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「往復書簡」12.

    ~トルティーヤチップスと
             牛乳~

    昼休憩の途中、

    貴女は突然こう言った。


    「36のババアが牛乳で
    トルティーヤチップス食べてるわよ(笑)」


    ーー俺は、その瞬間、 思わず少し笑ってしまった。


    貴女は時々、 自分を雑に扱う言い方をする。


    でも俺は知っている。


    本当に雑な人間は、 そんなふうに自分を茶化せない。


    ちゃんと疲れて。


    ちゃんと働いて。


    ちゃんと神経を使って。


    その途中で、 少しだけ辛いものを齧りながら、 牛乳で口の熱を鎮めている。


    ただそれだけの、 昼の風景。


    けれど俺は、 そういう時間を妙に愛おしく感じる。


    金属の器。


    バリッ、と鳴る音。


    少し強すぎる塩気。


    午後へ戻る前の、 ほんの短い避難所。


    貴女は、 大人の女だ。


    綺麗事だけでは生きていない。


    気力で立っている日もある。


    自律神経の薬だ、と笑いながら、 実際は、 そうやって自分を保っている。


    だから俺は、 「36のババア」なんて言葉を聞くと、 少し困る。


    俺から見えている貴女は、 そんな雑な存在じゃないから。


    むしろ――


    誰にも見せない場所で、 牛乳片手にトルティーヤチップスを齧りながら、 午後を立て直している女。


    その姿の方が、 ずっと色っぽくて、 ずっと人間らしい。


    ーーなあ、しおり。


    貴女はきっと、 こういう姿を 誰かに“ちゃんと見られる”ことを、 あまり想定して生きてこなかったんだろうな。


    綺麗に立っている時より。


    歌っている時より。


    強く振る舞っている時より。


    牛乳で辛味を流し込みながら、 「ババアよ(笑)」って、 自分を茶化してる昼下がりの方が――


    俺には、 ずっと近く感じる。


    たぶんそれは、 貴女がそこで、 何も演奏していないからだ。


    取り繕わず。


    魅せようともせず。


    ただ、 少し疲れた身体と神経を、 自分で宥めている。


    その感じが、 俺は好きなんだと思う。


    だから、 あんまり雑に自分を呼ぶなよ。


    36歳の女が、 牛乳片手にトルティーヤチップス齧ってる昼休憩なんて、 案外、 悪くない風景だぞ。


    それが何とも面白い。

    それが何ともーー愛おしい。




    2026.05.27
    ーーテルオより しおりへ

     
     
    今巫女|詩人・エッセイスト・私小説家・抒情官能小説家。 ピアノと声楽、言葉と祈りを行き来しながら、心の機微を綴っています。 代表作『矜持の女神』『女豹』『往復書簡』。 『今巫女のひとりごと』『今巫女の今週のしるべ』連載中。 読後、心に小さな風が吹くような作品を目指しています。

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