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カワり゜の日 | あの曲は、党郚知っおいた。

    倜ず朝の境目は、い぀も珟実味がない。

    深倜から朝にかけお、僕たちは、湊町の川沿いのテラスにいた。

    普段なら橋の䞊を人が行き亀い、ビルに䞊んだネオンが、氎面に溶けお揺れおいる堎所だ。
    そのずきは、橋に人圱がなく、街もネオンも、眠りに぀いおいた。

    おおきに、ず曞かれた看板も、い぀もの赀いきらめきを手攟しお、暗い茪郭だけを空に残しおいた。

    ふたりは、ただそこにいた。

    僕はたばこに火を぀けお、煙が川の䞊を、ゆっくり流れおいくのを眺めた。
    圌女はがんやりず、空を芋䞊げおいた。

    矀青の空が、端から琥珀色に溶けおいった。
    どこで倉わったのか、ずっず芋おいおも、わからなかった。

    そのずき、たたたた、あの曲が流れおきた。

    さっきたでず同じ川で、同じ橋で、同じ圌女の暪顔だった。
    なのに、珟実に薄い膜が匵ったみたいだった。

    圌女の髪が、颚に揺れおいた。
    たばこの煙が、朝焌けの䞭ぞ滲んでいった。

    そのずき、圌女はもうわかっおいたのだず思う。
    この出䌚いが、きれいに続いおいくものではないこずを。

    僕は、わかっおいなかった。


    圌女の声は、透き通っおいた。

    顔も目もたんたるで、目は少し出おいお、た぀毛が長くおくるっずしおいた。

    手は小さくお、指は现長くお、芪指ず人差し指の間が深かった。
    動物みたいで。
    足の幅が、やけに狭くお。赀ちゃんみたいで。
    髪はツルツルで、肌はツダツダで、それをよく自慢しおいた。

    よく、顎の近くに手を眮いおいた。
    髪を匕っ匵っおは、指通りや毛先が痛んでいないか確認しおいた。

    僕が䜕気なく蚀った蚀葉を思い出す。
    ヌヌカワり゜に䌌おるね、っお。
    「なんで」ず蚀いながら、倧きな前歯を芋せお笑っおいた。
    い぀か剥補にするから、ず蚀うず、「やめおよ」ず蚀っお、たた笑っおいた。

    りッドず柑橘の匂いが奜きだった。
    銙氎も、ハンドクリヌムも、ヘアオむルも、い぀も圌女からその匂いがした。

    コヌヒヌが奜きで、カフェによく二人で行った。
    コヌヒヌの話になるず、目を茝かせおいた。
    子䟛みたいな顔をしおいるのに、ブラックが奜きだった。

    仕事の話を振るず、聞いおいないこずたで説明しおくれた。
    話し出すず止たらなくお、倢䞭になる顔が奜きだった。
    なんでずよく聞く人だった。
    背景が、仕組みが、気になる人だった。
    僕が返すず、たた次のなんでが返っおきた。
    くだらない話が、どこたでも続いた。

    雚が奜きな理由を聞くず、ただ萜ち着くからでは終わらせなかった。
    音のこず、匂いのこず、街の茪郭が少し滲む感じが奜きだず蚀った。
    僕がそれを、構造だけ抜き出しお芁玄するず、
    「うヌん、わかっおないなあ」「君にはただ早いね」ず蚀っお、少し埗意そうに笑っおいた。

    䜕かに぀けお、「わたしも埗意」「わたしもできる」ず、自慢気だった。
    「コナンの犯人、わたし倧䜓わかるねんなヌ」ず蚀っおいた。
    ミステリヌ映画を䞀緒に芳お、犯人を予想した。
    自信満々で倖しお、からかうず、泣いおいた。

    ちょっかいをかけるたびに、すぐに痛いず蚀った。
    あるずき、軜く突っ蟌んだ。
    淡々ず、䞀時間詰められた。
    「信じおくれぞんのが嫌やった」ず、蚀っおいた。
    本気で怒られたのは、それだけだった。

    恋愛に興味がないず蚀っおいた。恋愛リアリティショヌを、よく芋おいた。
    テヌブルはこために拭いた。い぀もご飯を服にこがしおいた。
    掗濯物はすぐに回しお、すぐに干した。
    畳んだから片付けお、ず蚀うず、い぀も少し眉をひそめおいた。

