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Photo bykakutomako

チャレがや杯/わたしはこれで成仏しました

    渡鳥


    「有紀、もう潮時だよ。文才あるんだから、ネットライターになりなよ」
     
    モーニングのサンドイッチを食べる間、大学からの友人で編集者、榎本の声がリフレインする。彼は親切心で言ったのだろう。だが、その言葉は私にとって、死刑宣告に近いものだった。
     
    ゴーストライター歴十六年。文学キャラを立てたいアイドルのデビュー小説のほとんどを書いてきた。不倫女優の自叙伝を告白インタビューを元に書き起こすなぞお手のもの。大御所作家のマンネリ化したシリーズの続編も含め、関わった執筆は200作品を超えている。そこに私の名前は載らないが、もう割り切っていた。

    しかし今、その仕事が奪われようとしていた。私よりも速く、安く、感動的な文章を生成するAI。名前を読み込ませれば、数秒で「本人らしい」自伝のプロットが出来上がる。そう。AIの進化によって最初に消える職業は、ゴーストライターなのだ。

    差し迫る家賃の支払いに抗えず、榎本から紹介された新人文学コンテストの一次読みのアルバイトを引き受けた。送られてきたのは、五百を超えるデジタル原稿の山。だがページをめくるごとに、妙な違和感を覚える。

    これも、これもだ。

    長年、文体偽造を続けてきた私には、嘘を見分ける高性能なセンサーが備わっていた。AIの書く文章には特有の重力の欠如がある。ピアノの自動演奏のように、美しいけど胸に響かない音色みたいな。

    AI作品をことごとく落選のフォルダに放り込んでいった。職を奪い、自分を不要な存在へと追いやったテクノロジーへのささやかな復讐。「生成AIの使用禁止」の規定の網を姑息に潜ろうとしても、黒歴史製造マシーンの私は騙せない。人力を装った精巧な平均値パッチワークがすぐ分かる。

    『進捗はどう?』
     榎本からチャットが入る。
    『順調。でも、ひどい有り様。まるでゴミだらけのプール』

    一週間後。手元に残ったのは、わずか二十六作品だった。五百通のうち、たったの二十六作。私は呆然としてその数字を見つめた。人間が書いた応募が、たったこれだけ?

    改めて読み返す。AIなら出力しないエラーの集積だ。だが、書かずにいられない切実な衝動が泥臭くへばりついていた。効率的な言語伝達の観点から見ればただのノイズ。でもそのノイズが、読者の魂を揺さぶる鐘となる。書くことは手段ではない、生存なのだと訴えていた。不器用だからこそ、命が輝いている。

    元は私も小説家だった。バレンタイン文庫という公募で大賞を獲ってデビューしたが、三作目がポシャって、生活費のために受けたゴーストライターがいつしか生業になった。自分の言葉でない、読者が望む正解を書いてきた。クライアントが求めるそれっぽさ。最大公約数の抽出。自分こそがAIの先駆けだったと、はっとした。

    指をキーボードに置く。新しいドキュメントを作成する。タイトルはない。他人のプロフィールも、参考資料もいらない。深夜の静寂と月。青白い光を放つディスプレイがあるだけ。

    言葉が、溢れだした。

    身の内から湧き上がる物語たち。一文字一文字を打ち込むたびに、胸の奥で凍りついていた何かが、ひび割れながら溶け出していく感覚があった。夢中になっていた。

    夜が明ける頃、完全オリジナルの小説が誕生していた。それは歪だが、確かにこの世界に存在している、私だけの熱情と体温を宿していた。自然と溢れる涙。落とし物が戻ってきたようだった。

    椅子から立ち上がり、窓を開けた。朝の冷たい空気が、火照った頬を撫でる。心地いい疲労感が全身を包んでいた。

    AIが、ゴーストだった私を成仏させた。透明な存在から、不格好で、傷だらけの存在に。怨念を捨てて、ひとりの書き手へと、今日生まれ変わった。

                        
                       〈1500文字〉

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    こちらの企画に参加させていただきました。
    応募がたくさん殺到しそうで読むのが楽しみです。
    コッシーさん。みくまゆたんさん。宜しくお願いいたします。
    最後までお読み下さりありがとうございました😊🐧

    #チャレがや
    #チャレがや杯2026
    #みくまゆ会



     
     
     

    渡鳥

     
     
    形式にこだわらずなんでも書きます。 短編・中編・長編それぞれで公募に挑戦中。 公募ガイド小説でもどうぞ 第17回 第26回 最優秀賞 ペンギン好き。創作し続ける人でありたい。

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