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『終わりの音を聴いた少年⑫』

    第12章 影の本体

    午後2時12分。
    突然、空が割れた。

    ゴゴゴゴ……!

    空の一点に亀裂が入り、まるでガラスを割るようにヒビが走った。

    「世界が……音で、崩れ始めてる」

    ミユの声が震えた。

    その瞬間、僕たちの足元に**“無数の譜面”**が降ってきた。
    だけど、その譜面には――

    **“真っ黒な音符”**しか描かれていなかった。

    アキラが手に取った譜面を見て、凍りつく。

    「これ、全部“逆再生”されてる……」

    「音が、“終わり”から鳴り始めてる」


    そのとき、世界全体に声が響いた。

    いや、“声のような音の塊”だった。

    【――オワリ、ニ、ナレ――】

    それは言葉ではなかった。
    音の圧力。重さ。恐怖。

    空が割れた場所から、巨大な“影の本体”が姿を現した。

    それは、音の集合体だった。
    でもその音は、絶望だけで構成されていた。

    叫び、罵声、泣き声、諦め、怒鳴り声――
    人間が人生で発した「ネガティブな音」だけを吸収して肥大化した怪物。


    「これが……“終わりの音”の正体……!」

    僕は、譜面を手に立ち向かおうとした。

    でも、その瞬間――
    手に持っていた楽譜が、黒く染まり始めた。

    「え……?」

    ミユが叫ぶ。

    「ダメ! ルイ、譜面が汚染されてる!」

    「このままじゃ、あなたの感情も喰われる!」

    影の本体が近づくたびに、
    僕の中の“過去の痛み”が音になって漏れ始めていた。

    ・父に言われた厳しい言葉
    ・母に見せた笑顔の裏の涙
    ・誰にも言えなかった「助けて」の心の声

    それらが、勝手に楽譜に記録されていく。

    「もう、止まらないのか……?」

    僕が膝をつきそうになったとき――

    「立て、ルイ」

    アキラが、真剣な顔で立っていた。

    「……あの影、俺の“過去の音”も持ってる。
    だったら、俺も戦う資格あるだろ?」

    「私もよ」

    ミユが前に出る。

    「私だって、いっぱい飲み込んできた。
    名前も、声も、意味も与えられなかった気持ち、たくさん抱えてきた」

    「ルイだけじゃない。
    この世界は、“みんなの音”でできてるんだよ」


    三人で、影の本体を見つめた。

    その瞬間、三人の譜面が重なり合い、
    そこに――**“未完成の旋律”**が生まれた。

    「これは……第6楽章?」

    ミユがつぶやいた。

    でも、その旋律は不完全だった。
    最後の一音が、どうしても“足りない”。

    そのとき――
    空にいた影が、ゆっくりと姿を変えていった。

    影の中心に、一人の少女が立っていた。

    「……君、だれ?」

    僕が問いかける。

    少女は、静かに答えた。

    「わたしは、“終わりの旋律”。
    誰にも完成させてもらえなかった“最後の音”よ」


    そして少女は、涙を流しながら言った。

    「……ルイ、お願い。
    “わたしを終わらせて”」

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