
クロードが書いた短編
【空からビラが降ってくる】
その朝、最初に気づいたのは小学生の女の子だった。
「あ、雪だ」
手のひらを空に向けた瞬間、冷たくなかった。ひらひらと舞い降りてきたのは、白い紙だった。一枚、また一枚。気づけば空全体から、無数のビラが降り注いでいた。
街の人々が立ち止まった。傘を持った老人が一枚を拾い上げ、老眼鏡を押さえながら目を細めた。
**「あなたが昨日、心の中で謝ったこと、ちゃんと届いています」**
老人の手が震えた。昨夜、仏壇の前で亡き妻に向かって、ひとりで呟いた言葉だった。声には出していなかった。
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会社員の男は、駅前でビラを一枚つかんだ。
**「もう辞めていい。あなたはよくやった」**
思わず空を見上げた。雲しかない。誰もいない。それでも文字は確かにそこにあった。彼は三年間、誰にも言えずに抱えてきた疲労の重さを、初めて他者に知られたような気がした。泣くつもりはなかったのに、涙が出た。
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ビラは一人一枚、必ず自分の手にだけ舞い込んでくるらしかった。隣の人のビラを読もうとすると、文字がぼやけて読めなかった。
昼過ぎには、街じゅうで人々がその場に立ち尽くしていた。スマートフォンを構えて撮影した人もいたが、なぜかどの写真にも白い紙しか映っておらず、文字は写らなかった。
SNSは荒れた。「神の啓示だ」「国家の陰謀だ」「ARの仕掛けだ」。
でも当事者たちは、そんなことはどうでもよかった。
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その日の夕方、例の小学生の女の子は、自分のビラをもう一度読んだ。
**「あなたがひとりで泣いていた夜、となりにいたよ」**
女の子は少し考えてから、ビラを丁寧に四つ折りにして、ランドセルのいちばん奥にしまった。
ビラは翌朝には、街からきれいに消えていた。
側溝にも、屋根の上にも、一枚も残っていなかった。
ただ、人々の顔だけが、どこかすこし、やわらかくなっていた。
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*誰が飛ばしたのか、とうとうわからなかった。でも、知らなくていいような気がした、と後に多くの人が語った。*