    スキンケアは異様なほど䞁寧で、シャワヌのメモリは、い぀も青ず赀の境目あたりだった。
    ふたりで济槜に入るず、お湯が溢れた。
    気が぀けば、ぬるた湯になっおいた。

    顔をし぀こく觊るず、「ベタベタ觊らんずいお」ず、むすっずした顔で手を払いのけた。
    なのに、僕の顔に皮脂が詰たっおいるず蚀っおは、倢䞭で取っおいた。
    芁らない毛を探しお、抜いおいた。
    毛繕いみたいだった。

    仕事堎では自称クヌルで、家ではずっず子䟛みたいだった。
    圌女はおじさんみたいな、ステテコのパゞャマのたた、コンビニたで䞀緒に歩いた。

    スヌパヌで買い物するず、袋の口を必ずセロハンテヌプで止めおいた。

    アむスが奜きだった。レアチヌズ、ティラミス、ぶどう、マスカット。
    新䜜を芋かけるず、倧きな声で「芋おヌ」ず蚀っお、呚りに気づいお声を匕っ蟌めおいた。
    ただ食べおもいないのに、䜕個もたずめお買っおいた。

    僕がドラむダヌを面倒くさがるず、䜕も蚀わずに立ち䞊がっお、「はいっ」ず手を䌞ばしおきた。
    錻歌でも歌いそうな手぀きで、根元から毛先たで、急がずに也かしおくれた。
    そのずきの圌女は、お姉さんだった。

    ラヌメンが奜きで、「昔は二キロ食べれた」ず真顔で蚀っおいた。
    スヌプはレンゲで䞉杯たで。
    「スヌプがいちばん倪るから」ず、そこだけは劙に理屈っぜかった。
    確か䞀床だけ、五、六杯飲んでいた。

    半分こずいうくせに、圌女の半分は四察六か、䞉察䞃だった。
    鯛焌きを分けたずき、四が僕だった。しかも尻尟の方だった。
    眉を䞋げながら、少し顔を赀くしお、「それだけはちゃんずできひんくお」ず蚀っおいた。
    自分では無理だからっお、い぀も僕に任せおくれた。

    仕事垰りに、二぀入ったバスクチヌズケヌキをよく買っおきおくれた。
    食べたこずはなかったけれど、い぀の間にか奜きになっおいた。

    料理が䞊手で、本圓は薄味が奜きだった。
    僕が濃いのが奜きだから、䜕も蚀わず味を倉えおくれおいた。
    僕の䜜るご飯を、聞いおもいないのに、䜕床も「矎味しい、ありがずう」ず蚀っお、食べおくれた。

    ふたりずも、普段はあたり食べなかった。
    小さなテヌブルで向かい合っお、アニメを芳ながら、い぀もお腹いっぱいになるたで食べた。
    お颚呂䞊がりは、隣に座った。
    冷凍庫からアむスを出しお、プリングルズのサワヌクリヌムず、じゃがりこのサラダも䞀緒にテヌブルに䞊べた。
    「お腹いっぱい、幞せ」ず蚀っお、目を现めおいた。

    癜ず黒ずグレヌ、シンプルな服が奜きだった。
    僕も癜ず黒ばかり着おいた。
    ふたりずも、い぀の間にか党身が真っ黒だった。
    「二人ずも真っ黒やね」ず笑っおいた。
    圌女は特に、グレヌがよく䌌合っおいた。

    青が奜きで、アゞサむが奜きだった。
    なぜ奜きか、聞かなかった。
    わかった気になっおいたから。

    聞いおおけばよかった。

    凪良ゆうが奜きで、『汝、星の劂く』ず『星を線む』が特に奜きだず蚀っおいた。
    「絶察僕も奜きだから」ず勧めおくれた。
    「実家から持っおくるね」ず蚀っおいた。

    借りられなかった。

    自分もこんな颚に、䌝えられるようになりたい、ず蚀っおいた。

    ふたりずも、茪郭が滲むような曲が奜きだった。
    プレむリストを共有するず、ずっず聎いおいた。
    郚屋で䞊んで、がんやりしながら。
    倜の道を歩きながら。
    公園のベンチに腰掛けながら。

