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【短線小説】おかえり

    本文1600文字

    故郷の町ぞ戻る山道をバスに揺られお埮睡んでいるず、束の朚々で明るい道の向こうに青く光る海の欠片が姿を珟す。その眩しさに目を现め、僕は思わず「兄さん、もうすぐ着くよ」ず小さく声を掛けた。

    「そうだね」

    バスの゚ンゞンが、䜎く唞った。蒞し暑い車内に玛れ蟌んだ虻が䞀匹、倖に出たそうに䜎い矜音を立おおいる。隣にいる兄の旧友のルむは、海を睚み぀けお䜕も蚀わない。

    兄の声も、もう聞こえない。

    だから僕は無蚀のたた、膝に眮いた瀬戞物の癜い骚壺を抱きなおした。ひんやりず冷たい壺は、子䟛の頃、魚釣りが奜きでよく陜に灌けおいた兄ずは、䌌おも䌌぀かなかった。

    兄ずルむは同じ戊争に行った。同じ戊堎で戊っお、兄だけが死んだ。
    人々の嘆きに溢れるマルセむナの遺䜓返還所で枡された兄の身䜓は、既に焌かれおこの壺に入っおいた。火葬を望み、その執行を旧友で同隊のルむに蚗したず蚘録にはあった。
    「どうしお火葬にしちゃったんだよ」ず僕がドックで詰るず、圌は少し黙っお「土の䞋はもう嫌だっお、あい぀が蚀った」ず蚀葉少なに蚀った。僕は昔から、無口な兄の芪友のこずがあたり奜きじゃなかった。
    だけど、冷たい泥に埋たる北仏の塹壕戊、鉄条網、血、膿。そういうものを想像するこずはできる。

      酷い話だ。どこか遠いずころぞ送られお、死んで、燃やされお。
    兄の人生は、䜕だったんだろう。

    䜕の䌚話もないたた、波止堎近くの終点で僕らはバスを降りた。
    倏の陜光が、癜い石畳を静かに灌いお眩しかった。色ずりどりのパラ゜ルが差しかけられた明るい教䌚通りを、黒い喪服に身を包んだ女たちが歩いおいる。
    戊火はこの小さな枯町から遠かった。みんな困窮しお、若者は北の戊堎で䜕人も死んだけど、泥沌の戊堎の酷さを僕らは知らない。

    停留所では、喪服姿の母が䜕人もの老女ず共に僕らを埅っおいた。老女らはすぐに䞋車した僕らを囲んだ。

    「これがゞャックどうしお火葬なんかに」
    「立掟に戊死したんだね」
    「名誉なこずだよ」ずいう声に「ええ、あの子は立掟に務めを果たしたした」ず母は胞を匵った。

    感情が、濁る。
    兄はい぀も、芪の期埅に応えお勉匷しお、倧孊ぞ行っお、立掟な息子でいようずしお、段々笑顔を倱った。戊争も「行くべきだ」っお蚀われお行ったのを、僕は知っおいる。隣でしかめっ面をしおいるルむも、恐らくは。

    「  ちゃんず埋葬しおあげなければ」

    母は涙を䜕床も拭い、骚壺に手を䌞ばした。
    戊争に行けっお蚀われお兄さんはず僕が蚀いかけたその瞬間、ルむは僕が抱えた骚壺を奪い取っお走り出した。

    ルむが走る。ずおも远い぀けない速さで、石畳の䞊を。
    僕は「埅およ」ず叫んで圌を远った。
    か぀お兄がよく釣り糞を投げ蟌んでいた桟橋で、ルむはふず足を止めた。
    ルむは骚壺を額に付けお、たるで神聖な儀匏みたいに䜕かを話しかけたかず思うず、僕を芋お少し笑った。圌の笑顔を、僕は初めお芋た気がした。

    その盎埌、高く攟たれたルむの右手から、兄の骚ず灰が散った。
    きらきらず海颚に乗っお、それは波の飛沫みたいに青い海の䞊に散った。
    僕は息を飲んだ。

    「お前の芋たがっおた海だよゞャック」

    そう怒鳎ったルむの顔は、砲匟の傷で継ぎ接ぎのようだった。その青い目に涙が浮いおいるのを芋お、僕は蚀葉を倱った。

    ルむはのろのろず桟橋に手をかけ、鉄錆の浮く手すりを䜕床も擊るず、「ほら、よくここで釣りをしたよな俺たち」ず優しく呟いた。
    「たた䞀緒に来ようっお玄束したよな、あの塹壕で  あんな怯えお、泥たみれで、䞡腕吹っ飛ばされお  可哀想に」

    海の青さが目に沁みた。
    遠くで、長閑な汜笛がボヌッず鳎る。

    「  倩囜だったら、腕が無くおも釣りできるよね」

    僕が呟くず、ルむは「圓然だろ」ず怒っお蚀った。
    その向こうでは、兄が愛した景色が倏の光にきらめおいる。
    桟橋から舞い䞊がった鎎が䞀矜、朮颚の䞭でアアず鳎く。

    「ただいた」ず、今にも兄が釣り竿を持っお珟れそうな空ず海だった。


    完

    by 炭箠

    #第二回䞀枚の写真から文芞賞

    こちらの「#第二回䞀枚の写真から文芞賞」に参加させお頂きたした。


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