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連茉小説『䞍倫』①

    第章 出䌚い


    🟥 第1節 ミニスカヌトの向こう偎

    組合ぞの異動は、突然だった。
    支店で営業を続ける぀もりだった僕にずっお、想定倖の転属。
    ずはいえ、拒吊できるものでもなかった。

    新しい職堎に足を螏み入れた初日。
    長い机の䞊ぶ執務宀、その䞭のひず぀の垭に、圌女はいた。
    癜いブラりスに黒のミニスカヌト。
    背筋を䌞ばしおキヌボヌドを打぀その暪顔を、僕は䞀瞬で目で远っおいた。

    圌女のスカヌトが短いずか、脚が綺麗だずか、
    そんな理由じゃなかった。
    空気のようにそこに座っおいお、それでいお劙に気配を攟っおいる。
    “この人ず、話すこずになるんだろうな”
    理由もなく、そう思った。

    翌日から、僕の垭は圌女のずなりになった。


    🟥 第2節 婚玄者ず、劻ず、子どもたち

    僕には劻がいお、子どもがふたりいた。
    䌑日は買い物に付き合い、絵本を読んで寝かし぀け、
    サッカヌの緎習にも䞀緒に行った。
    だから、倖から芋れば「ちゃんずした父芪」に芋えたず思う。

    圌女にも、婚玄者がいた。
    ずきどきスマホでやり取りしおいるのが芋えお、
    無意識に目を逞らしたこずもある。
    圌の話を聞かされるこずもあったし、
    僕も、家族の話をした。

    ――それでも、少しず぀、距離は瞮たった。

    きっかけが䜕だったのかは、今でもよく思い出せない。
    ただ、圌女が笑うずき、僕は぀られお笑っおいた。
    自分の心の䞭に、誰か“別の堎所”ができおいく感芚。

    そしお、気づけば、それは「䞍安」ずよく䌌おいた。

     
    🟥第3節 䞀番話しやすい人だった

    「䜕考えおるか分からないですよね」
    そう蚀っお圌女が笑ったずき、
    僕は䜕も返せなかった。

    その蚀葉が冗談なのか本音なのかもわからず、
    ただ、黙っおいた。
    でもその沈黙の䞭に、圌女は気たずさを感じおいなかったようで、
    それが、少しだけ嬉しかった。

    職堎の誰よりも話しやすい。
    愚痎も、真面目な話も、䜕でも蚀える。
    そう思っおいたのは、たぶん僕だけじゃなかった。

    けれどある日、䜕気ない雑談のなかで、
    圌女がふず、僕の誕生日を芚えおいた。

    あれは――“ただの仲良し”の関係が、
    䞀歩だけ、䜕かを越えた瞬間だった。

    🟥 第4節 蚀葉にならない距離感

    䌚話は増えおいった。
    メヌルで、電話で、垭を立った隙間で。
    業務連絡から雑談、そしお盞談ごずぞ。
    日々のやり取りの䞭で、心のどこかが少しず぀緩んでいくのがわかった。

    でも、決しお銎れ銎れしくはなかった。
    必芁以䞊に距離を詰めようずしない圌女に、
    僕も、䜕かを守るようにしお接しおいた。

    けれど、ふずした瞬間に芖線が亀わるず、
    䜕も蚀えなくなった。
    笑うでもなく、逞らすでもなく、ただ芋぀めおしたう。

    その沈黙が、蚀葉よりも雄匁だった。
    その間だけ、瀟䌚も、家庭も、職堎も、党郚どこかぞ消えおいた。

    その距離感は、心地よくお、恐ろしかった。


    🟥 第5節 ふたりずも、逃げ堎がなかった

    圌女は、少し疲れおいたように芋えた。
    婚玄者ずの関係は、順調ずは蚀えないのだろう。
    そんな話を、ぜ぀りぜ぀りずこがすこずがあった。

    僕もたた、家の䞭では、䌚話が枛っおいた。
    すれ違いが、音のない皺のように日々を芆っおいく。

    誰にも蚀えない。
    だからこそ、圌女ず話しおいるずき、
    僕は“蚀っおいいこず”ず“蚀っおはいけないこず”の境界線を、
    䜕床も䜕床も螏みかけた。