    あの曲も、そうやっお聎いおいた。

    友達に誘われるず、断れなかった。
    行きたくない、ずごねおいた。
    それでも、玄束したからず出かけおいった。

    友達の誕生日には、プレれントを準備しお、手曞きで手玙を曞いおいた。
    その字が、綺麗だった。
    倪いずころ、现いずころ。ちゃんずくびれがあった。
    流れおいるのに、どこかで息をひそめおいるような線だった。
    青の気配がした。

    ふたりで䌌顔絵を描いた。
    圌女の圧勝だった。
    ムキになっお、カフェで緎習した。
    気が぀けば、数時間経っおいた。
    圌女はその間、ただ芋おいた。

    芳おいる人だった。
    色も、圢も、光も。

    空を眺めながら、がんやり歩くくせに、信号は絶察に守っおいた。

    目が悪いのに、メガネをかけなかった。
    芋えすぎるのが、嫌だず蚀っおいた。
    人混みでは、むダホンを぀けた。
    静かなずころが、䌌合っおいた。

    自分の感情を、内偎にあるものを、人には芋せない人だった。
    そのくせ、僕が黙っおいるず、顔を芗き蟌んで、「なんかあったの」ず聞いおきた。

    たたには、「嫌だ」ず蚀っおほしかった。
    そうできないのが、圌女だった。

    僕には、䜕もなかった。
    それでも圌女は、僕を魅力的だず蚀った。
    差し歯が取れお、前歯がなくなった日、笑いながらキスをしおくれた。

    たばこが苊手で、吞わないでず蚀っおいたのに、い぀の間にか、吞うずきは隣にいた。

    圌女の優しさには、底が芋えなかった。

    「忘れないで欲しい」ず蚀った。
    「君に圌女ができたら泣いちゃいそう」ずも。
    目を、萜ずしおいた。

    眠るずき、圌女はい぀も、匷く手を握っおきた。
    手を離すず、寝がけた声で、「手、握っお」ず蚀っおいた。

    そんな倜が、積み重なっおいった。

    䜕かを隠しおいるこずは、わかっおいた。
    それが䜕かは、螏み蟌めなかった。

    きれいだった。


    圌女が、話し始めた。
    泣きながら。

    婚玄者、ずいう蚀葉が、郚屋の䞭に萜ちた。

    圌女を、芋おいた。
    圌女の向こうにある、癜い壁を。

    圌女の声は、続いおいた。
    お母さんの病気のこず。
    もう、長くないこず。
    花嫁姿を芋たいこず。
    ずっず、断れなかったこず。

    たばこを探した。
    ポケットに手を入れた。
    なかった。

    「息苊しかった」ず蚀っおいた。
    ずっず、正しく生きるこずしかできなかったず。

    珟実から逃げたくお、マッチングアプリを始めたこず。
    こんな関係になるずは、思っおいなかったこず。

    ずっず、お母さんの蚀い぀けを守っお生きおきたず。
    悪いこずをしたのは、初めおだず。

    「私は君を傷぀けた」ず、圌女は蚀った。
    「やっちゃいけないこずをした」ず。
    「ごめんね」ず。

    本圓は、䜕も蚀わずに消えようず思っおいた。

    離れるべきだず、ずっずわかっおいた。
    それでも、蚀えなかった。
    蚀ったら、もう二床ず䌚えなくなるず思っおいたから。

    聞いたのは、僕だった。
    それでも、逃げずに、打ち明けおくれた。

    僕は郚屋を出た。
    ファミマの駐車堎で、たばこに火を぀けた。
    手が、少し震えおいた。
    答え合わせみたいだった。
    緑ず癜ず青が光るのを、ただ芋おいた。
    䜕本吞ったか、わからなかった。
    戻った。

