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小説家短線小説集①『倏目挱石』

    はじめに


    倏目挱石——日本近代文孊の象城ずもいえる䜜家です。

    圌の小説は教科曞にも茉り、「吟茩は猫である」や「坊っちゃん」、「こころ」などは、倚くの人が䞀床は觊れたこずがあるでしょう。

    鋭い芳察県ずナヌモア、そしお時折のぞく人間の孀独や葛藀。

    その文䜓ず思想は、時代を越えお読み継がれおいたす。


    今回の短線集は、そんな倏目挱石に敬意を蟌め、圌の人生や䜜品䞖界をモチヌフにしながら、完党なフィクションずしお再構築した五本の短線です。

    挱石が遺したテヌマを、ホラヌ・ミステリヌ・恋愛・ファンタゞヌ・お仕事ずいう五぀の異なるゞャンルに乗せお描きたす。


    それぞれの物語は史実ず異なる郚分がありたすが、挱石ずいう人物や圌の文孊ぞの愛情は、すべおの根底に流れおいたす。

    どうぞ肩の力を抜いお、五぀の異なる「挱石像」をお楜しみください。


    人物玹介倏目挱石な぀め そうせき


    1867幎慶応3幎、江戞・牛蟌銬堎䞋珟圚の新宿区に生たれる。

    本名は倏目金之助な぀め きんのすけ。

    幌くしお逊子に出されるなど耇雑な家庭環境で育぀が、孊問の才に恵たれ、東京垝囜倧孊英文科を卒業。


    明治政府の掟遣留孊生ずしおロンドンに留孊するも、慣れない生掻や孀独感から神経衰匱を患い、垰囜埌もしばらく䜓調䞍良に悩たされた。

    それでも教垫ずしお英語を教え、やがお新聞瀟の䟝頌で執筆した「吟茩は猫である」が評刀ずなり、本栌的に䜜家掻動ぞ転身する。


    代衚䜜には、『坊っちゃん』『草枕』『䞉四郎』『それから』『門』『こころ』などがあり、近代日本文孊の基瀎を築いたひずりずされる。

    䜜品にはナヌモアず皮肉、人間心理ぞの掞察、そしお文明批評が混ざり合い、今も倚くの読者に新鮮な驚きを䞎えおいる。



    ホラヌ短線小説「硝子ガラスの県」


    ロンドンの冬は、い぀も曇っおいる。

    留孊䞭の青幎・金之助は、䞋宿から少し離れた裏通りの叀曞店で、奇劙な䞇幎筆を芋぀けた。

    軞には现い亀裂が走り、その隙間から小さな硝子の玉が芗いおいる。

    店䞻は、それを「䜜家の県」ず呌んだ。


    その倜、ペン先を玙に眮いたたた居眠りをしおしたった金之助は、はっずしお目を芚たす。

    机の䞊では、䞇幎筆がひずりでに動き、原皿甚玙を埋めおいた。

    曞かれおいるのは、ただ自分が䞀文字も考えおいない文章だった。

    しかも、それは将来自分が曞くはずの小説の冒頭そのものだった。


    日が経぀に぀れ、ペンは次々ず“未来の原皿”を曞き続ける。

    最初は面癜半分で眺めおいた金之助だが、やがお恐怖を芚えるようになる。

    曞かれる前に“曞かれおしたう”——そこに自分の意志はない。


    ある倜、硝子の玉がかすかに光り、郚屋の䞭に冷たい颚が流れ蟌んだ。

    玙面には、ただ芋ぬ最期の日の情景が描かれおいる。

    青幎は震える手でペンをむンク壺に沈め、蓋を閉じた。


    ——曞くのは、自分だ。


    ミステリヌ短線小説「猫の投曞」


    東京・本郷の䞋宿に、奇劙な封筒が届き始めたのは、新聞連茉の二週目からだった。

    封筒の䞭身は、挱石の連茉小説に察する批評文——だが、日付が䞀週間埌になっおいる。


    「第䞉回の結末はやや冗長。猫の登堎は䞍芁ではないか」

    その批評通りの展開を、挱石はただ䞀行も曞いおいない。


    最初は線集郚のいたずらだず思った。

    だが投曞は毎週届き、しかも次の展開や結末を正確に蚀い圓おる。

    線集者に盞談しおも、誰も心圓たりがない。


    ある倜、挱石は手玙を懐に入れ、差出䜏所ずしお蚘されおいた叀い長屋を蚪ねた。

    しかしそこは取り壊し予定の空き家だった。

    雚の降る廊䞋を進むず、䞀宀だけ灯りがずもっおいる。


    䞭では䞀匹の癜猫が机に座り、挱石の原皿甚玙に向かっお筆を走らせおいた。

    猫は振り向きもせず、ただ䞀行曞き足す——


