メインコンテンツへスキップ
見出し画像

連載ホラー小説🕯️『呪いのメモ』③

    最終章「“僕”と“ボク”の部屋」


    ① 再会の時刻

    午後3時。カレンダーに勝手に書き込まれた「再会」の予定時刻が迫っていた。
    部屋は静かだが、耳の奥に直接触れてくるような低い唸りが、空気の下層で震えている。

    机の上には、投函音も聞かずに置かれた黒い封筒。
    封を切ると、ただ一行――。

    「やっと、同じ部屋に戻れたね」

    視界がかすみ、膝が崩れ落ちる。
    スマホが勝手に開き、《To 自分》のページが高速でスクロールされる。
    画面の奥に、文字が次々と現れた。

    「お前は僕だ。僕はお前だ」
    「嘘をつくのは、もうやめよう」
    「最初のメモも、最後のメモも、ぜんぶ同じ手だろ?」

    指先の感触が変わっていく。自分の手なのに、握り方が違う。
    胸の奥の錆びた扉がきしむ音がした。そこから漏れる、幼い笑い声――学習帳に書かれたあの丸い文字の声だ。

    鏡を見る。そこに“僕”がいた。
    同じ顔、同じ服装。だが、こちらより先に、向こうが口を開く。

    「もう、一人じゃないよ」

    笑った瞬間、部屋の空気が弾け、視界が暗転した。


    ② ボクからの挨拶

    目を開けると、《To 自分》は空白になっていた。
    机の上の白紙には、鉛筆で大きく一言。

    「はじめまして、ボク」

    その文字を見た途端、喉の奥から笑いが漏れた。
    それは、もう自分の笑い声ではなかった。


    あとがき

    この物語は、外部からの脅威ではなく、自分自身の内側に潜む“もう一人”と向き合う話として書きました。
    恐怖は、音や影の正体がわからない時よりも、「それが自分の一部かもしれない」と思った瞬間に、より深く心を侵食します。

    《To 自分》は、誰にでも存在する“心のメモ帳”の象徴です。そこに綴られる言葉は、自分が見ないふりをしてきた部分を静かに記録していきます。
    この話を読み終えた後、もしあなたがスマホのメモを開く時、ふと――知らない文章が増えていたとしたら。
    それは、あなただけの“ボク”からの挨拶かもしれません。

    あなたへのおすすめ