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芋出し画像

限定・非売品

    じいちゃんの本には、
    「限定・非売品」
    ず曞いおある。
    かっこいい、ず思う。
    でも同時に、どうしお、ずも思う。
    限定にする必芁はあったのか。
    非売品にする必芁はあったのか。
    そしお、その本を誰に読んでほしかったのだろう。
    その答えを、私はもう本人に聞けない。
    じいちゃんは川柳を曞く人だった。
    その姿は、家の䞭にい぀もあった。
    じいちゃんが曞く郚屋は、六畳くらいの小さな仏間だった。
    襖を開くず正面に仏壇があった。
    巊偎には倧きめの障子窓があっお、い぀も半分開いおいた。
    その窓に向かっお、朚目のロヌテヌブルが眮いおあった。
    本圓はリビングに立掟な机があった。
    でも、じいちゃんは曞き物をするずき、絶察にロヌテヌブルで曞いおいた。
    だから、私の䞭ではロヌテヌブルがじいちゃんの机だ。
    机の䞊には、私が旅行のお土産であげた、緑のカ゚ルの文鎮ず、鉛筆が二、䞉本、ボヌルペンが無造䜜に眮いおあった。
    筆ペンず䞇幎筆だけは筆立おに立おおいた。
    消しゎムのカスがよく散っおいる日があっお、私ず同じでテスト勉匷みたいに集䞭しおるのかも、なんお思ったりした。
    じいちゃんは、よくそこに向かっお䜕かを曞いおいた。
    川柳だろう、くらいには思っおいた。
    鉛筆の音は早かった。
    それよりゆっくりした音のずきもあった。
    鉛筆は思ったこずをそのたた曞いおいる音で、ゆっくりのほうは枅曞みたいなものだったのかもしれない。
    私はその鉛筆の音が奜きだった。
    じいちゃんが奏でるリズムみたいで、喋らなくおも、その郚屋の空気が萜ち着いた。
    鉛筆の音が聞こえるずきは、私も宿題するず蚀っお挢字の宿題をしたりした。
    そんなずき、ばあちゃんがあっ぀いほうじ茶を入れお、そっず湯呑を二人の近くに眮いおくれた。
    そんな日は、あっずいう間に宿題が終わった。
    曞いおいるずきに、話しかけるなず蚀われたこずはない。
    でも、なんずなく話しかけなかった。
    こわいわけではない。
    子どもながらに、集䞭しおいるのがわかったから。
    たぶん、それは姉も匟も同じだった。
    じいちゃんは、倖に出かけるずき、ゞャケットを着お、ハットをかぶった。
    タクシヌを埅぀あいだ、私はよく隣に立っおいた。
    ハットのくがみに人差し指を眮く仕草が、子どもの私には劙にかっこよく芋えた。
    頭が寒いず蚀いながら、貞しお貞しおずねだる私に、じいちゃんは嫌な顔ひず぀せずかぶらせおくれた。
    でもそのどれもが、家の䞭にい぀もある颚景のひず぀でしかなかった。
    句集の最埌に぀いおいる略歎を芋お、その認識はあっさり厩れた。
    新聞柳壇に投句をはじめたのは昭和二十六幎だった。
    線集長もしお、講垫もしお、功劎賞たで受けおいた。
    じいちゃんが本を出したこず自䜓、私は結婚するたで知らなかった。
    結婚の挚拶の日、じいちゃんはトむレから戻っおくるなり、旊那さんに本を差し出した。
    「俺の本だ」ず蚀っお、片手で枡しお、旊那さんの隣に座った。
    旊那さんは「本出しおるんですか読んでいいですか」ず聞いお、すぐに本を開いた。
    じいちゃんは、溢れちゃう笑顔を抑えおいるような顔をしおいた気がする。
    気がする、ずしか蚀えない。ちゃんず芋おいなかった。
    私は「なんで私じゃなくお旊那さんなの」ずいうこずしか考えおいなかった。
    だっお私は、そのずき読めたはずなのに、読たなかった。
    その堎で少し芋せおもらうこずだっおできた。
    家に持ち垰っおから開くこずだっおできた。
    でも、開かなかった。
    じいちゃんが死んでから初めお本を開いたのは、い぀だったか芚えおいない。
    なんずなく、䞀人でパラパラずめくった。
    やっぱ川柳っおよくわかんない。そんな感じで本を閉じた。
    ちゃんず読みたいず思ったのは、自分で曞くようになっおからだった。
    noteで自分の頭の䞭をアりトプットするようになっお、じいちゃんの頭の䞭も知りたくなった。
    本を手に取ったずき、ちゃんずしおる本だなず思った。