    本圓にそれでいいの、ず蚀った。
    自分の人生だから、ただ間に合うよ、ず。
    僕を遞んでよ、なんお蚀えなかった。

    僕じゃあかんのかな、ず蚀った。 

    圌女は、答えなかった。

    「ありがずう、考えおみるね」ず、蚀った。

    翌朝、圌女はひどく穏やかだった。
    もう決たっおいたのかもしれない。
    確かめるように觊れおくるこずが、増えた気がした。


    しばらくしお、圌女は「結婚するこずにした」ず蚀った。
    「結婚しおみたら、意倖ずなんずかなるかもしれない」ず、自分に蚀い聞かせるように、埮笑んだ。

    顔を芋れなかった。
    芋せたくなかった。
    近づけなかった。

    僕は孀独で、圌女は逃げたくお、
    たたたた、同じ堎所に立っおしたった。
    ただ、離れられなかった。
    ふたりずも。

    僕は、物分かりのいいや぀だった。

    母芪も、婚玄者も、どうでもよかった。
    圌女を瞛っおいるものが、邪魔だった。

    党郚、わかっおいた。
    わかりたくなかった。
    わかるしかなかった。

    初めから、終わりが芋えおいた。
    それでも僕は、その日たで、䞀緒にいるこずを遞んだ。


    玄䞀幎。
    週に五日。
    同棲みたいな生掻。

    短いのに、䞍思議ず長かった。

    「ピアス開けおほしいねんけど、開けれる」ず蚀った。
    「お母さんは反察するけど」ず。
    「身䜓に穎を開けおもらうのは、わたしにずっお特別なこず」ず、蚀っおいた。

    ピアスを開けた。

    特別なこずだず、思っおいなかった。

    圌女は、写真を撮るようになった。
    それたで、ほずんど撮っおいなかった。

    五月の終わり。
    決めおいた朝。

    最埌だず知りながら、
    䜕もないみたいに、い぀も通り話しおいた。

    ただ、䞀緒にいたかった。

    それは、蚀わなかった。

    蚀えば、続いおしたう。
    蚀えば、壊れおしたう。
    蚀えば、困らせおしたう。

    い぀もず同じように起きお、
    歯を磚いお、準備をしお。

    ただ䞀぀、い぀もず違ったのは、
    その朝、圌女ず同じ時間に、家を出たこずだった。


    マンションの䞋で、立ち止たった。

    䞍意に、圌女の方から抱き぀いおきた。
    軜く背䌞びをしお、キスをした。

    「倧奜きだよ」

    圌女の顔は、滲んでいた。

    圌女は䜕も蚀わずに、振り返らずに、LUUPで走り去った。
    これたで䜕床も芋送っおきた、癜いりィンドブレヌカヌの背䞭だった。

    朝の䞭ぞ、消えおいった。

    僕はそれを、眺めおいた。
    眺めおいたのかさえ、わからなかった。

    動けなかった。

    腕に、ただ、枩もりが残っおいた。
    唇に、ただ、キスの感觊が残っおいた。

    それも、なくなった。

    寝がけた声で、もう䞀床だけ、「手、握っお」ず蚀っおほしかった。


    僕は歩いお垰った。

    垰りに公園に寄っお、ベンチに腰掛けた。
    誰もいなかった。
    颚が草朚を揺らしおいた。

    しばらくしお、子䟛たちがやっおきた。
    公園は、急に隒がしくなった。

    圹割を終えた朝だった。

    僕たちは、どうしようもなく絡たっお、確かめ合いながらほどいおいった。
    同じ時間を、同じ枩床で生きおいた。

    カワり゜は、氎の䞭では手を぀ないで眠るらしい。
    流されないように、離れないように。
    ふたりは、ふやけお、陞の歩き方を忘れかけおいた。

    僕はひずりで、ふやけた手を぀ながないたた、あおもなく家たでの道を歩いた。


    二日埌、雚だった。
    傘を差しお歩いた。

    あの曲を、かけた。

    矀青ず琥珀色が、浮かんだ。
    圌女の茪郭が、浮かんだ。

    街が滲んで、氎溜りが、光を匟いた。
    アスファルトは、遠くたで光っおいた。

    最埌の倜、圌女が蚀った。
    「今日っおカワり゜の日らしいよ」っお。


    僕は歌詞を、聞いおいなかった。
    終わっおから、気が぀いた。

    終わりのこずを、ずっず歌っおいた。
    朝のこずを。
    別れのこずを。

    圌女には、届いおいた。
    僕には、届いおいなかった。

    あの曲は、最初から、党郚知っおいた。

    ふたりは、聞こえ方が違っおいた。
    だから、同じになれた。


    剥補を、䜜っおいるのかもしれない。


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