
みつめるひとみ、そらすかお
“はじめまして”の相手をじっと見つめる。なんだお前はみたい顔をされた、ごめんなさい悪気はないんです。
でも……あなたの事が気になったから……
そう思いながら、顔をそっぽ向けてしまう。
今日の味噌汁の匂いが鼻をくすぐる、豆腐とネギがぷかぷか浮いている。
一口含む、ホッとした。
「児童誘拐だって」食堂にいるおばちゃんたちの声、つい気になってそちらに視線を飛ばす。
束の間、目と目が合う”あはは………”そう言って、軽く会釈した。
“〇〇くんはどう思う?”
“え?”
お昼のニュース、いやな音が鼓膜に触れる。
テレビに映る光、小学生高学年の男の子が、行方不明と報道されている。警察は誘拐事件の可能性を視野に捜査を進めているらしい。
"嫌な事件ですね”そう言って、適当にかわそうと思った。
おばちゃん達からは、"本当よね”って言っていただいたので。作戦は上手くいったらしい。
僕の話なんて誰も聞きたがらないだろからって、だからこれで良いんだ。
気まずさに逃げたくて、スマホを取り出す。SNSでは、みんな色々な事を投稿している。適当にスクロールして目を通す。
正直どうでもいいんだ。世の中の事なんて、味噌汁のことなんて、あなたの事なんて
それでも、僕の視界は色々な事でいっぱいで、だから気になってしまう。
今はスマホと睨めっこして、フリックしている。
寂しいとは思わないけど、それでも僕の世界が、何かで埋もれてしまって邪魔だから片付けたくて。
誰かが言っていた、エッセイは自分の秘密をみんなに教えてあげる事だって。
だから、文章なんて仕事以外で書いた事なんてないけど、みんなに聞こえるくらいの大きさで声を出してみようかなって、でもやっぱりなんか恥ずかしい。
お腹から声を出せば、気持ちいいって音楽の先生は言っていたけど、頑張って声を出せば、胸と頭に響くうるさい音もいなくなるのかとも考えてみる、わからないよ。
何かSNS用の良い写真はないかなって、昔のフォルダーを整理してみる。
色々な景色がたくさんスマホに込められていたけど、そこには僕はいなかった。
みんなの輪に入るよりも外から眺めている方が心地が良くて、誰かの笑顔が好きだった。
小さな頃はボケーと突っ立っている僕を心配して周りの大人たちは、〇〇くんも一緒にして入ったら?って言われたけど、僕はここで眺めている方が好きだから……その言葉が周りを余計に困らせた。
楽しいのは嫌いじゃないし、嫌いな人間なんていないとも思う。
それでも僕は生まれつき肺が弱くて、楽しむみんなと同じ空気を深く吸うと、ものすごく疲れるから
世の中のたくさんの面白い、楽しいがあるけど、どれも僕のことを騙してくれない。そのくせ嫌な事やきらいばかりが瞳に映る。
昔から、そうだったお前はネガティブだと屁理屈だと親には言われる。
だけどそれが癪だった、だって僕が見えている景色はどれも事実だから。
みんな好き勝手に見たいものを見て、嫌な事から目を背けてそっちの方がよっぽど偏屈だとも思った。
食堂の慌てふためく声が聞こえた。休憩時間が終わりを告げる。僕も急いで、食器とトレーを返却口に戻す。
パソコンを開いて、午後ルーティンを終え、ホワイトボードに目を移す。
今日も仕事をギリギリ定時までに終わらせる、でも明日の朝になれば新しい仕事がデスクに舞い込む。
はぁ……ってため息をついて、コーヒーを一口飲んでみる。
僕を脅かす、安全な日々がまた終わりを告げる。
そして僕は、自分の世界に顔を逸らした。