
人生の羅針盤は 最終話 新しい航海
朝、目が覚めた柚希はいつも通りベッドから起き上がり伸びをする。
カーテンの隙間から春の日差しが床を照らしている。
キッチンの電気ケトルのスイッチを押し、目をこすりながら洗面所へ向かう。冷水で顔を洗い、眠気を吹き飛ばす。
鏡には以前とは違う表情の自分がいる。
コナコーヒーをマグカップに注いでベランダに出る。
まだ少し肌寒い風がコーヒーの湯気を引き立てる。
一日が動き出したばかりの街を見下ろし、慌ただしくなりつつある街の音に耳を傾けながら一口飲む。
「今日も一日が始まるなぁ。」
いつもと同じようなことを呟きながら過ごす朝の時間。
整理収納アドバイザー柏木との共同作業から2年が経った。
ベランダは以前のようにゴミが置かれることはない。朝のわずかな時間や休日にはここでコーヒーや紅茶を飲みながら街の変化を楽しむことが出来る。
リビングも無駄のない洗練された空間を維持し、床に物が置かれることはなくなった。いつでも友人を招き、楽しい時間を過ごせる、一人の時はお気に入りの小説を読みながらリラックスできる空間になった。
キッチンも柏木との作業の後よりもさらに自分流にアレンジして使いやすくなった。考えられた動線により効率よく料理ができる。腕前も上がり、ケーキやお菓子を作って友人に振る舞う楽しみが出来た。
クローゼットやタンスの衣類は、仕事用、普段着用に分けられ一目で何があるか分かるようになっていた。
一年間着なかった服は処分し、一着買えば一着処分する習慣が身に付き、無駄に服が増えることはない。
靴箱も同じく無駄な靴はなくなり、一足買えば一足処分のマイルールをこなすのが当たり前になっていた。
生まれ変わった空間で過ごすうちに気持ちの変化も起こり、以前勤めていた会社はしばらくして辞めた。
今は新しい職場で充実した日々を送っている。
「ちょっとゆっくりしすぎたかも。」
柚希は時計を見て少し急ぐ。歯を磨き化粧をしてから髪を整える。
さっと仕事着に着替えると自然に表情にも気合が入る。その顔からは微かな自信が溢れている。
広々とした玄関で靴を履きマンションを出ると先程より太陽が高く上り、街は一層明るくなっていた。足早に向かった駅前のコンビニでサンドイッチを買い職場に向かう。
電車ではお気に入りの音楽を聴きながら仕事の予定をチェック。
「週末はどこか行こうかな。」
車内の旅行会社の広告を見てふとそんなことが頭をよぎる。
電車を降り、混雑する駅構内を出て2分ほどの職場に到着する。
守衛と笑顔で挨拶を交わし、自分のデスクに着く。
同僚達と元気に挨拶をしてサンドイッチを頬張る。
談笑しつつPCのメールをチェックしてるうちに始業時間を迎えた。
同僚達はそれぞれの仕事を開始し、柚希も同じ建物内の教室へ向かう。
少し笑顔を作り、教室の扉を開けると30人ほどの生徒と思われる人たちが柚希の到着を待っていた。
堂々とした足取りで教壇に立った彼女は生徒たちの方を見て少しだけ深呼吸してから挨拶する。
「おはようございます。整理収納アドバイザー1級講師の飯田柚希です。」
終わり