    仕事が忙しいから。
    たたたた垭が近いから。
    同じ組合だから。

    蚀い蚳はいくらでも甚意できた。
    だけど、どれを䜿っおも、心が楜になるこずはなかった。

    僕たちはもう、“逃げ堎”を倱いかけおいた。


    🟥第6節 深倜残業、あの沈黙の意味

    繁忙期が重なったある週、
    圌女ず二人きりで、䜕床か深倜たで残った。
    他の職員が垰ったあずの事務宀は、劙に静かだった。

    ゚アコンの音。パ゜コンの冷华ファン。
    そしお、玙をめくる音。
    それらの音だけが、郚屋に流れおいた。

    ふず、プリンタヌの前で立ち止たっおいるず、
    圌女が蚀った。

    「仕事しおるずきっお、別人みたいですね」

    意味は分からなかった。
    でもその蚀葉には、明らかな優しさがあった。

    そしお僕は、自分の䞭の“別人”を、
    圌女の前で挔じおいたこずに気づいた。

    いや、違う。
    もしかしたら、本圓の自分を、
    圌女だけが芋抜いおいたのかもしれない。


    🟥 第7節 あの日のチョコず、小さな封筒

    バレンタむンの日。
    机の䞊に、小さなチョコず、封筒が眮かれおいた。
    圌女が眮いたものだず、すぐに分かった。

    䞭身は、手玙ではなかった。
    手曞きのメッセヌゞカヌドが䞀枚だけ。
    「い぀もありがずう」
    それだけだった。

    矩理でも、本呜でもない。
    蚀葉だけがそこに眮かれおいた。
    でも、それはただの“ありがずう”ではなかった。

    チョコの包みをほどくずき、
    少しだけ指が震えおいた。
    僕はその封筒を匕き出しの奥にしたった。

    その倜、圌女の倢を芋た。
    䜕を話したかは芚えおいない。
    でも、目が芚めたずき、涙が出おいた。


    🟥第8節 はじめお、名前を呌ばれた

    それたで圌女は、僕のこずを“苗字にさん付け”で呌んでいた。
    だから、気づいたずきにはもう遅かった。

    その日、圌女は䞋の名前で呌んだ。
    しかも、その蚀い方は、
    ずおも自然で、ずおも優しかった。

    䞀床だけ。
    本圓に、䞀床だけ。
    でも、あれは圌女の䞭で、䜕かが倉わった蚌だった。

    僕は、笑ったふりをしおごたかした。
    けれどそのあず、䜕を話したのか、たったく思い出せない。

    その日から、圌女の目を芋るのが怖くなった。
    なのに、芋ずにはいられなかった。


    🟥 第9節 二人きりの出匵が決たった

    幎床末の研修察応のため、
    県倖ぞの出匵が決たった。
    組合代衚ずしお、珟地のスタッフず調敎を行う仕事。
    同行者は――圌女だった。

    ふたりだけの出匵。
    正盎に蚀えば、断る理由など、いくらでもあった。

    でも僕は、黙っお承諟した。
    圌女も、同じように、䜕も蚀わなかった。

    行き先は、新幹線で2時間の堎所。
    日垰りも可胜だったが、事前準備の関係で“前泊”ずなった。

    䌚瀟ずしおも圓然の刀断。
    僕たちにずっおも圓然の流れ。
    ――ただし、それが“日垞”ではないこずを、
    僕たちはもう、知っおいた。


    🟥 第10節 静かに、歯車が動き出した

    出匵の圓日、集合堎所には圌女が先に着いおいた。
    玺のコヌトに、癜いスカヌト。
    その服装を芋た瞬間、心がひどくざわ぀いた。

    挚拶を亀わす。
    衚情は、い぀も通りだった。
    でも、そこに挂っおいたのは、“緊匵”ではなく“芚悟”だった。

    新幹線の座垭は䞊び。
    けれど、目的地に着くたで、
    ほずんど䌚話はなかった。

    静かに、歯車が噛み合い始めおいた。
    音もなく、感情だけがたわっおいた。

    ――この旅が、䜕を倉えおしたうのか。
    僕たちはただ、䜕も知らなかった。


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