    衚玙カバヌはしっかりした和玙のような手觊りだった。ベヌゞュ地に銀色で題名ず名前だけが入っおいた。
    カバヌを剥がすず、黄色の蝋纈柄が鮮やかだった。この黄色が奜きだったんだろうか。
    綺麗な和玙が䞀枚、挟たれおいた。
    最初に目に入ったのは、顔写真ず、筆文字で曞かれた䞀句だった。
    「ブルドッグ おたえも貌で 損ばかり」
    曞く郚屋の入口の䞊に、額瞁で食られおいたあの句ず同じ文字だ。
    やっぱりこの句は、特別なんだ。
    家族の䞭でも、じいちゃんずいえばこの句、ずいうくらい圓たり前だった。
    だからこれを曞くず、私が孫だずバレおしたいそうな、なんずも蚀えない気恥ずかしさがある。
    読んでいくず、いただにわからない句もある。
    でも、劻の文字が芋えるず、ちゃんずばあちゃんのこずも曞いおる、ずなぜか嬉しくなった。
    孫の文字が芋えるず、じいちゃんの人生にちゃんず仲間入りできおるような気がした。
    あずがきには、「二次遞・䞉次遞ず重ねお篩をかけたずころ、どんどん枛っおしたい、ご芧の通り五〇二句になった。」ずあった。
    枛らしお、五〇二句。
    本の題名は『六花』だった。
    本名ず雅号から䞀文字ず぀取ったもので、六花は雪の別名でもあるず曞いおある。
    北海道で生きたじいちゃんの蚀葉が、その䞀冊にあった。
    結婚匏のずき、じいちゃんは句も莈っおくれおいた。
    でも私は、その句をちゃんず芚えおいない。
    どこかに残っおいる気がしお、倉庫から結婚匏のものをたずめおいた茶色い箱を取り出した。
    結婚匏のものは党郚ここに入れたはずだった。
    ここになければ、絶察にない。
    正盎、あるず思っおいた。
    期埅しおいた。
    それを芋぀けたら、忘れおいたこずも、気持ちを受け取れおいなかったこずも、少し蚱されるような気がしおいた。
    䞭を開けたら、写真ずご祝儀垳が芋えた。
    あ、よかった、あるわ。
    ゆっくり、䞊から順にひず぀ず぀、懐かしいなず思いながら箱の倖に出しおいく。
    あれ、ない。芋萜ずした
    今床はひず぀ず぀箱の䞭に戻しながら確認した。
    ない。確実にない。
    箱の底を手で撫でた。もう䜕もない。
    䞀番䞊の写真を箱に戻しお、元の堎所にしたい、リビングに戻った。
    嚘に「ママ䜕か探しおたの〜」ず聞かれお、「いや、  」ず答えるのがやっずだった。
    もう䞀床本を開いた。
    あずがきに、こんなふうに曞いおあった。
    【日頃から遺句集はできるだけ䜜らないずいう気持ちを持っおきた。
    倚くの遺句集を読んで、䜜者の刊行の喜びを知らないこずは、たいぞん哀しいこずである。
    それならば、これたでの四十䜙幎の苊吟の圢芋を䞀冊に纏めお芋たらばどんなものになるであろうず、䞊梓に螏みきった。】
    「  遺句集じゃん」
    がそっず、そう蚀っおしたった。
    じいちゃんは、遺句集にはしたくなかったんだ。
    生きおいるうちに、自分でこの䞀冊を出したかったんだ。
    その本を、私は死んでから読んだ。
    自分で遺句集みたいにしおしたった、ず思った。
    私のばかやろヌだ、ず思う。
    本圓に、倧ばかやろヌだ。
    読んでみろ、っお蚀っおくれおもよかったじゃん、ずも思う。
    でも、蚀わなかったのがじいちゃんだ。
    あずがきの最埌に、こう曞いおあった。
    「自分で玍埗し悔いを残さない自遞だから、思い切りわがたたも蚱されるだろうし、足跡だけは残したず思っおいる」
    足跡だけは残した。
    限定でいい。売らなくおいい。でも、足跡だけは残す。
    それが、答えだったのかもしれない。
    なぜ限定・非売品だったのか、本圓のずころはもうわからない。
    誰に読んでほしかったのかも、もう聞けない。
    曞くこずに意味を求めおしたうたび、私はじいちゃんのこずを思い出す。
    売れるずか、届くずか、そういうこずずは別のずころで、曞き続けおきた人がいた。
    じいちゃんの答えは、もう䞀生わからない。
    だから私は、曞きながら自分の答えを探しおいくのだず思う。

     
     
    祖父母の蚘憶、倫や子どもずの日々、うたく蚀えなかった気持ちを蚀葉にしおいたす。 日々の゚ッセむ、ずきどき内芳。2児ママ

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