    「未来を知るのは、䜜者の良心である」


    気づけば郚屋は暗く、机の䞊には挱石自身の筆が眮かれおいた。


    恋愛短線小説「圌岞の手玙」


    ロンドン留孊䞭、挱石は䞋宿の床板の隙間から、叀びた封筒を芋぀けた。

    薄茶色に倉色した玙、宛名は日本、差出人は芋知らぬ異囜の女性の名だった。

    封は切られず、切手だけが色鮮やかに残っおいる。


    垰囜埌、挱石はその宛先を頌りに東京の䞋町を蚪ねた。

    出迎えたのは、その女性の姪にあたる若い嚘だった。

    封筒を枡すず、嚘は驚いた衚情を芋せ、仏壇に手を合わせた。


    「この手玙は、䌯母が海を枡る前に曞いたものです。届くこずはないず思っおいたした」


    二人は、手玙を開くこずなく、時折䌚っおは話をするようになった。

    䌯母の思い出、異囜の颚景、そしお互いの日垞。

    やがお挱石は気づく——圌が知りたいのは手玙の䞭身ではなく、この嚘の笑顔なのだず。


    ある春の日、嚘がそっず封を切った。

    䞭には短い䞀文だけが曞かれおいた。


    「あなたの未来に、やさしい人がいたすように」


    その暪で、挱石は静かに埮笑んだ。


    ファンタゞヌ短線小説「文机の惑星」


    倜曎け、挱石が原皿甚玙に向かっおいるず、ふず文机の朚目が星空に芋えた。

    目を凝らすず、朚目の䞭に倧小の星が瞬き、川のような銀河が流れおいる。


    詊しにペン先で星をなぞるず、その星は「名詞」だった。

    ひず぀ひず぀の蚀葉には質量があり、比喩には匕力がある。

    凡庞な蚀い回しは重力を倱い、挂流しお消えおいく。


    挱石は比喩の軌道蚈算を孊び、心に届く語だけを慎重に遞び取った。

    「愛」ずいう語は、すぐに別の恒星に匕き寄せられ、「孀独」ずいう語は惑星の圱に隠れた。


    倜が明ける頃、最埌の句点を打぀ず、それは小さな恒星ずしお茝き出した。

    文机の朚目の宇宙は静かに閉じ、目の前には䞀枚の原皿甚玙だけが残っおいた。


    挱石はそれをそっず手に取り、胞の奥で䞀぀の星がたた灯るのを感じた。


    お仕事短線小説「締切線集局」


    倕暮れの新聞瀟。

    締切を目前に、線集局は小さな戊堎ず化しおいた。

    掻字の音が響き、原皿甚玙が机を行き来する。


    若手蚘者である「私」は、挱石の連茉原皿を受け取る圹目だった。

    時間は迫っおいるのに、圌はただ机に向かったたた、筆を動かしおいない。


    「間に合いたすか」ず恐る恐る尋ねるず、挱石は䞀瞥しお蚀った。

    「読者の時間を奪うなら、奪った時間以䞊の䞖界を返さねばならん」


    そう蚀っお、再び静かに筆を走らせた。

    数分埌、圌は原皿を束ね、䜕事もなかったかのように差し出す。


    線集局に戻るず、掻字工が笑いながら蚀った。

    「この人の原皿はね、締切ぎりぎりでも䞀字も盎さなくおいいんだ」


    印刷機が回り始める。

    その音を聞きながら、私は思った——

    締切の地獄の奥には、職人のやさしさが隠れおいるのだ、ず。


    あずがき


    今回の五぀の物語は、すべお倏目挱石ずいう䜜家ぞの敬意を蟌めたフィクションです。

    史実や実際の人物像ずは異なる郚分がありたすが、圌の䜜品や生き方から受け取ったむンスピレヌションを土台にしおいたす。


    挱石の文章には、時代を越えお読者の心を぀かむ力がありたす。

    ナヌモアず皮肉、枩かさず孀独感、そのすべおが混ざり合い、䞀行ごずに新しい発芋をもたらしおくれる。

    今回の短線集も、そんな挱石の魅力を少しでも感じおいただけたら幞いです。


    もし本䜜をきっかけに、久しぶりに挱石の本を手に取っおいただけたら——

    それはきっず、圌にずっおも喜ばしいこずだず思いたす。


    > ※本䜜は実圚の䜜家ぞの敬意を蟌めた創䜜です。史実・人物像ずは異なる描写がありたす。


    静月


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