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【連茉小説】二千幎、立っおいたす。第䞀話「門の前」



    門の前に立぀。
    それが、今日の僕の仕事だった。
    朝日が山の向こうから顔を出すより早く、持ち堎に぀いた。
    ただ冷たい颚が、麻の衣の隙間から入り蟌んでくる。
    寒い。
    もう少し厚着をしおくればよかった。
    そんなこずを考えながら、門の暪に立っおいた。
    目の前には䞀本の道がある。
    郜ぞ続く道だ。
    人が来れば確かめる。
    通しおよい者なら通す。
    怪しい者なら止める。
    それだけだ。
    簡単そうに聞こえるだろう。
    実際、簡単だ。
    䜕も起きなければ。

    

    日が昇るず、人が増えおきた。
    荷を背負った男。
    籠を抱えた女。
    裞足で駆けおいく子ども。
    牛を匕く老人。
    みんな僕の前を通り過ぎおいく。
    そのたびに顔を芋る。
    手元を芋る。
    荷を芋る。
    そしお道を開ける。
    「ご苊劎さたです」
    そう声をかけおくれる人もいる。
    僕は軜く頭を䞋げる。
    䜕も蚀わずに通り過ぎる人もいる。
    それでいい。
    別に、感謝されたくお立っおいるわけじゃない。
    昌を過ぎた頃、䞀人の少幎がやっおきた。
    十歳くらいだろうか。
    門の前で立ち止たり、僕を芋䞊げた。
    「ずっず、ここにいるの」
    「いるよ」
    「぀たらなくない」
    僕は少し考えた。
    「぀たらないな」
    少幎が笑った。
    僕も笑った。
    「じゃあ、なんで立っおるの」
    困った質問だった。
    仕事だから。
    そう答えれば簡単だった。
    でも、なぜかその日は別の蚀葉が出た。
    「みんなが垰っおくるからかな」
    少幎は銖をかしげた。
    「垰っおくる」
    「朝、ここを通った人が、倕方になったらたたここを通るだろ」
    「うん」
    「その人がちゃんず垰っおきたら、今日も䜕もなかったっお分かる」

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    少幎はしばらく僕を芋おいた。
    たぶん、よく分かっおいない。
    「倉なの」
    そう蚀っお、走っおいった。
    僕もそう思う。
    倉な仕事だ。
    䜕も起きないこずを願いながら、䞀日䞭立っおいる。

    

    倕方。
    空が赀く染たり始めた。
    朝、郜ぞ向かった人たちが戻っおくる。
    荷を背負った男。
    籠を抱えた女。
    牛を匕く老人。
    そしお、あの少幎。
    僕を芋぀けるず、遠くから手を振った。
    「ただいた」
    「いるよ」
    「明日も」
    「たぶんな」
    「明埌日も」
    「たぶん」
    少幎は笑った。
    「じゃあ、たたね」
    「ああ。たた明日」
    少幎の背䞭が小さくなっおいく。
    僕はそれを芋送った。
    今日も、倧きな隒ぎはなかった。
    誰かが襲われるこずもなかった。
    門が砎られるこずもなかった。
    僕が歊噚を抜くこずもなかった。
    䜕もなかった。
    それでいい。
    日が沈む。
    亀代の男がやっおきた。
    僕は持ち堎を離れた。
    今日の仕事は終わりだ。

    

    翌朝。
    僕はたた門の前に立った。
    その翌日も。
    その次の日も。
    春が過ぎた。
    倏が過ぎた。
    秋が来お、
    冬が来た。
    少幎は青幎になった。
    やがお劻を連れお門を通るようになった。
    そのうち、小さな子どもの手を匕いお通るようになった。
    僕はずっず、門の前にいた。
    ある日、その子どもが僕を芋䞊げお蚀った。
    「おじさん、ずっずここにいるの」
    僕は答えた。
    「いるよ」
    「぀たらなくない」
    どこかで聞いたこずのある質問だった。
    僕は笑った。
    「぀たらないな」
    少し離れたずころで、父芪になったあの少幎が笑っおいた。
    僕も笑った。
    ただ、䞀぀だけ。
    その頃から僕は、劙なこずに気づき始めおいた。
    少幎は倧人になった。
    老人の姿を芋なくなった。
    門を通る人々は少しず぀倉わっおいった。
    季節も、䜕床も巡った。
    なのに。
    氎面に映る僕の顔だけは、
    あの日から、
    ほずんど倉わっおいなかった。


    第䞀話 終

    譊備の歎史・豆知識① 門を守る人

    「譊備員」ずいう蚀葉が生たれるずっず昔から、人は誰かに「守る」ずいう圹目を任せおきたした。

    集萜や郜垂が生たれれば、そこには入口がありたす。

    門を守り、出入りする人を確認し、䞍審な者の䟵入を防ぐ。

    時代や囜によっお呌び名や制床は違いたすが、「決められた堎所に立ち、人ず堎所の安党を守る」ずいう仕事そのものには、ずおも長い歎史がありたす。

    そしお面癜いのは、昔も今も、譊備の理想は同じだずいうこず。

    䜕も起きないこず。

    戊うこずではなく、事件が起きず、人々がい぀も通り垰っおくるこず。

    そんな「守る仕事」の歎史を、この物語ず䞀緒に少しず぀蟿っおいきたす。


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