
甘すぎるそうめん
蒸し暑くなってきた。
そろそろ冷やし中華や冷麺が食べたくなる季節だ。
夏といえば、やっぱりそうめん。
食欲のない日でも、生姜や茗荷、青じそなどの薬味をたっぷり入れれば、するすると食べられる。
私にはそうめんを食べるたびに思い出す出来事がある。
私が初めて付き合った彼氏のことだ。
17歳から21歳までの4年間。
お互い実家暮らしだったけれど、私はほぼ毎日彼の家に通っていた。
365日のうち360日はいたんじゃないかと思う。
彼はお父さんと一緒にクロス屋の仕事をしていた。
仕事が終わると、お父さんが運転するハイエースで迎えに来てくれる。
私は後部座席に揺られながら彼の家へ向かう。
それが日常だった。
家の鍵のありかも知っていたし、留守番や電話番を頼まれることもあった。家族ぐるみの付き合いだった。
彼の家族は、ご両親と歳の離れた小学4年生の妹さん、それにおばあちゃん。そこへ私も加わって、一緒に食事をすることがよくあった。
そんなある日曜日。
お昼ご飯に、おばあちゃんがそうめんを茹でてくれた。
「いただきます」と食べてみて、私は驚いた。
甘い。
とにかく甘い。
「え? なにこれ?」
戸惑っている私を見て、おばあちゃんが言った。
「あら、みーちゃんには普通のおつゆの方がいいね」
そう言って、市販の麺つゆを出してくれた。
どういうことだろうと思ったら、なんと家族用の麺つゆには、大さじ山盛り一杯の砂糖が加えられていたのである。
衝撃だった。
しかし驚いたことに、家族全員がその甘々麺つゆで普通にそうめんを食べている。
信じられなかった。
思い返せば、牛丼も少し甘めだったし、カレーも甘めだった。でも、それは気になるほどではなかった。
ただ、このそうめんだけは別格だった。
どうしても私の口には合わなかった。
その日の夜、家に帰って父へ報告した。
「彼の家のそうめん、めちゃくちゃ甘いんだけど!」
父は少し考えてから言った。
「味覚の違いは、あとあとキツイぞ」
その言葉を聞いて、私はほんの少しだけ将来に暗雲を感じた。
もちろん、別れた理由はそうめんではない。
その後、私たちは別々の道を歩むことになった。
けれど、あれほどの味覚の違いに出会ったのは、後にも先にもあの一度きりだ。
今でも強烈な思い出として残っている。
そして今になって思う。
あの甘いそうめんを当たり前のように食べていた彼のお母さんはすごい。
結婚してその家に入り、おばあちゃんの味を受け継いできたのだろう。
郷に入っては郷に従え。
簡単なようで、なかなかできることではない。
夏になり、そうめんを食べるたびに思い出す。
あの家族は、今も元気にしているだろうか。
あの甘いそうめんを、今も食べているのだろうか。