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90.もしものときに備えていた会社と、備えていなかった会社——シリーズ9のまとめ

このシリーズ9では、9人の経営者の「もしも」を追いかけてきた。

取引先の突然の倒産で売掛金を失ったVさん。資金繰りが厳しくなり、銀行にリスケを申し出たWさん。破産しかないと思い込んでいたところから再生を選んだXさん。浸水被害を受けた店を立て直したYさん。主力商品が消えて事業の舵を切ったZさん。自分が倒れて3ヶ月入院したAさん。取引先の噂を聞いて動いたBさん。不況を生き抜いたCさん。そして、40年続いた店を自分の意思で畳んだDさん。

今日はこの9つの話を振り返りながら、「備えていた人」と「備えていなかった人」を分けていたものが何だったのか、あらためて考えてみたい。

まず気づくのは、9人のうち誰一人として、危機を完全に予測していなかったということだ。

Vさんは長年の取引先が倒産するとは思っていなかった。Wさんは受注減と資材高騰が同時に来るとは想像していなかった。Aさんは57歳で倒れるなんて、一度も考えたことがなかったと話していた。危機というのは、いつも想定の外からやってくる。これは、書いていて何度も感じたことだった。

では、何が明暗を分けたのか。

ひとつは、日頃からの「小さな習慣」だった。

Cさんが不況を生き延びられたのは、特別な戦略があったわけではなかった。「借金を怖がる性格で、利益をコツコツ貯めてきた」という、地味な習慣の積み重ねが、いざというときのクッションになっていた。手元に月商3ヶ月分の現金を置いておくという、ただそれだけの習慣が、消えていった同業他社との差になっていた。

Dさんが小規模企業共済への加入を後回しにしていたことを悔やんでいたのも、同じ構造だ。「開業してすぐ入っていれば」という一言に、習慣の積み重ねがどれだけ差を生むかが表れていた。

もうひとつは、「早めに動く」という決断のタイミングだった。

Wさんがリスケを申し出たのは、まだ資金が完全に尽きる前だった。Xさんが専門家に相談したのは、破産を決意する寸前だったが、それでも「相談すれば選択肢がある」と気づけたことが再生につながった。Bさんが取引先の与信を絞ったのも、噂を聞いてすぐの、目立たない小さな一歩だった。

逆に、Zさんが振り返っていたのは「もっと早く決断していれば」という思いだった。主力製品の売上が落ちてから、本気で動き出すまでに時間がかかったことを、今でも悔いている。

そして、ここが一番大事だと思うのだが、「一人で抱え込まなかったかどうか」も、大きな分かれ目だった。

Aさんが入院したとき、専務や奥さんが動けたのは、完璧ではないにしろ、ある程度の情報共有ができていたからだった。逆に、代表印や資金繰り表がAさん個人の頭の中にしかなかったことで、初動が遅れた部分もあった。

Xさんが「破産しかない」と思い込んでいたのも、一人で抱え込んでいたからだった。中小企業活性化協議会という無料の相談窓口があることを知り、専門家に話した瞬間、見える景色が変わったという。

9つの実話を振り返って、今日からできる備えを、あらためて挙げておきたい。

手元現金を、月商2〜3ヶ月分は確保しておくこと。主要取引先の支払い状況の変化に、日頃から目を向けておくこと。自分が倒れたときのために、代表印の管理や資金繰りの情報を、家族や右腕になる人と共有しておくこと。小規模企業共済のような、いざというときの備えになる制度は、できるだけ早く始めておくこと。そして何より、危機を感じたときに、一人で抱え込まず、早めに専門家や相談窓口に声をかけること。

どれも特別なことではない。地味で、当たり前で、忙しい日常の中では後回しにされがちなことばかりだ。でも、9人の実話が教えてくれたのは、この地味な積み重ねこそが、いざというときに会社と自分自身を守るということだった。

シリーズ9を書き終えて、正直なところを言うと、書いていて何度か胸が痛くなる瞬間があった。Aさんが病室で署名をしていた場面、Dさんが常連客に見送られながら店を閉めた日のこと。どれも架空の設定ではあるが、実際にこうした状況に立たされる経営者は、決して珍しくない。

「もしも」は、いつ来るかわからない。だからこそ、今日、平穏な日常の中で、少しだけ備えを見直してみてほしい。それが、このシリーズ9で一番伝えたかったことだ。

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