静かな指摘に、客席から笑いが起きた。
「準備は早いほうがいいんだよ!」
胸を張るパイセンの後ろで、アニキが小さく首を振る。ほぴこは笑いながら、次の音色を呼び出した。
さっきまで真上にあった太陽が、少しずつ西へ傾き始めていた。
M02.|夕方『内緒の遊び』

青かったステージに、オレンジ色の光が差し込んでいた。
昼と夜の境目。
同じ場所にいるはずなのに、さっきまでとは違う景色が広がっている。
天使様はマイクを両手で包み、初めてこのバンドを見た人を探すように、ゆっくり客席を見渡した。
「僕らのことを、今日初めて知った人もいると思います」
風が、ステージの上を通り抜ける。
「でも、次の歌を一緒に歌ったら――もう、初対面じゃないですよね」
アニキがギターを構える。
じじ様の指が弦に触れ、パイセンが小さくカウントを取った。
上手に歌えなくてもいい。
正しい音でなくてもいい。
音楽は、誰かに完璧なものを見せるためだけにあるんじゃない。
同じ瞬間を、同じ場所で、一緒に遊ぶためにある。
天使様が、夕焼けの向こうへ手を伸ばした。
客席から返ってきた声を、天使様は嬉しそうに聞いていた。
歌を届ける人ではなく、歌を分け合う人として。
最後のフレーズを歌い終えると、彼はマイクから少し離れ、声を出さずに「ありがとう」と口を動かした。
ステージの端で、霧島が腕時計を見る。
その視線に気づいたパイセンが、すぐにマイクへ寄った。
「まだ押してねえぞ!」
ステージ袖の霧島は、何も言わない。
ただ、腕時計を指先で二度叩いた。
「霧島さんが、パイセンのMCが長引く前に進めろって言ってます」
天使様が客席へ説明すると、笑いが起きた。
「俺より天使様だろ、長いのは!」
突然名前を出された天使様は、少し考えてから首を傾げた。
「まだ2分くらいしか話してないよ?」
霧島が、もう一度腕時計を叩いた。
「……はい。次の曲へ行きます」
アニキが耐えきれずに笑い、じじ様の低い音が次の曲の準備を始める。
笑い声の向こうで、夕焼けがゆっくりと夜に溶けていった。
M03.|夜『道草アンコール』
ステージの照明が落ちた。
さっきまで見えていた5人の姿が、夏の夜に溶けていく。
終演を知らせるアナウンスはない。
それでも、次の音はなかなか始まらなかった。
暗闇の中、客席のどこかから、小さな手拍子が聞こえた。
ひとつ。
また、ひとつ。
別の場所からも音が重なり、ばらばらだった手拍子が、少しずつ同じリズムになっていく。

薄い光の中で、パイセンが顔を上げた。
客席の手拍子を聞きながら、スティックで同じリズムを刻む。
じじ様のベースが、その下に道を作った。
アニキのギターが静かに重なり、ほぴこのキーボードが、夜の向こうへ景色を広げていく。
天使様はすぐには歌わなかった。
今日ここで出会った一人ひとりを覚えるように、客席を見つめていた。
そして、マイクへ顔を寄せる。
「最後に、新しい歌を持ってきました」
客席の手拍子が、少しだけ大きくなる。
「今日だけは、僕らの遠回りに付き合ってくれる“みちづれ”が、こんなにいるから」
天使様は、いつものやさしい顔で笑った。
「この歌を、ここから始めたいと思います」
夜空の下で、新しい歌の最初の言葉が鳴った。
アニキのギターが、夜を駆け抜けた。
しまえなかった記憶も、曲がり切れなかった角も、戻るしかなかった道も。全部を置き去りにするのではなく、ここまで連れてきた音だった。
深紅のギターが空へ伸びるたび、客席の手が揺れる。
やがて、すべての楽器が止まった。
残ったのは、手拍子だけだった。
天使様はマイクを握り、少し息を整えた。
そして、まるで隣にいるひとりへ話しかけるように言った。
「もう少しだけ、一緒に遠回りしませんか?」
パイセンのカウントが響く。
5人の音が、もう一度、夏の夜へ放たれた。
それは終わりを惜しむためのアンコールではなかった。
今日ここで出会った人と、今日の続きを歩き始めるための歌だった。
最後の音が消えても、客席の手拍子はしばらく止まらなかった。
天使様が手を振る。
アニキがギターを高く掲げる。
パイセンは両手のスティックを何度も打ち鳴らし、じじ様はいつもの静かな笑顔で深く頭を下げた。
ほぴこはキーボードの前から、昼には青かった空を見上げた。
今はもう、星の見える夜だった。
予定していた道ではなかった。
それでも、この遠回りをしなければ、今日の景色には出会えなかった。
5人はステージの中央に並び、客席へ向かって頭を下げた。
「また、どこかで会いましょう」
天使様の声のあとにも、手拍子だけが夜に残っていた。

📓 マネージャー業務日誌
公演:Nフェス2026特別公演
観客:初見多数、反応良好
セットリスト:全3曲、予定通り
新曲:『道草アンコール』初披露
ドラム担当:1曲目より打ち上げの話
ボーカルMC:予定より1分18秒超過。
終演後の手拍子:継続
メンバーへの共有:不要、浮かれるため
総評:
予定外の寄り道、成果あり。
――Manager 霧島
🌻 ENDING
本公演は、「noter Creative Fes 2026」への自由参加として制作しました。
架空バンド「遠回り人生」を、いつもの連載とは少し違う夏フェスのステージへ連れ出すことができました。
そして、予定にはなかった寄り道から、新しい歌まで生まれました。
こんなに楽しいステージを用意してくださったNフェス運営のみなさま、素敵な企画を本当にありがとうございます。
▼運営のちぃさん✨イベント概要はこちら
そして、今日ここで「遠回り人生」と出会ってくださったみなさまも、いつも一緒に歩いてくださっているみなさまも。
もう少しだけ、一緒に遠回りしてもらえたらうれしいです。