
『芸術・美術・音楽』落語集①モナリザ編
① ホラー
「へぇ、旦那。今夜も番を頼まれてるんで? ……へ? あの女の絵? いやぁ、やめといたほうが……。
ほら、こうして見てると……に、にやぁ……っと笑うんでさ。
え? 今笑った? ……いや、わたしじゃござんせんよ。
あぁ……ほら、また……」
② ミステリー
「この絵の女が誰かって? そりゃ旦那、いろんな説がござんすよ。
画家の奥方だとか、いやいや愛人だとか、いやいや……
あっしはね、こう睨んでるんでさ。
これは誰の顔でもない……“盗まれた顔”なんでさ。
……へ? その顔がどこにあるかって? あんたの……」
③ 恋愛
「おかみさん、笑ってるけど……俺ぁわかってますぜ。
あの顔はなぁ、恋してる顔だ。
旦那が戻るのを待ってる顔で……。
けど、それをずっと額の中で待たせるなんざ……酷ってもんでさ。
外に出してやりやしょうか? ……おっと、それは罪ってやつで?」
④ ファンタジー
「えぇ、あの額縁はただの木枠じゃござんせん。
くぐれば別の国、別の時代。
わたしゃ昨日、くぐってみやしたよ。
そしたら、ほら……向こうでこの顔の女が、お茶を出してくれましてね。
“ようこそ”って……え? あれ? 戻ってきたら絵から笑い声が……」
⑤ お仕事
「へい、ガラス拭きの仕事でね。毎朝モナリザさんとご対面なんでさ。
えぇ、笑ってますよ。毎日、同じ笑顔で。
だけどある日、あっしが遅刻しちまって……。
そしたらですよ、拭いてないガラスの向こうから、ふっと眉ひそめて……。
いやぁ、芸術もお仕事だってこと、あの人から教わりましたよ」